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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第63話

Last-modified: 2008-03-28 (金) 18:22:20

「左腕部の修理を急げ! 強化パーツの整備と調整を最優先だ。いつまでも大
将機を破損したままにはしておけんぞ!」

 

 ウルカヌスの整備工廠において、インフィニットジャスティス総大将である
アスラン・ザラの機体、ジャスティスの修理が行われていた。破損自体は左腕
と背部の支援機が損失しただけであるから予備パーツを代用させれば大したこ
とはないのだが、技術班は司令部にジャスティスの強化改造を具申し、その許
可を取り付けていた。ジャスティスが如何に核動力機とはいえ、既に一年以上
前の機体であることに変わりはない。アカツキに予想外の苦戦をしたこともあ
るし、最新の技術を取り入れることで強化しようというのだ。

 

「ビルゴに使われている技術を元に、出力の向上などを目指しています。さす
がにビルゴやメリクリウスには及びませんが、それでもこの世界の機体では最
強の二文字を有するに相応しい機体となるでしょう」

 

 技術者の言葉に、アスランは黙って頷いた。技術者としては明確に褒め言葉
を貰いたかったのだが、アスランは十分に満足そうな顔をしており、とりあえ
ずはそれで良しとすることにした。

 

 キラ・ヤマトとの戦いから既に二日が過ぎようとしていた。戦闘の結末は、
誰もが予想したとおりだとはいえ、やはり衝撃的だった。キラはそれこそ伝説
的な実力を持った英雄であり、それが完膚無きまでに敗れ去ったのだ。
 倒した張本人であるアスランは、ウルカヌスに帰還後すぐに自室へと隠った。
サトーはアスランがショックに打ちのめされたのではないかと危惧したが、食
事を運んだ士官の話ではアスランは胸に喪章を付けていたということであり、
恐らくは親友にして偉大なる好敵手であったキラに対し、喪に服したのだろう。
二日後にはそれまでと変わらず、いや、それまで以上に理性と鋭気が宿った瞳
をしていた。声にも力があり、明晰だった。

 

「キラは愚かだった。あいつは自分の痛みを抱え、傷ついた身体で俺に戦いを
挑んできた。あいつは死に場所を求めていた。俺に殺されたがってたんだ」

 

 痛みを我慢し、周囲に訴えることをしなかったが故に、キラは壊れた。彼は
もう手遅れだったのだ。アスランは、彼の崩壊を少し、助長させてやったに過
ぎない。

 

「誰であろうと、自信があるなら挑んでくればいいさ。キラのように俺を倒す
という明確な覚悟を持っているなら、俺はいつでも相手になってやる」

 

 アスランの笑みは、自信に満ちあふれてこそいたが、どこか乾いた印象を抱
かせるものだった。
 もう引き返すことは出来ない。ハイネを殺し、キラを殺し、これからもっと
多くの生命を奪おうとしている自分に、振り返るべき道も、逃げるべき退路も
存在しない。
 心に誓いを立てるアスランであり、新たに身を引き締めるインフィニットジ
ャスティスであったが、ここで一つの事件が発生した。アスランにしてみれば、
半ば予想していたことではあったが、ウルカヌスのチーフオペレーターを務め
るメイリン・ホークが、脱走したのだ。

 
 

          第63話「流星の到来」

 
 
 
 

 メイリン・ホークは悩んでいた。
 彼女はアスランに請われ、彼に必要とされたから彼の計画に賛同し、協力者
となった。仲間を捨て、国を捨て、姉を捨ててアスランに着いていくことを決
めた彼女の決断は、周囲が思っているほど、特にアスランが考えているほどに
単純なものではない。彼女は決して、打算を元に行動したわけではないのだか
ら。
 メイリンがアスランに求め、望んだものは決して愛情ではなかった。愛情を
欲する心が皆無ではなかったにせよ、彼女は自分自身を必要としてくれる存在
と、自分の力を認めてくれる存在を求めており、アスランはその役割を十分に
果たしていた。アスランはメイリンに理想を語った。それは甘く儚げな、夢の
ような話であり、そうであったからこそメイリンのヒロイズムが刺激され、ア
スランに着いていくことを決断させたのだ。

 

