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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第07話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:02:47

ファントムペインという実働部隊で連合軍を壊滅させている間、ブルーコスモスの盟主
ロード・ジブリールはそれをただ黙ってみているわけではなかった。彼は大西洋連邦内部
の掌握に乗りだし、市民に訴え、煽り、その反戦意識を低下させ、主戦派を台頭させるこ
とに成功していた。今や議会の過半数は、ブルーコスモスの、それもジブリール寄りの信
者で埋まっている。
 政治体制が変われば、世論もまた考え方を変えてくる。世界各地ではファントムペイン
によるクーデーターが成功しつつあるというのに、市民レベルではそんなことは気にも止
めないのだ。支配体制がどう変わったところで、支配されることに慣れすぎた人々は、そ
れに異を唱えると言うことを忘れてしまっていた。ただでさえ、戦争の後である。過度の
重税や、徴兵、あらゆる物で疲弊しきっていた市民に、気にする余裕などなかったのかも
しれない。
 議会を掌握し、ブルーコスモスの主義者を大統領代行にすることに成功したジブリール
は、早急にプラントへの開戦準備に乗り出した。プラントが未だ先の事件で混乱している
ところを突いて、これを一気に倒すというのが狙いだったが、ジブリールの目論見は全て
成功したわけではなかった。まず第一に、ジブリールは旧連合の月基地アルザッヘルを橋
頭堡にプラントへ進行する計画を提示したのだが、アルザッヘルは「迅速にクーデターを
成功させる」という命令に忠実だったファントムペインのイアン・リー少佐によって、艦
艇発射口など重要な部分に酷い損傷を負っており、応急的な処置だけでもすくなからずの
時間を要した。この間にザフトは、テロリスト捜索の任務に当たっていたジュール隊を前
線に呼び戻すなど戦力の増加に努めていたが、その指揮系統は未だ混乱の一途を辿ってお
り、両軍は準備も備えも仕切れていない状態で開戦に突入しようとしていた。
 そんな時である。オーブ所属の宇宙ステーションアメノミシハラを管理する、オーブ影
の軍神ロンド・ミナ・サハクが、全世界に向けて声明を発信した。

        それは、『天空の宣言』と呼ばれるものだった。

 この天空の宣言は、「人類は他者の理想を妨げない限り己の信念に従うべきだ」という、
ロンドの考えを訴えたものであり、いかなる組織・国家であろうとも他者に主義・主張を
押し付けてはならないと説いた。また、ロンドは声明で、この天空の宣言に従うことを強
制することはなく、賛同したものにのみ無償の援助をすることを表明したのだ。
 これにに対し、旧連合に属していなかった南アメリカ合衆国や、ユーラシア西側地域な
どは高い関心を示していたが、大西洋連邦・プラントはこれを完全に無視し、オーブ本国
及び中立国は黙認の構えを取った。

