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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第16話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:05:37

 ミネルバと相対するに当たってファントムペイン艦隊の取った戦略は、艦列
を並べて力で押し切るという強引な物だった。
 力で押しつつ艦隊とモビルスーツを左右に広げ半包囲網を作る。ミネルバの
後ろはオーブ領海であるため逃げることは出来ず、縮められる包囲網に圧迫され、倒されること間違いない。
 勝つ算段と言うにはあまりに大雑把ではあったが、所詮は急場の混成艦隊。
緻密な戦略や戦術など立てても実行できるとも限らないし、相手はたった一
隻、モビルスーツは三機ほど。ファントムペインの誰もが勝利を確信してい
た。負けるはずがないとは正にこの事と思っていたのだ。
「だが、ミネルバは最新鋭艦だけあって武装は強力だ。陽電子砲で艦隊に穴を
空けられたらどうする?」
 艦隊の指揮を執る少佐の階級を持つ男が敵艦による中央突破の可能性を危惧
した。
「問題ありません。我らの艦隊にはあれがあるではありませんか」
「あれ、だと?」
「はい、新型モビルアーマー、ザムザザーが」
 ザムザザー。それはファントムペインによるヘブンズベース攻略戦の際に初
投入された新型モビルアーマーだった。このモビルアーマーは、その高い攻撃
力もさることながら、陽電子リフレクターと呼ばれる陽電子砲をも防ぐ防御シ
ステムを備えており、ヘブンズベース攻略戦ではそれが大いに役立った。
 確かにザムザザーに中央を守らせれば、敵主砲による被害という問題はクリ
アされる。
「モビルスーツを早々に落とせば、後はザムザザーに任せればいい、という考
え方も出来ます。陽電子砲の連射など敵は出来ないでしょうしね」
「なるほど、その通りだ」
 少佐は参謀の意見を聞き、ザムザザーにいつでも出撃できるように命令を下
した。
 それと同時に、哨戒機がミネルバの接近を告げた。
「時間的距離にして45分か……ザフトめ、我々が負けてばかりだと思うなよ」
 結局の所、殿艦隊が命令無視をしてまでオーブに向かったのはザフトに一矢
報いたいという意識からだった。元々、特殊な性格や性質を持つ部隊だけ合っ
て自己の能力だけに頼った強引な性格が多い。命令違反にしても、勝っても負
けても自分たちが軍規によって裁かれるという認識が、この時の彼らには欠け
ていた。
 とにかく、ファントムペイン艦隊対ザフト軍艦ミネルバの、多勢の無勢な戦
いは始まろうとしていた。

           第16話「敗北」

 ファントムペインが予測したように、ミネルバの作戦首脳部(といっても主
にアーサー・トライン)が立てた作戦は、一斉砲撃による中央突破だった。敵
艦隊の中央に砲火を集中させ、艦隊を分断、そこをモビルスーツに援護させつ
つ、最大船速で突破、離脱する。
 ミネルバは足自慢であり、敵艦隊を振り切るのは容易であり、敵もカーペン
タリアまで追ってくることはないだろう。
 必ずしも敵艦隊を全滅させる必要のないミネルバの、逃げの作戦だった。
「でも中央突破の可能性は敵も分かってるんじゃないですか?」
 この質問をしたのは意外にもオペレーターのメイリン・ホークだった。彼女
は今回の戦いにおいて、タリアとアーサーがミネルバ最強武装陽電子砲タンホ
イザーを使用する気がないという点に不安を覚えていた。
 オーブ領海の近辺で汚染物質をまき散らすわけにはいかない、というのが主
な理由だったが、その為にミネルバが墜ちたらどうするつもりなのだろう?
「分かっていてもどうにもならないことはあるさ。現に我々だって敵がいるこ
とを知りつつも、そこに行かなければならないんだ」
 アーサーは答えながら、自分の作戦に絶対の自信が持てないでいた。陽電子
砲を使わないのはこちらの勝手だが、敵はそれを知る由もない。となると、敵
は対陽電子砲対策をして当然なのだが……まあ、対策をして陽電子砲が防げれ
ば何の苦労もないのだが。
「問題はむしろモビルスーツ隊のほうだ」
 ミネルバのモビルスーツ隊で、飛行能力を有するのは最新鋭機のインパルス
のみだ。このインパルスのパイロット、シン・アスカは精神面での不調が続い
ており、この難局に果たして耐えきれるかどうか……
「頼むぞシン……」

