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X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第23話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:54:55

第23話「ステラ」

デュランダルとの取引に応じたシンは、艦長室を後にして自室に戻った。
そこにはいつものようにフリーダムの動きを研究しているレイとガロードの姿があった。

「レイ、ガロード、すまない、迷惑を掛けた…特にガロードお前は…」
「いいってことよ、それよりは俺たちがやらなきゃならないことだけやっていようぜ」
「そうだ、気にするな、俺は気にしていない。
 …そういえばガロード、食堂に新メニュー加わったそうだが知ってるか?」
「へえ~、じゃあティファにも食べさせてやりてえなあ」

2人がニヤニヤとしながらシンの方を見ている。
それは気にするな、といいながら相手が逆らい難いことに付け込んで対価として何かを要求している顔である。

「…わかったよ、奢ればいいんだろ奢れば」
「そうか、奢ってくれるのか。なんだか要求したみたいで悪いな、シン。
 そういえばガロード、ジブラルタル基地には1日30個限定のデザートがあるらしいぞ」
「へえ~、じゃあティファにも食べさせてやりてえなあ」

この瞬間、シンは悟った。自分は今、完全に集られている、と。
このままでは一方的に要求を突きつけられ続けてしまうのは明らかである。
要求の呑めばまた新たな要求が待っているのだ。
こんなときにどうすればいいかと言えば、もう徹底的に謝って謝って謝り続けるしかないのである。

「ごめんなさい!俺が悪かったです、だからもうカンベンして下さい!」

シンは手と膝をついて土下座をした。

「おい、レイ。そろそろ勘弁してやるとしますか」
「そうだな、ガロードが艦長から正座させられたまま2時間お説教をされて足が痺れた苦痛も晴れただろうしな」
「ちょ!それはお前だろうが!シンが謝ってもすぐには許さないで様子を見るって言ったのお前じゃんかよ」
「はて、何のことかわからんな、俺はクローンだから老化が早くてな。最近物忘れが激しくて困る」

レイは、シンがどのような条件を持ちかけられたのかを知っていたが、
シンがこのまま事実上の無罪放免となってしまったのではデュランダルが到着するまでの間、
自分達がタリアから降り注いだ雷の直撃を受けていたことと比べて大分不公平なので、少しいじめてやろうと思っていたのである。
それにこうすることで嫌でもシンは周りに大迷惑を掛けたことを自覚せざるをえない。
それを自覚すれば増長して周囲との摩擦発生を減らすことが出来ると考えたのである。
「そうだ、ヨウランとヴィーノには奢ってやらないのか?アカデミーの同期として不公平じゃないか」
「…悪かったって、ホント…勘弁して…」
「気にするな、俺は気にしてない」
「いや、気にするのは俺だから!」
「あと艦長からの伝言だ。今回お前が違反した軍法の条文を1000回手書きして提出しろ、とのことだ」
ちなみにこの後、噂が噂を呼び、シンに集るクルーが続出した結果、
シンは貯めていた貯金がすっからかんになった上、軽い腱鞘炎になったという。

「ステラ、お前が戦わないとみんな死んじゃうんだ、怖い奴に殺されちまうんだよ、
 アウルもスティングも、俺もな。だから敵は倒さなくちゃ、な」

ファントムペインの母艦、ボナパルトではデストロイガンダム出撃の準備が急ピッチで進められている。
エクステンデットを使うのは今回限り、という要求を突きつけ、ネオはステラに最後の支持をいた。
今やっているのは、ブロックワードを用いてステラの恐怖心を煽って、
都市を焼き払うという前代未聞の大虐殺劇の下ごしらえなのだが、
ジブリールに魂を売り渡して、コーディネーターの抹殺のためにその手を血に染め上げることを決意したネオにとっては、
ステラが殺すであろう人間の数などは自分に比べればまだ少ないのだろうと思えていた。
ネオ自身、既に感覚が麻痺してしまっているのである。

