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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第06話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:02:29

……最終的な事件名を『ザフトによる地球連合和平総会襲撃事件』と平凡な呼称にする
こととした一連の事件は、ザフトによる総会襲撃の隙をついたファントムペインのクーデ
ターが全面成功したという結果に終わった。連合軍は、パナマ、ビクトリアを始めとした
宇宙港と、スエズ、ガルナハン、アルザッヘル等、重要な戦略基地をファントムペインに
奪われ、今や最高司令部を持つヘブンズベースを残すのみとなった。ヘブンズベースは現
在も抵抗を続けているが、陥落は時間の問題であろう。
 一方でプラントは、偽の情報に踊らされたとはいえ、大西洋連邦大統領ジョゼフ・コー
プランドを始めとした地球連合各国の平和論者を殺害してしまった。外交当局は総会出席
者のリストを全てチェックして青くなったという。出席者は誰も彼もが政治家や軍関係の
大物であり、ほとんどが親プラント派だったのである。
 取り返しの付かない失態を犯してしまったプラント最高評議会と軍部には、地球の各国
を始めとし、プラント市民からも激烈な非難と批判を浴びせられた。敵の偽情報を鵜呑み
にした国防委員会や、作戦を承認した最高評議会議員は、その怒りの矛先を一身に受け、
叩きのめされた。
「しかし、我々は敵にいいように利用されただけなのだ。現に地球ではファントムペイン
なる部隊の反乱が起きているし、一概に我々が悪いとは言えないのではないか」
 国防委員会には、委員長を始めとし、このように自己弁護をするものも居たが、
「利用されたのは事実だが、なんの罪もない人々を殺してしまい、自分たちが悪くないと
はどの口が言うのか。数十名に登る平和を目指す識者たちを皆殺しにし、残された遺族た
ちのことも考えず、利用されたのだから仕方ないと、お前らは本当に言い切るのか!」
 このように詰め寄られ、沈黙するしかなかった。ナチュラルの命など何とも思わない一
部の差別主義者以外は、なんの罪もない人々を殺してしまったという事実に、心が折れた
のである。
 プラント最高評議会メンバーは全員、辞表を提出した。しかし、この難局に政府のトッ
プを一度に全て辞めさせるわけにも行かないので、今回の作戦に反対票を投じた極少数の
議員は、その見識を認められ、最高評議会議長であるギルバート・デュランダルはこれま
で通りその役職に就くこととなった。
 デュランダルは自分の首が繋がった結果に対し喜び、不謹慎ながらも祝杯を挙げていた。
これで夢に一歩近づいた。暫定的な各委員長代理の人事を自ら行えば、最高評議会は自分
の意のままに動かしてゆくことが出来るであろう。
 ザフトでは、総司令官と他3名が辞任し、また、虚偽の情報を鵜呑みにした諜報部にも処
罰が下った。
 議長の命令で作戦中止を伝えにミネルバへ赴いたハイネは、カーペンタリア基地からプ
ラントに帰還し、正式に『ZGMF-X23S セイバー』のパイロットになった。元々、大気圏降
下が可能な高速機がセイバーしかなかったためにセイバーで現場に向かったのだが、ハイ
ネとしては良い意味で拾い物を得たと思っている。
 ミネルバの処遇についてはすぐに決定しなかった。
 実際に作戦を実行したのは彼らであるが、彼らは軍人として、上層部の命令を聞いただ
けに過ぎない。軍人である以上、上の命令は絶対であり、そのことで彼らを非難すること
は出来ない。情報の真意を見定めるのも、命令を下すのも、彼らではないのだから。
 デュランダルは、ミネルバに対し、「彼らは命令に忠実であり、それは軍人としてはあ
るべき姿だ。そのことで彼らを処罰するのは余りにも酷ではないか」と発言し、現場に駆
けつけたハイネも「あいつ等は軍人としての責務を全うしただけだ」と擁護した。
 いっぽうで、やはり実働部隊という事実もあり、非難や批判があることも無視できない。
しかし、裁かれるべきが彼らに命令を下した政治家や、軍上層部だというのならば、既に
処分は決定しており、これ以上の咎は必要ないようにも思えた。

