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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第67話

Last-modified: 2008-06-02 (月) 19:33:25

 世界統一国家軍が手始めに前線に投入した兵力は、4800機の機動兵器の内、
モビルスーツ1000機、戦闘用支援艦載機200機の計1200機である。ムウは全ての
兵力を一度に投入するつもりなど更々無く、兵力を大きく4つの部隊へと分散さ
せた。それでもインフィニットジャスティスが持つ機動兵力に4倍以上の差を付
けているのだが、アスランもまたビルゴ全機を前線に投入してはいない。

 

「五十機はウルカヌスの護衛に残せ。どこに伏兵がいるかもわからん」

 

 思わぬ所から核攻撃隊やデストロイの奇襲を受ける可能性もあるし、本陣を
手薄には出来ない。こうしてインフィニットジャスティス側は250機のビルゴ
Ⅱを主力部隊として前線に送り込んだ。
 ビルゴの操作はウルカヌスからでも行えるが、サトーの下で鍛え上げられた
一部兵士が、十機のトーラスに乗って指揮を執ることにもなっている。本来な
らばイザークやディアッカが務めるべき役目であったのだが、彼らは最終決戦
前にその命を散らしている。
 既にアスランの機体、ジャスティスの改修は終わっており、出撃しようと思
えば出来るのだが、サトーは待機するべきだと言った。

 

「総大将自ら出撃されるのは勝利の時です。それまでご自重願います」

 

 アスランは頷くと、ウルカヌスのスクリーンに映る戦場を見つめている。い
よいよ両軍の主力機動兵器が激突しようとしているのだ。

 

「機動兵力はあちらの方が圧倒的に上だが……さて、どう転ぶかな」

 

 一つの部隊だけでも4倍の差があり、全体で見れば16倍。本来なら、まともな
勝負になるわけがない。ファントムペイン艦隊とオーブ海軍の戦闘よりも悲惨
な戦力差である。

 

「敵の部隊を突き崩し、地球へと突入する。俺達の目的はそれだけだ」

 

 アスランは立ちあがった。スクリーンを見つめながら、片手を上げる。

 

「最初の一撃は敵にくれてやれ」

 

 その言葉に司令部に詰める兵士たちが驚きの声を上げた。サトーもまた、驚
いて顔でアスランを見る。

 

「奴らの砲火ではビルゴは倒せない。ならば、敵の攻撃を受けきって反撃をし、
奴らに精神的な絶望感を与えてやるんだ」

 

 不敵な笑みで笑うアスランの姿に、背筋が寒くなるのを感じた兵士の数は決
して少なくなかった。それはまるで、氷像のような笑みだった。
 スクリーンの中で、世界統一国家軍の機動兵器がビルゴに向かって殺到を始
めた。ビームライフルの銃口が光り輝き、千条を超えるビームの閃光がビルゴ
へと放たれた。
 まさにそれは、『怒濤』の一撃だった。

 

「全弾直撃確認!」

 

 ガーティー・ルーの艦橋において、索敵士官が声を上げて報告する。すぐに
モビルスーツにて待機しているムウにも知らせられるが、彼は小さく呟いただ
けだった。

 

「……来るぞ」

 

 その瞬間、4倍の数を超す砲火を放った世界統一国家軍の主力部隊に、4倍を
遙かに超える威力の砲火が浴びせかけられた。

 
 

         第67話「激震なる宇宙」

 
 
 
 

「こちらの方が数は上だ。一機で敵に挑もうとせず、集団戦法を駆使しろ。相
手は無人機、卑怯も糞もないぞ!」

 