「いいか、ステラは俺たちを守ってくれ。そしてステラのことはこのお守りがきっと守ってくれる」

ネオがステラの首にペンダントをかける。その紐には二つの飾りが付いていた。
1つはやや角ばった金属製のもので、もう1つは紐を通すために小さな穴を開けた貝殻である。
「ステラ、ネオを守る…ステラ、死なない?」
「ああ、もちろんだ。ステラはしなない、きっとこのお守りが守ってくれる。だから、敵を倒すんだ」
「うん!」

「なーネオ、なんで俺達にはアレ、くれない訳?」
「確かにな。俺の方がはるかに上手く使えるぜ」

ステラの説得を終えて、おそらく搭乗するのは最後になる紫色のウィンダムの調整をしているネオの下にアウルとスティングがやってくる。
その顔には不満の色が出ており、さしずめ3人兄弟の中で新しい玩具を買ってもらえなかった2人とでもいうべきであろう。

「機械が判断したんだよ、効率がいいんだとさ」
「なんだそれ、つまんねーの」
「ったく役に多々ねえ中間管理職だぜ」
「そう言うなよ。それより今回お前らは援護なんだから無茶すんなよ」
「何を柄でもねえこと言ってんだお前?」
「いいから命令を聞け。エロ本隠し持ってビクビクしながら読むみたいな人並みな人生送るまで死ぬことは許さん」

アウルもスティングもネオが何を考えていたのかは全く知らない。
普段より説教臭いという程度にしか思えなかった。

シンが給料日前に手痛い出費を強いられてから数日後、
アークエンジェルはデュランダルを乗せたまま、ジブラルタル基地へと向かっていた。
そしてアークエンジェルの艦長室ではデュランダルとタリアが何やら頭を抱えながら
ルナマリアとチャンドラから提出された報告書に目を通している。

「タリア、やはりコーディネーターが優れた新しい人類だというのは幻想なのだろうね」
デュランダルが2者から提出されたアスラン達の会話を傍受・録音した音声データを聞きながらタリアに問い掛ける。

「ギル、現実逃避してる場合じゃないでしょ」
「・・・・・・・」

なぜデュランダルがこのようなことを言っているのかというと、提出された音声データのクリアさが全く異なっていたからである。
ルナマリアから提出されたデータには雑音やら音飛びが所々に入っていたのだが、
逆にチャンドラが提出したものにはアスラン達の会話や波の音が鮮明に記録されていたのである。
かたやナチュラルが録音したもの、かたやコーディネーターのエリート兵が録音したものであるのに、
その差は歴然としており、デュランダルもタリアも少々へこたれていた。
もっともチャンドラがザフト製のソナーをアークエンジェルに取り付けたりもできる電子工学のスペシャリストであり、
この手の機械の扱いには滅法強かったのに対して、ルナマリアの本職はパイロットであり、
音声傍受は本来の任務とは程遠いものなので仕方ないと言えば仕方ないのであるが

ただ、デュランダルには自分が直接知っているだけでもウィッツやロアビィ、フリーダムに泥をつけたガロード、
ついでに言えばザフトの集中攻撃を受けても沈まなかった不沈艦の舵を取っていた影の薄い人等がある。
これらの例はデュランダルにコーディネーターの優位性を否定するのに十分であった。

「ギル!さっさとこっちに戻ってきなさい」
「あ、ああ、すまない、アスランのことだったね」

デュランダルはタリアに叱られてふと我に返ると、本題を切り出した。

「ええ、このテープは言うに及ばず、それ以前にはキラ・ヤマトを守るためシンに銃口を向けたそうよ」
「そうか…もう使い物にならないか…もう少し使い道があると思ったのだがとんだ期待外れだな」
「MSのパイロットとしては優秀なのだけどね…連合との戦闘では全く問題はないわ。ただフリーダムが絡むと…ダメね」
「ああ、アスランを逮捕して消すのは簡単だが、彼ほどのパイロットを戦場から遠ざけるのも惜しい」
「別の戦線に飛ばす、のがベターなのかしらね」

その時、デュランダルとタリアの下にアーサーから通信が入る。
その声はかなり慌てふためいており、普段から落ち着きのない男ではあることを計算に入れても、
その慌て方は酷いものであった
「艦長、大変です!連合がユーラシア中央に侵攻を開始、既に3都市が壊滅。
 迎撃に当たったザフトの部隊も敵巨大なMAによってほぼ壊滅とのことです」
「何ですって!?」