 しかし、現実とは少女が夢見る物語ほど生易しくはない。メイリンがアスラ
ンに見た輝かしく凛々しい英雄としての姿は、アスラン自身によって打ち砕か
れた。彼は英雄という存在の意味を、メイリンよりも肌で分かっているタイプ
だった。即ち、それは勝つこと、勝ち続けることであり、確かな勝利こそが英
雄の条件である。条件を満たすために必要なのは、優しさや正義感などではな
い。非道さに裏打ちされた冷酷な意思、何が何でも戦いに勝ち、生き延びると
いう獣のような闘志こそが、英雄たり得る条件なのだ。
 正義などという言葉は、獰猛な野獣を包み隠すための羊の皮のようなもので
あり、メイリンは皮を被った野獣の本性に気付くことが出来なかったのだ。故
に彼女が受けたショックは大きく、許容しがたいものがあった。アスランがこ
の先、本当に地球を壊すのだとして、自分はそれに協力し続けることが出来る
のか。彼の仲間として、何十億もの地球人類を抹殺することが、自分に出来る
のか。とても、出来そうにない。

 

「私……どうすればいいの」

 

 自室にて思い悩むメイリンの顔は、快活で明るい彼女からは想像も出来ない
ほど暗く落ち込んでいる。ここにきて、彼女はアスランに着いていく自信を失
いかけていたのだ。いや、既に半ば喪失しているといっていい。
 戦友であるはずのハイネを殺し、協力者であったはずのキサカを見捨て、親
友であるはずのキラを殺したアスランの感性に、メイリンは明確なる拒絶感を
憶えてしまったのだ。第一、この先、彼がいつメイリンを見限って始末しよう
と考えるかなど知れたことではない。

 

「でも、今更ザフトに戻るなんて」

 

 戻ったとして、受け入れて貰えるかどうか。即刻銃殺刑にされてもおかしく
ないほどの罪を自分は背負ってしまった。姉だって、きっと怒っているはずだ。
怒って、私のことを許さないと思っている。

 

「……そうだ」

 

 ただ、脱走するだけに意味がないのなら、何か手みやげを持って行けばいい。
ウルカヌスの資料や、ビルゴのデータ、それから……
「ラクス・クライン」
 どうやらラクスの影武者であったらしい彼女も連れて行けば、あるいは情報
提供者として恩赦とはいかないまでも、減刑ぐらいは付くかもしれない。

 

「…………よしっ」

 

 メイリンは自室のコンピューターを使って、作業を開始した。

 
 

 一方でミネルバ艦隊では、ウィラードからゴンドワナ奪取の報告が舞い込ん
できた。当初、戦闘も覚悟していたウィラードやレイであったが、ウィラード
が説得のために通信を送ると、下級士官や兵士を中心に反乱が発生し、ゴンド
ワナの司令部が制圧された。後で判ったことだが、司令部に詰めていた高級士
官たちが保身的な打算からアスランへの賛同を推奨し、これに兵士たちが反発
を覚えたということだった。

 

「これである程度の戦力は揃ったわね」

 

 ゴンドワナ艦隊を率いてウィラードらが帰還するまで時間はあるが、ミネル
バ側でも、しなくてはならないことは山ほどあった。
 まず、シン・アスカが機体を乗り換えることになった。現在、プリベンター
巡洋艦で最終調整が行われているモビルスーツ、オデル・バーネットがシン・
アスカのために開発した機体である。このため、インパルスが空席となり、ル
ナマリアが新たなパイロットとして選ばれた。ルナマリアは当初、自分よりも
レイが相応しいとの意見を出したのだが、出撃中のレイがそれを辞退した。理
由は不明だが、インパルスに乗る気はないらしい

 

「私に操縦できるかな」

 

 インパルスはザクとは全く違うモビルスーツであり、如何に準エース級の実
力を持つルナマリアでも不安を覚えずにはいられない。

 

「ルナなら大丈夫だよ。インパルスはそんなに癖のないモビルスーツだから」

 

 シンはこのようにいうが、確かにインパルスは凡庸機としての一面も強く、
特別何が優れていなければならないということはない。求められるのはバラン
スとセンスの良さであり、ルナマリアは十分にその資質があった。
 一方でシンが乗ることとなった機体は、インパルスによって得られたシンの
戦闘データを基に開発されている。オデルはシンからデスティニーインパルス
でアスランのジャスティスに歯が立たなかったことを聞かされたが、それは決
してシンの実力がアスランに劣っていたからではないと分析した。

 

「シン、お前は無意識にインパルスの限界時間を考慮して戦っていたんだ。だ
から本来、お前が持つべき力がセーブされ、アスランに圧倒されてしまった」

 

 新しい機体であれば、時間制限どころかバッテリー切れを気にすることもな
く大暴れが出来るらしい。核動力機なのか、というシンの問いに、オデルは首
を横に振った。

 