 ファントムペイン艦隊とミネルバの海戦は、両者艦砲による砲撃戦で始まっ
た。ミネルバは当初の予定通り、迎撃用の対空砲を除いた全ての火器を正面の
敵に集中し、敵の中央部の分断を図った。
「焦るな。敵の長距離ビームに注意しつつ、ミサイルを撃ち落とせ。初撃を受
け流せばこちらのペースだ」
 ファントムペイン艦隊の中央は、ミネルバに対し距離を取った。中央突破を
狙うミネルバとしてはこれに追撃をかけたいのだが、そうすると左右に展開す
る艦隊の砲撃を受ける。
「前身止め。敵に引きずり込まれるな」
 ミネルバとしてはまずは敵の包囲体制を崩す必要があった。
「敵を密集させることが出来れば、一斉射撃で壊滅させることも出来る」
 だがアーサーの狙いはそう簡単には成功していない。彼としては初撃で敵艦
隊に打撃を与え、防御面での密集を余儀なくさせるつもりだったが、これを
あっさり受け流されてしまった。こうなってはもう、ミネルバの艦砲射撃で敵
を密集させるのは難しいだろう。
「モビルスーツ隊発進。敵艦隊を密集させろ!」
 こうして戦闘はモビルスーツによる空戦へと移った。
 十数機のウィンダム対一機のインパルスの戦いに。

「シン・アスカ。インパルス、発進します」
 フォースシルエット装備のインパルスは、眼前に迫るジェットストライカー
装備のウィンダム隊と相見えた。
「行くぞ!」
 インパルスはビームライフルを斉射すると、距離を詰めて接近戦に持ち込も
うとした。先日の戦闘から、ウィンダムのジェットストライカーは機動力と加
速力こそ高いが、運動性が低いという弱点を見出したからだ。
「敵を近づかせるな。ミサイル攻撃開始!」
 しかし、そんなことは敵のモビルスーツパイロットたちは百も承知であり、
接近戦を望むインパルスに対し、ミサイルによる弾幕を作った。
「くっ、ミサイルを対艦用に使わないのか」
 シンは思いがけない攻撃に翻弄された。ミサイルはミネルバ攻撃用に温存し
てくると考えていたからだ。
「戦艦のほうは艦隊に任せておけるんでね……敵を逃がすな。三機編成で囲
め!」
 ウィンダム隊は数の有利さを徹底的に利用し、インパルスを追いつめていっ
た。四方八方からの攻撃に一機で対処することになったシンは、機体を加速さ
せると後方まで下がった。
「ルナ! 敵をそっちの射程に誘い込む。援護を!」
『了解!』
 この時、ルナマリア・ホークとレイ・ザ・バレルの二人はミネルバの甲板で
敵の攻撃に対しての迎撃を行っていた。飛行能力を持たないが故に、砲台とし
ての役割しか出来なかったのだ。
 だが、この時その砲台は敵空戦隊に対して、多大なる威力を発揮した。
「よし、行ったぞ!」
 シンはわざと後退することによって三機編成のウィンダムを、砲戦使用のガ
ナーザクウォーリアの射程に誘い込んだのだ。
「くらえっ!」
 発射されたオルトロス長距離ビーム砲はウィンダムを三機纏めて撃ち落とし
た。同様の戦法で、砲撃がザクのオルトロスからミネルバのトリスタンに変
わったとき、さすがのウィンダム隊も焦りを覚えた。
「いかん、一旦後退だ。体勢を立て直すぞ」

