Top > W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第66話
HTML convert time to 0.016 sec.


W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第66話

Last-modified: 2008-04-06 (日) 17:26:18

 世界統一国家軍がアスラン・ザラ率いるインフィニットジャスティスと戦う
ために集めた兵力は、総力戦に相応しいだけの陣容、物量があった。

 

 まず、主力となるモビルスーツ部隊は地球及び宇宙からかき集められた4000
機の機体数を有している。機種こそ、ウィンダムやダガーL、旧式のダガーや
水中用モビルスーツを宇宙用に改修した機体など様々であるが、それでも数だ
けはインフィニットジャスティスの十倍以上である。さらにメビウスやコスモ
グラスパーを中心とした戦闘用支援艦載機が800機。これにより、世界統一国
家軍は総勢4800機の機動兵力が主戦力となった。
 対するインフィニットジャスティスの戦力は、主力機動兵器として300機の
モビルドール、ビルゴⅡであるが、この時点で敵との戦力差は16倍にも及ん
でいる。これにザフトから下ったモビルスーツや戦闘用艦艇も加わるが、そ
れでも戦力は500を超えることはない。

 

 普通ならば数で勝る統一国家軍の圧倒的勝利に終わると思われるこの戦闘で
あるが、互いの司令官ムウ・ラ・フラガは自軍の不利を、アスラン・ザラは自
軍の有利を確信していた。無論、数の優劣は存在するはずだが、それをはね除
けるほどの強さをビルゴは持っている。戦闘はまだ始まっていないが、ビルゴ
がこの世界のモビルスーツに後れを取るなど考えられないのだ。

 

 しいていえば人的資源、所謂人材の欠乏がインフィニットジャスティス側の
弱点であったはずだと主張する者も後世の戦史家などには存在するが、確かに
イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマンという二人のエースパイロット
を最終決戦前に失うという失態を犯したインフィニットジャスティスは優秀な
指揮官がほとんどいないという状況にあった。だが、それをいうなら統一国家
軍にしてみても、ファントムペインが誇るエースパイロット、スウェン・カル
・バヤンなどは既に戦場で散っており(この時点でスウェンは戦闘中行方不明
という認識であった)エース級のパイロットは軒並み戦死している。

 

 ムウは全ての差を数で埋めようとしたが、アスランにはそれを埋めるだけの
数はなかった。ザフトからの賛同者には、それなりに腕の立つ者などもいたの
だが、それを見極める前に戦闘に突入してしまったのだ。

 

「これがアスラン・ザラの行いが単なる突発的なテロ行為に思えてしまう要因
の一つである。無論、地球側の対応が素早かったのもあるが、アスランは目先
の戦闘に捕らわれるあまり、長期的な地盤作りを怠った」

 

 このように酷評する歴史家の意見は正しくもあるが、認識の違いでもある。
長期的に戦線を支えるためにも、アスランはプラントを武力制圧するべきであ
ったはずだが、アスランとしては自身がテロリストであるとは思っていない。
だから武力によって強引に制圧など出来ないのだ。彼としては、プラント市民
に自己の存在を受け入れて貰う必要があり、それが自己と組織の正当性を主張
するのに最も必要なのだ。自己正当化などいくらでも出来るが、必要なのは他
者から認められることである。

 

 ムウ・ラ・フラガが、やや強引にではあるが世界から認められて出陣したの
に対して、アスランは未だプラント全土の指示は受けていないのだ。

 
 
 

         第66話「倒すべき敵」

 
 
 

 両軍の最終決戦が行われようとしている中、完全に出遅れたのがザフト宇宙
軍である。アスラン・ザラへ賛同し、軍内部からの流失者の発生や、上層部及
びプラント最高評議会の軍事レベルによる停滞は、彼らの混乱を象徴している
かにも見える。

 

 そんな折、軍規や秩序、それら全てを無視し、あるいは放棄して行動を起こ
したのはミネルバ率いる独立艦隊である。ザフトの宿将ウィラードを指揮官に
据えた彼らは、動こうとしないザフト軍、対応を示さない最高評議会を見限っ
て、独自の行動を開始したのだ。

 