 戦闘が開始されて1時間40分が経過しようとしている。圧倒的な数を誇る世界
統一国家軍は、両軍の首脳部が予想したとおりに苦戦をしていた。何十発、何
百発ものビームを弾き飛ばし、ほぼ無傷に近い状態のビルゴ。未だに一機も撃
墜できないままに、世界統一国家軍の第一部隊は押されつつあった。
 ビームサーベルで斬りかかろうとも、プラネイトディファンサーの鉄壁の前
に阻まれ、一太刀浴びせることも出来ない。実体弾による砲撃も行われている
が、プラネイトディファンサーを突破できても、ビルゴの装甲はガンダニュウ
ム合金が使われているため傷つけることも困難だった。
 しかもビルゴの機動力はウィンダムやダガーのそれを凌駕している。無人機
故にパイロットへの不可を考えなくていいため、常識外れの加速度を見せつけ
るのだ。並のパイロットでは攻撃を当てることすら難しい。

 

「無茶だけはするな。機体が損傷したものは自己の判断で後退しろ」

 

 ムウの命令は彼の良心がそうさせるものではなかった。単純に一機一兵も無
駄に出来ないという理由がそこにあり、圧倒的とはいえ撃墜されればされるだ
け兵力は減るのだ。無駄遣いだけは避けなければならない。
 戦いは始まったばかりだが、世界統一国家軍は未だに敵の一機も撃墜できて
いない。アスランは初撃を全て受けきるという余裕まで見せつけ、敵軍を圧迫
している。全く、見事な戦術だ。

 

『閣下、第一部隊の行動がそろそろ限界に達します』

 

 ムウの機体に、イアンからの通信が入った。

 

「戦闘開始からどれぐらい経っている?」
『およそ1時間50分』
「行動限界時間は2時間か……よし、そろそろ始めるか」

 

 前線で戦闘を続ける部隊の攻撃が、突然弱まり始めた。
 アスランは敵の策略かと思案したが、突如敵が後退を始めたのだ。

 

「馬鹿な、後退だと?」

 

 確かにそれなりの損害を与えているとは思うが、戦えなくなったわけではな
いはずだ。後退するにしても、少し早すぎるのではないか。

 

「いかがなさいますか? 追撃を」
「いや、ここは退かせたほうが良い。こちらも一旦部隊を下げて整備と補給を
……」

 

 言いかけたとき、索敵士官の声がそれを遮った。新たな機体群が確認された
というのだ。

 

「敵機が後退した方角とは全く別の方向から、敵の第二部隊が突入してきまし
た! 数、およそ1200機!」
「早いな。さすがエンデミュオンの鷹が指揮をするだけのことはある」

 

 アスランがポツリと呟き、敵の展開速度を素直に褒めた。

 

「敵の狙いは何でしょうか? こちらに付けいる隙を与えないつもりなのか…
…」
「違うな。サトー、どうやら敵はそれなりに優秀だよ。こちらに勝つための唯
一の作戦取ってきたらしい」
「唯一の作戦? そんなものがあるのですか」

 

 無敵のビルゴを持ち、常に戦闘を圧倒しているインフィニットジャスティス
が抱える、ただ一つの弱点。
 それは…………

 

「消耗戦だ」

 

 アスランの読み通り、ムウはインフィニットジャスティスに対し兵力差と物
量差を利用した大規模な消耗戦を仕掛けた。4800機の機動兵力4つの部隊に分
け、二時間ごとに交互に攻撃を行う。第一部隊が後退すると、入れ替わるよう
に第二部隊が現れ攻撃が開始される。さらに第二部隊も後退すれば今度は第三、
第四と続くのだ。しかも、一度後方宙域まで後退した部隊は順次母艦へと帰投
して機体の応急修理などの整備や、エネルギー・弾薬等の補給、パイロットに
食事を取らせるなどして出来る限りの回復を務める。そうすれば、第四部隊が
後退した後も再び第一、第二部隊と出撃することが可能なはずだ。
 この世に絶対や無限などという言葉は存在しない。如何にビルゴⅡが圧倒的
な性能と威力を誇る機動兵器であっても、無制限に戦闘することも出来なけれ
ば、活動限界はある。エネルギーが切れれば動けなくなるし、その時間がウィ
ンダムやダガーなどのバッテリー機より長いだけに過ぎない。
 ムウは長時間の戦闘を敵に対して強いることで相手を消耗させ、戦闘力を殺
ぎ取り、奪い取ってしまおうと考えたのだ。相手に後退する隙を与えない連続
攻撃は、確かに数で劣るインフィニットジャスティスには効果的であった。