「Nジャマーキャンセラーとやらは、プラント側が情報提供を拒んだので使え
なかった。だから、ハワードと相談して別の機関を組み込んだ」

 

 恐らく、核動力にも匹敵するだけのものになるだろう。また、OS部分も新調
されており、後は実践でどれだけ使えるかである。

 

「少なくとも、この世界のモビルスーツの中ではトップクラスの力は持ってい
るはずだ」

 

 オデルがこのような微妙な言い回しをするのは、それでもビルゴを始めとし
た機体の数々には太刀打ちが出来ないからである。既にオデルのジェミナス02
も強化改造が終了しつつあるが、どこまで戦えるか、それは判らない。

 

「ロッシェの作戦に頼るしかない、か」

 

 アスランに対しゲリラ戦を仕掛け、ビルゴを各個撃破、着実に数を減らして
いくというのがロッシェの作戦であったが、これは遂に採用されることがなか
った。というのも、アスランがより早い段階で彼らに対し手を打ったのだ。

 
 

 ラクス・クラインこと、ミーア・キャンベルはウルカヌス内で軟禁状態にあ
った。アスランは礼節を欠かさぬように対応せよと命じており、彼女にはウル
カヌス内でも特に上等な部屋をあてがわれ、食事に至ってはアスランよりも豪
華なものが運ばれたが、ミーアが求めるのはそんなものではなくアスランとの
対話であった。
 ミーアもまた室内にあったモニターで、アスランとキラの激闘を見ていたが、
キラが死んだことについてはそれほど大きな衝撃は受けなかった。それもその
はず、彼女はキラのことを名前ぐらいしか知らないのだ。

 

「あの人も、アスランを止めようとしていた」

 

 ミーアは言葉で、キラは実力でアスランを止めようとして、共に失敗した。
ならば、どうすればアスランを止めることが出来るのか、もう方法は残されて
いないのか?

 

「そんなことない。まだ、説得の余地はあるはずよ」

 

 ここで諦めては、ウルカヌスまで来た意味がない。ミーアはアスランと、再
度の話し合いを求めたが、アスランはそれを一切無視した。アスランにしてみ
れば、話すことなど残っていないのである。
 ミーアは途方に暮れたが、そんな彼女の部屋を一人の少女が訪問してきた。
メイリン・ホークである。

 

「あなたは……確か」

 

 意外といえば意外な訪問者に、ミーアは困惑しないでもなかったが、メイリ
ンは驚くべき提案をしてきた。

 

「私と一緒に脱出しませんか?」
「脱出?」
「えぇ、私はミネルバに行こうと思います。あなたも、ここに長くいるのは良
くないのではないかなと」
「アスランを、裏切るの?」

 

 裏切る、という言葉には非難よりも驚きが含まれていた。ミーアはメイリン
のことをアスランの腹心と思っていたのだろう。

 

「今更、こんなことをいうのもあれですけど、私はアスランの表面だけを見て
きました。彼の綺麗な部分だけを見て、彼の全てを知った気になっていた。し
いていえば、それが理由です」

 

 アスランにしてみれば何を勝手なといいたくもなるが、アスランがそのよう
にメイリンの視線を向けようと操ったのは事実であり、彼にしてみても自業自
得な一面はあるのだ。

 

「それがいいと思う。アスランのやることに疑問を憶えているのなら、あなた
は逃げるべきよ」
「……一緒には来ない?」

 

「あたしは、まだやることがあるもの。もう少しだけ、頑張ってみたいの」

 

 笑うミーアの笑顔に、メイリンは心がズキリと痛むのを感じた。メイリンは
逃げるが、ミーアは逃げない。踏みとどまれるだけの勇気も、強さも、メイリ
ンは持っていないのだ。

 

「何か、言伝のようなものがあれば聞きますけど」
「だったら、一つだけお願い。彼に、あたしがここに居ることを教えてあげて。
あたしが居ないのを知ったら、心配すると思うから」

 

 ミーアはそういって、ロッシェの名を告げた。

 
 

 こうしてメイリン・ホークがミーアの同行を諦め、ウルカヌスのデータを片
手にウルカヌスを脱出したのはそれからすぐのことであった。メイリンは事を
起こすに当たってそれなりの計画性を持って行動しており、彼女は各種様々な
偽装を施していた。彼女の計算では、小型の高速シャトルで脱出した後もしば
らくの間は気付かれないと踏んでいたのだが、ここに一つの計算違いがあった。
確かにメイリンが脱走するなどサトーやイザークといった面々には寝耳の水で
あったろうが、アスランはそれを察知していたのだ。彼は、メイリンが脱走し
たのを知ると、すぐにイザークとディアッカを呼んだ。

