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W-DESTINY_第28話2

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:05:49

「ザフトのMSが1機、ビルゴに接近してきます!」
「ザフトの?」
ダゴスタはザフトの識別信号を発してるMSを見る。たしかにサイズから言ってビルゴや謎のMSと
異なりザフト製だと判断される。
「放っておけ! それよりも、あのMSだ!」
ダゴスタの中で、ビルゴとサンドロックらの戦闘に慣れ、ザフトや連合のMSを軽く見る気持が
知らないうちに生まれていた。
そして、アークエンジェルとビルゴの砲口が、一斉にサンドロックに向けられる。
それはシンにも確認されていた。
「こっちは無視かよ!」
シンは、降下中のサンドロックしか目に入っていないビルゴを見ながらアロンダイトを抜いた。
「そっちが、そういう態度なら……」
その時、アークエンジェルのカタパルトが開き始め、ダゴスタを動揺させる。
「何故勝手にカタパルトが!?」
「キラ様の指示だそうです」
「何で?」
「キラ様が出撃なさると」
その答えにダゴスタだけでは無く、ラクスも動揺する。
しかし次の瞬間、更なる衝撃が彼等を襲う事になる。
「……俺を無視した事、後悔するんだな!」
シンはアロンダイトのリミッターを解除し、ビームソードを展開すると、降下中のサンドロックに砲口を
向け、こちらに背中を見せるビルゴを背後から擦れ違いざまに両断した。
「……まったく最後まで無視かよ……ん?」
最後のビルゴを破壊したシンが降下中のサンドロックに手を貸そうと思っていると、アークエンジェル
から飛び出したMSに気付く。そして同時に、コクピットに最大攻撃目標が現れた事を知らせる警告音が
鳴った。
「あれは!」
シンの脳裏に、忘れられない光景が蘇る。焼け爛れた大地、ちぎれた小さな腕、その先の変わり果てた
家族の身体。そして空を飛翔する蒼い翼を持ったMS。
「アイツが……出てきたのか……フリーダム」
現れたMSは細部こそ異なるが、何度も夢に見たMSフリーダムに酷似したシルエットを持っていた。

「ゴ~ル♪」
マユは脱出する輸送機に走って駆け込むと、怪訝そうな顔のスティングに出迎えられた。
「どうしたの変な顔して、何かあった?」
マユは、スティングの怪訝そうな表情に首を傾げながら、何があったのか質問する。
「いや、あったと言えばあったんだが……お前の方こそ何だよ?」
「何が?」
「気付いてないのか? テメエ、嬉しそうだぞ」
スティングはマユのそんな表情を見たことが無かった。まるで遊びから帰ってきた子供の様な表情。
「え?」
そして、マユは呆気に取られる。自分では意識していなかった。
「そ、それは……」
だが、マユにとって、その事実は認めたくない事だった。そのため懸命に言い訳を考える。
スティングへのでは無く、自分のために。兄との触れ合いが楽しかったなどあってはならないのだ。
「そうだ!」
そして、兄に伝えられたエクステンデッドの治療方法をザフトが開発した事を思い出し、それを
伝えようとする。
「そ、それがね。え~と……」
「何だよ?」
「う~ん……これスティングに言っても良いのかな?」
「は?」
マユはエクステンデッドの寿命が短い事を知っているが、スティングが知っているかどうかは知らない。
だったら、言わない方が良いのかと悩んでいると、激しい感情が脳内に流れてきた。
「な、なに!?」
突然頭を抱えて蹲るマユに、スティングが慌てて声をかける。
「ど、どうした!?」
身体が震え、脂汗を滲ませている。その様子は明らかに何かに怯えている様子だった。
「何これ?……お、お兄ちゃん?」
マユの脳内に過去の記憶が蘇る。焼けた大地、ちぎれた自分の腕、息をしていない両親。
そして、泣くだけで自分を助けてくれずに去って行く兄。
「蒼い……翼!」
するとマユは毅然と立ち上がり、一点を見つめる。その強い眼差しは、すでに怯えの色は無く、怒りと
狂気が入り混じっていた。
「アイツが出たんだね……フリーダム!」

キラはアークエンジェルを庇うようにデスティニーの前に立ち塞がると、ダゴスタに通信を入れる。
「撤退を始めてください」
「え?」
「そもそも、ビルゴが1機になった時点で撤退するべきでした。今回は、あのMSがたまたまビルゴを
 破壊できる武器を所持していたから助かりました。僕はてっきりアークエンジェルを攻撃するもの
 だと思いましたけど?」
「あ……も、申し訳……」
ダゴスタもキラの言い分が正しいと認めた。彼はザフトや連合のMSにはビルゴは破壊できないと
見下していたが、それなら母艦を破壊するのは当然の事では無いか。