 

「局地的な戦闘では我が方が圧倒しているのに、それでも優勢を確信できない
とは……!」

 

 サトーが苦々しげに叫ぶが、アスランは対照的に冷静であった。彼は世界統
一国家軍が取るべき作戦は、これしかないと事前に察知していたのだ。それが
当たっただけの話であり、動揺すべき場面ではない。

 

「敵の第二部隊が後退! 別方向から、第三部隊が突入を開始してきました!」

 

 ウィンダムやダガーなど、何機が束になって掛かろうともビルゴを倒すこと
など出来はしない。それでも過度に密集したビームエネルギーの前に、徐々に
ではあるが押されつつもある。百発近いビームの閃光が、数機のビルゴに降り
注ぐのだ。数の暴力とはまさにこの事だろう。

 

「砲火を一点に集中しろ。確実に一機、それだけ考えて戦え。俺たちのほうが
数は多いんだ。十分、可能なはずだぞ!」

 

 ムウの激昂は兵士の士気を高め、彼らは果敢にビルゴへと攻撃を仕掛ける。
ビルゴを取り囲むように数十機のウィンダムが四方八方からビームライフルを
撃ち放つ。プラネイトディファンサーで攻撃を弾き飛ばしながら、天頂方向へ
と逃げるビルゴ。そこに砲撃戦仕様のダガーが、実体弾の雨を降らせる。爆発
がビルゴを包み込み、更なるビームの砲火が襲いかかる。
 火力の集中は、確実にビルゴを蝕んでいく。ビルゴは攻撃を避け、防ぐこと
に機体性能を使うあまりに反撃が滞り始めていた。

 

「やるな。数の使い方を良く分かっている。ビルゴの動きを封じ始めているぞ」
「閣下、このままでは……いっそ、私が出撃をしましょうか?」
「まあまて、まだ慌てるような局面じゃない」

 

 アスランはどっかりと指揮座に腰を下ろすと、スクリーンに映る戦局を見て、
呟いた。

 

「敵が次に後退をするとき、それが反撃の瞬間だ」

 
 

 その頃、月面ダイダロス基地においても小規模であるが戦闘が行われていた。

 

「ナイトハルト装填、敵艦隊右翼に叩き付けろ!」

 

 ザフト軍艦ミネルバが、基地に奇襲を仕掛けてきたのだ。これを阻止すべく
展開したのは、十数隻の戦艦と五十機を超えるモビルスーツ部隊。それは、ミ
ネルバと同じザフト製のもの。アスラン・ザラの考えに賛同し、あるいはアス
ラン・ザラの行いに打算を見つけ、彼の下に集った反逆者たち。
 同じザフト軍同士の戦闘が、行われているのだ。

 

「このスピードは!」

 

 グフの一機が、眼前に迫るモビルスーツに対して右手の4連装ビームガンを撃
ち放つ。近距離戦闘ではビームライフルよりも使い勝手が良いとされる武装で
あるが、大剣を構えながら突っ込んでくる敵機の勢いを止めることは出来なか
った。

 

「ならば、接近戦を」

 

 テンペストビームソードを引き抜き、高出力ビームを発生させるグフ。並の
モビルスーツであれば、容易に斬り裂くことが出来る。加えてパイロットはエ
ース級ではなかったが、決して弱くはない、死地と死闘を生き抜いてきた戦士
であった。
 だが…………

 

「でぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 デスティニーガンダムが振り下ろした、大剣アロンダイトの一撃は、テンペ
ストの刀身ごとグフの機体を斬り砕いた。武器の破壊力、一撃が必殺となりう
るパワーがそこにある。

 

「時間がないんだ! お前ら、まとめてかかってこい!」

 