タリアの中に激震が走る。
3都市を壊滅させるなどということは尋常ではない。
しかもユーラシア中央に配置してある部隊の数は決して少なくない。
それを壊滅させてなお侵攻を続けているとあれば、放置しておくことはできないだろう。
だが、アークエンジェルにはデュランダルがいるため、迎撃に向かうことは困難であった。

「トライン副長、アークエンジェルは至急そのMAの迎撃に向かう。艦内に通達急げ」
「了解致しましたぁ!」
「ぎ、議長!?」

タリアの思惑を一瞬でデュランダルがぶち壊したことがさらなる驚きとなってタリアを襲う。
長い付き合いから瞬時にタリアの怒りを感じ取ったデュランダルは、手元のPCのデータを出し、諌めるように口を開いた。

「これを見てくれタリア、諜報部からもたらされた情報にあった連合の新型巨大MAだ。デストロイというらしい。
 性能は未知数だが、そんなことをできるのはこのMAくらいのものだろう。
 だとすれば、現在のザフトの最強部隊であるアークエンジェルしかこれを止められるとは思えん」

「また悪企みかしら?さしずめ連合からユーラシアを守ったヒーローにでもなるつもり、ってところね?」
「人は英雄を求める生き物なのだよ。今後、ロゴスを倒すためにはアピールをしておく必要がある」

デュランダルにとってデストロイのユーラシア侵攻は1つのチャンスであった。
ここでロゴスの尖兵であろう連合の部隊を倒すことが出来れば、人々の目には、
大虐殺を行なった連合からコーディネーターであるザフトが人々を守ったという事実が映る。
あとはロゴスの存在を公表すれば、ナチュラルに対して、コーディネーターは人類の同胞でありナチュラルの敵ではなく、
人類の真の敵はロゴスである、と印象付けることが可能となり、ナチュラルとコーディネーターという対立構造を崩すことが可能となる。
そしてナチュラルと手を組んでロゴスを壊滅させれば、デュランダルの敵は残り1つとなり、
さらにナチュラルとコーディネーターの融和は7割方は達成されたことになるのだ。

結局、タリアが折れてアークエンジェルはベルリンへ向かうことになった。

ベルリンに近付いていくアークエンジェルには次々とザフト敗退の情報が入ってくる。
そして、驚くべき情報がデュランダルの下に届けられる。
それはベルリンで連合とフリーダム及びクライン派が窃取したムラサメの部隊が交戦を開始したというものであった。

驚くタリアとは対照的に、冷静なままであるデュランダルは、
残されている住民の救助に当たっている部隊を除いた各部隊に撤退を命じ、シン、レイ、ガロードに出撃を命じた。
そして返す刀とばかりにアスランの拘束を命じたのだった。

アークエンジェルの格納庫ではレイが修理の終わったハイネのグフに乗り込もうとしていた。
ハイネがアークエンジェルを離脱するとき、レイはハイネから自身のグフを託されたのである。

「なあレイ、ホントにそのグフ、オレンジのままでいいのか?」
「ああ、俺は議長のために戦うハイネの志をも継いでバレル小隊を率いていると自負しているからな」
「ふ~ん、律儀だな。ルナマリアのねーちゃんなんてレイからもらったザクをさっさと赤くしちまったのに」
「俺も議長のため…って何!?ルナマリアが!?」
「ああ、あれ」

キッドが指差す先には赤く染め上げられたかつてのレイの愛機であるザクがそびえ立っている。

「やっぱ止めといた方がよかったか?」
「……いや気にするな、俺は気にしてない…」

他方、格納庫で拘束されたアスランはブリッジへ連行されていた。
「議長、これはどういうことです!連合が侵攻しているというのに何故!」
「…今、君にはスパイ容疑がかかっている。見せて欲しいなら証拠も見せよう。
 そして今、ベルリンではフリーダムが連合の部隊と交戦をしているそうだ、
 さすがに私もそんな中で君を自由にさせるほど無能ではないよ」

