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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第12話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:04:25

 降下作戦開始前、プラントでは作戦に参加するザフト兵を集めた『出撃式』なるものが
行われていた。
「諸君らの任務は、敵の攻撃を受け、必死で基地を守る同胞たちを救い出すことにある。
ことは迅速を要する為、心して掛かって欲しい!」
 壇上で演説するのは最高評議会議長のデュランダルであるが、迅速を要するのならさっ
さと出撃すればいいものをと、会場にいるハイネは思った。形式や建前というのは確かに
必要だが、
「時に馬鹿馬鹿しく感じるな」
 ハイネの呟きに、周囲に座っている者たちが反応を見せた。会場での私語は厳禁とされ
ているからだが、誰も注意はしなかった。発言の意図はともかく、彼らもこの式典が馬鹿
馬鹿しいものであると感じていたからだ。
「新進気鋭の新兵たちの中には、地球に降下するのは初めてだという者も多いだろう。し
かし、案ずることはない! 今日は君たちに、心強い味方を紹介しよう!」
 デュランダルの声とともに、舞台の隅から壇上に現れた男に、私語は厳禁の会場はざわ
めきに包まれた。デュランダル自身、その反応は予想済みだった。そもそも今回の式典は、
この男を紹介するために仕組んだのだ。
「彼を知っている者は、この会場にも多いと思う。そう、彼こそ前大戦終了の立役者にし
て、前々最高評議会議長パトリック・ザラの息子……ザフトの英雄アスラン・ザラだ!」
 デュランダルは『英雄』という部分を強調した。
「彼は戦後、ザフトを裏切った罪のためプラントを追放された。しかし、この度のプラン
トの危機を前に、再びザフトに戻り、プラントのために戦いたいと申し出たのだ」
 ざわめきはさらに増していた。戦後、アスラン・ザラがどういった処分を受けたかは一
般兵には知らされていなかったのだ。
 ある程度それを予想していたハイネは、複雑な表情で壇上のアスランを見ていた。
「彼に思うところある者も多いだろう。確かに彼はかつてザフトを裏切った、諸君らから
すれば裏切り者だ。しかし、考えてみて欲しい。もし彼がザフトを裏切らなかったら、前
回の戦争は終わっていたのだろうか? 私は、彼がラクスに軍事的な協力をしたからこそ、
前回の戦争はあんなにも早く終わることが出来たと思っている。出なければ、今頃は地球
側の核ミサイルと、こちらのジェネシスの応酬で、この宇宙は言いようのない惨状と化し
ていただろう」
 結果論だとハイネは思った。デュランダル議長は戦争が終わり、平和が来たという結果
を持ってアスランの行いを正当化しようとしている。それがどれほど愚かしい行為か、議
長とアスラン・ザラは判っているのだろうか?
「平和を願い、プラントを守りたい意思は我らと同じだ! そして彼は、今またザフトの
同胞を救うために、降下作戦へ参加しようとしている……アスラン、みんなに挨拶を」
 デュランダルの言葉に、アスランが壇上の中央に立った。
「皆さん、議長からご紹介に預かりましたとおり、私は元ザフト軍特務隊所属、アスラン

ザラです。生き恥さらし、戻って参りました」
 アスランはホールにいる兵士たちに頭を下げた。
「前回の大戦で、私はザフトを裏切りました……これは動かしようのない事実であり、そ
のことで皆さんが私を快く思わないのは当然です。あの時の私は、泥沼化する戦争を止め
るにはどうしたらいいのかと、必死でした」
 そう、アスランは必死だった。戦争を終わらせる、そんな大義名分を旗印にラクスやキ
ラとともに戦い、地球ともプラントとも敵対した。しかし、その結果がこれだ。世界は一
時的な平和こそ得られたが、何一つ変わりはしなかった。
「今こうして再び撃たれた核、私はそれを許すことが出来ない。だから、私はザフトへの
復隊を決意しました。プラントのために、ザフトのアスラン・ザラとして、戦いたいので
す。皆さん、よろしくお願いします!」
 アスランの挨拶という名の演説が終わり、会場からまばらの拍手が叩かれる。無論、こ
れは議長が仕込ませたサクラによる物だったが、他の兵士たちも、釣られて拍手をしてし
まう。集団心理とは、そんなものだ。
「とんだ茶番だな……こりゃ」
 ハイネは総立ちで拍手を送る兵士たちを後目に、会場から出ようとしていた。馬鹿馬鹿
しさここに極まると感じたからだ。
「議長は、アスランという駒を手に入れたようだが……果たしてどれだけの活躍をしてく
れるのやら」
 しかし、とハイネは考える。あのアスラン・ザラが、ただプラントが危険だからという
理由で復隊をするのだろうか? 何か別の思惑があるのではないか?
「面白いことになりそうだ」
 それが、後々自分も巻き込まれる衝撃の事態へ発展していく未来を、ハイネはまだ知る
由もなかった。