 

「お前たちにはビルゴを十機ばかり率いて脱走したメイリン・ホークの追撃を
行って貰う」

 

 その命令の意図に、少なからず二人は疑問を憶えた。

 

「追撃し、確保するのは当然としても何故ビルゴを十機も連れて行く必要があ
る?」
「違うぞイザーク、俺は別にメイリンを確保しろだなんて一言もいってない。
勘違いして貰っては困る」
「なに?」

 

 思わずディアッカと顔を見合わせるイザークだが、アスランは言葉を続ける。

 

「メイリンが向かう先には必ずミネルバがいる。お前たちはメイリンを追跡し、
ミネルバを発見次第ビルゴと共にこれを徹底的に叩きつぶせ」
「……貴様にしては随分と過激な命令だな、アスラン」
「今後の憂いをここで断ち切っておくのも悪くないと思っただけだ。苦戦する
ようならば、俺が後で援軍を連れて行く」
「その必要はない。必ず俺達で仕留めてみせる……だが、一つ確認しておくこ
とがあるな」

 

 なんだ、とアスランが尋ねる。

 

「脱走したメイリン・ホークだが、これはどうする? 捕らえて連れ戻すか」

 

 アスランは少しだけ表情を変えたが、すぐに戻した。

 

「いや、その必要はない。ミネルバ共々、排除してくれ。彼女の役目はもう終
わった。変わりは、いくらでもいる」

 

 メイリンが必要とされ、認められたと思っていた彼女の能力は、アスランに
とってはこの程度の物だった。そういった意味では、メイリンの判断は正しか
ったのかも知れない。

 

「わかった。すぐに出撃しよう。行くぞ、ディアッカ」
「あぁ……」

 

 ディアッカは険しい顔でアスランを見ていたが、不機嫌そうに背を向けると
イザークと共に格納庫へ向かっていった。
 残されたアスランは、所在なさげに視線を宙に向けた。

 

「メイリン、君も馬鹿な娘だ。自ら進んで、破滅への道を歩くとはな」

 

 大体、彼女は考えが子供なのだ。もう少し大人びた考えで、自分のことを理
解してくれても良さそうなものを。
 溜息を付くアスランだが、彼の考えが他者への甘えであったかどうかは定か
ではない。しかし、もし仮にアスランがメイリンに対し、自分の行為を謝罪し、
「あんなことはもう二度としない」とでもいえばそれで済んだ話であったかも
知れないのだ。

 
 

 その頃、ミネルバ艦隊とプリベンター巡洋艦が待機している宙域では、ハワ
ードの指示で何処かに出撃していたブルムが帰還し、奇妙な報告をしていた。
微弱な通信電波が、ミネルバを捜し求めているというのだ。

 

「俺が聴く限りでは女の声、それもかなり年若い声で通信は送られていた。ウ
ルカヌスとやらから脱出してきたのではないか?」

 

 一瞬、ミーアかと思ったロッシェとオデルであるが、彼女がそこまでアクテ
ィブに行動できると思えなかった。するとルナマリアが、一つの可能性を元に
発言した。

 

「まさか、メイリン?」

 

 十分考えられることだが、何故彼女が、という疑問も残る。

 

「罠、という可能性もあるな。メイリン・ホークが脱出してきたと見せかけ、
我々を誘き出す気なのかも知れない」

 

 アーサーが慎重論を唱えるが、オデルはその可能性がないように思えた。メ
イリンはミネルバを呼んでいるのではなく、探している、つまり誘き出したい
のではなく合流したいのだ。

 

「だが、アスランが脱走に気付いていれば必ず追っ手を差し向けるはずだ。ノ
コノコと出向けば、その追跡部隊と一戦交えることになるぞ」

 

 辛口な意見をするアーサーは、基本的にメイリンのことを助けたいと思って
いない。彼にとって見ればメイリンは裏切り者であり、それが今頃何の用だ、
ということになるのである。

 

「ですが、その」

 

 それを判ってるからこそ、ルナマリアも強くメイリンを助けたいという意思
を示せないでいるのだが、ここで意外な人物がその意見に賛同した。

 

「いや、助けよう。手ぶらで脱出してきたとも思えないし、何か情報を持って
いるかも知れない」

 