処遇が定まらない間、ミネルバはカーペンタリア基地での謹慎ということになった。基
地内の移動であれば自由であったが、クルーやパイロットたちはなるべく艦内にいた。今
回の事件に対してのジャーナリズムの反応もそうであったが、彼らは味方であるザフト兵
からも『民間人殺しのミネルバ』と、白眼視されていたのだ。
 中にはミネルバを激昂し、時に慰める者も居たが、ザフトとプラント、しいてはコーディ
ネイター全体に泥を塗ったという言葉は、ミネルバクルーたちの気持ちを挫かせた。
 特に実際、総会出席者のシャトルを手にかけてしまったシン・アスカは酷く落ち込んで
おり、同室のレイが、彼をしばらく一人にしておいたほうが良いと部屋を一時移ったぐら
いである。もちろん、早まった行動を起こさせないように監視は付けていたが。
 そうしたレイの気遣いに、多少の落ち着きを取り戻したのか、シンは三日三晩部屋に籠
もった後、やっと外に出たのだが、ミネルバオペレーター、メイリン・ホークが久方ぶり
に外に出たシンと最初に遭遇した際に、その酷い有様に声もかけられなかったという。
 そうした状況が続く中、ミネルバの件は決定なきまま有耶無耶になって行く。
 何故ならば、ヘブンズベース攻略戦を展開していたファントムペインが、大胆な作戦で
遂に同基地を陥落させ、プラントに対しての宣戦布告を進めていたからである。

           第6話「ヘブンズベースを攻略せよ」

ヘブンズベースは、大西洋北部アイスランド島にある、地球連合軍最高司令部である。
前大戦で、統合最高司令部JOSH-Aを失った連合軍の新たな本拠地であり、そこに配備さ
れている兵力は他の基地とは比較にならないほど多い。その為、この基地を制圧するこ
とは一筋縄ではいかず、攻略には苦戦を強いられていた。
 これに対しファントムペインは、スペングラー級モビルスーツ搭載型強襲揚陸艦J.P.
ジョーンズを旗艦とした大部隊を編成。アイルランド島周辺をダニロフ級イージス艦で
囲み、これまでの基地と同じく、ジェットストライカー装備のウィンダム隊を主力とし
たモビルスーツ部隊による空からの攻撃でこれを制圧する作戦を立てた。連合軍のモビ
ルスーツは、未だに地上用ダガーが主力であり、空からの攻撃は極めて有効なものと思
われていた。
 既に他の基地の制圧を完了させた部隊も合流しており、実戦指揮はネオ・ロアノーク
大佐に一任された。

「さすがはヘブンズベース……見事な防衛網を張っている」
 旗艦J.P.ジョーンズで戦略図を見ながら、ネオは僅かに感嘆の声を上げた。ヘブンズ
ベースは付けいる隙のないモビルスーツ及び機甲部隊の布陣を敷いており、基地司令官
が決して無能ではないことを示していた。
「無能だったら嬉しかったんだがな……」
 ネオは作戦立案中にそんなことを呟いたという。そんな彼の呟きに、
「どうして? 戦うのが楽だから?」
 と、久しぶりに再会した彼に、これでもかというぐらいベッタリくっついてたステラ・
ルーシェが尋ねたが、彼は苦笑しながらこう答えたという。
「だって考えても見ろよ? 敵が無能なら、こちらが有能な分だけどちらも犠牲が少な
くて済むんだぞ? 無闇に血が流れるよりは、ずっと良い」
 そんなネオの、ある意味で軍人のあり方を否定するような発言は、ステラには難しく
て良く分からず、とりあえず「ネオは優しいことを言った」とだけ解釈した。ネオが実
際に優しい心根であるかどうか別として、彼が今回のクーデターで双方の流血を好んで
いなかったのは事実であったし、時代遅れの連合には潔く舞台から退場して貰いたいと
いう思いもあった。