「軍閥化の開始だな。不正規兵、イレギュラーズが何と多いことか」

 

 ウィラードがこのように皮肉ったのは、ゴンドワナ奪取後に艦隊を率いてミ
ネルバと合流した際、新たに増えた異世界の戦士たちを紹介されたからだろう。
だが、これによってアスランに対して勝算が生まれたのならば、彼らの存在は
歓迎されるべきであろう。
 ウルカヌスへ潜入し、無事にラクス・クラインことミーア・キャンベルを奪
還したロッシェによってダイダロス基地の驚異を知らされたウィラードは、す
ぐにこの攻略作戦の立案に入った。当然、異世界の戦士であるヒイロらの協力
を前提として作戦を立てようとしたのだが、これに対してヒイロたちが一切の
協力はしないという申し出を行った。

 

「どういうことだ? 一緒に戦ってはくれないというのか」

 

 困惑するウィラードやタリアなどに、ヒイロは協力を拒否する理由を説明し
始めた。

 

「ビルゴ及びウルカヌスと戦えというのなら、俺達は言われなくても戦う用意
がある。何故ならモビルドールは俺達の世界で作られた兵器であり、それがこ
の世界に脅威を与えているのなら責任を持って排除する必要があるからだ」

 

 しかし、それ以外だと話は別だ。

 

「俺達はこの世界の人間じゃない。歴史観も、価値観も、全く異なるものを持
っている。俺達の世界にコーディネイターなど存在しないし、そこから生まれ
るナチュラルとの確執もない。だから、俺達がこの世界で行われる戦争に介入
することは出来ない」

 

 ここでヒイロは言葉を切った。これで説明は十分だと判断したのだが、カト
ルがもう少し説明するべきだと思って言葉を引き継いだ。

 

「つまり、僕たちは自分たちの世界で得た価値観において物事を判断すること
は出来ますが、異世界のそれで判断するべきじゃないと思っているんです。単
純に言えば、僕らは戦争を行っている三者、どれが正しいとも明言することは
出来ない。それぞれが自分たちに正義を持っているでしょうし、よそ者の僕ら
がそれを限定するわけにはいかないんです」

 

 戦争は、この世界で起こっている出来事であり、それを異世界の人間である
彼らがとやかく言う筋合いはないし、軍事的に介入するなど以ての外である。
それは、この世界を生きる人々が解決するべき問題なのだ。
 意見をまとめるようにトロワが口添えをする。

 

「俺達が俺達の価値観や認識で、この世界の何が間違っていて、どこが正しい
などと言うのはナンセンスだ。自分たちと異なるから他者を否定することほど、
愚かなことはない」

 

「まあ、そういうことだ。悪いけど、ビルゴとウルカヌスの問題以外で俺達は
手を貸さないよ」

 

 デュオがそういって彼らの意見を締めくくった。

 

 当てが外れたのはザフト側であり、アーサー・トラインは、ハワードら先に
異世界に来た人間を通して説得するように試みさせるべきだと主張したが、タ
リアがこれを否定した。

 

「彼らの言い分は最もよ。事情を知らない人間に、それも異世界の人間にあれ
これ言われるのも、考えてみれば気分が良いものじゃないわ。第一、自分たち
の世界の揉め事を自分たちで解決できないなんて、甲斐性がなさ過ぎるわ」

 

 まあ、ハワードやロッシェにしてみても、ザフトに協力していたのには個々
の理由と事情があり、思想的なものではない。例えばロッシェは、宇宙空間で
機体と共に漂流していたところをミーアに救助され、プラントの世話になった。
騎士である彼に言わせれば、これは借りであり恩がある。借りを返すために、
彼は剣を振るってプラントを守ったのだ。現に彼が出撃した回数はそれほど多
くない。次にオデル・バーネットの場合は、一般市民が軍部によって虐殺され
るという凄惨な光景を目にして、自己の良心的問題からザフトに協力していた。
これは思想的なものと言えそうだが、人としては当然であるとも言える。ハワ
ードら技術者に関して言えば、プラントの厄介になる以外、この世界で生きて
いく術がなかったからであり、これこそ仕方がなかった。

 

