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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第10話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:03:48

軍需産業複合体ロゴスは、各国の政府と密接に癒着し、軍部に強い発言力を持つ組織で
ある。ブルコースモスの盟主ロード・ジブリールを筆頭に、ルクス・コーラー、
ブルーノ・アズラエル、エルウィン・リッター、ラリー・マクウィリアムズ、
セレスティン・グロード、アダム・ヴァミリア、グラハム・ネレイス、ダンカン・L・モッケルバーグの9人の
幹部が頂点に立ち、ブルーコスモスとファントムペインの母体となり、世界各国を間接的
に支配している。
「ジブリール、我々が君に地位と権力を与えているのは、君の力をある程度評価している
からだ」
 その日、ブルーコスモスの盟主ロード・ジブリールは、彼が所属する組織ロゴスのメン
バーたちとモニター越しの会議を行っていた。議題は勿論、先のL5宙域での敗退について
である。
「無論この世に完璧な人間などいない。しかし、組織のトップに立つと言うことは、失敗
の許されない完璧さを求められているのだよ?」
「クーデターまでの手際の良さは認めよう。だが、その先はどうだ? プラントは未だ健
在で、逆に地球の各国は混乱している」
 ジブリールの手腕で大西洋連邦内部の掌握に成功はした。が、しかし、それ以外の各国
はクーデター騒ぎにおける混乱に晒されていた。国の指導者も、ザフトを利用したファン
トムペインの策略で失っている。
「世論の批判を無視して核攻撃隊まで使ってこの体たらく……君のシナリオはいつから喜
劇に変わった?」
「コーディネイターどもが恐ろしい新兵器でも持ち出してきたというのならともかく、連
中の宣伝を聞く限りではたった一機のモビルスーツに防がれたそうじゃないか」
「どう責任を取るんだね? 強引に開戦して、得られた物は何もない」
 ロゴスのメンバーがたたみ掛けるように発言をしてゆくが、ジブリールはジッと目を閉
じ黙って聞いている。
「ジブリール、黙ってないで何か言ったらどうかね? 次は奴らが攻めてくる、地球が戦
場になるのだぞ?」
 ジブリールは、目を開け、鋭い眼光をロゴスのメーンバーに向けた。
「それが何だというのです?」
 眼光如きに気圧されるロゴスのメンバーたちではなかったが、彼の声に幾分かの余裕が
あるのを感じ、一時的に押し黙った。
「敵が我々ファントムペインの核攻撃隊を全滅させた、なるほど、それは確かに事実です。
しかも敵は一機、一機ですよ? コーディネイターという化け物は、たった一機でこちら
の部隊を全滅させた。フ、皆様方が驚異に感じるのも無理はない」
 ジブリールは、巧みな話術で先の敗退をコーディネイターの驚異にすり替えてゆく。そ
してあたかも、彼らがコーディネイターの力を恐れ、開戦に踏み切ったジブリールを非難
しているようにする。
「別に奴らの力を恐れているわけではない。我らはこれからファントムペインがどのよう
な行動を取るのかと……」
 案の定、自分たちの心を見透かされたように感じ、彼らの勢いは止まる。

「もちろん、戦うのですよ。地上が戦場になる? ザフトはこの地上にいくつも基地を持
っているのですよ? ここが戦場になるなんて当たり前のことを」
「むぅ……それは、その通りだが」
「徹底的に戦って、ザフトを、コーディネイターどもをこの地上から排除してしまいまし
ょう。そして、しかる後に再び宇宙に浮かぶ砂時計に攻めるのです」
「しかし、時間が掛かりそうだな」
 ザフトとて、宇宙からの援軍を送ってくるだろう。陣容も、兵力も、補給も、前大戦並、
いや、それ以上と言うこともあり得る。その物量と、高まる士気が衰えるまで、どれほど
の時間が掛かるのか……
「結構じゃないですか。長引けば長引くだけ、あなた方の懐は潤う」
 ジブリールの核心を突いた一言に、今度こそロゴスのメンバーたちは完全に押し黙った。
彼らロゴスがファントムペインの母体として支援するのは、詰まるところそれである。戦
争利益か、戦争利潤か、彼らが戦争をする目的など、所詮はその程度だ。
「まあ、私としてはそんなに長期戦をやるつもりはありませんがね。年内に終わるとは言
いませんが……そうですね、数ヶ月で終わらせて見せますよ」
 