「地上にある施設は基地司令部と見せかけているだけのフェイクだ。本当の司令部はこの
辺り」
 ネオは、コンソールを操作し、アイルランド島にある山の一角を拡大する。
「この山の地下に司令部はある。山は要塞化されて対空砲台も数多く存在するが、ウィン
ダムの機動力ならば十分突破できるだろう」
 J.P.ジョーンズのブリーフィングルームには、ロアノーク隊とホアキン隊の主要メンバ
ーが集まっている。さすがにこの時だけはステラもスティングたちと共に、普通に椅子に
腰掛けていた。
「ウィンダム隊は、もっとも高い機動力を持っているカオスを隊長機とする。スティング、
お前が指揮を執れ」
「わーったよ!」
「ウィンダム隊による第一波攻撃の後、アビス率いる水中モビルスーツ部隊が敵水中モビ
ルスーツ部隊を蹴散らす。出来るな、アウル?」
「当然!」
 パナマでの大勝が嬉しかったのか、二人の戦意は著しく高まっていた。ステラは戦いや
勝利に高揚するという感情を知らないのでいつもと変わりはなかったが、スティングとア
ウルが嬉しそうだという事実に、自身も嬉しがっていた。
「敵水中モビルスーツ撃破後は、モビルスーツ搭載の強制揚陸艦を基地沿岸に叩き付け、
一気に制圧する。地上戦での主力部隊は、スウェンのストライクと、ミューディーのブル
デュエル、そしてステラのガイアだ。シャムスのヴェルデ・バスターはバスターダガー隊
と共に長距離からの支援攻撃に専念しろ」
 出来ればネオ自身も専用のウィンダムで出撃したかったが、精鋭たる彼らの足を引っ張
っては困る。今回は旗艦にてホアキンと共に静観するつもりであった。
「作戦内容は以上だが、何か質問は?」
 士官の一人が手を挙げた。
「作戦とはあまり関係ないのですが、技術部が今回の作戦に試作モビルアーマーのテスト
を兼ねた実戦導入の許可を求めています」
 近年、ファントムペインは積極的にモビルアーマーの開発を行っていた。これは謂わば
性能テストのようなもので、ストライカーパックにより各戦場に対応した装備を選択でき
るモビルスーツと、最初からあらゆる戦場を想定して作られモビルアーマーでは、どちら
がより有効なのか? というものである。もっとも、既存のモビルスーツを開発して作ら
れたウィンダムとは違い、一から作らねばならなかったモビルアーマーは開発が遅れ、こ
んなギリギリに完成したという経緯があった。
「ザムザザー、と言ったな、確か」
 ネオは呼び慣れぬモビルアーマーの名前を口にする。
「ダメだ、今回の作戦はファントムペインの今後を左右するものだ。それに試作モビルア
ーマーのテストなど加えられん」
 ネオはそう決定したが、内心でそのモビルアーマーに興味を持っていた。作戦が終わっ
た後にでも見に行ってみるかと、その時は気楽に、そう考えていた。
「ではこれより二時間後に作戦を決行する。各自、出撃準備に取りかかれ!」
 しかし、二時間後、出撃したファントムペインは完膚無きまでに敗北することとなる。

このヘブンズベース攻略戦の第一波が『失敗』した理由はいくつかある。それまでの勝
ち戦続きが将兵たちにの心に小さくはない油断を作っていたこと、パイロットたちにヘブ
ンズベースほどの大規模な要塞基地に対しての攻略経験が浅かったこと、それに対して連
合軍が死にものぐるいで絶対死守を敢行したこと、そしてヘブンズベースにファントムペ
インが持っていた情報にはない装備があったこと、などだ。
 ファントムペインのスティング・オークレーは、作戦通りにウィンダム隊を指揮し、敵
の対空砲火をかいくぐって敵基地司令部まで接近していた。ここまでは確かに作戦通りで
あり、後は基地司令部のある山に攻撃をすれば良いだけ、そのはずだった。
「なんだ? 山が……開閉している!? こんなもの、情報にはないぞ!」
 突然の事態にカオスに乗るスティングは少なからず動揺した。
 連合軍は、対空砲火では敵モビルスーツ部隊に対しての応戦は難しいと考え、極秘裏に
開発されていた要塞主砲による攻撃を試みたのだ。その名を対空掃討砲ニーベルングと言
った。
「フフン、ファントムペインの奴らめ、このヘブンズベースを墜とせるなどと本気で思っ
ているのか?」
 ヘブンズベース基地司令官は、司令部に近づきつつある敵モビルスーツ部隊の存在にも
まるで動揺せず、対空掃討砲の使用をいち早く決断した。
「蚊とんぼどもめ、思い知るがいい……ニーベルング発射!!!」
 ニーベルングは、その圧倒的な破壊力を持って発射された。元々はザフト軍の降下部隊
を殲滅するために作られたこの要塞主砲は、今まさにファントムペインの空中モビルスー
ツ部隊を、ほぼ全滅に近い形で粉砕した。
「くそっ、全機離脱だ!」
 スティングは発射されたニーベルングの莫大なエネルギー量に恐れ戦きながら、必死で
機体を反転、急速離脱させる。後ろでは次々とウィンダムが爆破、塵一つ残らず消滅して
ゆく。
(間に合うか!?)
 スティングは、久しぶりに死への恐怖を感じていた。