 それに比べてガンダムチームはザフトやプラントに借りもなければ、オデル
のように心を動かされる要因もない。精々、ハワードらの世話をしてくれたこ
とに感謝するぐらいだが、だからといって肩入れするつもりはない。彼らの力
を使えば、プラントに一方的な勝利を与えることは確かに可能だが、異世界の
人間である彼らにはプラントが正しいとも間違っているとも判断できない。

 

 ヒイロや五飛がこの世界の歴史や成り立ちについて聞くことを嫌ったのは、
一方的な価値観を植え付けられるのを嫌ったためである。プラント側で生活し
ていたハワードらの説明では、客観的な物言いであっても、どこか偏りが生じ
ているからだ。

 

 自分のケツは自分で拭け。極端な話、ヒイロたちはそう言っているのである。
彼らからしてみれば、自分の世界はこうであるから、この世界は間違っている
などと高々と言う輩こそ傲慢なのだ。違う世界なのだから、主義主張、思想な
どに差違があるなど当たり前ではないか。特にこの世界はナチュラルとコーデ
ィネイターという人種的な問題も絡んでいるのだ。それを、昨日今日この世界
に来た人間が何を偉そうに語るというのか。

 

 それをウィラードやタリアも理解したからこそ、無理強いはしなかったのだ。

 
 

 一方、この世界の主義主張を元に戦争を行おうとしているのがムウ・ラ・フ
ラガとアスラン・ザラである。
 世界統一国家軍総司令官となったムウは、大艦隊を率いてウルカヌスへと進
行し、その眼前にウルカヌスを捕らえていた。本来なら指揮官として総旗艦ガ
ーティー・ルーの指揮座にいなければならないはずの彼だが、何と自らモビル
スーツに乗って出撃した。専用機である紫色のウィンダムは4000機のモビルス
ーツの先頭にあって味方を鼓舞している。

 

「俺みたいな奴の指揮下で戦ってくれる奴らがいるなら、俺も責任を果たさな
くちゃ行けないだろう」

 

 そう言って周囲の反対を押し切り、前線へと出撃したムウであるが結果とし
てそれは多くの兵士の士気を高めることとなった。彼らは極度の不安や緊張を
抱えてはいるが、誰一人として敵に負けるつもりはなかった。彼らは自分たち
が地球を、世界を守るために立ちあがった最後の兵士たちであるという認識が
あった。

 

 多くの者は、家族など愛する者への別れを済ませてこの場に来ており、地球
側の後がないという認識を強めている。艦隊司令官に就任したイアン・リーは
出撃前、総司令官のムウに対して、オーブへ赴きかつての仲間に会ってきては
どうだと提案した。それぐらいは許されても良いはずだと考えたのだが、ムウ
はそれを拒んだ。

 

「イアン、俺は一度逃げ出した人間で、死んだ人間なんだ。このどうしようも
ない世界を変えるためにムウ・ラ・フラガなんていう死んだ人間の名前を持ち
出しはしたが、俺は結局の所ネオ・ロアノークなんだよ。俺がムウとして、か
つての仲間に会う理由も権利も、一切持ち合わせちゃいないんだ」

 

 彼はネオとして手に入れたもの、失ったものへの精算をするために立ちあが
ったのかも知れない。イアンはそう考えながらも、何も言わなかった。ムウも
また死ぬつもりで戦いの場に臨むのだと確信したからである。
 兎にも角にもムウは誰と会うこともなく戦場に赴いた。全世界が注目する中、
最後の決戦を挑みに来たのである。

 

 敵軍進行の方を受けたアスラン・ザラは、部下や兵士を集めて最後の演説を
行った。

 

「世界統一国家は、統一こそが世界に平和をもたらすと言っている。まさか、
地球側がこのようなことを言い出すとは思わなかった。貴官らはみな、憶えて
いるはずだ。かつて、地球には地球連合という名の組織が存在し、多くの国が
これに加盟していた。では、その連合は戦争を廃し、世界に平和をもたらして
いただろうか? 否、そんなことはただの一度もなかった! 彼らは武力を率
いてプラントに幾度とない攻撃を仕掛け、ザフトと果てしない戦闘を繰り返し
てきた」

 

 それだけではない! と、アスランが叫ぶ。

 