自分はバルトフェルドの代わりにラクスを守らなければならないのに、最も重要な任務を忘れ、敵を
倒す事に意識を向けすぎたと反省した。
「だったら下がってさい! 敵は僕が引きつけますから!」
「了解しました。お気を付けて」
「……分かっています」
キラはラクスを崇める彼等を嫌いながらも、その善意までは否定出来なかった。基本的に、みんな好感を
持てる人ばかりなのだ。そのため、どうしても邪険に出来ずにいる。
「何でこうなるんだろうな」
自分の感情を持て余しながら、キラはアークエンジェルが下がるのを確認する。
そして、デスティニーを見つめた。
「何もしてこない?」
そして、サンドロックに視線を移す。すでに大地に降り立ち、その手には巨大な蛮刀が握られている。
そちらも警戒は緩めていなかったが、やはり何もしてこなかった。
そして、デスティニーがアロンダイトを収めるのが目に入った。
「攻撃の意思が無い?……わけは無いよね」
アロンダイトを収めた代わりに、ビームライフルを手にしたのを見てキラは苦笑を浮かべる。
ザフト軍が自分たちを見逃してくれるなど、虫の良い話は無いだろう。
「でも、僕にも譲れないものがある」
それはラクスの命。ラクスの意思。ラクスの全てを守るためなら、例え誰に罵られようと戦ってみせる。
その決意を込めて両腰からビームライフルを外すと、腰の後ろに回っていたレールガン、クスィフィアス
がサイドに回って戦闘体勢になる。
そして、真紅の翼から光を生みながら突進してくるMSがビームライフルの銃口を向けてきた。
キラも同様に2丁のビームライフルを構える。
「シン、大丈夫ですか?」
シンの過去を知っているカトルは不安そうにシンに声をかける。考えてみれば、あの姿に動揺しない
訳が無い。
「ああ、大丈夫だ」
だがシンはカトルに力強い返事を返し、続けて大きく呼吸をする。
かつては夢に見続けて眠れない夜を過した事もあった。あの惨劇は今でも心に大きな傷を残している。
そして、マユが生きていた。そして自分に憎悪を向けている。
あの時、フリーダムが自分たち家族を撃ったから。
「違う、あれは俺の罪だ」
自分が弱かったから、あの時、マユに駆け寄っていれば良かったのだ。人に罪を擦り付けても意味は無い。
「これは復讐なんかじゃ無い。俺はマユに償わなければいけないんだ。そのためにも!」
シンはアロンダイトを収め、ビームライフルを手にする。
「フリーダム! いや、キラ・ヤマト! アンタを倒す!」
真紅の翼を広げ、フリーダムに向かう。そして射程に収めるとビームライフルの引き金を引いた。
「征くぞ!」
キラはビームの射線から機体をずらし、反撃のビームライフルを2丁同時に放つ。狙いは右腕と左足。
「悪いけど」
引き金を引いて、ビームが狙い通りに当たった事を確認する。
「これで……」
身を返そうとした瞬間、ビームに貫かれたデスティニーが消え、その横に無傷のデスティニーが現れた。
「……残像!?」
キラは舌打を打つと、もう1度ビームライフルを同じ様にに放つ。そして予想通り残像に当たり、別に
現れた瞬間にレールガンを放った。
「くっ!」
シンはレールガンの衝撃に軽く呻くと、反撃のビームライフルを打ち返す。
「くそっ! 埒が明かないか」
やはり避けられたのを見て舌打を打つと、左手にフラッシュエッジを抜いてビームライフルを放ちながら
接近を試みる。
キラも左手のビームライフルを収めると、代わりにビームサーベルを抜いて接近してくる。
お互いに、離れての撃ち合いではケリが付かないと判断していた。
そして、接近するにつれ、回避では間に合わないと判断したシンがビームシールドを展開しながら正面を
庇ってビームライフルを放つ。しかし、キラも右のビームシールドを展開して、さらに接近すると左手に
持ったビームサーベルをシールドを展開する左腕目掛けて一閃した。
「このっ!」
シンは回避しながら、フラッシュエッジをサーベル状にして斬撃を振るう。
そうしながら、やはりキラはこちらの手足しか狙っていない事を確認していた。
「やはり慣れてる! それに比べこっちは……」
シンは相手の手足だけを狙う戦い方に慣れないが、キラは上手くそれをやっている。
キラは何時の間にか右手もビームサーベルに持ち替えていて、シンを圧倒してきた。
「くそぉ~~! さすが、不殺はアンタのお家芸だな!」
シンは一旦離れると、キラがサーベルを持っている内に、射撃戦での戦闘へと切り替えをはかり、背中の
長射程ビーム砲を展開させて放つ。
「避けろよ!」
その一撃はキラの回避力を念頭に入れたもので直撃コースを辿った。そして予想通りキラが回避したのを
確認しながら、右手のビームライフルを回避方向に放つ。
「これなら……って!」