 会議を終えたジブリールは部下を呼ぶと、ジブラルタル及びカーペンタリアに派遣して
いる遠征艦隊への通信を命じた。
「構うことはない、ジブラルタル、カーペンタリアにいる艦隊に攻撃を開始させろ。敵の
援軍が送られてくる前に両基地を叩くのだ」
 そうすればザフトはこの地上での拠点を失うことになる。拠点も為しに戦える軍隊など
存在しない、前大戦のように敵を宇宙に追い出せばいいのだ。
「まだ戦いは始まったばかりだ。そんな早く終わっては、面白味もないさ」
 ジブリールは笑うと、年代物のワインに口を付けた。

            第10話「志を継ぐもの 後編」

 アスラン・ザラ……プラント最高評議会前議長パトリック・ザラの息子にして、ザフト
のトップエリート、ザフトレッドの英雄。
 輝かしい栄光と、名声、全てを手にするはずだったという、虚像。
 ナチュラルを滅ぼすため、殲滅戦に入った父と決別し、ザフトを裏切った裏切り者。
 そんな自分に、一体何が出来るのかと言う疑問。
「それでも、彼は俺を、アスラン・ザラを求めた」
 なら、その気持ちにどう答えるか、どのような答えを出すのか、彼はもう決めていた。
後は、決意と決断だけだ。
「カガリ……俺は」
 遠い国で、政務に追われているであろう少女の名を呟きながらアスランは思う。自分は
所詮、こういう生き方しかできないんだ、と。

 トントンッ

「来客、か?」
 アスランがこのホテルに泊まっていることを知っているのはデュランダル議長と、昨日
会ったミーア・キャンベルぐらいだ。議長はもちろん、彼女が来たとも思えないが……
 アスランは不審に思いながら、ドアの覗き穴から外を見て、
 慌てて扉を開けた。
「イザーク、それにディアッカじゃないか!」
 イザーク・ジュール、そしてディアッカ・エルスマン、前大戦で共に戦った仲間が目の
前にいる。

「わざわざ尋ねてきてくれるなんて、よくここが……っておい!」
 いきなり、イザークはアスランの胸ぐらを掴み挙げた。
「アスラン、俺達がわざわざお前に会いに、ここに来たと思っているのか?」
「な、なに? ち、違うのか?」
「俺達はなぁ、今無茶苦茶忙しい! それなのに最高評議会の呼び出しくらって、何事か
と思えば貴様の護衛だと? 俺達を何だと思ってる!」
「ご、護衛?」
 そういえば外出を希望する際に護衛を付けるとは言われたが……
「イザークよせよ、今は他国の使者さんだぜ? 胸ぐら掴むなんて、国際問題だ」
 ディアッカが半ば強引に二人を引き離す。
「外出、希望してんだって?」
「あ、あぁ……」
「どこだ? ショッピングとか抜かしたら俺は帰るぞ!」
「そんなんじゃないさ……」
 アスランは、テーブルの上にあったサングラスを取り、それをかけながら答える。
「ただ、ニコルたちの墓にな」
 二人が、少しだけ息を呑んだ。
「こんな時でもないと、行けない場所だから……」

 アプリリウス郊外の共同墓地、ここに先の大戦で死んでいった人々は眠っている。もっ
とも、その大半は墓石だけで中身はない。
「ラスティ、ミゲル、そしてニコル……」
 三人の友が、前大戦で散っていった。
「この墓が、後いくつ増えるんだろうな?」
「何?」
「戦争になれば、この墓はまだまだ増える。遺骨も、遺髪も、何もない墓が」
 沈黙が辺りを包んだ。アスランの言うことは正しい。しかし、イザークとディアッカは
軍人だ。軍人が、それに同意することは出来ない。
「アスラン……議長から聞いたぞ、復隊を求められてるそうだな」
「ん? ……あぁ、昨日言われたよ」
 薄々と感づいてはいた。何故この二人が、わざわざ前線から呼び戻され自分の護衛役に
回されたのか。デュランダル議長というのは、なかなかに計算高い。
「アスラン、お前は今どこにいる?」
「えっ?」
「俺達は前線にいる。俺達だけじゃない、多くのザフト兵がプラントのために戦って、ま
た犠牲が出た」
「この墓を見て、これがまた増えることに嘆くのならば……戻ってこい、アスラン」
 イザークは、強いまなざしでアスランを見た。
「色々あるだろうが、そんなものは俺が何とかしてやる。周りの目など気にせず、戦場で
功績を立てれば良いだけの話だ」
 実際、イザークやディアッカはそうして今の場所にいた。大戦後の彼らを見る目は決し
ていいものばかりではなかった。しかしそれを上回る功績や戦果を挙げれば、人の見る目
などすぐに変わる。