「これは……」
 ネオはその悪夢に近い光景を旗艦から見ていた。すぐ隣ではホアキンが状況を確認しろ
と部下に怒鳴っている。
「カオスは……スティングは無事なのか!?」
 ネオはそう叫ぶと、部下にすぐにカオスの信号を確認させた。数秒後、カオスの信号を
無事確認することが出来た。
「カオスより入電、ウィンダム隊はほぼ全滅に近い状態にあるとのことです!」
「ぜ、全滅だと」
 ホアキンは血の気が引いたような声しか出せなかった。
「カオスよりさらに入電、我が機体の損傷も著しく、帰還を許可されたし、とのことです」
「帰還を許可する。水中部隊も一旦後退させろ、この状況でヘブンズベースを攻めるのは
無理だ……」
 ネオは苦々しげに呟くと、それ以上の作戦続行を断念した。これを機に敵が打って出て
くるかとも思ったが、敵はあくまで籠城策を取るつもりなのか、出撃の気配はなかった。
何はともあれ、ファントムペインは一連のクーデーター中に、初めての敗北を喫したので
ある。

帰還したカオスは、ニーベルングの直撃こそ回避できたが、砲撃の余波に機体を著しく
損傷させており、再出撃には相当の時間が掛かると思われた。ちなみにパイロットも軽傷
を負っており、医務室行きとなった。ネオとホアキンはこの事態に作戦の練り直しを要求
された。
「一筋縄ではいかないと思っていたがまさかここまでとは……」
そうホアキンが呟きながら、その日の作戦会議を終えた。ネオも同感であったが、素直に
賛同する気にはなれなかった。何故ならば、そんな事実が現れようとも、ファントムペイ
ンはヘブンズベースを攻略せねばならないのだ。その現実に溜息をつき、私室に戻ろうと
したネオに、技術士官が声をかけてきた。例のモビルアーマーの実戦テストをどうしても
行いたいというのだ。
「こんな状況下に何を……いや、まて」
 ネオは『モビルアーマー乗り』としての直感が、これは使えるのではないかと告げてい
ることに気付いた。
「そのモビルアーマー、私に見せて貰おうか?」
 彼の中にとても危険なひらめきが生まれていた。

「このザムザザーは、総重量526.45tと既存のモビルスーツを遙かに上回る重さですが、
各部に設置されたバーニアから大推力を得ることによって、高い飛行能力と機動性を有
しています」
 技術士官は、ザムザザーを遠隔操作し、その最大の武装、陽電子リフレクターを作動
させる。
「これが陽電子リフレクターか?」
 ネオは、発生する高出力フィールドに目を押さえながら尋ねる。
「はい、この陽電子リフレクターのリフレクション能力は、その名の通りです。例え陽
電子砲であっても完全に防ぐことが出来ます」
 技術士官は自信に満ちた声で熱弁を振るいつつ、リフレクターをリセットする。
「搭乗員は三名で、それぞれ行動指揮を執る機長、砲撃を担当する砲撃手、操縦及び格
闘を担当する操縦士になっています」
 蟹のような甲殻類を思わせるザムザザーのフォルムに、ネオは新たな可能性を感じて
いた。この機体ならば……!
「一つ聞くが、この機体は一人でも動かせるのか?」
「は? 一応、操縦は一人でも出来ますが、それだと砲撃等の攻撃オプションが使えま
せん。最低でも二人は必要ですが……」
「そうか、わかった。この機体の実戦導入を許可しよう」
「は、はい、ありがとうございますっ!」
 しかし、この技術士官の喜びは一瞬で消えることとなる。
「では、早速出撃準備に掛かろう。俺も仕度を済ませる」
「えっ?」
「聞こえなかったか? この機体で出撃するのだ、俺がな」
 仮面に隠れたネオの表情は、いつになく不敵なものだった。