アスランは先手を打たれたことを認識した。
まさか連合の部隊を前にして出撃直前に拘束されるとは思っていなかったのである。

「キラ…」

デストロイを単機で相手にする親友の身を案じながらアスランは保安部の兵士に連行されていった。

他方、キラは今までにないタイプの敵を相手に、決め手を欠いていた。
クライン派の兵士を引き連れてデストロイ迎撃を始めたキラであったが、
フリーダムの攻撃はデストロイの陽電子リフレクターに阻まれて、弾かれた攻撃は周囲の建造物を破壊する。
それはフリーダムに搭載された最大火力を持つバラエーナやクスフィアスも例外ではない。

「く・・・一体どうすればいいんだ!」

キラは苦々しい顔を浮かべるが、反撃とばかりにデストロイから発射された大量が襲い掛かってくる。
SEEDを発動させ、ハイマットフルバーストでミサイルを叩き落したキラであったが、そこに
ネオのウィンダムが追撃を仕掛けてくる。

その時、戦場にインパルス、グフ、そしてGXが到着した。

「シン、わかっていると思うが今はあの巨大な敵機、デストロイに専念するぞ。悔しいがフリーダムに構っている場合じゃない」
「ああ、わかってる。連合め…」
「ガロード、情報ではデストロイにはビームが効かないらしい。お前には周りの敵機を落としてくれ。
 アークエンジェルには換装用シルエットの準備を要請しておいた。シン、それまではなんとかあいつを食い止めるぞ」
「了解だぜ、任せとけ」

レイに指示により、ガロードがウィンダムの部隊に、シンはレイと共にデストロイへと向かっていった。
そして、シンの中では怒りが込み上がって来ていた。ロドニアのラボ、そしてステラの一件があって以来、
シンは連合、そして背後にあるロゴスの行なってきた、理不尽な暴力への怒りを高めていったのである。

「そんだけでかければロクに動けないだろうがあああ!」

インパルスはサーベルを手に取ると、デストロイから放たれるミサイルを掻い潜り、
立ち塞がるウィンダムを斬り捨てながら、デストロイめがけて突撃していく。
デストロイも自分に接近してくるインパルスを確認したのであろう、胸部に備わったスーパースキュラを放つ。
3つの赤い光の筋がベルリンを駆け抜けて、進行方向にいたウィンダム、ムラサメを消滅させた。

「おいおい、サテライトキャノンじゃねーのになんつー威力だよ」

上空でウィンダムとカオスの相手をしていたガロードの背中に冷たいものが流れ落ちる。
巨大な機体から放たれる凄まじい破壊力を秘めた攻撃の数々は、
ガロードがサテライトキャノンで討ち取ったグランディーネを彷彿とさせるものであった。

「オラオラ、ダブルエックスモドキ、お前の力を見せてみろ」

スティングが咆哮し、カオスが機動兵装ポッドとライフルを構えてGXに向かってくる。

「お前らどうしてこんなことが平気でできるんだ!バッキャローがあぁ!」

ガロードはカオスが連続して繰り出すオールレンジ攻撃を、ビット攻撃を回避するのと同じ要領で回避し、
やがてその動きを把握し、手にしたビームマシンガンでポッドを撃ち落す。

カリスのベルティゴによる無線式ビットのオールレンジ攻撃を特訓の末に打ち破り、
人工とはいえニュータイプのパイロットを倒してディファの予知した未来を自らの手で別の結末へと切り開いたガロードにとっては、
有線式の、しかも2つ3つ程度のビット攻撃を破ることはそう難しいことではない。

「その手の攻撃にはさんざん苦しめられたんだよおお!!」

ポッドを失ってもなお手にしたライフルでGXを狙っていたカオスに
GXが背部のリフレクターを白銀に輝かせてバーニアを全開にして肉薄し、
ガロードの怒りが篭ったGXのビームソードがカオスの右腕及び頭部を切り裂いた。
一方のシンは、スーパースキュラ、5連装スプリットビームガン、ドラグーン型腕部ビーム砲から放たれる
ビームの弾幕に防戦を強いられていたが、腹を括って再び突撃を掛けることを決意する。