 この宣言が発信された際、二人の人物が、異なる見解でありながらも否定的な意見を
述べていた。
 一人は、ミーア・キャンベルとその声明を聞いていたロッシェ・ナトゥーノ。彼は、ロ
ンドを好奇の目で見ていたが、必ずしもその主張を正しいとは思っていなかった。ミーアは、
『他の女を興味深げに見ている彼』に対して、思うところがあったのか、「彼女に興味が
あるの?」と尋ねたが、ロッシェは険しい顔でこう答えたという。
「これではダメだな。確かに悪くない主張ではあるが、これではただこのロンドとか言う
女が独裁者になるだけだ」
「独裁者? どうしてそう言うことになるの?」
「弱者救済を否定する気はない。しかし、これが拡大すれば弱者は挙って彼女を頼り、強
者は彼女を恐れる。人はいつも、英雄や聖人の存在望む。そのほうが楽なのだ。自分たち
で努力せず、彼らに課された苦労を全て背負い込んでくれるのだから。特に無償で援助す
る、などと言われれば尚更だ」
「……なんか、よくわかんない」
「フフ、まあしかし、これだけは憶えておくといい。独裁者は何もその人が望んだから誕
生するわけじゃない。それを支持する人々によって、生まれ出る場合もある。そういった
意味では彼女を支持する人間たちの質が問われるわけだが……」
 と、ロッシェはここで言葉を切った。彼の言うことを必死で理解しようと頭を悩ませる
ミーアに、少し考える時間を上げようと思ったからである。
 そしてもう一人、地球のオーブでも、天空の宣言に否定的な見解を示す人物がいた。
そう、本当のラクス・クラインである。
「私は、この方の言うことに共感は出来ません」
「どうして?」
 厄介になっているマルキオ邸の居間で声明を聞いていたラクスとキラだったが、興味な
さげに聞いていたキラと違い、ラクスは真剣に聞いていた。
「組織や国家が、主義や主張を押しつけてはいけないというのは、まあオーブに厄介にな
っている私が言うのもアレですけど、概ね賛成できます。組織にしろ国家にしろ、人がい
てこそ成り立つもの、主体的な意思を持つものが集まり、国家を形成するのであれば尚更
です」
「うん、それで?」
 今のこの二人を良く知るものであれば、この二人が会話をしていることに若干の驚きを
憶えるかも知れない。しかし、この二人とて既に一年以上一つ屋根の下で暮らしており、
そもそも『片方が恋愛感情持たないだけで仲は悪くない』から、このように普通に会話を
することは可能なのだ。
「キラ、私は必ずしも人の持つ信念が正しいとは思えないのです」
「えっ? どうしてさ?」
「例えば金銭を受け取り人を殺すのと、信念の赴くままに人を殺すのなら、私はまだ金銭
で人を殺す方がマシだと思います」
「…………」
「金銭は、万人に共通の価値があります。服が買えます、食事が取れます、様々なことが
出来ます。でも、信念というものは、それを持つ当人しか通用しない価値しか持っていな
いのです。だから、私は信念のみで行動することを否定します」
 ラクスの言い分もまた、もっともではあった。キラはそれを聞いて心の底から惜しいと
感じていた。彼女の居るべき場所は、自分の側などではないのだ。魂の抜け殻の側ではな
く、彼女の見識や才幹は、もっと広い場所で示されるべきなのだと。

第7話「L5宙域会戦」

 地球からプラントへの宣戦布告が発せられた。C.E73年11月2日を持って、大西洋連邦
はユニウス条約を破棄し、プラントへ進軍することを表明したのだ。ある程度予想して
いたとはいえ、プラントの反応は様々であった。最高評議会議長ギルバート・デュラン
ダルは、突然の開戦宣言に対し、
「ブルーコスモスやファントムペインといった連中は、戦争が外交の一手段であること
を判っていない。まあ、この前の事件を起こした我々の言えたことでもないか……」
 攻めてくる以上は相応の対策を練らねばいけないわけだが、先の事件の影響で、最高
評議会は議長以外の委員長クラスの人材に不足を来しており、ザフトもまた首脳部が入
れ替わるなど、混乱期にあった。そんな中で、デュランダルは一人リーダーシップを見
せつけ、かつてパトリック・ザラがそうしたようにザフト軍の最高司令官顧問も兼任し、
最高評議会議員、ザフト軍人を叱咤、先導し、ある程度まで指揮系統を回復させること
に成功してた。
「やれやれ……私は一応反戦派なのに、気付けば戦争の準備をしている」
「心中察しますよ」
「私はロード・ジブリールを過小評価していたよ。まさか彼にこんな陰謀を企てて、実
行できるだけの才覚があるとは思ってもいなかった……」
 アプリリウスにある、最高評議会の議長室に詰めるデュランダルは、ロッシェの訪問
を受けていた。
「さて、そんなわけで一応は多忙の身なんだが……用件は?」
「何、単純なことです。私にも出撃許可を頂きたい」
「なんだって?」
 ロッシェの説明するところにはこうだった。確かに、議長の手腕によってザフト軍と
やらはある程度の統率性を取り戻しつつあるようだが、戦場という過度の緊迫感、緊張
感が支配する空間においてはそれも崩れる可能性が大いにある。幸い自分は戦場慣れし
てるし、この世界に機体相手に後れを取るとは思えない、ということだった。
「しかし、その機体が問題だと私は思う。私は技術者じゃないから不快には思わないが、
君の機体は強すぎる。それこそ、この世界最強といっていいほどにね。これでは両軍の
パワーバランスが崩れてしまうと思わんかね?」
「相手に気を使う必要がどこにあるのですか? まったく、変なところで律儀ですね……
まあ、いいでしょう」
 ならばと、ロッシェは次の案を提示した。こちらの判断で、プラントに危険が迫って
いると感じた場合のみ、出撃を許可して欲しいというものだった。
「……いいだろう。こちらとしても、今回の防衛に対し絶対の自信はない。もしもの時
は、君に任せよう」
 使わないに越したことはない、しかし、ロッシェの強さを見てみたいという好奇心も
デュランダルにはあった。元々が学者の出であるため、新しい物には目がないのだ。