「ロアノーク大佐! これはどういうことですか!?」
 二十分後、既に発進体勢にあるザムザザーに回線を繋いだホアキンは、上官の真意を問い
ただした。彼としてはなんの相談もなかったことよりも、司令官自ら出撃するという事態へ
の驚きがあった。
「ホアキン、俺はこれよりこのザムザザーでヘブンズベースに特攻をかける!」
「特攻ですと!? 死ぬ気ですか!」
「死ぬ気でやらねばヘブンズベースは墜とせん! 俺が敵要塞主砲を破壊する。それを見計
らってモビルスーツ隊を出撃させろ!」
「大佐!!!」
 ホアキンは制止の声を上げるがそれを最後まで聞くネオではなかった。ザムザザーを発進
させ、対空掃討砲ニーベルングを破壊するため彼は出撃する。発進と同時に起こる加速によ
る凄まじい衝撃が彼を襲う。
「この感じ……やはり、モビルアーマーは良い……」
 かつての異名がそうさせるのか、ザムザザーの操縦席に座るネオの気持ちは高ぶっていた。
ネオは、自分がネオ・ロアノークと名乗るようになってから、自己の存在意義を戦場でしか
実感できない男だ。悲しきかな、口では戦いを嫌がりつつも、彼は戦場にいるときこそ、も
っとも活き活きとしている。
「基地の防衛システムがもう作動したか。夜襲備えをしていたな……しかし!」
 ザムザザーは向かい来る対空砲火の雨を巧みに避けると、敵基地司令部を一直線に目指し
た。
「な、なんだあの機体は!」
 ヘブンズーベース総司令部は、突然夜襲をかけてきた謎の機体に驚愕し、司令部に詰めて
いた指揮官たちは動揺しきっていた。夜襲の可能性は勿論あった。故にこのように備えもし
ておいた。だが、あの機体はなんだ。
「モビルアーマー……ファントムペインは、新型のモビルアーマーを開発していたのか!」
「敵モビルアーマー、尚も接近!」
「砲火を集中しろ! 敵を近づかせるな!」
 総司令部のある要塞化された山に露出するビーム砲台から、ザムザザーへと一斉砲撃が行
われる。とても全てを避けるなど無理だった。
「ここで試してみるか……陽電子リフレクター展開!」
 ネオは、ザムザザーのリフレクターを作動させる。ザムザザーはある意味で隙だらけなリ
フレクション姿勢へと移行する。
「前面のみの防御姿勢……盾としては正しい形だが、果たしてこれで――」
 ザムザザーのリフレクターに怒濤の勢いでビームが炸裂する。数十に及ぶビームの光りは、
突如空中で『制止』した、ザムザザーを確実に捕らえていたが、陽電子リフレクターはその
こと如くを弾き返した。
「ほぅ、なかなか使えるものだな!」
 その絶対防御の力にネオは歓喜の声を上げるが、防がれた方は堪ったものではなかった。

「て、敵、モビルアーマー無傷! 再び、こちらに向かって前進を始めました!」
「要塞主砲を、ニーベルングを使え!」
「し、しかし、対空掃討砲ニーベルングは降下してくる敵には有効ですが、正面から向か
ってくる敵には……」
「構わん! ニーベルングをどうにかせぬ限り、その真下にあるこの司令部を制圧出来ぬ
事は奴らも知っているはずだ。山に取り付こうとした瞬間、あの蟹のデカブツを吹き飛ば
してくれる!」
 だが、要塞主砲を無力化することこそが、ネオの狙いであることを基地指令は理解して
いなかった。先ほどの一線で、敵のモビルスーツ部隊を一掃したこともあってか、ニーベ
ルングを使えば敵が怯み、撤退する可能性もあると考えていたのだ。
「いいか、ギリギリまで引きつけるのだ。ニーベルングならば、例え余波であっても敵の
破壊が可能だ! このヘブンズベースは我ら連合の最後の砦……何があっても陥落させる
わけにはいかんのだ!」
 山が割れ、対空掃討砲ニーベルングが露出する。もし、ザムザザーが正規の通り、パイ
ロット三人体制で出撃していれば、砲撃・射撃による目標破壊という方法が採れたはずだ
った。しかし、今このザムザザーを操縦しているのは、ネオ一人だ。
「後はこの機体と、陽電子リフレクターの性能を信じるのみ!」