だが、そのビームをキラはサーベルで弾くという離れ業で返すと、再び両手をビームライフルに持ち替え
シンがやったように時間差で、しかも3連射でビームライフルを放つ。
「こ、こいつ……」
シンは回避が間に合わないと見て、2発目以降をビームシールドで受け止めた。
「……これがアンタの戦い方かよ」
シンのキラに対する感想は最悪の性格の奴になった。自分の技量を見せ付けるように、難易度の高い方法
を使い、相手には出来ないだろうと思わせる事をやる。
さらに攻撃でも、こちらがやった以上の事をやってみせる。
腹立たしいが、同時に上手い方法だと感心もしていた。キラが相手を殺したくないという考えの持ち主
なら、そうやって実力を見せ付けて相手の戦意を奪う事が出来る。またプライドの高い人間ならバカに
されたと怒りで我を忘れ突進してしまうだろう。そうなった相手を倒すのは容易い。
「議長に感謝しないとな」
そして、以前の自分なら、この様な目に合わされたら冷静ではいられない。
それに悲壮感丸出しの人間なら、格上の相手だと相打ちを狙ってしまうだろう。
だが今は違う。事実は認めなくてはいけない。相手は自分より上なのだ。
「それならそれで、やりようはある!」
その上で勝つ方法を考える。幸いシンが乗っているのはデスティニーだ。デュランダルが設計に携わり、
今だ敵がその能力を知らないMS。
シンはビームライフルを腰に収め、無手のままで突進をかける。
「我を忘れた?」
キラの目には無謀な突進に見える。今までにも興奮状態の相手が無謀な突進をしてきて、そうなった相手
を簡単に撃破したこともある。
しかし、素手になるのは初めてのことだった。
「だからって、いくらなんでも素手は?」
キラは不信感を持ちながらも、黙って見ているわけにもいかず、ビームライフルで迎撃を行う。
それに対するデスティニーは両腕を前で交差させると、ビームシールドを展開した。
「ビームシールドで突撃?」
キラが一瞬だけ動揺すると、デスティニーが両腕を思いっきり広げた。その時、手にはフラッシュエッジ
が持たれた事にキラは気付いた。
「ブーメラン?……くっ!」
だが、キラがそれに気付いた時には、デスティニーがアロンダイトを引き抜き、再びビームシールドを
展開させながら、更に接近してきた。
「これならぁぁ!」
シンが雄叫びを上げながら突進する。正面と両サイドの3方向からの同時攻撃、これなら避けようが
無いはず。
そしてストライクフリーダムが両手を大きく広げ、左右のフラッシュエッジにビームライフルの照準を
向け、引き金を引いた。
その一瞬の遅れで、シンはアロンダイトを頭部目掛けて振り下ろす。
それはシンにとって理想の展開。アロンダイトの一撃はストライクフリーダムの頭部を破壊するはず。
「え?」
だが、キラはフラッシュエッジを撃ち砕くとビームライフルを捨て真剣白刃取りでアロンダイトを
押さえ込んでいた。
「ウソだろ……っう!」
シンが一瞬だけ呆然とした間に、キラは右手でアロンダイト左方向に抑えながら回転すると、左手での
バックブローを打つように動く。だが、それはただのバックブローでは無く、回転している間にビーム
サーベルを手にした上での斬撃だった。
「このぉぉぉ!」
その首を両断せんと狙った一撃は、シンが慌てて後ろに下がった事で両断は避けたものの首筋にかすり、
装甲を大きく切り裂いた。
「モニターが!」
一瞬、モニターが消え、シンの背筋を冷やすが、再び点灯して安堵する。
「や、やばかった」
後方に下がりながら、息を整える。今の斬撃は人間の首だったら、大量の血が吹き出ているだろう。
シンは、自分のその姿を想像し、冷たい汗を流した。同時にキラの想像以上の戦闘力に戦慄を覚える。
「化け物かよ……」

「あれも避けた?……彼はいったい」
一方、キラの方も普段とは勝手が違う事に戸惑っていた。先のフラッシュエッジを破壊した後の白刃取り
も、ビームライフルを収納した後にやりたかったのだが、予想より速い斬撃に対応するために、放棄する
しか無かった。その結果、相手がPS装甲のためレールガンが通用しない以上、有効な飛び道具を
無くしてしまった事になる。
いや、そんな事は無い。ストライクフリーダムには、デスティニーに通用する武器が内蔵されている。
「こうなったらパイロットが死んでしまうかもしれないけど……」
そして、その武器、カリドゥスの使用を考えた時、脳裏に呪いの言葉が蘇る。
――知れば誰もが願うだろう――
「ああっ!?」
身体が震え、冷たい汗が吹き出し始める。そして視界が歪み、吐き気がしてくる。
あの男の言葉。否定しようとした。しかし、結局は力で捻じ伏せるしか出来なかった。
力だけと言われた自分を否定しながら、力で応えるしか無かった。やはり、あの男の言葉は真実なのか?