「空戦は我が方が不利だと」
 敵の術中に嵌り、かなりの数のモビルスーツが撃ち落とされたという。指揮
を執る少佐は苦虫を噛み潰したような表情をすると、ザムザザーの発進を指示
した。
「しかし、あれは対陽電子砲では」
「こちらの空戦隊が総崩れなのだ。一機とはいえ、モビルスーツに上空から攻
め込まれてはまずい」
 ファントムペイン艦隊は、敵は陽電子砲を初撃に使ってくると思っていた。序盤に大打撃を加えることが出来れば、敵が企図するであろう中央突破成功し
やすい。
 だが実際に敵はなかなか陽電子砲を使ってこない。奥の手として温存してい
るのか、それとも……
「敵は何故か知らんが陽電子砲を使おうとしない。ならば、敵モビルスーツ用
にザムザザーを投入しても問題はない」
 こうして巨大モビルアーマーザムザザーは、対インパルス用に出撃すること
となった。ヘンブンズベース攻略戦の時とは違い、正規パイロットが三人乗り
込んだ、完全な運用法で。
「敵戦艦から、アンノーン出現……これは!」
 ミネルバの艦橋に驚きの声が響き渡った。
「モビルアーマー!? しかし、こんな大きな」
 アーサーは、敵の意外な伏兵に寒気を感じていた。敵は新型のモビルアー
マーまで用意していたというのか。
「あんなのに取り付かれたら一溜まりもないわ」
 タリアの思考に、タンホイザーが過ぎる。陽電子砲で艦隊ごと薙ぎ払うこと
が出来ればどんなに楽か。
 だが、陽電子砲の使用を不可としたのは他でもない自分だ。一度決めたこと
は守らねばならない。
「インパルスに連絡を、アレをどうにかさせて!」
 大雑把な命令であるが、ミネルバの装備では恐らく対応できない。加速度と
運動性がウィンダムとはまるで違う。トリスタンやイゾルデなど、当たりはし
ないだろう。
 だが命令を受けたシンも、新たなる敵に動揺を隠せなかった。今の彼は、か
つてのように戦闘時に気分を高揚させ戦う事が出来ないでいる。そんな彼に
とって、予想外の敵というのは、すぐに不安要素となる。
 シンは、ひたすら後ろ向きに戦っているのだ。
「けど、あれだけ大きいなら!」
 しかし、シンはタリアと違う考え方をしていた。大きければ的として当てや
すい。何とも単純な発想だが、インパルスの機動力はウィンダムとは比較にな
らないし、ザムザザーにも引けを取らない。
「ビームライフルで動きを封じて、サーベルで貫く!」
 そう決断すると、シンはビームライフルを連射し、ザムザザーに迫るが……
「なに?!」
 突如、機体の体勢を変えたザムザザーの表面に現れた光りの壁が、ビームラ
イフルを弾き飛ばした。

「陽電子リフレクター、正常作動。敵のビームライフルを完全防御」
 ザムザザーのパイロットの一人は、安堵の声を出した。実戦でリフレクター
を使用したことがなかった彼らは、実際に使用するまで失敗したら……という
考えを捨てきれないでいたのだ。
「しかし、どうせなら敵艦の陽電子砲を弾き飛ばしたかったな」
 だが一度成功すれば、それは余裕と自信になる。
「よし、単装砲標準。敵モビルスーツを撃ち落とすぞ!」
 ザムザザーを含む、モビルアーマー開発に携わっている人間たちは、共通し
てモビルスーツを嫌っている。彼らは、モビルスーツを始めに作り上げたのが
コーディネーターであることをことさら嫌悪し、「何故ザフトの真似をしたカ
トンボなど作らねばならないのか」と主張した。
 そこで生まれたのが、ザムザザーを初めとする次世代モビルアーマープロ
ジェクトだった。コスト無視をしてでも、地球軍、しいてはナチュラルの力を
見せつけられる兵器が欲しい、そんな考えから開発が進められたのだ。
 だから彼らは負けるわけにはいかなかった。
 今ここでザフトのモビルスーツに負けると言うことは、この開発計画に費や
してきた全てのものが犠牲になってしまう。絶対に負けるわけにはいかないの
だ。
「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 シン・アスカは思わぬ苦戦を強いられていた。敵の新型モビルアーマーに搭
載されている防御システム、もはやバリアとしかいいようのないそれは、シン
のもっとも得意とする中距離戦を完全に封じていた。
 中距離からのビームライフルは防御システムに防がれ、接近戦を挑もうとす
ると敵の大火力に押し返される。まさに驚異の兵器だった。
「まてよ……もしかしたら」
 シンはあることを思いつくと、ミネルバに回線を繋いだ。ものは試しであ
る。インパルスの軌道を変え、ミネルバ方面へと転身する。
「逃がすかっ!」
 敵は当然逃すまいと追撃をかけるが、
「まて、これは奴の罠だ。先ほどのモビルスーツ部隊と同じく、我らを敵艦の
艦砲射撃の射程に引き込む算段だろう」
「構うものか、陽電子リフレクターの前には敵の艦砲など通用せぬ!」
 多人数で乗り込む兵器の欠点は、意見の食い違いであるという。確かにザム
ザザーのパイロット全員、陽電子リフレクターの力には絶大の自信を持ってい
たが、それでも敵の誘いにみすみす乗るのはどうか? という考えを持つもの
もいるのだ。
「敵の狙いが何であれ、わざわざ艦の近くに引き込んでくれるというのなら、
むしろ願ったりではないか。敵の攻撃をリフレクターで防御し、全砲火を戦艦
に集中させ撃沈、それでいいではないか」
 砲手が出したこの意見に、他の二人も一応の同意をした。ミネルバが逃げれ
ば良いだけのように、ファントムペインもまた、ミネルバを落とすだけで良
い。モビルスーツなど、後でどうとでもなる。
「これで終わりだ!」