インパルスは上空から急降下してビームを回避しながらデストロイに向けて接近し、
背後から迫ってきていたドラグーン型腕部ビーム砲シュトゥルムファウストのビームを今度は急上昇して回避し、
その勢いでデストロイめがけて突っ込むと、手にしたサーベルでコックピットを切り裂いた。
この一撃によってコックピットの中が一部露出するも必殺の一撃にはならなかった。

「くそ!浅いか、もう一撃!」

懐に入られてしまい、自慢の火気を使えなくなっているデストロイの隙をついて、シンがとどめの一撃を放とうとした瞬間であった。

(待ってください!パイロットはステラさんです)

シンの頭の中にティファの声が入ってくる。
「ティファ!?しかもステラって!?」

シンはティファの言葉に耳を疑い思考が一瞬停止してしまう。
ティファの言葉を信じない訳ではない。だが、あそこにステラはいるはずがない。
いや、いて欲しくない。それがシンの気持ちであった。
それによりインパルスがデストロイのコックピットのすぐ近くで動きを止まってしまいるところにネオのウィンダムが突っ込んできた。

「やめろ、坊主!あれに乗っているのはステラだぞ!」

聞き覚えのある男、自分がステラを引き渡した連合の軍人の声であった。
シンにこの上なく厳しい事実が突きつけられる。
この事態を予想していないわけではなかった。だが、それでもシンは自分が約束した男を信じたかった。
そしてステラがもう戦場に駆りだされて苦しめられているだなどとは信じたくなかった。
しかし、カメラの映像を拡大し、デストロイのコックピットの裂け目から見えたのは、
自分が家族を失って以来、初めて守ってみせると誓った相手、ステラ・ルーシェであった。
「どうしてステラがあんなところにいる!」

ウィンダムに押さえつけられ、デストロイから引き離されながらも、わかりきったことを問い掛ける。

「あの子を助けるためにはこれしかなかったんだ!」
「だからと言って約束しただろうが!馬鹿なことだと知ってたけど俺はお前を信じたんだ!」
「そうだ、だから俺もうちの親玉の首絞めて拳銃突きつけて、今回を最後にさせた、それが俺に出来た限界だ!」
「でもよりによってあんな化け物に!」
「気に喰わないんならもう一度連れてってみろ!研究者のモヤシどもから持ち出せるだけのデータは巻き上げてステラに持たせてある!」
「な、何!?」
「信じるかどうかも、連れてくかどうかも後はお前次第だ!生かすも殺すも好きにしろ」

そう言ってネオは繰り返しデストロイに攻撃を仕掛けていたフリーダムがいる方向へと向かっていった。

シンは選択を迫られた。ステラが今もシンのことを覚えているとは限らない。
助けて、自分のことを思い出しても有効な治療ができるとは限らない。
だが、このまま何もせずに黙ってみているよりも、自分で彼女を討つのも御免である。
僅かであってもゼロではない、可能性があるなら力の限りを尽くして切り開く。
そのときシンはガロードから聞かされた話を思い出した。

未来を変えた人間だってこの世にはいるのだ、ならば自分だってそれくらいやってみせる!
決意を固めてシンは再び、デストロイへ突っ込んでステラを助け出す道を選んだ。

「レイ!」
「わかっている。ティファの声が聞こえたのはお前だけじゃない。
 議長、囚われの姫を助ける勇者、というのもいい宣伝にならないでしょうか?」

レイが自分の意思で決めたことを、育ての親であるデュランダルに伝えたのは初めてであった。
デュランダルは、クローン人間としての生い立ちに苦しんだレイが似たような境遇にあるステラを助けたいと願っているのだと感じた。
彼にとってレイは確かにコマの1つである。
だが、同時に自らが幼少のころから面倒を見てきた息子のような存在であると僅かにではあるが思っている。
デュランダルは内心で自らを身内に甘い人間だとあざ笑った。

「トライン副長、住民の避難はあとどれくらいかかる?」
「あと10分ほどかかります」
「レイ、シン、聞こえるか、10分だ。10分が過ぎたら、残存火力で一斉にデストロイに攻撃を仕掛ける」
「「了解!」」