一方、急遽応急処置を終えたアルザッヘルからは、ファントムペインのイアン・リー少
佐を指揮官とするプラント攻撃艦隊が出撃していた。急ごしらえに近い艦隊だったため、
その絶対数は必ずしも多いものではなかったが、イアンの軍人としての手腕が早期出撃を
成功させたのだ。
「プラントへはこの航路を通ってゆく。恐らく、ザフトとはL5宙域でぶつかることとなる
だろう」
 L5宙域はプラント本国にもっとも近い宙域である。前大戦の折に、ボアズ、ヤキンとい
った要塞を失っていたザフトにとって、L5宙域が最終防衛ラインであり、そこに軍を展開
するしかなかったのである。
 それを見越して、イアンは敢えて正面から堂々と艦隊を進める方針をとった。人は誰し
も敵にこそ策や奇策があると思いがちである。特にザフトは、自分たちの力に自信を持っ
ているが為に、「なんの策もなく正面から攻め込んでくるわけがない」と思い込んでしま
うだろう。そうした敵の心理を利用した、戦略や戦術とは違った心理戦だった。

かくして月基地を出撃したイアン・リー艦隊は、予定通りの航路を通り、プラントへの
進行を始めた。これを迎え撃たんとするザフトは、宇宙空母ゴンドワナを旗艦とし、イア
ンの予想通り、L5宙域に艦隊を布陣した。しかし、その布陣はお世辞にも綺麗とは言い難
く、また非戦略的であった。それでも、一応の部隊配置はされており、最前線たる位置に
はセイバーを駆るハイネ・ヴェステンフルスを隊長としたハイネ隊、その右翼にイザーク

ジュールを隊長としたジュール隊、とにかく敵の進撃を阻めと言う大雑把な命令はハイ
ネやイザークを笑わしたが、笑ってばかりもいられない。
「前方には士気が高く勇猛な敵、後方は慌てふためく使えない上官……これで戦えってい
うんだから、命令するほうは楽で良いぜ」
 ハイネは出撃前にそんなことを呟いていたという。ハイネに言わせれば、今回の開戦ま
でに起こった一連の流れは、プラント、しいてはザフトという組織の体質にあると思う。
どいつもこいつも頭でっかちな奴ばかりで、自分を優秀だと思い込んでいるが為に、他人
に命令されるのを嫌う。その結果がこの体たらく、曖昧な指揮系統は組織を複雑化させ、
現場レベルでの混乱、暴走を来す。
「今の状態で勝つための戦いは不可能に近い。しかし、負けない戦いなら出来るはずだ。
俺以外の奴もこれを理解してるなら、そう難しい戦闘にはならないと思うが……」
 無理だろうな、とハイネは心の中で呟く。相手はナチュラルであり、こちらはコーディ
ネイターなのだ。自分たちのほうが優秀であり、向こうは下等な種族だと、本気で思って
いるのがザフトの大半なのである。
「精々負けないように、みっともなく頑張ってみるか!」
 ハイネはこの戦いにおける自分の重要性を改めて理解し、気を引き締めた。