「違う……それを肯定するわけにはいかないんだ」
――貴方はお優しいのですね――
そう言ってくれた人がいる。全てを捨ててまで自分の側にいる事を選んでくれた。
「ラクス……僕は……」
ここでクルーゼの言葉を認めるという事は、ラクスの言葉を否定することになる。
「絶対に殺さない! その上で君を守ってみせる!」
同じ轍は2度と踏むまいと心に決め、攻撃手段を練る。こちらに遠距離武器が無い以上は接近戦しか無い。
そして、相手の剣は対艦刀の類だ。破壊力はビルゴを破壊した事から、従来の対艦刀よりも遥かに上だ。
だが、対艦刀の欠点の取り回しの悪さは残っているはず。いや、通常の物より長いくらいだから
悪くなっててもおかしくは無い。
「それなら!」
キラはビームサーベルを右手に突進をかける。
「来た!?」
シンはストライクフリーダムの接近に気を引き締めると、アロンダイトを前に翳す。
「どうする気だ?」
シンがキラの行動に全神経を集中して、待ち構えるとストライクフリーダムが右手を上げ、斬撃の体勢に
入った。
「斬り合いなら!」
どちらかと言うと、撃ち合いよりも斬り合いを得意とするシンは、ストライクフリーダムとの斬り合いを
受けて立つ。
そして、接近するストライクフリーダムの頭部を目掛けて、斜め下から横薙ぎに払った。
「もらった! えっ!?」
その斬撃は、例え敵が同時に斬撃を放っても、間合いに勝るアロンダイトなら、ストライクフリーダムの
腕ごと斬り飛ばすはずだった。
しかし、間合いギリギリでストライクフリーダムが急停止したため、空を切ることになった。
「懸かった!」
キラは自分の読みが勝った事に会心の声を上げながら、対艦刀を振り切った後に、最突進をかける。
いくら相手の武器が間合いも長くても、振り切った後に懐に入り込めば、今度はその間合いの長さが
仇となり、斬り返しが遅れてしまう。
キラも以前はストライクに搭乗していた時に対艦刀を使っていたため、その長所と短所を熟知していた。
そして、間合いに入り込みながら、デスティニーの両腕を切り裂く……
「なっ!?」
はずだったが、予想より速い、いや、ありえないスピードで斬り返しが始まり、こちらが、腕を斬る
間合いに入るよりも早く、剣が襲ってきた。
「これで!」
シンは、内心でガンダニュウム合金の軽さに舌を巻いていた。対艦刀の長さから言って、本来の材質なら
斬るつもりで振って空振りした後は体勢が崩れるはずだが、ガンダニュウム合金製の剣は、剣では無く
細い枝でも振るってるように取り扱えた。
そして、今度こそと思った斬撃は、
「―っ!……またかよ!」
咄嗟に右手のビームサーベルを捨てたストライクフリーダムが、右手を下に振り下ろし、左手を上げて
アロンダイトを挟み、再び白刃取りの要領で抑えていた。
「何て出鱈目な反射神経してるんだよ!?」
「こんな……事って」
キラは、咄嗟に抑える事に成功したものの、ビームサーベルを一本失い、もう後が無いと判断していた。
ここで仕留めなければ終わりだと、最後の攻撃に入る。
「決める!」
アロンダイトを抑えたまま、さらに間合いを詰めめて身体を密着させると、相手を押しながら素早く
アロンダイトを放すと、左手でデスティニーの右腕を持ち、右手にビームサーベルを握るとデスティニー
の背後から首を狩ろうと腕を廻す。
「させるかぁ!」
キラの行動を悟ったシンは、左手をアロンダイトから放し、背後に廻そうとするストライクフリーダムの
右腕を握ってサーベルが届くのを阻止した。
「くっ!」
「うぐっ!」
互いに右手で相手の左手首を握った状態で対峙する。互いに有利な体勢に移ろうとするが、両機は互角の
パワーで膠着状態に陥ったまま睨みあう。
そして、シンとしては、コクピットの目の前にカリドゥスがあるため、相手がコクピットを狙わないと
知ってるとはいえ気が気では無かった。
「君はいったい?」