       第12話「作戦名 スピア・オブ・トワイライト」

 ファントムペイン遠征艦隊による攻撃を受けた、ザフト軍ジブラルタル及びカーペンタ
リア両基地は、異なる抵抗の仕方をしていた。カーペンタリアの基地司令官は、降下部隊
がくるのを待って、一気に敵を叩くことを念頭に置き、基地周辺の防御を固める籠城作を
取っていた。故に、突然開始された攻撃に対して、積極的な反撃が出来ず、迎撃に専念す
ることとなった。
 しかし、一方ジブラルタル基地の司令官は、敵が積極的に攻撃を仕掛けてくることを考
慮し、降下部隊がくるのを待たずに基地の艦隊を出撃、カラブランカ沖に布陣させた。そ
こは、ザフトと連合軍が二度対峙した因縁の場所であるとともに、主戦場にするにはここ
しかないと判断したためである。
「敵の基地指令はやる気満々だな……ま、その方がこっちの都合は良いんだが」
 数十隻に上るボズゴルフ級潜水艦を前に、ネオは苦笑した。過去の戦いと同じく、水中
での戦闘がメインとなるだろう。確かにこちらの空中部隊を導入すれば、こちらが圧倒的
に有利だ。だが、いつ降下部隊が降りてくるかも判らない現状では、艦隊を守ることも考
えなくてはならない。
「というわけで、戦いは水中部隊に掛かってると言っても良い。よろしく頼むぞ、アウル」
「任せとけって。ザフトなんてすぐに片付けてやるよ」
 アウルの物言いは、若さ故の大言を吐いてると思えるが、そうではない。ファントムペ
インには勝算と、旧連合時代の実績がある。かつて、第二次カサブランカ沖海戦において、
フォビドゥン・ブルー及び量産機のディープ・フォビドゥンを大量投入した連合軍は、ザ
フトの水中型モビルスーツ、グーンとゾノを圧倒し、結果ザフトはジブラルタル基地を放
棄した。今回も同じようにすればいい、そう考えていたのだ。
「さて、それでは始めようか」
 だがしかし、昨日まで動いていた時計が、今日も動いているとは限らない。以前なら通
用した作戦が、今も通用するなど、誰が決めるのか? ネオは、その重要な一点を見落と
していた。
「全艦、攻撃開始っ!!!」
 カーペンタリア遠征艦隊が、基地への夜襲を仕掛けていた。艦隊から発射された長距離
ミサイルが、基地を目指して突き進む。
「げ、迎撃せよ!」
 無論、基地とてそれを警戒していなかったわけではない。基地の海岸線沿いに、砲戦用
可変モビルスーツ、ガズウートを配備し、緊急時の迎撃に当たらせていた。火力重視の砲
戦用の力は遺憾なく発揮され、敵艦隊のミサイル攻撃のほとんどは着弾前に撃墜された。
「フン、守るだけで勝てると思うなよ。モビルスーツ隊を発進させろ!」
 ホアキンはすぐに指示をだし、空戦部隊及び水中部隊の発進命じた。ネオと違い彼は果
敢に攻めることで基地の早期攻略をすればいいと考えて、ほとんどのモビルスーツを導入
した。
「敵の降下部隊が来るよりも早く、基地を攻め落とすのだ!」
 この攻勢に対し、カーペンタリアの基地司令官は対応に迷った。当初の通り防御に徹す
か、積極的に反撃をするか、前者を選んで守りきれなかったら基地は終わりであるが、後
者を選ぶのにはもう遅すぎるとも思ったからだ。
 しかし、攻め込んでくる敵を前にしたとき、基地指令は動揺からか、
「は、反撃だ! ディン部隊と、ボズゴロフ級潜水艦を前に出せ! それと、ミネルバも
出撃させろ!」
 そんな基地指令の反応を知ってか知らずか、慌てて出撃してくる敵を目にしたストライ
クのスウェン・カル・バヤンは失笑し、
「反応が遅すぎる」
 そう呟いた。
「全機、敵空中部隊をぶっ潰せ!」
 この命令はバスターのシャムスのものであり、発進したジェットストライカー装備のウ
ィンダム隊は基地から出撃してくるディン部隊と衝突した。
「これが敵の空戦用モビルスーツなのか!?」
 ディンのパイロットたちは、話こそ聞いていたが、初めて目にするその機体に動揺を隠
せなかった。前大戦の当時こそ、空中戦はザフトが有利だった。戦いにおける制空権は飛
行能力を有するディンを持つザフトが握っており、幾度となく旧連合軍を破ってきた。だ
が時は流れ、地球側も空中戦が出来るモビルスーツを開発してきたのだ。これで今までザ
フトの持っていた優位感は一気に崩れたことになる。
「敵には隊列もクソもねぇ、各個撃破だ!」
 シャムスのかけ声とともに、ウィンダム隊は次々とディンに襲いかかった。ディンは接近
戦武器を有さない射撃に特化したモビルスーツであったが、それも当たらなければ意味がな
い。
「こ、こいつら、速い!?」
 ジェットストライカーの予想以上の速度に、ディン部隊は圧倒された。ある機体はビーム
ライフルに貫かれ、また、ある機体はビームサーベルに斬られた。
「何をやっているのだ、我が方の部隊は!」
 そんな一方的な惨状にカーペンタリア基地司令官は叫び、
「何やってるのよ、味方の部隊は!」
 ミネルバ艦長、タリア・グラディスも叫んだ。
 両者共にスクリーンにて戦場の光景を見ており、基地指令は敵の強さに恐れ戦き、タリア
は味方の不甲斐なさへ苛立ちを憶えた。
「ミネルバ緊急発進! モビルスーツ隊も急がせて!」
 しかし、これは同時にチャンスだと思った。ここでピンチの味方をミネルバが救えば、味
方もこれまでのような目でミネルバを見れなくなるだろう。貸しを作るというのは、時とし
て重要なことだ。
「敵を基地に近づかせるな! 攻撃開始!」
 ミネルバは敵を押し戻すために、攻撃を開始した。