「対空掃討砲ニーベルング、発射せよ!!!」
 そして、遂にニーベルングが発射された。要塞まで距離数十メートルに迫っていたザム
ザザーを破壊するため、驚異の一発が放たれたのだ。
「リフレクション姿勢で固定……いや」
 衝撃に揺れる機体を安定させながら、ネオはポツリと呟いた。
「この姿勢のまま、敵要塞内部に突っ込ませて貰う!」
 恐らく、ザムザザーに絶対の自信を持っていた技術士官であっても、このような選択は
しなかっただろうし、考えることすらなかっただろう。そもそも、陽電子リフレクターは
防御のためのシステムだ。それを展開したまま敵に突っ込む、『攻撃』を想定されて作ら
れてはいない。
「俺は死を恐れない……何故なら、一度死んでいるのだからな!」
 ニーベルングが巻き起こす破壊の力を機体に受けながら、ネオは叫ぶ。コクピットにも
伝わるその衝撃は、ネオの身体にもかなりの負担をかける。
 ピシリ、っと仮面に亀裂が入った。
「さぁ……この死に損ないを殺してみろ!!!!」
 ネオは、出撃前ホアキンに言ったとおり、ザムザザーでの特攻を敢行した。

「敵モビルアーマーロスト……」
 たった一機を破壊するために発射されたニーベルングは、ザムザザーを完全に消滅させ
たかに見えた。
「連中の切り札があのモビルアーマーだと言うのなら、ファントムペインも恐れるに足ら
ず。今度は我らが打って出て……」
 その時、基地に衝撃が走った。
「!? 何事だ!!!」
「わ、わかりません! ニーベルングに異変が!」
 まさか、と基地司令官は叫んだ。そして、それと同時にある可能性に思い当たる。
「て、敵モビルアーマー、生きています! 生きて、ニーベルングに攻撃を!」
「な、何とかしろ!」
「無理です、ニーベルングに取り付かれては対処の仕様がありません!」
 ザムザザーは、ニーベルングを受けきっていた。無論、砲撃を一身に受けたわけではな
いのだが、並のモビルスーツならば一溜まりもない一撃でも破壊されず、超振動クローで
の接近攻撃を敢行していた。
「あれがエネルギー集中用の砲身か!」
 ネオは、ザムザザーの超振動クローでニーベルングの砲身を掴むと、力の限りこれを叩
き折った。エネルギーの残滓が散り、ザムザザーの機体を蝕む。ニーベルングは爆発寸前
であった。
「機体が、持たない。だが、これで……!」