「地球において連合に属さなかった国々、ガルナハンなどユーラシア西側の地
域はどうであったか? 彼らは統一という名目の元、これを支配しようと蛮行
を行った。そんなことを繰り返してきた地球人類が、統一だ平和だなどと偉そ
うに語る資格があるものか! これは最早、国家を統一するなどと言う次元の
問題ではない。人類のあるべき姿についての問題なのだ。言ってしまえば、人
類は地に足を着けたときから戦いを繰り返してきた。その長い歴史がそれを証
明する!」

 

 民族間、国家間に渡る戦争が幾千年もの間、血で血を洗う戦争を繰り返して
きた。人類は、本能として戦う意思を持っているのだ。

 

「では、諦めるしかないのか? 人類は戦わなければ生きていけない愚かな種
族だと、諦めるしかないのか? 違う! 優秀な貴官らは既に気付いているは
ずだ。我々コーディネイターこそが、唯一人の持つ闘争本能を制御し、世界を
平和にすることが出来る新たな人類なのだ。遺伝子操作によって作られた我々
は優秀だ。優秀であるとナチュラルに嫉妬心を抱かせるほどに、他者も認める
優秀、有能な存在なのだ! そうであるが故に、我々は多くの苦行を背負って
きた。ナチュラルに迫害され、攻撃され、その痛みの傷跡がある。だからこそ、
コーディネイターは戦うことの悲惨さと、愚かさを知っているのだ」

 

 それでは何故、アスランは立ちあがったのか?
 戦うことの愚かさを知るコーディネイターが、なぜ戦うのか。

 

「戦いを望む旧人類、ナチュラルどもがその圧倒的武力を持って我々を支配し、
醜い嫉妬心故に滅ぼそうとするからだ。こんなナチュラルに怯えるコーディネ
イター、この日々を、何とかすることは出来ないのか? その為にはもう、地
球を、ナチュラルの隅かであり、全ての闘争の中心を破壊し、排除せねばなら
ないのだ!!!」

 

 咆吼のような兵士たちの声がウルカヌスに響き渡る。皆、アスランの主張に
賛同して集まったものばかりだ。中には打算から彼に協力している者もいるの
だろうが、少なくとも異をとなる人間は一人もいない。
 彼の演説は一応、世界に向けても発進されているのだが、これを受信したム
ウは苦笑しながら呟いた。

 

「前々からあいつは根暗だと思ってたが、ここまで悲観的とはね。俺はもう少
し、人間ってのに期待してるんだけどな」

 

 やがて、ウルカヌスからビルゴが出撃してきた。

 

「さて、悩める青少年に見せつけてやろうじゃないか。俺達の生き様を……全
機、出撃。敵機動兵器及び衛星を破壊しろ!」

 

 戦闘が、開始された。

 
 

「どうやら、戦闘が開始されたようね」

 

 偵察隊の報告を受けたタリアは、眼前に近づくダイダロス基地を見つめてい
た。ダイダロス基地を攻略するにあたって、タリアは自ら作戦を立案し、ウィ
ラードがそれを了承した。その作戦とは、ウィラード率いる艦隊をレクイエム
中継ポイントに向かわせ敵の注意を引きつけ、その隙にミネルバが単艦でダイ
ダロス基地に向かってレクイエムを破壊するというものであった。

 

 ヒイロたち異世界の戦士たちはウルカヌスから遠からず近からずという位置
で待機し、ミネルバからのレクイエム破壊の連絡を受け次第、出撃をする。そ
の為、ミネルバのダイダロス基地攻略が早ければ早いほど良い。基本戦略とし
ては、シンとレイの二人が出撃し、基地にいる守備隊と戦闘を行う。その隙に
ルナマリアが別ルートから基地内部に潜入し、レクイエムの制御システムを破
壊するのだ。
 尚、この作戦行動が行われる前、ゴンドワナと共に帰還したレイ・ザ・バレ
ルは新しい機体を手に入れている。

 

「レジェンド?」

 

 ミネルバの格納庫にある真新しい機体を見ながら、シンが尋ねた。

 

「あぁ、ギルが独自に開発し、ゴンドワナに保管していた機体らしい」

 