その時、接触回線でキラの声が入ってくる。優しそうな人の声だと思いながら、シンは強い意思で名乗り
をあげる。
「俺はシン! シン・アスカだ! キラ・ヤマト! アンタを倒してみせる!」
シンは、ここで決着をつけるべく左手のパルマフィオキーナを発動させる。
「これで……」
「なっ! そんな所に武器が!?」
掌から放たれたビームに右腕が破壊され、ついにキラは最後のビームサーベルも失った。
「……終わりだ!」
「くっ!」
ストライクフリーダムが頭部のバルカンを放つ。
「そんなものが!」
だがシンは意に介さなかった。バルカンではPS装甲に通じない。
シンとしては、追い詰められたキラがカリドゥスを放つ前に、止めのパルマフィオキーナを
ストライクフリーダムの頭部に放とうとする。
「何!? モニターが!」
だが、突然デスティニーのコクピット内で、モニターを始め、あらゆるセンサーが活動を止めて狼狽する。
「あ、あのバルカンが!?」
そして、その理由が先程放ったバルカンが、首の装甲の裂け目、先にキラの斬撃で切り裂かれた部分を
狙ったもので、頭部のセンサー類とコクピットを繋ぐ配線を破壊した事を悟った。
「そんなの……」
暗闇の中で、慌てながら操作して、ようやく予備モニターが生き返る。
その時は、すでにストライクフリーダムの姿は見えなくなっていた。
「……見逃してくれたのか?」
完全に無防備になっていた。その時の恐怖を思い返しながら、シンは自分が目指す相手に及ばない事を
噛み締めていた。

「追ってこない……上手く行ったんだ」
キラは敵が追ってこない事を確認すると、ヘルメットを脱いで大きく息を吐いた。
「強かったな……シンって言ったかな?」
汗を拭いながら、先程まで戦っていたパイロットの事を考えた。どんな人間で何のために戦っているのか
様々な事に思いを馳せながら、彼の言葉から再び対峙することになるだろうと確信を抱いていた。
そして、次も上手く行くとは限らない。そもそも今回は一騎打ちになった事の方が不自然なのだ。
彼を相手にしながら、周りからも攻撃を受ければ、明らかに勝ち目は低かった。
「ラクス……どうにかならないかな?」
だが、それを言うわけにはいかない。自分がラクスと釣り合いが取れる人間である理由は強さしか
見当たらない。
そんな自分がラクスの側にいるには誰にも負けるわけにはいかないのだ。

「終ったの?」
マユは撤退する輸送機の中で、兄から流れる感情が消えたのを悟った。もしかしたらシンが死んだ可能性
もあるが、何となく生きてるだろうと感じていた。
「もう良いのか?」
先程から戸惑っていたスティングが、落ち着いたマユを見て声をかける。
「うん。心配かけてゴメン。ところでネオに伝えなくちゃいけない事があるんだけど」
「ああ、ネオなら……」
「どうしたの?」
言いよどむスティングの態度に不穏なものを感じ、緊張しながら尋ねる。
「ステラの記憶が戻った。今はゆりかごが無いからな、それでネオが宥めてる最中だ」
「記憶って、アウルの事?」
「……それだけじゃ無い」
「他に何かあるの?」
スティングは暫くの間、言い辛そうに黙っていたが、1つ溜息を吐くと一気に喋りきる。
「シンのディオキアでの記憶……それもアウルを殺したときのインパルスのパイロットの声も一緒にな」

今回はステラもマユも確保するチャンスがあった。さらにキラも現れた。しかし、結果はキラを倒す
どころか、見逃してもらった形になり、ステラとマユは2人とも離脱してしまった。
「戦果ゼロかよ……」
シンはそう呟くと、ヘルメットを脱いで、それに頭を打ち付けた。勢い込んでプラントを出て、結局は
現実の困難さを見せ付けられただけに終った。
だが、分かっていた事だ。自分のやろうとしている事が容易でない事は。一度の失敗で諦めるわけには
いかない。少なくとも自分が生きていれば再度のチャンスが巡ってくるはずだ。
「……帰るか」
シンは、気持を切り替えるとサンドロックを探す。