 ジブラルタル遠征艦隊は思わぬ窮地に陥ってた。敵艦隊及び水中モビルスーツ部隊を撃
破するため出撃したアウル率いる水中部隊が思わぬ苦戦を強いられてるのだ。
「敵に水中用の新型があったとは……やばいな、これは」
 そう、ジブラルタル基地を出撃した艦隊は今回の戦闘に新型モビルスーツ、アッシュを
大量投入していた。水中用の新型として開発されたこのモビルスーツは、グーンやゾノで
は苦戦したディープ・フォビドゥンに対し善戦した。それどころか、徐々に押しつつもあ
り、水中戦は当初の予想が大幅に外れ、ザフト有利に進んでいた。
「くそっ、こいつら!」
 アビスを駆り、水中部隊を指揮するアウルは敵の新型に翻弄され、思うように戦えない
でいた。アッシュの性能は高かった。
「魚雷攻撃!? 潜水艦からか!」
 それに加えて、ザフトは潜水艦が艦隊の主力を務めている。アビスもディープ・フォビ
ドゥンもVPS装及び、トランフェイズ装甲であったが、水中では上手く機能しない。大型
の対艦魚雷が当たれば一溜まりもなかった。
「このままじゃ、負けるな……」
 ネオは戦況図を見ながら苦々しげに呟いた。このまま行けば確実に負ける……が、負け
るわけにはいかない。自分たちは所詮クーデター勢力なのだ、一介の戦闘に負ければそれ
は組織の綻び、亀裂となる。
「水中部隊を一旦下がらせて、戦力の再編を謀れ」
 危険な手段であった。確かにこのまま戦力を削られ壊滅するわけにはいかない。だが有
利なのは敵であり、ここで兵を下がらせると全面攻勢を誘うことになる。
「艦隊の魚雷で牽制をかけろ。全滅するよりはマシだ」
 それでもこれ以上の被害が広がるよりはと、ネオは決断した。
「なんだあの機体は!」
 カーペンタリア基地は、激戦地となっていた。ファントムペインの空戦部隊は今尚敵の
ディン部隊を圧倒していたが、ミネルバとその搭載機が参戦したことで状況が変わった。
「運動性はこちらの方が上だ!」
 フォースシルエット装備のインパルスを駆るシン・アスカは、ウィンダム隊と激しい戦
闘を繰り広げていた。確かにウィンダムのジェットストライカーのスピードは高い、しか
し運動性能においてはインパルスに分があった。
 シンは、これまで引きこもっていたのが嘘のような活躍を見せていた。向かい来る敵を
倒し、撃破し、撃ち落とした。
「シン……なんて戦い方をしている」
 しかし、ザク・ファントムを駆るレイ・ザ・バレルはそんなシンの戦い振りに危険を感
じていた。確かに強い、強いとは思う。
「だが、あれは自分の身を顧みない戦い方だ……シン、お前は」
 レイは、シンが戦いという激動において自分の心を紛らわせようとしているのではと考
えた。そして、自分がこの戦いで死んでも一向に構わない、そう思っているのではと。
「不器用な奴だ」
 レイはシンを援護するため、グゥルの進路を変えた。機動性・運動性においてグゥルで
はジェットストライカーには敵わない。だが、それでも飛べるだけマシだった。