「議長が……」

 

「この機体は、ギルなりに異世界の技術を取り入れて作った機体らしい。俺の
ために作られた物ではないが、俺はこれに乗って戦いたい」

 

 その言葉に、シンは僅かの間無言になり、尋ねるように口を開いた。

 

「アスランと、戦うつもりなのか?」

 

 シンもアスランと決着は付けたいのだが、レイにとってアスランは親の敵に
等しい存在である。もしレイがアスランと戦いたいというのなら、残念だがこ
こは譲るべきであろう。

 

「いや……俺はアスランと戦うつもりはない。それは、お前の役目だ。シン」

 

「レイ、どうして?」

 

 戸惑うシンであるが、ふいにレイが普段と異なる表情を、どこか寂しげで虚
しさを含んだ表情をした。

 

「シン、少しだけ昔の話をして良いか」

 

「昔の?」

 

「そうだ。俺の、俺の親の話だ」

 

 その男は、生まれたくて生まれたわけではなかった。彼は、人が人と交わっ
て生まれ落ちた命ではなかった。彼は一人の人間の願望によって生み出された
クローンであり、その人間の全てを引き継ぐために人工的に作られた存在であ
った。彼は物心付いたときには、既に自分の境遇について受け入れていた。彼
には自分を作った男の後継者になるという使命があったからだ。目的もなく作
られたのならともかく、目的があるならそれを果たせばいい。

 

 少年時代の彼は、自分に出来るあらゆることに努力をした。彼の遺伝子提供
者である男の期待に応えるため、勉学に励み、自由など一切存在しない毎日を
ひたすらに送っていた。それは傍目には過酷に見える状態であったが、少年は
耐えた。何故なら、それが自分の作り出された理由だったのだから。

 

 そんな日常に破局が訪れたのは、それからすぐのことであった。

 

「馬鹿な、遺伝子劣化に欠陥があるなど、私は聞いていないぞ!」

 

 少年を生み出した研究機関から届いた報告。少年はクローンとして致命的な
欠陥を帯びている可能性が高いという報告書に、彼の遺伝子提供者は顔色を変
えた。言ってしまえば、自分が老人になる頃には少年は死んでいるかも知れな
いのだ。そんな存在が、後継者たり得るはずがない。

 

 一個人のエゴと、可能であると自己の能力に慢心した研究者たちによって作
られた少年の、最初の人生が終わりを告げた瞬間だった。彼を後継者と考えて
いた男は欠陥を抱える彼を見限り、彼に僅かな金銭を渡して屋敷から追放し、
改めて自身の血を分けた息子を後継者に据えると発表した。それまで横暴で傲
慢だった男も、クーロン計画が失敗したことで気落ちしたのか、家族との接し
方を考え直すようになった。

 

 しかし、ちょっと待ってくれと言いたいのは作られたクローンの少年である。
勝手な理由で作られ、勝手な理由で捨てられ、では自分の存在とは何なのだ。
親から生まれたわけでもない、人に作られた自分の存在に何の意味があるのだ。

 

「欠陥があるから捨てるのか。私は、欠陥品だから捨てられたというのか」

 

 自分は人間のはずだ。クローンであっても、血が通い、肉のある人間のはず
だ。作られたくて、生まれたかったわけでもないのに、この仕打ちは何だ。
 少年の中に一つの感情が生まれた。醜く蠢き、燃え上がるそれは復讐心であ
った。存在矛盾を抱えた欠陥品である自分を生み出した、作り出した相手に対
する復讐を、彼は誓ったのだ。そうしなければ、彼には生きるだけの理由も目
的もなかったのだから……

 

 欠陥品として少年を捨てた男とその一族に対して、少年は屋敷に火を放つと
いうあからさまな行動に出た。結果、彼の遺伝子提供者たる男とその妻が死ん
だが、息子は生き残った。だが、子供一人で何が出来るわけもないと放置し、
少年は当面の復讐を果たした。

 

 たった一人、死ぬ者狂いで生きていく中、少年は青年となり、プラントへと
移住した。この頃から既に、彼は自身の身体に不調を感じるようになってきて
いた。身体に感じる不調は日に日に増すが、医者には行けなかった。彼はあく
までコーディネイターとしてプラントに在住しており、精密検査などすれば自
分がクローンであり、しいてはナチュラルであることがばれてしまう。