「それほどの力……ただ、無駄にする気か?」
 アスランは、イザークがその実力を認める数少ない男だ。そんな男が、他国の中立国で、
ただこの戦争を見ているだけというのは、イザークには耐え難かった。
「プラントは昨日、積極的自衛権の行使を決定した。表向きは地球で現在包囲されている
ジブラルタルとカーペンタリアへの救援だが、すぐに戦渦は広がる」
「戦うしかないんだよ、俺達は。奴らが、戦いを止めない限りさ」
 だが、相手は戦いを止めるような奴らじゃない。ファントムペインを操るブルーコスモ
スは、コーディネイター排除を掲げる組織だ。核を兵器で撃ってくるような連中を、それ
こそ全滅でもさせない限り戦いは――
「……イザーク、ディアッカ」
 アスランは、一晩かけて出した答えを、この二人に言う決心を固めた。
「今から俺の考えを話す……もし、それが納得の出来ないと思うなら、俺を殴れ。いや、
場合によってはここで殺せ」
「殺せって、アスランお前!?」
 ディアッカが驚き、アスランに掴み寄ろうとするが、イザークがそれを制止、
「聞かせろ、お前の考えとやらを」
 真剣なアスランの表情に何かを見出したのか、イザークは不敵な笑みを浮かべた。
 そしてアスランは語り出す。彼の決意と決断を……

「しょ、正気かよ、お前!?」
 アスランの考えを聞き終わったとき、ディアッカは思わず叫んでしまった。
「一時的にザフトに戻ったと見せかけて、また裏切るだって? お前、何考えてやがん
だ!」
 今度こそディアッカは、アスランの胸ぐらを掴み、その身体を揺さぶった。対照的に、
イザークは考え込むように黙っている。
「ナチュラルを倒し、プラントに真の平和をもたらすにはそれしかない」
「それじゃあ、前大戦のお前の親父さんと何も」
「言っただろう、俺は父の志を継ぐ……父の志を胸に戦う戦士たちがいるのに、息子で
ある俺が黙ってみているなんてこと、俺には出来ない」
 前大戦が終わっても、世界は何も変わらなかった。隙あらばコーディネイターを排除
しようとする地球側と、それを何とか凌ごうとするプラント。アスランは一年と少し中
立国で客観的に世界を見てきたつもりだが、世界は何一つ変わらなかった。
「俺の父が起こした戦争で、その父がもう居ないのなら、それを終わらせるのは俺の役
目だ。だから、俺は彼らに協力する」
「ほ、本気か……」
「冗談で言える事じゃない。少なくとも、覚悟は決めている」
 アスランはイザークを見る。先ほどから黙ったままのイザークだったが、目を見開き、
アスランとディアッカに歩み寄ってきた。
「アスラン、勝算はあるのか?」
「イザーク!?」
 アスランに怒鳴り散らすわけでもなく、冷静にそう問いただすイザークに、ディアッ
カは驚きの声を上げる。
「勝算なんて、なくても良いんだ。打算で行動する気はない、パトリック・ザラの息子
として、志を貫きたいだけだ」
「生き恥をさらしてでも貫くのが男の志か……」
「お前ら二人にだけは話しておきたかった。イザーク、俺を殺すか?」
 イザークは懐にある拳銃を取り出す。弾は勿論入っている。セーフティを解除すれば、
目の前の裏切り者を殺すことが出来る……しかし、