L5宙域会戦の開始は、双方のモビルスーツ同士の激突という形で始まった。
 ザフト軍は、理路整然とした艦隊運動とモビルスーツ配備をしてきた敵に対し、我先に
と突出し、その陣形は大きく乱れた。攻撃指令もないままに攻撃し、敵の先陣に突っ込ん
だのである。
 ビームライフルやミサイル、バズーカ砲などで無茶苦茶に攻撃をするモビルスーツたち
のある意味での猛攻は、ファントムペインのモビルスーツ部隊を押す勢いになっていた。
「ダメだ、あんな攻撃の仕方じゃすぐに息が切れちまう!」
 しかし、それを見ていたハイネはこの猛攻が長く続かないことを早々に悟っていた。何
とかして突出した連中を連れ戻さなければ……
「なにっ!?」
 その時、奇妙な出来事が起きた。突出していたモビルスーツ部隊の猛攻に耐えきれなく
なったのか、攻撃を受け流そうとしていた敵の先方部隊に亀裂が入ったのである。亀裂は
徐々にであるが広がりつつあり、敵先陣を分断しつつあった。
「ほぅ……秩序ない攻撃というのも時には威力を発揮するものだな」
 ガーティールーのブリッジで、イアンは感慨深げに呟いた。最初は敵の無秩序振りに失
笑したが、こうなってくると笑ってもいられない。こちらの被害が増す前に対応をしなけ
ればならない。
「よし、敵の突出した部隊を艦隊の内部に引き込み、後方と遮断しろ」
「ですが、それでは我が方にも危険が」
「敵には統率性がない、艦砲射撃の有効範囲まで引き込んで、各個撃破するのだ」
 この作戦は成功した。敵の先方部隊を『撃破』したと思いこみ、さらに内部へと突出し
ていったザフトのモビルスーツ部隊は、いいように敵モビルスーツ部隊に振り回され、戦
艦の艦砲にそのことごとくを吹き飛ばされてしまった。
「お前らいい加減に戻れ! 全滅したいのか!」
 そうした戦場をセイバーで駆け抜けるハイネの怒声は、ザフト軍に幾分かの落ち着きを
取り戻させた。ハイネは突出した部隊を下がらせ、戦力の再編を考えたが、
「いまだ、後退する敵に猛攻をかけろ!」
 ファントムペインのモビルスーツ部隊は、待っていたと言わんばかりに攻撃を開始し、
後退するザフト軍の突出部隊を粉砕した。放たれたビームライフルの光りは、ザクやジン
を貫き、爆散させる。
「おいおい、敵の指揮官少し有能すぎるだろ!」
 あまりに見事な攻勢にハイネは舌を巻きながらも、予め用意しておいたガナー装備のザ
ク隊に敵の攻勢に対する防戦を指示した。長距離砲オルトロスは、その威力を十分に発揮
し、敵の勢いを一時的にではあるが殺いだ。
「いいか、俺達の任務はプラントの防衛だ! 敵に勝つことよりも、プラントを守ること
を第一に考えろ!」
 ハイネは、それからもモビルスーツ隊、時には艦隊にも指示をだし、常に最前線で奮戦
した。結果、敵モビルスーツを数十機、戦艦数隻を墜とす多大な戦果を上げた彼は、ザフ
ト軍、及びFAITH内部での名声を高めることとなった。

戦闘開始から5時間が過ぎようとしていた。ハイネの活躍によって五分五分の戦いが出
来るほど盛り返してきたザフト軍に、イアンは僅かな焦りを憶えていた。
「まずい……このまま戦闘が長期化すれば、補給の問題でこちらが不利だ」
 すぐ後ろにプラント本国が控えているザフト軍とは違い、ファントムペインは月基地か
らの補給部隊が命綱なのだが、今回急な出兵だったために、満足な物資を揃えることが出
来なかったのだ。
「故に混乱期にある敵を突いたのだが……戦場がかえって彼らに落ち着きを取り戻させる
結果になってしまったか」
 このまま行けば撤退もありえる。長期戦ではこちらが不利だ。かといって、これを打開
する有効な策は……
「艦長、盟主ロード・ジブリールより暗号通信が!」
「なに? スクリーンに映せ!」
 映し出された暗号文を見て、イアンは驚愕を覚えた。
「ダイダロスから、プラントへ向けて核攻撃隊を発進……初戦から核を使うというのか!」
 常識外の作戦と命令であった。イアンの艦隊にはこのまま『囮』として、ザフト軍を主
戦場に釘付けにしろと言うのだ。
「盟主……貴方という人はどこまで――」