 ビームライフルを連射し、敵機を威嚇するシン。挑発的な物言いは、もちろ
んわざとだ。殊更派手に暴れ回ることで、こちらの狙いを敵に気付かせない、
それがシンの役目だった。

 

「次はどいつだ!」

 

 アロンダイトを逆手に持ち、戦場を飛び回るデスティニー。ザクがビーム突
撃銃で応戦するも、そんなことはお構いなしといわんばかりにデスティニーは
進撃を続ける。
 一機、また一機とデスティニーの斬撃に斬り倒され、あるいはビームの閃光
に貫かれる。

 

「これ以上の蛮行を許すな! 砲戦仕様のザクに迎撃させろ!」

 

 オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲を構えたガナーザクウォーリアーが、
デスティニーを撃ち落とそうと砲撃体勢にはいるが、その頭上をビームの雨が
襲った。

 

「敵がシンだけだと思ったら大間違いだ」

 

 レジェンド、レイ・ザ・バレルである。レイは機体のドラグーンを切り離し
て敵部隊に攻撃するが、まだ不慣れなせいか若干動きは鈍い。もっとも、量産
機程度ならばわけなく倒せるが。
 猛虎の強さを見せつける二機に対し、乱雑な応戦を繰り返しても無意味と悟
った敵の指揮官は全機を密集させ、集中砲火に攻撃法を切り替えた。ビームラ
イフルやビーム砲の連続砲撃にさすがのシンとレイも押されてしまう。

 

「そっちが密集するってなら!」

 

 シンはデスティニーの高エネルギービーム砲を発射し、密集した敵機に穴を
空けた。さらにレイがドラグーンを飛ばし、砲撃で混乱した敵部隊の動きをさ
らに攪乱した。ドラグーンは巨竜の体内に入り込んだ寄生虫のように敵機の中
をのたうち回り、食い破った。

 

 二人の連係攻撃を前に、モビルスーツ部隊はほぼ壊滅といった状態になった。

 

「よし、後はルナマリアが……」
『シン、少し良いか』

 

 戦況をチェックしていたレイが、シンに通信を送ってきた。

 

「どうしたんだよ?」
『敵モビルスーツの数が足りない。五十二機配属されているはずが、四十九機
しかいない』
「後退したか、出撃してないだけじゃないのか?」

 

 もしくは情報に誤差が生じたか。

 

『そうだといいんだが……シン、敵は決して無能じゃない。もし敵が、レクイ
エムに通じるルートに護衛の機体を配置していたら』
「――! ルナ!」

 
 

 モビルスーツとの戦闘をシンとレイに任せ、ルナマリアはひたすらに別ルー
トを通っていた。ブラストシルエット装備のインパルスで、レクイエムを破壊
するという重要な任務が彼女にはあった。

 

「第三セクション通過、後少し」

 

 ここまで敵の待ち伏せや、防衛システムによる攻撃も受けなかった。逆にそ
れが若干不気味にも思えるが、順調に越したことはない。

 

「シンもレイも頑張ってる。それに、メイリンも」

 

 ミネルバへと『帰投』したルナマリアの妹、メイリン・ホークは重傷のため
すぐに医務室送りになった。ルナマリアは姉として付き添ったのだが、メイリ
ンは薄らぐ意識の中でミーアからの伝言を伝えると、譫言のように呟き続けた。

 

「ごめんね、お姉ちゃん……」と。

 

 メイリンとアスランの間に、一体何があったのかはわからない。どういう関
係だったのかも、まだ聞いてはいない。もしかしたら、二人の関係についてだ
けいえば、アスランは何も悪くないのかも知れない。
 でも、それでも――

 

「私の妹をあんな目に合わせた奴を、姉として許せるもんですか!」

 

 決着を付けるのはシンに任せるが、自分もせめて一発は殴りたい。そんなこ
とを考えながら進むルナマリアとインパルスであるが、レーダーが眼前に敵機
の反応を捕らえた。

 

「敵……モビルスーツが三機!?」

 