「俺の母上は今、マティウスの病院、ベッドの上にいる」
「えっ?」
「前大戦終結後、母上は魂が抜け落ちたように、生きるということを辞めてしまわれた。
喋ることも、動くこともせず、病院のベッドで日々天井を見る毎日……」
 イザークの母親であるエザリア・ジュールは、アスランの父、パトリック・ザラとと
もに急進派の先方であった。最終決戦ではザフト軍を果敢に指揮していたが、クライン
派の銀たちが起こしたクーデターの際に失脚し、表舞台から姿を消した。
「今の母上は、生きる気力を無くした廃人だ。しかし、俺はそんな母上に元気になって
貰いたいと、最高評議会の平議員として頑張ったり、ザフト軍に復隊した後は白服にま
で上り詰めた……だが」
 最高評議会議員になったと報告をしたときも、白服に出世したと伝えに行ったときも、
エザリアは、イザークのことを見ることも、話すこともなかった。
「母上は未だに、前大戦に、決着の付かなかったあの戦争に魂を囚われている。貴様の
父上が死して魂が解放されたのとは違いな」
 彼の目もまた、決意に満ちていた。アスランと同じく、男が決断をした目だ。
「親の起こした戦争に決着を付け、終わらせるというのなら、それは俺も同じ事だ。お
前だけの問題じゃない」
「イ、イザーク……」
 彼の考えていることがわかってきたディアッカは、彼を止めるべきかどうか迷った。
しかし、ディアッカの両親は健在であり、彼自身は前大戦で友人や上官以外失った物が
何もなかった。そんな自分では口が挟めるはずがない。
「アスラン、貴様の考えに俺も乗ってやる」
「……いいのか?」
「お前だけに責任を押しつけていられるほど、俺は器量が小さくないつもりだ」
 イザークはそう言って、アスランに手を出しだした。アスランはその手を固く握り、
そして、ディアッカもその手を重ねてた。

「ディアッカ?」
「二人より三人、だろ?」
「でもお前にはそうするだけの理由が……」
 ディアッカの父親、タッド・エルスマンは現役こそ引退しているが元は中立派の最高評
議会議員だ。つまり、ここでディアッカがアスランとイザークに同調すれば、彼は親を裏
切ることになる。
「親も大事だが……俺は親友二人を黙って見送ることは出来ないんだよ」
 重ねた手に、力が入る。
 アスランは二人の友情に、決意に、涙腺がゆるんだ。
「お話しは、終わりましたかな?」
 声は、突如響いた。
「!?」
 イザークが、声のする方向に拳銃を向けた。そこには、一人の男が、アスランのよく知
る男が立っていた。
「サトー……付けていたいのか」
「じゃあ、こいつがユニウス・セブンの!」
 サトーは一礼すると、三人に歩み寄ってきた。
「お返事を訊きに来ました、アスラン・ザラ」
 その鋭い眼差しに、アスランも同じく鋭い眼差しで返した。
「返事か……返事は……」
 アスランは空を見上げる。プラントの空は、未だ日が高く、青空が広がっていた。
「イエスだ。俺はお前たちの指導者になり、ナチュラルと戦う」
「それはありがたい……」
「しかし、いくつかの条件がある」
「条件?」
 アスランは、ただ指導者として立つ気はなかった。やるからには、世界を平和にしたい
のならば、徹底的にやる。
「一つめは、俺の他に、ここにいるイザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマンの参入
も認めること」
「それは構いません。味方が増えるのは我々に取っても嬉しいことだ」
「二つめは、この先の行動、軍事的、政治的問わず、全ての行動を俺に一任し、勝手な行
動を起こさないということ」
 さすがにその条件にはサトーは顔をしかめたが、アスランの能力の高さは知っているし、
反対する理由はない。
「いいでしょう、他にも何か?」
「三つめは……」
 アスランはその時、自分が居る場所が墓地だということを、今更ながら再確認した。
「場所を変えよう。死者が眠る場所で、血生臭い話はするもんじゃない」
 後一つ、行きたかった墓があるが……それはまた次の機会にも来れる。
「わかりました。ならば我々の本拠地にご案内しましょう」
「本拠地?」
「えぇ、我々の力と自信を、あなた方にご覧に入れよう」