 インパルスを追撃するザムザザーに対し、シンはウィンダムと同じ戦法を
取った。相手を艦砲射撃の範囲内にまで引き込み、その絶大な威力で吹き飛ば
そうと言うのだ。
 ただシンは、この戦法が通用するとは思っていない。あくまで確認だった。
「ここで!」
 ミネルバから大口径砲イゾルデと、地上用ミサイルが発射された。シンが試
したかったのは敵防御システムの効果だった。ビームライフルを完全に防ぐ、
ならば実体弾は? そう考えたのである。
「無駄なことを!」
 が、ザムザザーの陽電子リフレクターは実体弾にも有効だった。並のモビル
スーツや、艦艇でさえ沈める実体弾の攻撃をザムザザーは完全に防いだ。
「よし、戦艦に攻撃を……!」
 ミネルバに攻撃をしようとしたザムザザーだったが、攻撃の失敗を悟ったシ
ンがすぐに急旋回をかけ、ミネルバの攻撃によって生まれた隙に、接近戦を仕
掛けてきた。
「しまった、距離を取れ! 超振動クロー展開」
 ザムザザーはその巨体故に接近戦が致命的なまでに弱かった。強力なクロー
を装備しているが、モビルスーツのように自由自在に動くわけでもない、イン
パルスの運動性を考えると、接近戦は避けるべきである。
「そうはさせるか!」
 それを分かっているからこそ、シンは食らいつこうと必死になっている。こ
のチャンスを逃せば、ザムザザーを倒せる機会を失う。
 だが……
「なっ、ビームサーベルも!?」
 ビーム兵器と実体弾を完全に防ぐ。ならば何故、ビームサーベルが通用する
と言い切れる?
 ザムザザーの陽電子リフレクターはインパルスのビームサーベルを受け止め
たのだ。
「そんな……」
 斬りそこなったインパルスは、体勢を崩した。そしてそれは、ザムザザーの
反撃を意味していた。
「落ちろ!」
 超振動クローに片足を掴まれたインパルスは、力任せに海に叩き落とされ
た。シンは体勢を立て直そうとスラスターを全開にしようとするが、
「まずいっ!」
 ザムザザーは四つの脚部から強力なビーム砲を発射し、インパルスの四肢を
吹き飛ばした。

「シンッ!」
 ルナマリアが、悲鳴に近い声を上げた。正に一瞬。敵のモビルアーマーを仕
留めようと斬りかかったインパルスが、攻撃を防がれ、逆に海に落とされてし
まった。
「救急班、インパルスの回収を!」
 レイが彼に珍しく慌てた声で指示を出した。アレではもう戦えない。
 エース機インパルスは、墜とされた。
「ルナマリア、敵モビルアーマーに攻撃をする」
『攻撃って、あんなのにどうやって』
「作戦がある」
 インパルスという航空戦力の損失は、ミネルバにとって致命傷となる決定打
だ。そして、エース機を失ったという事実はこちらの士気を下げ、敵の式を底
上げするだろう。ならばこちらも、敵の新型を倒し、敵との士気を均衡させる
必要がある。
「いいか、俺がミサイル攻撃で敵の動きを封じる。そこを狙え」
『わかった!』
 レイが立てた作戦は、威力差と時間差を利用した攻撃だった。ザク・ファン
トムのミサイル攻撃で敵の動きを封じる。弾数と命中性が高い攻撃を前に、敵
は防御システムの使用を余儀なくさせる。そして、ミサイルを防ぎきった後、
防御システムを解除し、反撃を行うだろう。
 そこをルナマリアの、ガナーザクの砲撃で撃ち落とす。
「行くぞっ!!」
 確かに有効な作戦だった。しかし、立てた作戦が全て上手く行くのなら何の
苦労もしない。レイはこの時、そんな単純な事実を失念していた。