 進行方向、レクイエムの制御システムへと通じる扉の前に三機のザクが立ち
塞がっていた。ガナーウィザードを装備し、オルトロス高エネルギー長射程ビ
ーム砲を構えている。
 ルナマリアは軽く息を呑むと、敵機に向けて通信を送った。

 

「そこをどいて!」

 

 返信など期待してはなかったが、敵のパイロット、恐らくこの場の指揮官で
あろう男は律儀にも回線を繋いできた。

 

『それは出来ない』
「あんたたち、自分が何を守っているかわかってるの?」
『これが何であろうとも、我々はアスラン・ザラの命令を受けた。それに従う
だけだ』
「馬鹿げてる! プラントを撃って、今もプラントに標準が合わさってる兵器
を、ザフトが守るだなんて……あんたたちにはプライドや羞恥心ってものがな
いの!?」

 

 着地し、ケルベロスを構えるインパルス。どかないのならば実力で排除する。
ルナマリアは動作によってそれを表現した。

 

『我々は悪だ。国を裏切り、軍を裏切り、テロリストの配下になった……しか
し!』

 

 指揮官は声を張り上げ、オルトロスを突きつけた。

 

『これで戦争が、長きに渡る戦いに終止符が打たれるのなら、我らの小さき自
尊心や羞恥心など、塵に等しい!』

 

 その言葉に、ルナマリアは唇を噛みしめ叫んだ。

 

「くだらない……くだらない見栄なんて張ってんじゃないわよ!!!」
 ケルベロスとオルトロスが火を噴いたのは、ほぼ同時だった。

 
 

 世界統一国家軍とインフィニットジャスティスの戦闘は、統一国家軍の第三
部隊とビルゴⅡが激しい攻防戦を繰り広げる段階に達していた。第三部隊は火
力を中心としたモビルスーツで構成されているものの、やはりビルゴの持つ防
御を破れずにいた。
 アスランは大軍を有する敵に対して、徹底的な局地戦を行った。元々少ない
兵力を一点に集中させ、敵を切り崩しに掛かったのである。その為、第三部隊
は致命傷こそ少ないものの、大小様々な傷を抱えることになってしまい、何よ
り部隊として混乱を来し始めていた。

 

「まずいな……少し早いが第三部隊を後退させ、第四部隊を突入させろ」

 

 第三部隊がそれまでの部隊以上に混乱していることを知ったムウは、即座に
後退を許可した。そして第四部隊を突入させようとしたのであるが、それこそ
がアスランの狙いであった。

 

「戦法、戦術などは所詮バリエーションとパターンに過ぎない。パターンさえ
わかってしまえば、いくらでも対処の仕様はある」

 

 ビルゴⅡの内、オプションとしてビームキャノンを装備した機体のみを集め
た即席の砲戦部隊を作らせたアスランは、接近しつつある敵の第四部隊に砲撃
を開始した。

 

「敵の第四部隊を近づけるなよ! この隙に、残ったビルゴで第三部隊の殲滅
に掛かる!」

 

 威力だけは強い砲火が撃ち込まれ、統一国家軍の第四部隊はその進撃速度が
著しく低下し、足並みが大きく乱れた。

 

「まずい、このままでは第三部隊が突破される」

 

 ムウはアスランがこちらの戦術に対応してきたことを悟り、背筋が寒くなる
のを感じた。というのも、実際の所、世界統一国家軍とインフィニットジャス
ティスは必ずしも『正面決戦』を行っているわけではない。ムウは機動兵力部
隊を横から横へ移動させ、アスランの機動兵力部隊の前に出現させるという方
法を作戦に用いていた為、横の流れが一旦止まってしまうと正面に敵は居らず、
一気に突破することが可能なのだ。

 

「なんとしても突入し、第三部隊を助けろ! 上手くすれば挟撃のチャンスに
もなるぞ」

 

 激昂は、時として焦りの表れである。ビルゴの集中砲火の前に押し戻される
第四部隊を後目に、混乱が続く第三部隊に更なる悲劇が起こっていた。殺到す
るビルゴに対し、彼らは無力ではなかったが、限りなく無力に近かった。