 ロッシェの意見はもっともであり、確かに敵の内部事情に精通しているであ
ろうメイリンを保護するのは、そういった役得があるのだ。

 

「問題は追っ手だ。恐らく、五機から十機のビルゴと、それを戦術運用する機
体がいるだろうな」
「メリクリウスとヴァイエイトか……」
「どうせミネルバや他のモビルスーツでは太刀打ちできないのだから、メイリ
ン・ホークとやらを収容した後は後方支援に回って貰おう。実践は、私とオデ
ル、そしてブルムの三人だ」

 

 基本方針としてはオデルとブルムがヴァイエイトとビルゴを抑え、ロッシェ
がメリクリウスと戦うというものだった。

 

「メリクリウスと戦うか……勝てるのか、ロッシェ?」

 

 ブルムの問いは、単純に機体性能の差を意識してのことであった。高出力の
レオンを持ってしても、格闘に優れたメリクリウスと戦うのは至難の業で、む
しろオデルに任せた方が適任なのではないか?

 

「いや、奴とは私が決着を付けねばならない……そして、必ず勝つ」

 

 グッと拳を握りしめるロッシェ。

 

「そうか、ならばこれ以上いうことはない」

 

 かくして方針は決まった。やがて、アビーから救援信号を発進するシャトル
の存在が報告され、彼らは動き出した。敵はメリクリウスとヴァイエイトが率
いるビルゴ部隊。

 

「間に合えばいいが」

 

 ハワードが意味ありげな言葉を呟きながら、彼らの出撃準備を手伝っていた。

 
 

 ウルカヌスを脱出したメイリンは、一路ミネルバを捜して宇宙を突き進んで
いた。彼女は持ち前の技術で、ミネルバがいる宙域を探し出したのだが、それ
と同時に彼女を追尾するモビルスーツ隊の存在にも気付いてしまった。

 

「まさか、アスラン――」

 

 数の多さから、自分を捕らえるのではなく抹殺しに来たのだと直感したメイ
リン。彼女は、自分がアスランに用済みと判断されたことを悟ったのだ。

 

「私も切り捨てるんですね、あなたは」

 

 ギッと唇を噛みしめるメイリンだが、この上は逃げ切るしかない。いくつか、
攪乱のための航路を録りながら逃げるメイリンだが、歴戦のパイロットである
イザークの目をごまかすことは不可能だった。そして、彼がメリクリウスのレ
ーダーにミネルバ含む船団を確認したとき、メイリンの存在は用済みとなった。

 

「さて、先にシャトルを破壊しておくか」

 

 ビームガンの標準をシャトルへと向けたイザークは、躊躇なくビームを発射
した。回避運動をとるシャトルだが、完全に避けることが出来ず、ビームが船
体を大きく掠めた。衝撃と火花が飛び散り、メイリンはコクピットの中で恐怖
に耐えた。

 

「この、ままじゃ」

 

 二射目が放たれ、コクピットでも計器類が爆発する被害が出た。メイリンは
宇宙服を着ておらず、彼女は自分の身体から血が流れ落ちるのを感じ取った。

 

「お姉ちゃん……ごめんね」

 

 姉を裏切り、仲間を裏切り、その報いが訪れたのだろうか。メイリンは迫り
来る死にたいし覚悟を決めたが、それを遮る者がいた。
 メリクリウスから放たれたビームの閃光が、より太いビームの光に遮られた。

 

「この攻撃、奴らか!」

 

 イザークが攻撃のあった方向を見ると、ハイパーランチャーを構えたレオス
の姿があった。レオスは、傍らにいるレオンにハイパーランチャーを渡すと、
ビームサーベルを引き抜いてメリクリウスに突きつけた。

 

「決着を付けよう、イザーク・ジュール!」

 

 その姿を確認し、イザークはコクピットの中で不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ディアッカ、ミネルバとその他諸々はお前に任せる」
『イザーク、お前な……』
「俺は奴と、ロッシェ・ナトゥーノと戦う!」

 

 ビームサーベルを引き抜き、メリクリウスが飛んだ。ロッシェもまたレオス
のマントを翻し、これを迎え撃った。

 

「この前のようにはいかんぞ、イザーク!」
「今日こそは貴様の息の根を止めてくれる!」

 

 ビームサーベルの刀身が激しくぶつかり合い、二機が激突する。
 互いの誇りとプライドを賭けた戦いが、開始された。

 

 この戦いに先だって、オデルは自身の機体に改造を施していた。ただのジェ
ミナスではビルゴと戦うのは力不足と判断し、アスクレプオスへと強化を施し
たのだ。

 