「たかが一機に翻弄されるとは情けない……ストライクを、スウェンをぶつけろ!」
 旗艦にて戦況を眺めるホアキンは、敵のエース機に対し、自軍最強の機体を叩き付ける
選択を取った。
「こちらストライク、了解。敵トリコロール機を叩く」
 インパルスのデータ自体は、ロアノーク隊と交戦記録がある。しかし、それがなんだと
いうのだ。敵の実力は、ぶつかってみてはじめてわかるものだ。

 スウェンは二刀のフラガラッハ3ビームブレイドを構えると、インパルスへ向かった。
「あの機体、こいつらとは違う。隊長機か?」
 迫り来るストライクに他の機体とは違う圧力を感じ取ったのか、シンはインパルスのビ
ームライフルを斉射し、距離を取る。
 だが、そんな牽制が通じる相手ではなかった。
「速い、全部避けやがった!」
 ストライクの機動力はインパルス並であり、パイロットもまたエース級だ。
「良い反応をしている……だが」
 ビームサーベルを抜き放つインパルスに、ストライクは敢えて接近戦を挑んだ。C.E世
界のビームサーベルは鍔迫り合いは出来ない。
 だが、実体剣を含む対艦刀のフラガラッハならば話は別だ。PS処理を施してあることも
あり、その強度はモビルスーツをも叩き壊すことが出来る。
「ダァッ!!!」
 インパルスはストライクの素早い斬撃を避けきれず、シールドでそれを受けるが、フラ
ガラッハの威力の前に一瞬も持たず斬り落とされた。
「ぐっ、強い!」
 シンは、ビームライフルで牽制しながらストライクとの距離を取る。接近戦では向こう
に分がある。
「ソードシルエットが使えれば……」
 確かに接近戦を主体にして作られたソードシルエットならば、ストライクとも対等に渡
り合えるかも知れない。だが、ソードシルエットは大気圏での飛行能力を持ち合わせては
いない。
『シン、大丈夫か!』
 その時、グゥルの乗ったレイのザク・ファントムから通信が入った。
「レイか? ハッ、これが大丈夫に見えるか!」
 ストライクから撃たれる連装リニアガアンを避けながら、ビームライフルで応
戦するインパルス。
『よし、援護する』
「ザクじゃ無理だ! それよりウィンダム隊を頼む」
『しかし!』
「このままじゃ、ディン隊が全滅するんだよ!」
 シンは、リニアガンを巧みに避け、ビームサーベルでストライクに斬りかかる。
が、これを予期していたスウェンは、その斬撃をあっさり交わすと、
「焦りすぎだ」
 両掌のアンカーランチャーを発射した。
「なに!?」
 機体の両腕をアンカーに絡め取られたインパルスは、そのままストライクに機
体ごと振り上げられ、
「うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 海に叩き付けられた。
「墜ちろ」
 スウェンは、海に叩き込んだインパルスに、グレネードランチャー内蔵型ビー
ムライフルの標準を合わせ、175mmグレネードランチャーを発射した。
 その一発はインパルスに着弾し、爆発が巨大な水柱を作った。インパルスとて
VPS装甲であるから、これで倒すことは出来ないだろう。だが、パイロットはど
うか?
「水中部隊、敵のエース機を海中に落とした。そのまま、海中に釘付けにしろ」
 この時、スウェン・カル・バヤンの実力は、シン・アスカを確実に上回っていた。