 

「第三部隊を突破したら、統一国家軍などに構うな! 一気に地球へと進軍し、奴らの帰る家を無くしてしまえ!」

 

 叫ぶアスランに、ビルゴが敵第三部隊を突破しつつありとの報告が入った。
満足そうに頷くアスランであるが、その表情はすぐに一変することになる。

 
 

 高機動力を駆使した近接戦闘により第三部隊を圧倒し続けたビルゴⅡは、遂
に敵部隊の中心部に穴を空け、突破することに成功した。部隊は壊走し、崩れ
た。アスランが勝ちを確信し、ムウが敗北に恐怖した、まさにその時。
 巨大な閃光が、敵部隊を突破したビルゴに直撃した。太く、そして眩い光り
の塊を叩き付けられ、さすがのビルゴも押し戻されていく。

 

「ビルゴが陽電子砲による砲撃を受けました! 凄い数の砲撃が……」

 

 索敵士官の悲鳴に、アスランもまた驚愕していた。まさか、敵に伏兵がいた
というのか。予想以上に敵の戦力、兵力は豊富だったということか。

 

「これは、これはまさか」
「なんだ、一体どうした!

 

 狂った音程で声を上げる士官に対し、サトーが怒鳴りつける。

 

「統一国家軍ではありません! オーブ軍が、オーブ宇宙艦隊が来援してきま
した!」

 

 その言葉に、アスランの動きが、一瞬であるが固まった。

 

「オーブ、だと?」

 

 来援したオーブ軍は戦艦三十隻、モビルスーツ百二十機という兵力を有して
いた。地上における兵力の大半は消失したオーブであるが、宇宙軍は未だ健在
だったのだ。

 

「まさか、オーブが助けに来てくれるとは思わなかった」

 

 安堵の溜息を付くのはムウである。危機一髪とは、まさにこの事か。ムウは
地上における戦闘で大敗したオーブを、そもそも戦力だとは考えておらず最終
決戦時の兵力徴収の際も無視していた。相手が正式に統一国家入りしていない
中立国というのもあったが、カガリがアスランと戦いたいとは思っていないと
感じたからである。

 

「彼女は、思いのほか聡明で、強く育ったようだな」

 

 人は変わる。時の流れが、歩んできた日々が、人を変えてしまう。これは仕
方のないことで、人は生きていくために変わらなければならない。キラやラク
スにはそれが出来ず、アスランとカガリにはそれが出来た。

 

「そうか……カガリ、君も俺の前に立ちはだかるか」

 

 親友の次は、一時でも恋をした少女。
 結局誰も、理解してはくれなかった。自分を、アスラン・ザラを。アスラン
・ザラという男を。

 

「この俺の強さに、誰一人着いてこれなかった。それだけだ!」

 

 アスランは叫ぶと、オーブ艦隊に対して攻撃を命じた。すると、間髪入れず
して別の報告が舞い込んできた。

 

「ダイダロス基地が、陥落しました!」

 
 

 戦場の近くで待機を続ける二隻のプリベンター巡洋艦。
 その内、一隻の格納庫においてロッシェ・ナトゥーノとオデル・バーネット
が会話をしていた。会話といっても、ロッシェが話があるといってオデルを呼
びつけたのだが。

 

「出撃準備で忙しいときに、話とはなんだ?」

 

 オデルの問いかけにロッシェは即答せず、背後にそびえ立つ自身の機体、ガ
ンダムアクエリアスの方を見た。

 

「頼みがある。お前にしかできない頼みだ」
「どういうことだ?」
「この機体は、戦闘用じゃない。戦闘支援用の機体だということが、ハワード
たちの調べでわかった」

 

 そのことに対して、ロッシェが落胆を憶えなかったといえば嘘になるが、そ
れほどショックなことでもなかった。あのエピオンの対となるモビルスーツな
のだから、十分にある可能性であった。

 