「あそこか……カトル、ミネルバに戻るから一緒に行こうか」
シンはデスティニーをサンドロックに近付けながら通信を入れる。サンドロックには、飛行能力が無い
ためミネルバに行くのに苦労するだろうから、デスティニーが掴んで運ぶと提案した。
「助かります」
カトルは了承し、デスティニーの手を取ると、進路を任せた。
「アロンダイトを振ってた時も思ったけど、本当に軽いな」
「僕たちにはこれが普通なんですが……それにしても、惜しかったですね」
カトルが慰めるように語り掛けてきてシンは苦笑を漏らす。
「全然だろ。もう完敗ってやつさ……ちょっと不味いかな?」
デュランダルが新時代の象徴にと期待するデスティニーに泥を塗ったことを考えると、気持が滅入る。
「大丈夫ですよ。傍から見る分には、貴方が追い払ったように見えましたから」
「そうなの?」
「ええ、向うは片腕と武装を失っての撤退。貴方は見た目はダメージがありませんから」
「そうか……実際はセンサーがいかれて、攻撃はおろか回避だって難しい状態なんだがな」
「それが解る人は、あまりいませんよ。安心してください」
「一応は安心するか。どの道、リベンジマッチは挑まないとな……どう思う?」
カトルはシンの質問の意味が、彼がキラと再戦したときの予想を聞いてるのだと気付いた。
「……言いにくい事ですが、正直申し上げて、今の貴方ではキラには勝てません」
「やっぱりな」
「僕も驚きましたよ。ビルゴの戦闘データーは彼から取っていると判りましたし、そこから彼の動きを
 予想はしていたのですが、遥かに上でした」
「そう言えば、出る前にデュオが言ってたよ。所詮モビルドールは人形だってさ」
「そうだったんですか。確かに彼はヒイロとトロワのデーターが入ったモビルドールを1人で倒した
 実績があります」
「その2人は強いのか?」
「強いですよ。僕たちの中でも1、2を争う腕です」
「ふ~ん……」
だが、そう言われても実感が掴めないので生返事で返すしか無かった。
「ですが、ビルゴとキラの回避の差、あそこまで差は無かったと思います」
「多分、ビルゴの回避力が良くない理由って防御力を過信して、データーの入力が甘かったんじゃ?
 何と言っても、あの装甲だからな」
「そうかも知れませんね。おそらく攻撃、しかもコクピットを狙わない事に重点を置いたのでしょう」
「まあ、ビルゴに関しては、地上からは掃討したんだし、ここにある残骸を拾ったら、後はそっちに
 任せるよ」
「そうしてください。それよりも貴方はキラの事を」
「分かってるって」
そして、近付いてきたミネルバを見ながら胸が熱くなってきた。
「懐かしいですか?」
そんなシンの気持を見透かしたようにカトルが尋ねる。
「ああ。それに、俺がキラに勝るものがある事を思い出した」
今回はキラに負けたと言える。そして実力差はハッキリとした。それも向うの方が上という形で。
今回の戦闘は、キラがパルマフィオキーナの存在を知らなかったから良かったが、次はあんな使い方では
通用しないだろう。
だったら通用する戦い方を考えれば良いのだ。幸い自分には鍛えてくれる上官がいる。作戦を思いつく
友人がいる。
「キラ、アンタにはいないだろう?」
そう呟いた後、シンは近付いてきたミネルバに着艦を求める。
「こちらシン、ミネルバに着艦を要請する」
「了解、誘導を開始します」
その懐かしい声に、シンの顔に笑みが浮かぶ。
「メイリン」
「お帰りなさい、シン」
「ああ、ただいま」
帰ってきた者と待っていた者。カトルは、その声を聞きながら羨ましさを覚えた。
自分にも待っている人がいる。帰りたい場所がある。しかし今は帰る手段すら見つからないまま、異郷の
地で争いを見続けている。
そんな自分の立場に苦笑を浮かべると、懐かしき人々の顔を思い浮かべ、元の世界へ思いをはせた。

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