「旧連合は、こんな単純且つ簡単なことも出来なかったのだ」
 地球の私邸にて戦況を『観戦』するジブリールは得意気であった。
「何も正攻法の戦いなどする必要はない。核ミサイルを一発撃つだけでいい。それだけの
ことを、躊躇う方がどうかしている」
 使えるものを使わないなど宝の持ち腐れであり、何よりユニウス条約は既に破棄されて
いる。迷う必要などどこにもない。そうジブリールは考えていた。
 本来であればこのような強引な作戦は、ネオ辺りが止めるべきなのであるが、彼は現在
艦隊を率いてザフト軍地上拠点の一つジブラルタル基地攻略へと出撃していたため留守で
あり、この作戦を知る由がなかった。ちなみに、ホアキンも艦隊を率いてザフト軍のカー
ペンタリア基地へと遠征していたが、彼は極端なナチュラル原理主義者であるため、この
作戦には反対しなかったであろう。
「さぁ、砂時計よ、華麗な花火を見せるが良い!」

 その頃ロッシェは、ミーアと共に戦況を見つめていた。
「そろそろ頃合いか……」
 ロッシェがそう呟いたのは、奇しくもイアンの元にジブリールからの暗号通信が届いた
ときと同じだった。
「ロッシェ?」
 呟きと共に立ちあがった彼を不思議そうにミーアは見るが、ロッシェは軽く笑うと、
「ミーア、そろそろ私も出撃するときが来たようだ」
「えぇっ!? ロッシェも戦いに行くの?」
「あぁ、既に議長に許可は貰っている。問題はないさ」
「そういう問題じゃ……」
 ない、と言おうとしてミーアは口をつぐんだ。ロッシェが右の人差し指で、彼女の唇を
塞いだからだ。
「大丈夫だ。私は負けはしない。勝って、またここに戻ってくる」
 その自信に満ちあふれたロッシェの顔に、ミーアは言葉に出来ない安心感を憶えた。
「じゃあ……気をつけてね」
「当然だ」
 ロッシェは、レオスがある格納庫に向かうと、久方ぶりにそのコクピットへ入り、シー
トへと腰掛けた。
「私の読みが正しければ、敵は奇襲を仕掛けてくる……膠着しつつある戦況を大きく動か
すにはそれしかない」
 レオスを起動させ、各部をチェックする。どこにも異常はない、極めて正常だった。ロッ
シェはハッチを開けさせると、広がる宇宙空間と、遠くに映る戦場に眼を細めた。
「ロッシェ・ナトゥーノ、参る!」

極軌道の暗礁宙域を警戒していた長距離強行偵察複座型ジンが、その艦隊を発見したの
はロッシェが出撃する数分前であった。それは、ダイダロスより発進したアガメムノン級
宇宙母艦ネタニヤフを旗艦とした奇襲攻撃艦隊クルセイダーズ、ジブリールの名を受け出
撃した、核攻撃隊であった。
「極軌道哨戒機より入電。敵別働隊にマーク5型……核ミサイルを確認!?」
 その報告に、旗艦ゴンドワナの総司令室は揺れた。
「数は? どれほどの規模だ!」
「不明ですが、かなりの数のミサイルケースを確認したとの報告が……」
「各部隊に通達急げ! それと、この事を最高評議会に、早く!」
 報告されたところで、最高評議会とて反応は同じであった。常識知らずの連中だとは思っ
ていたが、いきなり核攻撃隊を差し向けるとは思っていなかったのである。
「ニュートロンスタンピーダーはどうなっているのだ?」
 デュランダルは部下に確認するが、
「可動は出来ますが、試作機故に成功の確率は……」
「なんでもいい! アレを一発でもプラントに当てるわけにはいかんのだ!」
 この時、デュランダルは自分がロッシェに出撃の許可を与えていたことをすっかり忘れ
ていた。彼がこの時していたは慌てふためく評議会議員たちをなだめることで、
「脱出だと? 脱出しても我々に逃げる場所などない。第一、君たちは市民を見捨てて逃
げるというのか!」
 デュランダルは知らなかったが、この時プラント市民には避難勧告すら出されてすらい
なかった。関係各所が先の事件の責任問題で混乱していたとはいえ、この事が後に、プラ
ント市民の主戦論を高めることとなった。