アプリリウスからアスランが出る際の名目はイザークが勝手に纏めた。先日の戦闘の被
害状況を知るべく査察をしたい、というのが表向き。さらに偽の裏情報として『ザフト
に復隊した際、すぐに動けるように現状を知っておきたいと言っている』との報告を議
長に流し、信用させた。
 しかし、アスランたちを乗せた小型シャトルが向かうのは先日の主戦場でも、ザフト
の施設でもない。
「ザフトの哨戒宙域から大きく外れて、随分と来たが……」
「こんな場所に何があるというのだ?」
 一時間ほどシャトルを飛ばしているが、何もない宇宙がそこに広がっている。
「しかし、こんな何もない場所に隠れていたとすれば、そりゃ見つからないわけだ」
 先日の戦闘前まで、テロリストの捜査をしていた身としては、何とも言えない気分の
ディアッカだった。
「ん? あれは……!」
「どうした、アス――!?」
 シャトルの進行方向に、巨大な、巨大すぎる岩塊があった。ちょっとした衛星ほどの
大きさがあるそれは、アスランたちが今までに見たことのない物だった。
「ようこそ、我らの城、ウルカヌスに」
 不敵に笑うサトーの声を聴きながら、アスランたちは呆然としていた。だが、その驚
きもすぐに吹っ飛ぶことになる。彼らは、さらに凄い物を、このウルカヌスで見るのだ
から。

「ねぇ、ロッシェ、アスランは今日のコンサートにくるかしら?」
 夜にザフト兵士向けのコンサートを控えたミーアは、リハーサル等の準備をこなしなが
ら、楽屋でロッシェと話していた。
「チケットは渡したんだろう? 興味があって、議長の許可が下りたなら来るだろうさ」
「う~ん、議長にそのこと伝えたらね、アスラン今アプリリウスにいないんだって」
「いない?」
 ロッシェは楽屋の花瓶に挿してある薔薇を一輪取りながら、問い返す。
「そっ、宇宙でこの前の戦場を見てるとか、ザフトの関連施設を見てるとか」
「しかし、奴は他国に亡命してるんだろう? 国の機密を見せて良いのか?」
「何かザフトに復隊するんだって。議長、そう言ってた」
 復隊……? ロッシェには、それが何とも虫のいい話に聞こえた。アスランが戦後に亡
命した理由はミーアか教えて貰った。この世界であったという大戦を止めるためにザフト
を裏切り、その罪から追放されたという。戦争を止めるという行為を否定するつもりはな
いが、裏切り者であることには変わりない、それをチャラにして復隊させるというのか?
「あっちいったり、こっちいったり、戻ってきたり……あたし、優柔不断な男は好きじゃ
ないんだけどな~」
「アスランが優柔不断じゃなければ?」
「う~ん、顔は良いけど……あたし、コーディは中身だと思う。顔なんていくらでも作れ
るし」
 ある種、自分への皮肉を込めながらミーアは言う。
「裏切り者、か」
 ロッシェは自身の経験からか、裏切りという行為が好きではなかった。元々、騎士道精
神を重んじていたこともあるが、彼にとって裏切り行為とは死よりも重いことだ。
 アスラン・ザラの裏切りの理由はともかく、亡命した国を捨てて戻って来るという行為
に、ロッシェが反発を覚えていた。その国に、彼の帰りを待つ人はいないのだろうか? 
自分勝手に物事を決めて、周りのことを忘れていなければいいのだが……
「フッ、私が気にする事じゃないか」
「ロッシェ?」
 そんなロッシェを不思議そうに見るミーア。ロッシェは手に持つ薔薇の一輪を、宙に投
げる。赤い薔薇は寸分の狂いもなく、花瓶へと挿さった。