 レイのザクから発射された数十発のミサイルは、確実にザムザザーを捉えて
いた。これに対しザムザザーはレイの予想では防御行動を取る、はずだった。
「撃ち払え! ザムザザーの火力ならば、あの程度の攻撃吹き飛ばせる」
 ザムザザーは、あろうことか向かい来るミサイル群を、攻撃によって吹き飛
ばすという行動に出た。広範囲の大火力を誇るからこそ出来る、そんな選択
だった。
「そんなっ!」
 ミサイルが吹き飛ばされるのを見て、ルナマリアの判断が一瞬鈍った。すぐ
にでも砲撃を行えば、結果は違っていたのかも知れない。
「くっ」
 だが、実際にルナマリアが砲撃を行ったのは、ミサイルが全て撃ち落とされ
た後だった。ザムザザーはこの横撃に対し、優々と防御態勢を取ることが出来
た。
 あるいはさらにミネルバが攻撃を行えば……とも思えたが、ミネルバはミネ
ルバで、目の前の艦隊から連続して発射されるミサイルや艦砲への対処に追わ
れており、援護は不可能だった。
「ここまで、なのか……」
 レイは負けを確信した。敵に作戦を看破された以上、新たな作戦を立てねば
ならない。しかし、その作戦をレイは思いつくことが出来ない。
「弾幕を張って対応するしかない」
 当座の対応しか思いつけなかったレイだったが、ここで奇妙な事が起こっ
た。後方の敵艦隊の動きが、著しく乱れている。これは……
「背後からの奇襲を受けている?」

 勝利まで後一歩に近づいたファントムペイン艦隊が、背後からの奇襲を受け
たのは、全くの計算外、想定外だった。
「な、何事だ!」
 艦隊指揮官の叫びと共に、慌てて状況確認が行われる。そして彼らは知っ
た。
「て、敵モビルスーツ来襲!」
 圧倒的な赤。
 正義の名を持つ機体が現れたことに。

「やはり情報は本当だったのか……ミネルバ、良く持ちこたえたな」
 アスランは、ビームライフルを連射し、次々に艦隊に穴を空けていった。背
後からの奇襲は大成功だった。ファントムペイン艦隊は護衛のモビルスーツも
なく、咄嗟のことで艦砲による対応すら出来ていなかった。
「インパルスが居ないようだが……まさかやられたのか?」
 最新鋭機も案外大したことはない。そう思ったアスランだったが、その考え
をすぐに改めた。ミネルバへの攻撃を行っていたザムザザーが反転、ジャス
ティスを倒さんと迫ってきたのだ。
「新型……大型機か。あれにやらたな」
 アスランはザムザザーに激突していくような真似はしなかった。むしろ、
ビームサーベルを引き抜き、待ちの構えを取っていた。
 ザムザザーのパイロットたちはこれを見て、
「撃ち落としてくれるわ!」
 ビーム砲による砲撃を行う。
 ジャスティスはこれを下に交わすと、敵艦隊方面に急降下する。
「さて、これでも砲撃が出来るかな?」
 アスランは、あろうことか敵艦隊を壁に使ったのだ。
 案の定、ザムザザーはその圧倒的な砲火で味方艦を巻き込むのを恐れ、砲撃
を行うことを躊躇った。
 一方で艦隊も、縦横無尽に対空砲を撃つことで、ザムザザーに当たるのでは
ないかという懸念があった。
 アスランは、敵モビルアーマーと、敵艦隊の間に入る。たったそれだけのこ
とで、敵の攻撃を封じてしまったのだ。
「ええい、ならば接近戦だ! 先ほどのモビルスーツのように海に叩き落とし
てくれる!」
 そして、ザムザザーは接近戦を挑まざるを得なくなった。
 相手が接近戦最強のモビルスーツだとも知らずに。

 決着は、付いた。

 領海ギリギリに布陣したオーブ艦隊は、そんな戦闘の一部始終を見ていた。
艦隊を指揮するトダカ一佐は、面白くなさそうに溜息を付いた。
「目の前で戦闘が行われているのに、見ているだけか……」
「仕方ありません。相手が領海に入ってこない限り、我々は戦闘を行うことが
出来ないのですから」
 副官の言葉に、トダカは無言で頷いた。
 ミネルバというのは随分と運がいいようだ。最新鋭機を墜とされたときは、
トダカもファントムペインの勝ちを確信していたが、たった一機の出現で全て
が変わってしまった。
 モビルスーツ一機で戦況が変わる。まったく、何と都合のいい世界だろう
か。
「トダカ一佐。脱出したファントムペイン艦隊が保護を求めてきましたが」
「保護?」
「ハイ、破損艦艇及び、モビルスーツの保護をと」
「本官にそんな権限はない。国防本部と行政府に問い合わせるから、それまで
待たせろ。絶対に領海に入らせるな」
 トダカは言いながら、ミネルバがどうなったかを確認させた。ミネルバは来
援した赤い機体を収容し、海から最新鋭機の残骸とも思えるものを引き上げる
と、全速力で海域を離脱していた。
「次あの艦と会うときは……出来れば戦場以外の場所がいいものだ」
 他国の戦艦ながら、称賛に値する戦い振りだったと思う。そして、そんな手
強い相手とは、出来れば戦いたくないものだ。
 そうトダカは思いながら、ミネルバを見送るのだった。