 

 苦悩した彼は、自身の体調の不良を知りながらも、それを我慢する生活を送
り続けたが、それが長く続くわけもない。やがて限界に達し、倒れてしまった
彼を、一人の男が助けた。
 その出会いは偶然だった。たまたま街を歩いていた男が、彼が道ばたで崩れ
落ちるように倒れたのに気がつき、駆け寄ったのだ。医者を呼ぼうとする男に、
彼は必死で医者を呼ぶなと懇願した。困惑した男は、仕方なく地上車を拾って
自分の自宅へと運んだ。

 

「私は、デュランダル。ギルバート・デュランダルだ」

 

 デュランダルと名乗った男は、プラントにある大学に勤める若い学者であり、
遺伝子学を専門に研究しているらしかった。遺伝子学という言葉に興味を惹か
れた彼は、信じて貰えるかわからないが、という前置きの元、自身の身体の秘
密を喋ってしまった。自暴自棄になっていたからかも知れない。自分自身の人
生や、存在理由に。

 

 話を聞いたデュランダルは、始めこそ驚きを隠せないと言った表情をしてい
たが、すぐに納得したように頷き始めた。

 

「そうか……君が、あの実験の」

 

「なんだ? 私を知っているのか?」

 

 彼はデュランダルの反応に疑問を憶えるが、デュランダルは彼のことをよく
知っているというのだ。

 

「かつて、メンデルというコロニーがあった。今はもう閉鎖され破棄されてい
るが、そこが君の生まれ故郷だ」

 

「どうして、それをあなたが知ってるんだ」

 

「私は、そこの研究員だったことがあるんだよ。辞めてしまったがね」

 

 メンデルコロニーは、元々医療技術の発展を目指して作られた研究施設であ
るはずだった。それがだんだんと一般には公に出来ない研究など、裏の仕事を
得るようになっていった。
 研究者たちはほとんどがマッドサイエンティストと言っても過言ではない研
究狂いであり、人としてどこかがおかしかった。研究者たちの中でも若かった
デュランダルは、そんな彼らにある種の呆れと怯えを覚えたものである。

 

「あのコロニーの研究者たちは、一つの実験を試みた。遺伝子操作をすること
で通常の人間よりも遥に優れた能力を持つことになるコーディネイター。その
中でも、最も優れた最強を作り上げてみたいと」

 

 最強のコーディネイター。遺伝子操作などではなく、遺伝子その物から作り
上げる、史上最強の存在。彼らはまるで、子供が空想のノートに書き記すスー
パーロボットを実際に作るような感覚で、その研究に没頭し始めたのだ。
 そして、その研究のスポンサーとなったのが、彼の遺伝子提供者たる男だっ
たのだ。

 

「では、私はその最強のコーディネイターなのか?」

 

「違う、そうじゃない。君はクローンだ。それは間違いない。君が作られた理
由も、今話してあげよう」

 

 ある日、デュランダルは研究主任たる研究者から驚くべき話を聞かされた。
何と、スポンサーである男のクローン人間を作るというのだ。コーディネイタ
ー時代となった今でも、クローンを作ることは犯罪であり、例えそれが出来た
としても、作ってはいけないのだ。

 

「作らなければ、もう研究費用は出さないといっているんだ。わかってくれ」

 

 そんな論調で他の研究者たちを説得した主任は、最強のコーディネイターを
作り上げる『片手間』にクローン人間の製作を開始した。
 そして出来たのが……

 

「私と言う分けか」

 

 かすれた声が、彼の口から出てきた。彼は今まで、自分がどのようにして誕
生したのかを知らなかった。富豪であった彼の遺伝子提供者たる男が金銭を使
って作らせたのだとは思っていたが、まさか、こんな、

 

「私は最強のコーディネイターの片手間に、ついでに作られたというのか」

 

 作るために、作り上げるために、仕方なく作った。それが、彼。 
 項垂れる彼の姿を見ながら、デュランダルは幾ばくか同情を込めた視線で見
つめながら言葉を続けた。

 