「核攻撃隊……極軌道からだと!」
 全軍に、極軌道からの敵を迎撃せよという指示が出されたとき、ジュール隊は主戦場の
最前線にいた。
「じゃあ、こいつらは全て囮かよ!?」
 精鋭揃いとされるジュール隊であったが、既にプラントに近づきつつあるという核攻撃
隊の存在を知ったときは流石に焦った。
「おいおい、早くしないと俺達帰る家を無くしちまうぜ!」
 ディアッカはそう言いながら機体を極軌道に向かわせる、イザークもそれに続き、
「なんとしてもプラントを撃たせるわけにはいかない!」
 ちなみにハイネもこの通信を受けていたのだが、彼がザフト軍の司令塔的存在であると
看破したイアンによって五機ものモビルスーツをぶつけられていたために、核攻撃隊の迎
撃にいけなかったのである。そして、高速機であるセイバーが主戦場に釘付けにされたと
いう事実は、一気にプラントを絶体絶命のピンチに陥れた。既に主戦場から向かったので
は、対処できない位置にまで核攻撃隊は迫っていたのだ。
「そぉら行け! 今度こそ、蒼き清浄なる世界の為に!」
 核攻撃隊のウィンダムが核ミサイルを発射しようとする、まさにその時、
 一条の光が、ウィンダムの一機を貫いた。
「な、なんだ!」
 今まさに核ミサイルを発射しようとしていたウィンダムのパイロットは、突然進行方向
から受けた攻撃に、一瞬動きを止めてしまった。さらに数条の、ビームの光りがウィンダ
ム隊を襲った。
「一人やられたからといって棒立ちになるとは……情けない!」
 ロッシェはビームサーベルを抜き放つと、残ったウィンダム隊に襲いかかった。少しで
も早く、核ミサイル搭載機を全滅させる必要があった。
「しかし、いきなり核攻撃とは思い切ったことをする奴もいたものだ」
 核攻撃は、ロッシェのいたA.C.世界では余り馴染みのある行為ではなかった。A.C.世界
では大量破壊兵器よりもモビルスーツやビーム兵器の開発に力を入れており、その結果ミ
サイルなどの実弾装備は廃れていたのだ。
「トーラスカノンか、ドーバーガンでもあれば纏めて薙ぎ払うということも出来るのだが」
 無い物ねだりをしてもしょうがない。ロッシェはビームサーベルを振るい、動きの鈍い
ウィンダムを切り裂くと、今度は艦隊のほうに向かってゆく。
「墜ちろ!」
 C.E世界のとは比べものにならない威力のビームライフルが命中し、戦艦が次々に撃ち
落とされる。
「あ、あの機体はなんだ! ザフトの新型か!?」
 これまで見たこともない形のモビルスーツの出現に、核攻撃隊クルセイダーズ旗艦ネタ
ニヤフには動揺が走っていた。まさにあっという間だった。あっという間に核攻撃の第一
部隊が全滅させられたのだ。
「判りません……しかし、このままでは!」
「げ、迎撃だ! 対空砲火、それと通常装備のモビルスーツ部隊の発進を……!!!」
 指示を出したときには既に遅く、ブリッジのスクリーンにはビームサーベルを構え、突
き立てんとするレオスの姿が映し出されていた。
「こ、こんな馬鹿な――」
 そして、ロッシェは躊躇なくネタニヤフのブリッジを貫いた。

イザークとディアッカは、その光景を呆然と見ていることしかできなかった。手を出す
までもない、レオスは圧倒的な実力を彼らに見せつけていた。
「あんな機体、俺は知らんぞ……」
 クルセイダーズを全滅させ、その爆発の余波でマントをはためかせるレオスの姿には、
華麗という言葉がよく似合った。しかし、イザークはそんなレオスの姿が何とも不快だっ
た。イザークは悪い意味での自信家だった。なまじ実力がある分、自分よりも強いと感じ
る存在が許せないのだ。
「飾りだろうけどマントなんて付けちゃって……様になってるけど、パイロットはよっぽ
どのキザ野郎だぜ、ありゃ」
 ディアッカは呆れたようにレオスを見るが、レオスはすぐさま機体を反転、『主戦場』
とも『プラント』とも別の方向に向けて移動していった。
「あいつ……どこへいくつもりだ?」
「さぁ?」
 イザークは自分の中に沸き立つ不快感が、自分のプライドだけのことではないように思
えた。恐らく自分は、アレに乗るパイロットとはそりが合わないだろうと確信していた。
イザークはそんな会ってもいないロッシェのことを考えながら、苦々しげに主戦場に戻っ
た。少しでも多くの敵を撃墜し、自己の力を見せるために。