「月艦隊の牽制?」
 その頃、降下作戦の最終調整へと入っていたザフト軍で動きがあった。
「あぁ、そうだ。この前の戦闘の疲労が残っているとはいえ、敵がこちらをすんなり降下
させてくれるとは思えない。だから、君には月から来るであろう艦隊の足止めを頼みたい」
 デュランダル議長が、ロッシェに特命を出したのだ。この時期、議長はロッシェという
存在、レオスという機体に対して完全に開き直っており、自分の手元にあるのなら有効に
活用しようと考えていた。
「確かに降下部隊を襲われては堪ったものではないと思うが……私で良いのか?」
 しかし、ロッシェは自分が動くことに抵抗があった。この世界での肩書きこそ手に入れ
はしたが、部外者である自分がそこまで出張って良いのだろうかと。
「構わんよ。君の実力、遊ばせておくのは勿体ない」
 出し渋って、使い倦ねるよりはよっぽどいい。
「なら良いのだが……そうだ、一つ話しておきたいことがある」
「重要なことかい?」
「かなり、な」
 ロッシェは、ハワードたち技術者がこの世界に迷い込んできたことを簡潔に告げた。
「どうしてもっと早く言わないんだ。すぐに救助隊を派遣しよう」
「いや、この作戦終了後、私が直接行く。議長は受け入れ態勢を整えて欲しい」
「判った。しかし、君の他にも異世界の住人が来ていたとは……ふむ」
 デュランダルは、新たに舞い込んできた問題に頭を悩ませる。異世界の技術、何とも甘
美な響きだが……
「私の手には余るものばかりだな。ロッシェ、私は君と出会ってからつくづく自分が小物
だと思えるようになったよ」
「そう自分を卑下するものじゃない。貴方は良くやってるよ」
「どうかな。私は常に何かを利用して自分の地位を固めてきた。ラクス・クライン、アス
ラン・ザラ、そして今度は君だ。軽蔑してくれて良い」
 他社の功績を利用し、自らがのし上がる。デュランダルがしてきたのは、所詮その程度
のことだった。
「何故それをわざわざ私に?」
「人は誰しも、自分の心情を吐露したいことがあるのさ……弱音という奴だ」
「それはまた情けないことだ」
「手厳しいな……まあ、君には他人を信頼させる何かがあるのさ。ラクス、いや、ミーア