「その後、私はメンデルを離れたのでそれほど詳しくは知らないんだが、メン
デル内で行われていた研究は完成こそしたが、その続きが行われることがなか
った」

 

「欠陥が見つかったからか」

 

「……そうだ。君の遺伝子提供者が、君に見つかった欠陥を理由に資金の提供
を停止したんだ」

 

 研究者たちは大いに困った。金がなければ研究は続けられず、困った彼らが
取った方法は、ある意味でろくでもない、愚かしい真似だった。

 

「もう一度クローンを作れば、今度はより完璧なクローンを作れば、認めて貰
えるのではないか?」

 

「まさか、また作ったのか?」

 

「そうだ、作った。作ってしまった。全ては研究の、最強のコーディネイター
を作るために……だが、あるいは次に作られたクローンは、君より悲惨なこと
になったと聞いているよ」

 

「失敗したのか?」

 

「君にある欠陥を完全になくすことが出来なかったのはもちろんのこと、遺伝
子提供者である富豪が、屋敷の火事でお亡くなりになったんだ。まあ、それは
不幸な事故だったらしいが、財産を引き継いだのは研究やクローンのことなど
何も知らない富豪の息子だ。研究者たちは、資金源を永久に失ってしまった。
だから、作ったクローンは不要になった」

 

 彼は愕然としながらデュランダルの言葉を聞いていた。自分の知らない間に、
そんなことがあったとはまるで知らなかった。自分のような、いや、自分より
も酷い境遇のクローンがまだ居るというのか。

 

「そのクローンは、今どこに?」

 

「わからない。生きているのか、死んでいるのか。資金を失ったメンデルは閉
鎖され、研究なども闇に葬られたからね」

 

「探さなければ……探さなければ行けない」

 

 立ちあがった彼であるが、すぐに足がぐらついて、倒れてしまう。既に彼の
身体は、激しい老化が始まっているのだ。今はまだ内部で進行しているが、い
ずれ顔など表面的な部分にも現れるだろう。

 

「私で良ければ、力になろう。一応メンデルに在籍した身として、君に対する
責任がある」

 

 この言葉が、彼とデュランダルの後々まで続く友誼を決定づけたのかも知れ
なかった。今まで彼は、誰かに責任を感じられたことも、果たされたこともな
かったのだ。デュランダルは、はじめて彼に手を差し伸べたのだ。

 

「やがて彼とギルは、メンデルの研究者たちによって作られた少年を発見する。
幼いながらも浮浪者のような生活をして彷徨っていた少年を保護し、名を与え、
生活を保障した……それが俺、レイ・ザ・バレルだ」

 

 レイの言葉に、シンは目を見開いた。つまり、レイはコーディネイターでは
なく、クローン人間だと言うことか。

 

「俺の父であり、兄であり、分身ともいうべき存在だったラウ・ル・クルーゼ。
ラウは、ギルと出会った時点で既に手遅れの身体だった。俺はラウより後に生
まれたから若干の余裕があったんだが、ラウは投薬で老化を遅れさせることし
かできなかった。それも、長くは続かなかった」

 

 だから、ラウ・ル・クルーゼは自分に残された最後の時間を復讐に使った。
自分を作ったフラガ一族と、自分が作り出される原因となった最強のコーディ
ネイター、さらにそんな世界にしてしまった人類に対し、復讐を試みたのだ。

 

「先の戦闘でアスラン・ザラに殺されたキラ・ヤマトは、その最強のコーディ
ネイターだった。彼を作るために、俺もラウも作られた」

 

「レイ……」

 

「そして、ムウ・ラ・フラガ。フラガ一族の最後の生き残りにして、俺達の存
在を作り、欠陥品だからといって一方的に捨てた奴ら! ラウは、フラガとの
決着を付けねばならなかった」

 

 自分と共に死ぬべきだと、ラウは良く語っていた。自分は確かに欠陥品であ
るが、そんな物を作ろうと考える人間こそ、どこか壊れているのだと。フラガ
一族は、自分という存在を生み出してしまったことを世界に対して詫び、自分
とともに滅びるべきなのだと。

 