「パーツを持ってきていてよかったが、どこまでやれるか」

 

 プラネイトディファンサーによって強力な防御力を誇るビルゴに対し、アス
クレプオスは接近戦を重視した機体である。オデルはパイソンクローでビルゴ
のディフェンサーを突き破ると、ビームソードの一撃でこれを斬り裂いた。

 

「何、ビルゴが撃破された!?」

 

 対応するディアッカは、見たこともない機体の登場に驚くが、彼もまた優秀
な指揮官であった。残った九機のビルゴを三機編成の編隊とし、アスクレプオ
スの動きを封じる構えを見せた。

 

「俺のことを忘れて貰っては困る!」

 

 そこにブルムがハイパーランチャーで奇襲を掛けるが、砲撃ではビルゴを倒
すことは出来ない。

 

「ブルム、ビルゴⅡはビームサーベルを持っている。接近戦の際は注意しろ」
「判っている!」

 

 接近してきたビルゴにマシンキャノンを叩き込むレオンであるが、プラネイ
トディファンサーの前に尽く弾かれる。ビームサーベルの斬り合いにおいても、
一機と打ち合う隙に他の機体に銃撃される恐れもあり、ブルムは神経を研ぎ澄
ませながら戦っていた。
 すぐに一機の撃破に成功したオデルも、ディアッカが積極的に攻勢を仕掛け
てきてからは防戦一方であった、ヴァイエイトのビーム砲は如何にアスクレプ
オスといえば軽視は出来ない。

 

「PXを使うか……だが」

 

 オデルは砲撃するヴァイエイトの動きを、奇妙に鈍いと感じていた。無論、
隙などは一切無く、こちらの先手先手を読んでくるパイロットは見事だと思う
が、どこかその動きに違和感を感じていた。
 まるで、パイロットが機体によって動かされているような。

 

「まさか、そんな」

 

 オデルの脳裏に、以前ハワードから聞いたことのある一つのシステムが思い
浮かんだ。PXシステムとはまるで違う観点で設計されたそのシステムの名は、
ゼロシステム。もし、あのヴァエイトやメリクリウスに同じものが積み込まれ
ていたとしたら?

 

「これは早々にカタを付けた方が良さそうだ」

 

 ラビットショットを連射し、ヴァイエイトを牽制するオデル。近距離による
接近戦を得意とするアスクレプオスと、長距離砲撃のみに特化したヴァイエイ
トの戦闘は、ほとんど間合いの取り方で全てが決まる。ディアッカはゼロシス
テムに苦痛を感じながらも、ビルゴを呼び寄せ、ヴァイエイトに足りない防御
面を補わせた。

 

「異世界の機体をここまで乗りこなすとは、さすがはエース!」

 

 三機のビルゴがプラネイトディファンサーでヴァイエイトを守り、その間隙
を縫ってヴァイエイトが砲撃を仕掛ける。さらに別の三機がアスクレプオスの
後方に回り込んで、射撃と砲撃を加える。
 アスクレプオスもレオンもよく戦ってはいるものの、全体的な戦局としては
不利である。この戦闘をただ見ているだけしかできないミネルバ艦隊は、歯が
ゆい思いを感じ始めていた。

 

「このままじゃあ、オデルさんたちがやられちまう!」

 

 シンは、出撃したい気持ちに駆られたが、絶対に出撃するなとオデルに固く
戒められている。陽電子砲クラスの攻撃を持ってしても、ビルゴには通用しな
いのだ。シンが出撃したところで、すぐに墜とされるのが関の山だ。
 だが、ここにきて一つの問題が発生した。というのも、メイリン・ホークの
乗ったシャトルが機関部を被弾し、戦闘宙域を離脱できないでいるというのだ。
オデルたちにはフォローに回るだけの余裕がなく、このまま流れ弾に辺りでも
したら取り返しが付かない。早く回収したほうが良い。

 

「私が行くわ。メイリンは私の妹よ、私には、あの子に対して責任がある」

 

 一人で行くことはないと、シンやシホが助力を申し出るが、

 

「あんまり大勢で行くと敵に気付かれるし、そうなったら面倒でしょ? 大丈
夫、あたしだって赤服よ。そんな簡単にやられないわ」

 

 結局、ルナマリアが単機で出撃することとなった。その際、インパルスでは
なくザクを選んだのは、乗り慣れた機体で作戦成功率を上げるためか、それと
も不測の事態が起こったとして、インパルスを失うわけにはいかないと判断し
たのかは、定かではない。
 しかし、これによってルナマリアは異世界のモビルスーツの戦いという、間
近で観られることのない戦いをモニター越しではあるが観ることが出来た。