キャンベルが君に色々話すのは、そんな君だからじゃないのかな」

「敵の抵抗は根強いな……」
 ジブラルタ基地から出撃した艦隊は、以前ファントムペイン艦隊相手に有利な戦闘を勧
めていたが、未だに敵の士気は衰えず、抵抗も激しかった。
「先ほど敵は危険を冒して戦力を再編成しました。その為、行動の統率性が上がり、反撃
にも粘りが出てきています」
「なるほどな……そうなると、力押しの攻撃を続けていても無駄か」
 艦隊司令官は、水中部隊及び艦隊に攻防を重視した反包囲体制を取るように指示した。
「敵を攻め倦ねるというのなら、これ以上無理に攻めることはない。降下部隊が降りてく
るのを待てばいいのだ。こちらの損害を増やさず、ジワジワと敵戦力を削り取ろう」
 元々、ザフトが圧倒的有利な条件で戦っているのだ。そのことをジブラルタル基地の艦
隊司令官は良く分かっており、また、ファントムペイン艦隊を指揮するネオも承知してい
た。
「まずいな……敵さん、攻勢から守りに転じやがった」
「守り?」
「あぁ、こちらにある程度の損害を与えたと思ったんだろう。良い判断だ」
 ファントムペイン艦隊旗艦J.P.ジョーンズの艦橋において、艦隊司令官のネオ・ロアノ
ークと、部下であるステラ・ルーシェが話している。ステラは、ガイアのパイロットであ
るのだが、空も飛べず、海にも潜れないガイアは今回は出撃の機会がない。その為、ずっ
とネオにベッタリしているわけだが、周囲の艦橋要員からすれば司令官が椅子の上に腰掛
け、その膝の上にさらに年頃の女の子が抱きかかえられているという光景は、目を背けた
いものがあったという。
「さて、これに対し俺達ファントムペインはどう動くべきなのか……」
 一番良いのは援軍が来る前に撤退することである。そうすれば犠牲も少なくて済むし、
今後のことを考えても有益な方法だろう。しかし、彼らファントムペインの上に立つブ
ルーコスモスの盟主ロード・ジブリールは、ザフトに対しての軍事的勝利を望んでいる。
他のロゴスメンバーに対して面目を保ちたいのだろう。
「だが、面子や面目のために死……ッと!」
 ネオは慌てて言葉を切った。ステラが不思議そうにネオを見るが、他でもないステラ
を抱きかかえているから言葉を切ったのだ。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと噛んだだけだ」
 ブロックワード、忌まわしい束縛と暴走の言葉。
 刷り込みと洗脳、こんな古典的な方法を行うだけで、言葉を一言発するだけで、人に
ショックを与えることが出来る。ネオは、それが嫌いだった。
「カーペンタリアは今頃どうしているかな。俺達みたいに苦労してなきゃいいが」
 話を変えるようにネオは呟くが、この時カーペンタリア遠征艦隊が思わぬ危機に陥っ
ていたことを彼は知らなかった。
「シンはどうなってるの!?」
「以前、海中で敵モビルスーツ部隊と交戦中です」
 カーペンタリアではミネルバ隊の参戦で覆しかけた戦況が、再びファントムペインに傾
いていた。ミネルバ最大の戦力たるインパルスが海中に叩き込まれ、今尚浮上できないで
いたのだ。
「このままでは敵部隊が基地に取り付きます!」
 苛烈さを増す敵の攻撃は、カーペンタリアを守備するモビルスーツ隊を確実に破壊し、
その戦力を削ぎ落としている。
「ッ……アーサー、タンホイザーの準備を!」
「艦長、しかしあれは」
「インパルスが動けない以上、敵を押し返すにはそれしかないわ」
 陽電子破砕砲タンホイザーはミネルバ最大の攻撃力を誇る大口径の陽電子砲だが、発
射時における微量な放射能汚染の危険性がある。現在までの改修でかなり低減こそされ
ているが、ここは味方の基地があるのだ。間違って味方に危害を与えるようなことにな
れば、取り返しが付かない。
「ミサイルとトリスタンだけじゃ、有効打にならない。それとも何か他に打開策がある
の?」
 だが、タリアの言うとおり有効な策がないのも事実だった。このままでは防衛戦は崩
れ、一気に基地を陥落されてしまう。その為にも敵の艦隊に対し、不用意に近づかせな
い一発が必要なのだ。
「……タンホイザー起動、繰り返す、タンホイザー起動。友軍に告ぐ、ミネルバはこれ
より艦首砲にて敵艦隊を薙ぎ払う。射線上に位置する味方は直ちに退避せよ!」
 アーサーは、的確な指示をだし、陽電子砲の発射態勢に移らせた。出来れば撃ちたく
ないのだが、彼とて死ぬのはゴメンだ。負けることと死ぬことは違う、どうも自分の上
官は負けることが即ち死に繋がると思っている節がある。まあ、立場的にも色々抱えて
いるのだろうが……