「特殊機器を積み込んでいるためにビーム兵器は使えず、当然ゼロシステムも
ない」
「いいことじゃないか。前者はともかく、ゼロシステムなんて無い方がいい」

 

 あれは、一部パイロットにしか扱うことの出来ないシステムだ。ロッシェも
オデルも一流のパイロットであるが、ただの一流では使いこなすことは出来な
い。次元が違うのだ。一流と超一流の間には、とてつもなく大きくて、容易に
超えることは出来ない壁があるのだから。

 

「確かに……正直な話、私もゼロシステムを扱いこなせる自信はない。ディア
ッカ・エルスマンのようになりたくはないし、イザーク・ジュールのように身
も心もシステムに捧げることなんて出来ない」

 

 しかしだ、とロッシェは続ける。

 

「恐らく、敵にはまだゼロシステム搭載のモビルスーツが残ってる。私はそれ
と戦い、勝利しなくてはならない」
「ロッシェ……お前」
「オデル、お前にしか頼めないことだ。私はこのアクエリアスに――」

 

 ロッシェは簡潔に、用件を告げた。それを聞いたオデルの顔は、途端に険し
くなっていく。

 

「やってやれないことはないが、出来るのか?」
「それこそ、やってみないとわからない」
「失敗すれば、身体の補償は出来ないぞ。せめてリミットを付けろ」
「不要だ。あの男に使いこなせて、俺に使えない道理はない。機体も、そして
システムもだ」

 

 言い切ると、ロッシェはどこか遠い目をしながらアクエリアスを眺める。彼
には珍しく、どことない寂しさを含んだ表情だった。

 

「アスラン・ザラは、ハイネ・ヴェステンフルスと、キラ・ヤマトを殺した。
私はキラ・ヤマトという男と面識はないし、その実力も知らないが、ハイネは
違う。奴の実力は本物だった。アスランは間違いなく、この世界最強の戦士だ。
オデル、私は奴と戦いたい。戦って、勝たねばならないんだ」

 

 その強い瞳を見て、オデルは軽く溜息を付くと協力すること了承した。
 しかし、たった一言だけ、ロッシェに警告をした。

 

「クラーツ・シェルビィは死んだ。そのことをよく思い出せ」

 

 オデルが準備をするために一度私室に戻った後も、ロッシェは格納庫でアク
エリアスを見つめていた。

 

「そんなことはわかっている。だが、私はクラーツのようにはいかない」

 

 同じ運命を辿るわけにはいかないのだ。仮に、もし同じ運命が待っていたの
だとしたら、体当たりしてでも運命を変える必要がある。

 

「違うな……違う。人の人生を、世界の流れを、運命などという言葉に左右さ
れてたまるか」

 

 呟くロッシェは、背後に人の気配を感じた。振り返ると、そこにはミーア・
キャンベルが立っていた。
 彼女は本来、プラントの要人であるから、ザフト艦隊と合流するかプラント
に帰還するのが筋であったのだが、彼女はロッシェの側にいることを、戦場に
残ることを決めた。

 

「ロッシェ……いよいよ最後の戦いね」

 

 彼の隣まで歩み寄り、同じようにアクエリアスに目を向けるミーア。

 

「あぁ、これが最後だ。これで、最後にしなくてはいけない」
「アスランと、戦うの?」
「そのつもりだ」

 

 短く言葉を交わし、二人の間に沈黙が訪れる。ロッシェはミーアの顔を見る
が、表情が読めない。

 

「ミーア、君は許してくれるか?」
「えっ……?」
「私は多分、アスランを殺す。けど君は、それを望んでいない」

 

 何故なら、ミーアはアスランのことを――

 

「そんなことない。あたしは確かにアスランに憧れていた。英雄としての彼に、
ラクス・クラインの婚約者だった彼に、憧憬の念を抱いていた……だけど」
「だけど?」
「あたしはもう、恋をしてしまったから」

 

 軽く笑って、ミーアはロッシェに向き直った。顔は笑っているのに、身体は
どこか震えている。
 まるで、何かを堪えるように。

 