 

「凄い……機体の動きも、パイロットのテクニックも、私なんかじゃ到底及び
も付かない」

 

 メリクリウスとレオスの戦闘は、激しい剣戟の応酬だった。ロッシェはプラ
ネイトディファンサーの鉄壁を未だに破れずにいたが、イザークもロッシェを
倒す決定打を見いだせずにいた。以前のようにディフェンサーネットに捕らえ
れば話は早いが、同じ手に何度も引っかかるような相手ではない。機体性能に
物をいわせガンガンと攻めたてるイザークだったが、ロッシェはそれを上手く
受け流していた。

 

「さすがに強いが、攻撃が少し乱雑だな。まるで興奮した牡牛だ」

 

 あるいは、イザークがそこまで高ぶるほど自分を嫌っているということか。
だとしても、負けてやる理由にはならない。

 

「勝負は一瞬。奴が痺れを切らして、ディフェンサーネットを使用してきたと
きだ」

 

 その一瞬を持って、レオスの出力を限界突破させる。もうこれしか、メリク
リウスを倒す方法はない。
 ロッシェとイザークの一騎打ちが続く中、オデルとブルムもコンビプレーを
見せ始めていた。単機でビルゴと渡り合うのは難しいと判断したのか、オデル
が即興で作戦を立て、ブルムがそれを了承したのだ。

 

「一機、確実に撃つ!」

 

 ブルムが吠えると同時にハイパーランチャーが、ビルゴに撃ち放たれる。ビ
ルゴはこれをプラネイトディファンサーで防御するが、それと同時にアスクレ
プオスが接近し、斬撃を加えるのだ。長距離砲で動きを封じている隙に別の機
体が攻撃を仕掛けるという単純な戦法であるが、こういう乱戦においてはこの
手の戦法が功を奏する場合が多い。ビルゴは瞬く間に二機が撃破され、ディア
ッカは攻勢による勝利を一時断念した。

 

「正面の四機はビームライフルによる射撃で敵の動きを封じろ! その隙に残
りの三機が敵機の後背に回れ!」

 

 自身もビームキャノンで砲撃を加えながら、アスクレプオスとレオンの動き
を封じ、その場に釘付けにする。ディアッカは、イザークの許可を取ることな
く、ウルカヌスに増援の打診をした。このままでも勝てないことはないと思う
のだが、三機もビルゴを失ったのは想定外である。イザークがロッシェを倒し、
いつ援軍に駆けつけるかも判らぬ今、ディアッカは守勢による戦線維持を行っ
て、増援部隊と呼応した殲滅作戦を立案した。

 

 当然、敵の攻撃に積極性が無くなったことはオデルも気付いていたが、こち
らを近づけまいと弾幕を張るビルゴに対し攻め倦ねているのも事実だ。

 

「戦術運用されると、モビルドールもここまで手強いのか」

 

 以前戦ったときは、文字通り人形に過ぎなかったビルゴであるが、アスラン
は高度な戦術プログラムを施したらしい。ただの人形とは違う優れた動きをビ
ルゴは見せている。

 

『オデル、ビルゴの一機がシャトルに向かったぞ!』
「なに!?」

 

 ブルムの通信を受けて確認すると、確かにオデルたちの後背に回ろうとして
いたビルゴの一機が、メイリン・ホークの乗ったシャトルに向かっている。シ
ャトルには赤色のザクが牽引用のパーツを装着させ、今まさに離脱を計ってい
る最中だ。

 

「まずい、このままでは」

 

 ディアッカはビルゴの一部をシャトル撃沈に向かわせることで、オデルたち
を救援行動を取らせ、そこをビルゴとヴァイエイトの砲火で襲うつもりであっ
た。つまり、陽動である。

 

「PX――っ!?」

 

 システムを使い、救助に向かおうとするオデルであるが、突如としてその動
きを止めた。モニターに、新たな反応がある。高速で飛来する五つの光は、敵
の援軍……いや、これは。
 その頃、ミネルバからプリベンター巡洋艦に移乗していたシンが、ルナマリ
アの救援に向かおうと緊急発進を申し出ていた。

 

「早く! ルナとメイリンが危ない!」
「無茶いうな、その機体はまだ調整が終わってない!」

 

 ディック・ヒガサキが、シンに落ち着くよう宥めるが、そんなことをいって
いる場合ではない。

 