ホアキンは要塞主砲の付近で爆発が起きたのを確認すると、モビルスーツ部隊に指示を
出し、ヘブンズベースに攻撃を開始した。ニーベルング破壊による衝撃はヘブンズベース
を守る兵士たちに少なからず動揺を与え、アウルの指揮する水中モビルスーツ部隊は瞬く
間に敵の水中モビルスーツ部隊を駆逐していった。
「さて、後はステラたちに頑張って貰うか!」
 陸上では、ファントムペインの強襲揚陸艦が沿岸に叩き付けられ、中から続々とモビル
スーツが現れる。この時、いの一番に先陣を切ったのがステラのガイアであり、
「ネオ、ネオ、ネオ! ネオを助ける!」
 少しでも早くネオを助けたいという想いからか、ステラは怒濤の勢いで敵モビルスーツ
を撃破し、それは普段、感情を表に出さないことで有名なストライクのパイロット、スウ
ェン・カル・バヤンが、
「凄いな……」
 と、思わず呟くほどだったという。
 しかし、ヘブンズベースを守備するモビルスーツ部隊も、ただやられていたわけではな
い。最終防衛戦であるヘブンズーベースの絶対死守を敢行する彼らは、死ぬもの狂いとも
言える抵抗をし、それは通常の兵士とは異なる教育をされてきたファントムペインの兵士
たちでも驚くものだった。
「悪足掻きを……するなぁっ!」
 ブルデュエルを駆るミューディーなどは、そうした敵であっても一撃の下に打ち倒す実
力を持っていたが、地上戦は次第に乱戦の兆しを見せていた。
「チッ、お前らいい加減時代遅れなんだよ!」
 シャムスのヴェルデ・バスターを始めとした、バスター・ダガー隊による集中砲火が浴
びせられる。ラミネート装甲を廃し、量産性に特化したダガーLには一溜まりもない一撃で
あったが、守備部隊の隊長は冷静に指示を出し、
「損傷の少ない機体でシールド防御をし、その隙間からビームライフルで応戦しろ!」
 こうして、バスターの攻撃をやり過ごした。ビームライフルによるピンポイント攻撃を
受けたバスター・ダガー隊は徐々にであるが後退して行く。
「まずいな……乱戦になれば、各個撃破の可能性も出てくる」
 スウェンは、こうした戦況に危機を憶えていた。敵の士気は高く、統率力も高い。そし
て何より、連係が良く取れている。
「ならば……敵の指揮系統を崩す」
 スウェンは、敵隊長機に的を絞り、対艦刀を引き抜き襲いかかった。

「対空掃討砲ニーベルング、完全に沈黙……」
 一方で、ヘブンズベース基地司令部は酷い有様になっていた。真上にあるニーベルング
が破壊されたため、その衝撃で基地内部は通常電源から非常電源に切り替わり、壁には亀
裂が走るなど、いつ崩壊してもおかしくない状態であった。
「我が方のモビルスーツ隊は!?」
 基地指令は僅かな望みをかけて叫ぶが、
「だ、だめです、奮戦を続けていますが隊長機を墜とされ、散り散りに……」
 指揮系統さえ崩されてしまえば、一騎当千の実力を誇るファントムペインの敵ではなか
った。基地指令は敗北を悟った、悟ってはいた、しかし……
「何故だ、何故我々が、我々が負ける!」
 理解は出来ても、納得できないことはある。連合軍なのだ。この地球の大部分を統治す
る、地球連合軍なのだ。それが負けるなど、あって良いはずが……
「いい加減、お認め頂きたいものですな」
「な、何!?」
「歴史は今、革命の直中にある。役者は交代する、ということです」
 総司令部の出入り口に、ネオが立っていた。その手には、黒光りする拳銃が握られてい
る。
「ネオ・ロアノーク大佐……ファントムペインの人形部隊が何を偉そうに!」
「強すぎる人形は、使い方次第では牙も剥くと言うことですよ。ファントムペインがあな
た方連合の都合の良い戦闘集団だった時代は終わったのです」
「ぐっ……連合に取って代わるなど、認められるか!」
 基地指令は懐の銃を引き抜くが、ネオはすぐさまそれを撃ち落とした。
「自分たちの時代が終わったことぐらい、自分で察しろ!」
 その時、司令官の後ろに控えていた部下がネオに射撃した。ネオはこれを驚異的な反射
神経で避け、弾は彼の仮面を掠めた。
 ピシリ、っと仮面の亀裂が広がり、割れた。
「そ、その顔……貴様、まさか!」
 動揺が走った。割れた仮面、晒された素顔、それは彼らの良く知るものだった。
「エンデュミオンの……」
「捨てた名だ」
 ネオは間髪入れず、その場にいた全員を射殺した。
「作られた英雄など、もうどこにも居ない。居るのはどうしようもない、血塗られた戦士
だけだ……そうでしょう、王?」

 ヘブンズベースは陥落した。地球連合軍はこれにより、地球圏全ての軍事拠点を失い、
ファントムペインがそれに取って代わることとなった。そして、ファントムペインを操る
ブルーコスモスの盟主ロード・ジブリールはこの勢いに乗り、プラントに宣戦布告し、世
界は再び大戦へと突入してゆくこととなる。