 その頃、優柔不断男と評されたアスラン・ザラは、イザーク・ジュール、ディアッカ・
エルスマンとともに、テロリストたちの本拠地、ウルカヌスに入っていた。
「こんな衛星、一体誰が?」
 岩塊をくり抜いて衛星を作ること自体はザフトでもやっている。だが、しかし、このウ
ルカヌスという衛星はザフトのそれとは明らかに違った。
「残念ながら、これを作ったのが誰かはわかりません」
「わからない?」
「信じて貰えるかどうか、これはある日突然我々の前に姿を現した。ワープでもしてきた、
というべきでしょうか?」
 サトーの話すところによると、ユニウス・セブンでのテロを計画していた彼らの前に、
このウルカヌスは突然現れたという。それまで玉砕覚悟でテロ行為に当たっていた彼らだ
ったが、このウルカヌスを調べたことで全てが変わった。
「我々は、これを天からの贈りものだなどとは思っていません。しかし、有効活用しない
手はないとも思いました」
 サトーは、アスランたちをウルカヌスの機関部と思わしき場所に連れて行った。そこで
は数人の技術者や整備と思われる男たちがせわしなく動き回っていた。
「彼らは我々の協力者です。我々と同じく、ナチュラルに強い恨みを持っている」
「ここは?」
 アスランは、技術者のことよりもこの機関部のほうが気になった。事故でもあったのか、
内部はかなり荒れていたが、それは見たこともないような機関だった。
「これはこの衛星の動力、核融合炉です」
「か、核融合だと!?」
 イザークが驚き、身を乗り出した。核融合炉は、未だこのC.E世界では実現できていない、
それこそSF世界の動力源だ。
「今は壊れており動作しませんが……技術者たちは直せると言ってます」
「馬鹿な……核融合など、そんな」
 声こそ上げなかったが、アスランとディアッカも気持ちは同じだった。核融合、宇宙がひ
っくり返ってもおかしくない機関が、目の前にある。
「これ直ったら、この衛星、ウルカヌスか? それが動くわけ?」
 ディアッカの問いに、サトーは頷き、
「えぇ、動きます。今のところは、ユニウス・セブンに用意していたフレアモーターを応用
して衛星を移動させています」
「フレアモーター……そうか、それを使ったのか」
 これだけの質量の衛星をどう移動させたのかと思っていたアスランだったが、その言葉に
納得した。
「さて、そろそろ移動しましょう。見せたい物は、我々の力はこれだけじゃない」
 そしてアスランたちは見ることになる。開けてはならない、禁断の扉の中を。

 サトーが次にアスランたちを案内したのは、ウルカヌスの格納庫とも言うべき場所、そ
して、そこにあるモビルスーツの大軍だった。
「これは……」
 黄土色をしたボディと、巨大な肩。特異的なその姿は、この世界のどのモビルスーツに
も似ていない。頭部など、かなり特徴的に見えるがこの世界の基準で考えれば、特異的と
いってもいい。
「全部で314機あります」
「そんなに?」
 ザフト軍ほどではないが、なるほど確かに凄い数だ。
「材質は未知のものですが、その硬度は従来のモビルスーツとは比べものにならない硬さ
です。実弾は元より、ちょっとやそっとのビーム兵器すら弾きました」
「なっ、そんなことが!」
「それでいて重量は我々のモビルスーツと比べ十分の一程度……笑いましたよ。技術者の
報告を受けたときは」
 試しにサトーも自身のザクで斬りかかったり、実弾やビームでの攻撃を試したのだが…

「無傷でした。我々の兵器など、全く通用しなかった」
「…………」
 アスランたちは声も出なかった。本当にサトーの言うとおりなら、このモビルスーツは
間違いなく最強だ。
「しかも、これはモビルスーツですらなかった」
「なに? どういう意味だ?」
 サトーは目の前に広がる大軍を見ながら、自信に満ちた表情を浮かべている。
「無人機です。戦闘データを入力すれば、ひとりでに動いてくれる優れものですよ」
「無人機……」
 アスランはその無人機を見つめた。人を必要としない戦闘兵器、確かにこれなら……
「可動には至っていませんが、近いうちには必ずと、技術者たちは息巻いています……ど
うです? これが我々の力です。人員こそ不足していますが、我々には戦う力が、このビ
ルゴがある」
「ビルゴ?」
「このモビルスーツ、いえ、モビルドールの名前です。乙女座という意味らしいですが」
「モビルドール……人形のビルゴ、か」
 美しい名前だ、とても驚異的な力を持つ戦闘兵器の名前だとは思えない。