「ルナとメイリンを見殺しになんかできるか! 少しぐらい調整が済んでなく
たって、どうにかする!」

 

 だから出撃をと叫ぶシンに対し、部下からの報告を受けたハワードが、その
必要はないと告げた。

 

「どうやら、間に合ったらしい。…………味方が来た」

 
 

 メイリンがシャトルのコクピット内で負傷していることを知ったルナマリア
は、すぐにメイリンをミネルバに運ぶため作業を始めた。

 

『お姉ちゃん……怒ってないの?』

 

 弱々しい声で、メイリンが尋ねる。

 

「怒ってるわよ、ひっぱたいてやりたいぐらいにね。だけど、怒るのもひっぱ
たくのも、相手が生きてるから出来ることよ。私は、死んだあんたにいう言葉
は何もないけど、生きてるあんたには色々と、いっぱい言うことがあるの」

 

 だから、絶対に助ける。
 ルナマリアは唇を噛みしめながら作業を続けるが、そこに微弱ではあるもの
のレーダーが敵機の接近を告げた。ビルゴはレーダーに映りにくく、反応がな
ければルナマリアは奇襲を受けていたかも知れない。

 

「こんな時に!」

 

 携帯してきたビーム突撃銃を構えるザクであるが、こんなものがどれほど通
用するのかは判らない。多分、牽制にもなりはしないだろう。

 

『お姉ちゃん、逃げて! ザクじゃその機体には……』

 

 死ぬなら自分だけでいい、そんな想いでメイリンは叫ぶが、ルナマリアが叫
び返した。

 

「私はねぇ、あんたのお姉ちゃんなのよ! 妹を見捨てるなんて真似、出来る
わけないでしょうが!」

 

 ビームライフルの標準を合わせ、ビルゴに向かって発射するザク。ビルゴは
この攻撃に対し、プラネイトディファンサーを展開するわけでも、回避行動を
取るわけでもなく、完全に無視をした。迫り来るビームが危険物ではないかの
ように、そのまま直進をしたのだ。三連斉射されるザクのビームを機体に受け、
まったくの傷も、衝撃すらも追わずに突き進むビルゴは驚異であり、ビルゴが
放ったビームはザクの四肢を吹き飛ばした。

 

「くっ、この!」

 

 負けるわけにはいかない、死ぬわけにはいかない、ここでやられたら、メイ
リンが危ない!

 

「だけど……これじゃあ」

 

 もう、ダメだ。
 ルナマリアが全てを諦めようとしたその時だった。
 巨大な、巨大としか形容しようのない閃光、いや、爆光がビルゴを吹き飛ば
した。瞬間的に、プラネイトディファンサーを展開しようとした機体を、ザク
のビームを受けても掠り傷一つつかなかった機体が、耐え難いパワーの前に瞬
壊していく。

 

「なによ、これ…」

 

 攻撃のあった方向を、ルナマリアは見た。
 五つの光が、モビルスーツの機影が、そこにはあった。

 
 

「どうにか間に合ったようだな」

 

 その機体は竜の意匠か、ナタクの名を持つ武人が一機。
 パイロットの少年が強い眼差しで戦場を見ている。

 

「えぇ、プリベンター巡洋艦も無事みたいですね」

 

 豪快な大剣をかかげ、力強さを誇る機体が一機。
 女性的な優しさを声に秘める少年が味方の無事に安堵する。

 

「敵機はビルゴと、メリクリウス、ヴァイエイトのカスタム機だ。既にプリベ
ンターのパイロットたちが交戦をしている。支援するべきだろう」

 

 全身火器、機体はさながら動く弾薬庫とも称される一機。
 冷静に戦況を分析しながら少年が仲間に確認を取る。

 

「異世界にまで来てビルゴと戦闘とはね。まあいいか、俺達もこれで戦い納め
だ。そうだろ、ヒイロ?」

 

 黒衣を纏う機体、死神とあだ名されるものが一機。
 気さくな笑いにどこか影を潜める少年が傍らにある少年に言葉を掛ける。

 

「これよりビルゴ及びカスタムモビルスーツを排除する」

 

 ビルゴを吹き飛ばすは機体が持つ砲口、白き翼を広げる姿は天使が一機。
 少年が、敵の排除を決断する。
 ヒイロ・ユイ、デュオ・マックスウェル、トロワ・バートン、カトル・ラバ
ーバ・ウィナー、張五飛。ガンダムチームが、ここに集結した。

 

                                つづく