ロッシェが核攻撃隊を全滅させた後、主戦場に向かわなかった理由は単純だった。彼は
これ以上の戦闘継続は双方無駄であると思っていたし、ここは敵に潔く撤退して貰おうと
考えたのだ。
「敵の進軍航路から割り出した補給経路計算すると、この辺りのはずだが……」
 艦隊にしろなんにしろ、手っ取り早く撤退に追い込むには補給を立つことが一番だった。
兵士の士気がいくら高かろうと、弾薬がつき、エネルギーがなくなればモビルスーツも戦
艦も戦えない。食料等の問題はもっと深刻だ。
「古来より飢えた軍隊が勝利したことなどないのだ…………あれかっ!」
 アルザッヘル基地より、イアン艦隊に補給物資を届けるため進軍していた補給部隊を発
見したロッシェは、ビームサーベルを構え直し、それを討たんと飛びかかった。

「艦長、我が方の補給部隊が襲われました!」
 オペレーターの悲鳴のような声を聴いたとき、イアンはこの戦闘に勝ちはないことを悟
った。
「全滅したのか?」
 僅かな望みをかけて問うが、オペレーターは呆然としながら首を縦に振った。
「敵と思われるモビルスーツの襲撃をうけ……壊滅したとの報告が」
「……そうか」
 核攻撃隊が失敗した時点で、こちらの士気はかなり落ちたと思う。変わって向こうの士
気は、「核を討たれた」という事実に憤慨し、軒並み上がっているのだ。
「これ以上は消耗戦だ……撤退するしかあるまい」
 消耗戦をするにしても補給部隊を叩かれた以上、こちらが負けるのは目に見えていた。
元々手持ちの物資も多いわけではない、この辺りが引き際だろう。そして、恐らくは敵の
指揮官もそれに気付いているはずだ……
 イアンはこう考えたが、実際ザフトでこの事に気付いていたのは指揮官ではなかった。

「敵が優秀か、最低でも有能ならそろそろ退くだろうな……」
 ハイネは既に終局に近い戦況を見つめ、呟いていた。自分に向かってきた五機のモビル
スーツを撃破したハイネは、各部隊、果ては戦艦の艦長からも指示を求められる、実質的
な指揮官になっていた。
「核攻撃隊をやった奴と、補給部隊をやった奴は恐らく同じ……議長の切り札か? ハッ、
あの人も面と声人気だけの政治家じゃないってことか」
 どんな奴だろう、とハイネは思った。少なくとも悪い奴ではないはずだ。ウマが合うか
どうかはともかく、一度会って、酒でも飲み交わしたいものだ。
「おっ……」
 ファントムペイン艦隊から、撤退を合図する信号弾が出された。そして、すぐにハイネ
の元に通信が入った。
『敵は撤退するようだが、我々はどうする?』
「それに合わせて退きましょう。士気が高まっているとはいえ、序盤に受けた傷が酷い。
追撃戦なんてもってのほかです」
 言いながら、ハイネは自分が通信している先を見て、苦笑し、呆れていた。宇宙空母ゴ
ンドワナ、いつから自分は旗艦の総司令部に意見が出来る幕僚になった? ハイネは通信
を終えると、荒々しくヘルメットを脱いだ。
「軍人の役目はここまでだ……投げられた手袋をどうするのか、お手並み拝見と行きまし
ょうか? デュランダル議長」

 ファントムペインの作戦名から、後に『フォックス・ノット・ノベンバー』と称される
こととなる、このL5宙域での会戦は、ファントムペインの撤退という形で幕を下りた。双
方それなりに被害を負っていたが、核攻撃隊と補給部隊を全滅されたことを除けば、ファ
ントムペイン側の損害率は、ザフト側のそれを下回っていたという。
 無論、そもそもの絶対数の差もあるが、ザフトが痛手を受けたのも事実であった。デュ
ランダルは早急に軍の再編成を急がせると共に、現在地球にてファントムペインの遠征艦
隊に包囲されているジブラルタル、カーペンタリア両基地への援軍派遣も決定した。
 そして、そんな慌ただしいプラントに友好国であるオーブから一人の使者がやってきた。
国の意思とは異なる想いをその胸の奥に秘めた男の名は、アレックス・ディノと言った。