「前大戦の最終決戦で、ムウ・ラ・フラガは死んだはずだった。残念ながらラ
ウが仕留めたわけではなかったが、確かに死んだはずだった」

 

 でも、生きていた。レイは宇宙で、そして地中海での戦闘に置いて彼に接触
をしている。

 

「シン、俺は今度の戦いにおいて、プラントのために戦うとか、地球の平和が
どうとか、そんなことを考えるつもりは一切無い」

 

「レイ、お前……!」

 

「俺は自分の人生に、存在に決着を付けたい。だから、ギルの仇であるアスラ
ンではなく、敢えてムウ・ラ・フラガと戦う道を選ぶ。あるいはそれは世界の
流れや、歴史に対する反抗なのかも知れない。でも、それでも俺はムウと戦い、
奴を倒したい――!」

 

 命がけの決意であった。レイはシンに全てを話したわけではない。既に、レ
イの身体も投薬による延命措置が行われていることも、それが長くは続かない
であろうことも。

 

「レイ、何て言ったらいいのか、俺には良く分からないんだけど……自棄だけ
は起こさないでくれ。レイは、俺がプラントに移住してはじめて出来た友達で、
親友だと思ってる。だから、その、死んで欲しくない」

 

 それは素直な気持ちであった。ラウとレイの違いは、こんなにも素直に感情
を示してくれる友人の数に、差があったことだろう。話を聞けば、ルナマリア
や他の仲間だって同様のことを言ったはずなのだ。ラウは周囲を自身の復讐を
達成するための手駒としか考えていなかった。レイは違う。彼にとって仲間は
友人であり、かけがえのないものだった。

 

 インフィニットジャスティスはダイダロス基地を守るために、大事なビルゴ
を割いたりはしなかった。しかし、基地の防衛システムは攻略時に破壊してし
まったため、アスランは基地の守備隊としてザフトからの賛同者を配置してい
た。プラントを撃った破壊兵器を、ザフト軍が守る。何とも皮肉な光景が、目
の前にはあった。

 

「しかも、これから行われる戦闘はザフト対ザフトってわけね」

 

 呆れを滲ませた声でタリアが呟いた。ミネルバの接近を悟って、既に複数の
ザフト軍モビルスーツが展開を始めているのだ。

 

「彼らは知っているのかしら。レクイエムの標準が、プラントに向いているこ
とを」

 

「あるいは知っていても尚、アスランに同調しているのかも知れませんね」
 それはそれで問題だが、ここまできて説得でどうにかなるとも思えなかった。

 

「タンホイザーで先制して、一気に突っ込む。残念だけど、ザフト軍同士で戦
うしか道はなさそうね。モビルスーツ隊に、いつでも発進できるように準備を
させて」

 

「了解!」

 

 基地を防衛するモビルスーツの総数は全部で五十二機。さらに十数隻の戦艦
がミネルバの行く手を塞いだ。
 同じザフト軍であるはずなのに、砲火を交えようとしているのだ。

 

「ここを突破しなければ、アスランと戦えない。もう世界統一国家軍との戦闘
が始まってるなら、尚更だ」

 

 シンがデスティニーのコクピットで呟いた。

 

「馬鹿みたいよね、最後の最後になって、ザフト同士で戦うなんて」

 

 ルナマリアがコアスプレンダーのコクピットで嘆いた。

 

「なら、その馬鹿共の目を、殴って覚まさせるだけだ」

 

 レイがレジェンドのコクピットで断言した。彼にしては直球過ぎる意見に、
シンとルナマリアが驚いた。

 

「そうだよな……その通りだ」

 

 頷き、シンはモニターを確認する。ミネルバから陽電子破砕砲タンホイザー
が発射され、ダイダロス基地へと突き刺さった。敵機のほとんどは回避行動を
取ったため、無傷となっている。

 

「シン・アスカ、デスティニーガンダム行きます!」

 

 シンのかけ声と共にデスティニーガンダムが、

 

「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー発進!」

 

 ルナマリアの声に従いコアスプレンダーが、

 

「レイ・ザ・バレル、レジェンド出撃する!」

 

 レイの言葉を最後に、全ての機体が出撃、発進した。

 

                                つづく