「なぁ、あっちのは? こいつらと形が違うけど?」
 ディアッカが目ざとく見つけたそれは、格納庫の隅にあった。ビルゴとはまた形の違う
三機が、そこに佇んでいる。
「あれはモビルスーツ、有人機です。もっとも、素材も性能もビルゴ並ですが」
 サトーがそれに向かって歩き出したのを見て、三人も続く。
 その機体は、ビルゴとは色も形も異なる物だった。
 一機目は、白いカラーリングの機体で、背中にいくつもの円盤を付けている。
 二機目は、黒いカラーリングの機体で、両肩が巨大な円盤化しており、同じく巨大な砲
身と思われるものが二つもある。
 三機目は、前の二機と比べると簡素ではあったが、黒いカラーリングに、兜のような頭
部、右手には長い砲身の大砲を装備していた。
「この白い機体と、二つの砲身を持つ黒い機体は、メリクリウス・シュイヴァンとヴァイ
エイト・シュイヴァン、共に古代神話の神の名です」
「神……だと」
 イザークは、目の前に佇むメリクリウスを見る。白い機体は、ビルゴよりも力強そうで、
強そうである。
「そして、最後に……この黒い機体ですが、これはリーオーと言います。今、私が操縦テ
ストをしている機体です」
 それがかつて、異世界にその名を轟かせた、暗黒の破壊将軍という異名を持つ男の機体
であることを、サトーは知らない。
「動かせるのか?」
「自由自在とは言いませんが、後は慣れです。こちらの二機も動かそうと思えば、動かせ
ますよ。調べたところ、メリクリウスが防御と接近戦、ヴァイエイトが砲戦をメインに設
計された機体のようです」
 機体説明に、イザークとディアッカが僅かに反応した。
 アスランはさらに奥、三機の後ろに巨大なコンテナがあるのを発見した。大きさからい
って、モビルスーツが一つ入る程度のものだ。

「あれは?」
「見ての通りコンテナです。何が入っているのか、我々では開けることが出来ないのです」
「ブラックボックス、というやつか」
 アスランはもう一度格納庫を見渡した。三百機以上の無人機と、三機の有人機。確かに
凄まじい、驚異ともいうべき力が、ここにはあった。
「あぁ、言い忘れてましたが、全ての機体が核融合で動いてます」
「モビルスーツサイズの核融合炉が、あるのか?」
 なんだか今日は驚きっぱなしだと感じつつも、アスランは言った。
「えぇ、それを参考にこのウルカヌスの核融合炉も直しているのですが……まだまだ時間
が掛かりそうです」
 暫く四人は、無言で格納庫を、ビルゴたちを見つめた。
 頃合いを見計らって、サトーはアスランに尋ねた。
「さて、こちらのカードはほとんど見せましたが、三つめの条件とは?」
 イザークとディアッカを同士と認め、主権を全てアスランに委譲する、これが今まで提
示された条件。アスランは後一つ、認めさせなければならない条件があった。
「一つ聞くが、このモビルドールたちを動かすまでに掛かる時間はどれぐらいだ?」
 すぐにでも動かせるのなら、あるいは三つめは必要ないかも知れないとも思うが……
「残念ながら一ヵ月以上は掛かるかと」
 一ヵ月以上、そんなに時間があるのであれば……
「三つめの条件、俺はザフトに復隊する」
「はっ? 復隊ですと?」
「そうだ、ザフトに復隊し、しばらくはザフト軍人として行動する」
「理解に苦しみますな……何故、我々の指導者として立つお方が、ザフトに復隊を?」
 それは……と、アスランは一瞬顔を伏せ、すぐに上げた。サトーは息を呑んだ。彼の、
アスラン・ザラの顔に、強烈な決意と、悪意を感じたからだ。
「現プラント政権を打破し、ザフトを乗っ取るためだ」

 この後、アプリリウスへと帰還したアスランは、残っていた用事を片付け、ザフトへ
の復隊を志願した。デュランダル議長は自信の説得と工作が成功したと思い、喜んでこ
れを迎えた。アレックス・ディノという偽りの存在は消滅し、英雄アスラン・ザラがこ
こに復活した。
 しかし、オーブを捨て、今またプラントを騙そうとする男が、果たして本当に英雄と
呼べるのであろうか? 後世がアスラン・ザラをどう評価するのか? それがこの戦い
の結果の先にあるのかは、まだ誰にもわからない。