なおも激しい攻撃を繰り広げるデストロイにフリーダムはなお食い下がっていた。
放たれたクスフィアスが偶然にコックピットのやや近くに命中する。
コックピットのステラを衝撃が襲い、一瞬、攻撃が収まる。その隙をフリーダムは逃そうとはしない。
だが、フリーダムがデストロイをしとめようとした時、その真上からビームの雨が降り注ぐ。
それを回避するため大きくフリーダムは後退してデストロイから大きく引き離される。

「お前は引っ込んでやがれ、キラ・ヤマト!」

GXのディバイダーが煙を上げている。
それに追い討ちをかけるべく、下がったフリーダムにネオのウィンダムが襲いかかった。
ウィンダムから放たれるビームをフリーダムはシールドで受け止めるが、ウィンダムはまだ諦めない。
他方でキラは、そのウィンダムの動きに見覚えがあった。まさか、と思いながらもウィンダムの攻撃を避けるものの確かめる術はない。
それ故、ウィンダムの戦闘能力を奪って確かめるしかないと考えた。

「ステラをお前にはやらせん!」

ウィンダムは腰部から対装甲貫入弾を取り出してフリーダムに投げつける。
それをフリーダムはシールドで受け止めるが、シールドは見事に爆散して失われてしまう。
だが、フリーダムもただでやられるわけがなく、瞬時にウィンダムの下に回りこむと、
手にしたライフルでウィンダムの両腕両足を吹き飛ばした。

「な、何ぃ!?」

ネオの叫びと共にウィンダムは地面へと激突する。
「誰か、ウィンダムのパイロットを!」

キラの言葉に何機かのムラサメがネオのウィンダムの下へと向かった。
だが、それらのムラサメは建物の陰から放たれたビームに貫かれて爆発した。
それと同時にアビスが現れて、ネオのウィンダムを抱えてその場を離れていった。

「バーカ、何やられてんだよ、お前が死んでどうすんだこの変態中年」
「…ったく口の減らないガキだ…」

「しまった、アビス!」
まんまとアビスにネオを連れ去られてしまったフリーダムは当然、それを追っていく。
だが、その時、フリーダムの右腕にグフのスレイヤーウィップが巻きついく。
デストロイを止めるべく攻撃を仕掛けていたフリーダムにシンの邪魔をさせないため、
レイのグフがフリーダムの前に立ち塞がった。

「貴様の相手はこの俺だ、キラ・ヤマト」
「オレンジのグフ!?でもこの前とは違う?」

身動きが取れなくなったフリーダムの眼前にグフのヒートソードが突きつけられる。

「僕を放してくれ!あの巨大なMSを止めないと!」
「貴様の相手は俺だと言っただろう?それに奴を止めるのは俺の仲間の役目だ」
「止める?僕だって同じだ!邪魔をしないでくれ!」
「笑わせるな、テロリストが!貴様が振りまく身勝手な正義感など迷惑以外何物でもない!」
「違う!僕は世界のために…」
「世界だと!?ただ暴れたい時だけ暴れる犯罪者がどこまで自分のエゴを振りまくつもりだ?」

レイはスレイヤーウィップが巻きついたままのフリーダムを引き寄せると、
発射されようとしていた2門のバラエーナを切り裂いた。

インパルスの中でシンは仲間達のありがたみをこれまで以上に感じていた。
シールドを構えて、インパルスは三度、デストロイに向けて突撃していく。
だが、今回は敵を倒すためではない。大切な人を守るためである。

インパルスは降り注ぐミサイルとビームの雨を回避してデストロイのコックピットに取り付いた。

「ステラ!俺だ、シンだ!君はこんなところにいちゃいけない!」
「誰だ、お前は!私の邪魔をするな、離れろ!」

この答えは予想していた。だが、まだシンは諦めない。

「離れるもんか、守るって約束したろ!ステラ、俺が君を守る!だから、そんなところから降りて一緒に行こう」

シンが言った「守る」という言葉、これにステラは反応した。
どこかで聞いたことがある言葉が自分の中に染み入ってくる。そしてどこか暖かい気持ちに包まれてくる。

(…守る、守る…ステラ、守る…シン?シン、ステラ、守る)