「ロッシェ、あなたは全てが終わったら、あなたの世界に帰るの?」

 

 その問いかけに、ロッシェは即答するべきか、一瞬迷った。

 

「私は、この世界の人間じゃないからな。帰る場所があり……きっと、私の帰
りを待ってくれている人がいる」
「そう、なんだ」

 

 ギュッと、ミーアは手を握りしめた。顔を俯かせ、ロッシェと視線を合わせ
ようとしない。

 

「ロッシェ、あたしはね……あたしは」

 

 顔を上げた、ミーアのその顔はいつの間にか涙に濡れていた。

 

「あたしは、あなたと一緒にいられるのなら、今の自分なんてなくてもいい、
そうとさえ思ったことがあるの」

 

 ラクス・クラインとしての偽りの自分ではなく、ミーア・キャンベルという
本当の自分で、ロッシェに恋し、ロッシェを愛した。

 

「あなたと一緒にいたい、あなたに残って欲しい、それがダメなら、あたしを
連れてって……欲しかった」

 

 それは、少女の抱いた夢だった。けれど、これは夢だ。恋する少女が胸の中
に抱き、可愛らしい絵筆で描き上げた、ロマンチズムでしかない。

 

「ミーア、君にはまだすることがあるはずだ。しなくてはいけないことがある」
「そんなもの――! あたしはラクス様じゃ、ラクス・クラインじゃない。み
んなを騙して、偽りの自分を演じ続け、歌い続けてきた愚かしい女よ」

 

 今更、自分に何が出来るというのか。結局、自分が歌っても、言葉を発して
も、世界は何も変わらなかったではないか。

 

「ミーア、君は確かにラクス・クラインじゃない。どんなに姿形を似せようと、
同じ声で歌を歌おうと、本物にはなれない」

 

 こんな風に断言されるのは、ミーアとしてはいささかショックだったが、事
実なので肯定するしかない。

 

「えぇ、あたしとラクス・クラインじゃ違いすぎるわ。才能も、考え方も、何
もかもが」

 

 自虐的にいうミーアだが、それをロッシェが遮った。

 

「違う。私はラクス・クラインという女性にあったことはないが、別に君との
間に優劣があるだなんて思ってはいない」
「どういう意味?」
「君とラクスに差があるのだとすれば、それは個性の差だ。ラクス・クライン
であろうと無かろうと、誰の真似も出来ない、する必要はないんだ。君はミー
ア・キャンベルという一人の女性なのだから」

 

 ミーアは、ミーアとして歌を歌えば良いだけだ。平和を願うのが、ラクス・
クラインでなければならないという理由は、どこにもない。

 

「いつか、誰かが言っただろう。君がどこの誰であろうと、君が平和を願い、
歌い続けてきたその気持ちは本物だったと。ミーア、君はもう少し自分に自信
を持つべきだ」
「でも、あたしは……」
「ミーア・キャンベルとして歩く勇気が必要なら、私が君の背中を押そう。そ
れだけの時間は、まだ残ってる」

 

 微笑むロッシェに、ミーアは涙を流しながら頷いた。

 

「……うん、わかった」

 

 その時、艦内の警報装置が一斉に鳴り響いた。ミーアは驚き、ロッシェは顔
色を変えて近くの通信機器に向かう。

 

「何があった?」
『敵襲です。モビルドール部隊が、こちらに接近しつつあります』
「敵に先手を打たれたか……!」

 

 通信を切ると、ロッシェは出撃するためにアクエリアスへと搭乗準備を始め
る。そのロッシェに対し、ミーアが言葉を投げかける。

 

「ロッシェ、最後に一つだけ、これだけは言わせて!」

 

 その声に、ロッシェが振り返る。
 ミーアとロッシェ、二人の距離は、近いようで遠い。

 

「あたしはあなたが」

 

 吹っ切れたのか、ミーアはどこか清々しい表情をしていた。

 

「あたしはあなたのことが、大好きです!」

 

                                つづく