 海中に落ちたシンは、ディープ・フォビドゥン隊による集中攻撃を受けていた。発射され
る数十発の魚雷に動きを封じられ、フォノンメーザー砲に装甲を薙がれた。このままでは如
何にインパルスといえど長くは持たないだろう。
「海中で使える武装がない以上、早く上に上がらないと行けないってのに……これじゃ」
 唯一使える武装といえば、対装甲ナイフぐらいだがそんものを振り回したところで勝てる
相手ではない。
「一瞬だ、一瞬でも攻撃に隙が出来れば一気に脱出できる」
 シンはその機会をうかがいつつ、今は攻撃を避けることに専念した。
 そして、意外と早くその機会は来た。
「ミネルバが陽電子砲を使う? 正気かよ!」
 納得は行かなかったが、チャンスでもあった。シンは攻撃を避けながら、インパルスを丁
度陽電子砲の射線軸の真下に移動させた。
「これで……」

「タンホイザー……撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 発射された一発は、爆光とともに敵艦隊に突き進む。敵もまたミネルバが艦首砲を使うこ
とを知り回避の体制を取っていたが、いくつかの艦が避けきれずに撃沈した。
「地上で陽電子砲を使うとは……ザフトめ、地球のことを考えぬ宇宙人どもが!」
 ホアキンはいきり立って叫ぶが、叫んでばかりも居られない。今の一発で少なからず損害
が発生した。そこにつけ込まれないためにも、早急に艦隊を再編しなくてはならない。
「一発は一発だ……憶えていろ!」

 陽電子砲が真上を通り過ぎたとき、その余波で周囲に海面が爆発した。その振動と衝撃は
海中にまで伝わり、インパルスを包囲していたモビルスーツ部隊が僅かな乱れを見せる。そ
して、その乱れはシンにとっては十分な時間だった。インパルスはスラスターを全開にして
海中を脱出した。
「ミネルバ、こちらインパルス。デュートリオンビームを! それと予備のライフルとシー
ルドの用意!」
 自分はまだやれる。自分はまだ死ねない。自分はまだなんの答えも出していないのだから。
 シン・アスカの戦意は、まだ衰えていない。

 降下作戦開始直前、アスランはその見送りに訪れたミーアに、ある物を渡していた。
≪Hello! Are You Ok?≫
 ピコピコと跳ねる球体上の身体に、真っ赤なボディ。何故か言語は英語であり、やたら
元気がいい。
「まぁ、これがハロですのね!」
 ミーアはそのアスランからのプレゼントを大事そうに両手の平に載せる。
「久しぶりだったけど、まあ作ってみると楽しいもんだよ」
 ラクスの持っているのとまんま同じ物を作っても良かったが、それじゃあ芸がないとア
スランは新しいのを作って見せた。もっとも、影武者たるミーアに持たせるのだから、芸
など気にしてはいけないのだが、アスランの悪い癖か、同じ物を作るのは微妙だったのだ。
「基本的にバッテリー式だから、充電すれば半永久的に動くよ。不具合があっても、そう
直してやることは出来ないと思うけど……」
 何せ地球とプラントだ。ちょっと直しに行くには遠すぎる距離だ。
「大丈夫! 大切にしますから!」
 そんなミーアの笑顔を最後に、アスランは懐かしの愛機のコクピットへと入った。その
瞬間、先ほどまでミーアに見せていた不器用な笑顔が、消える。
「イザークとディアッカが宇宙に残る。彼らがウルカヌスの解析と調査、モビルドールの
起動はやってくれる……俺はその間、地球で出来る限りザフトとファントムペインを引っ
かき回すとするか」
 不敵に笑うその顔は、悪意に満ちていた。

『作戦名、スピア・オブ・トワイライト……開始せよ!』

 宣言される、作戦開始の報。アスランは、笑みを消し、気を引き締め、ジャスティスを
起動させる。
「アスラン・ザラ……ジャスティス、発進する!」