「シン?」

ステラが思い出すように呟く。
その言葉を聞いたシンの中には希望が湧き上がってきた。

「そうだよ、シンだよ。約束したろ、俺はステラを守るって」
「うん!シン、ステラ守る」
「だから行こう、こんなものに乗ってちゃダメだ。さあ、インパルスの手に乗って、ステラ」

デストロイのコックピットが開き、インパルスの手がそこに差し伸べられた。
シンがステラ救出まであと一歩というところまで来ていた頃、
レイのグフと対峙していたキラはデストロイが動きを止めたことを見逃さなかった。

「動きが止まった?なら今しか…」

フリーダムは右腕に巻きついたスレイヤーウィップを思いっきり引き寄せると、そのまま力任せにグフを投げ飛ばした。

「な、何!?」
地面に叩きつけられながらレイが驚きの声を上げる。
正に自由を取り戻したフリーダムは、そのまま青い翼を広げてデストロイへ向かっていった。

ステラはシンの言葉に我を取り戻し、コックピットを開く。
シンの優しい声に安定を取り戻したステラの精神であったが、
ステラの目にインパルスの後ろから迫ってくるフリーダムの姿が入ってきた。
その瞬間、ステラの中に先ほどフリーダムがネオを撃墜したときの映像が蘇り、恐怖がステラを蝕んでいった。

今のステラの目にはフリーダムが黒い悪鬼に見えている。
このままではネオだけではなく、シンまで殺されてしまう。
自分を守ると言ってくれたシンが殺されてしまう。それは絶対に嫌だった。

「お前、来るなあぁぁぁぁ!」

デストロイ頭部にあるツォーンが起動し、エネルギーが収束を始める。
シンは突然の事態に何が起きたかわからなかったが、後ろを振り向くと、サーベルを手にしたフリーダムが迫ってきていた。

「何!?フリーダム、あいつ!やめろ!もうステラは大丈夫だ、こっちに来るな!」
「今やらなくていつやれって言うんだ君は!」
「なんでもかんでも力でねじ伏せればいいってもんじゃないだろ!」

フリーダムがデストロイまであと一歩と迫った時、デストロイへ向かうフリーダムの足元を4連装ビームガンが襲った。
先ほど投げ飛ばされたレイが追いついてきたのである。

「シンの邪魔はさせんぞ!」

グフはフリーダムの下半身にしがみつき、フリーダムを引き摺り落とそうとしている。
だが、フリーダムの上半身はまだ空いており、フリーダムはサーベルをデストロイに向けて投げつけた。
しかし、レイのグフがしがみついていたせいでフリーダムのバランスが崩されてしまっており、サーベルは真っ直ぐインパルスに向けて飛んでいく。

ユニウス条約で禁止された核動力の機体の持つ力で投げつけられたサーベルは物凄い速度でインパルスのコックピットに迫る。

(避けきれない!)

シンが死を覚悟した瞬間であった。
何か大きな衝撃によって機体が跳ね飛ばされたのである。それはデストロイの腕であった。
そしてサーベルはちょうどデストロイのコックピットに突き刺さっていた。

この時、シンは時が止まったかのような感覚を覚えた。
操縦者を失ったデストロイは静かに動きを止めて、後ろへと倒れ込んだ。

「ステラアアアァァァァァ…」

自分が守ると約束した相手を結局自分は守ることが出来なかった。
しかもその相手は、父母そして妹を殺した憎きキラ・ヤマトに殺された。
シンの中に家族の亡き骸を目にしたときの絶望感と無力感が蘇り、自分から何かが抜け落ちていくのを感じた。

「仕方ないよね、ああするしかなかったんだ…」
デストロイが沈黙したことを確認したキラは機体を上昇させ、その場を離脱しようとする。

「ふざっけるなああああああ!」
だがその時、フリーダムの上空からGXが現れた。
そして、そのまま急降下して来ると、その勢いを利用してフリーダムを蹴りつけ、地面に叩き落とす。
「いつもそう簡単に逃がしてたまるかよ、今日こそは逃がしやしねーぞ!覚悟しやがれ!」

つづく

次回「俺に聖剣を」