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X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第43話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 14:00:45

第43話「ふざけるなぁ!」

オーブを発ってから数日、アークエンジェルとクサナギ率いるオーブ宇宙軍の艦隊は、あと少しで月面都市コペルニクスに到着しようとしていた。
そして両艦のブリッジからは、月面を見下ろすかのような巨大構造物が見えている。

宇宙要塞メサイア

ギルバート・デュランダル率いるザフト軍と、突如武装蜂起を行なったラクス・クライン率いる反乱軍との戦いが行なわれた場所であり、現在では、宇宙におけるラクス軍の重要拠点の1つである。
この要塞の利点は宇宙を移動することが可能な点であり、プラントから出てくるラクス・クラインを防衛するために、月面近くまで移動してきたのであった。

「メサイアか…」

シンはアークエンジェルの中から艦の外に見えるメサイアを眺めていた。
そこは、ザフトの人間として自分が最後に戦った場所であり、アスラン・ザラという凄まじいまでの強敵を討ち取った場所であり、キラ・ヤマトに友を奪われた場所でもある。

シンの頭の中では、自分が討たれたら躊躇いなくキラ・ヤマト達を討て、というユウナの言葉が繰り返されていた。

これ以上キラ・ヤマトを好き勝手にはさせない、これ以上、自分の仲間を殺させたりはしない、今度こそ、シン・アスカという存在に楔を打ち込んだキラ・ヤマトとの因縁に決着をつけるのだ、そう決意を固め、妹の遺した携帯電話、ステラに渡された貝殻、レイの遺髪をシンは手にしながらメサイアを睨みつけていた。

「あの野郎は…俺が討つ!今度こそ、ここで終わらせるんだ、みんなのためにも…!」

ちなみにその頃、アークエンジェルの格納庫ではヨウランとヴィーノは一台の白い巨大なトレーラーを眺めていた。
そして明らかに軍用のトレーラーとは異なる物体に訝しげな顔をしたヴィーノが口を開く。

「なあ、この大天使宅配便って書いてるトレーラーは何なんだ?」
「あれ?オーブ出発するときにノイマンのオッサンとチーフが運んできたんだけど中身は聞いてねえ」
「この大きさだとMSでも積んでるんじゃないのか?」
「じゃあ後で師匠に聞いてみるか?」
「師匠?」
「そ、最近チャンドラさんにコンパに連れてってもらってんだよ、今までのメンバーに欠員が出たらしくてさ」
「てめえ!なんで言わなかったんだよ!俺も連れて行きやがれ!」
「いや、今はメンバーが一杯だから。トライン副長…じゃなかった艦長に彼女が出来たらな」
「……orz」

他愛もないやりとりが終わった頃、周辺に宇宙軍の艦隊を待たせて、アークエンジェルとクサナギはコペルニクスに入港した。
他方のザフト艦隊も、エターナルとミネルバを除いてオーブ軍と対峙する形で、周辺に待機していた。
これはコペルニクスの当局が大規模な戦闘に巻き込まれるのを嫌ったために、両軍に2隻のみの入港が認めたからなのであったが、結果としてコペルニクス周辺の宙域は、両軍が殺気を向けたまま睨みあうという、当局には物騒極まりない状態が生じてしまったのであった。

コペルニクスに入ったガロード達は、護衛のオーブ軍兵士やスタッフと共に、ユウナに連れられて市街地から少し離れたところにある建物にやって来た。
既にその建物の付近には護衛のためのザフトの軍人が相当数集まってきており、コペルニクスの外同様に、オーブ・ザフト両軍の兵士の睨みあいが始まろうとしていた。

(話し合いに来たとは思えないですね、どいつもこいつも殺る気満満だ)
(なんと言ってもこの前まで戦っていたからねえ)
(代表代行、気をつけて下さい、どこでラクス・クラインの手の者があなたを狙ってくるか分かりません)

黒塗りの車の中でシン、ガロード、ジャミル、ユウナがヒソヒソ話をしていると、ガロードが驚いた様子で指を指した。

(ってオイ!アレ、ストライクフリーダムじゃねえかよ!)

ガロードの指差す先には、首脳会談が行なわれる予定の建物から少し離れた所でそびえ立つ、今世界でユニウスセブンや2基のコロニーを消し飛ばしたガンダムダブルエックスの次に有名なMS、ラクス・クラインに最も近いとされる人物が乗っているストライクフリーダムの姿があった。

(どうやらまともな話し合いをするつもりはないみたいだねぇ)

だが、車はユウナのため息を余所に、建物の敷地へと入って行き、入り口の前で止まると、その建物の中からバルトフェルドが姿を現した。

「お待ちしておりましたよ、セイラン代表代行」
「これはこれはわざわざの出迎えご苦労様です、指名手配中の砂漠の虎殿?」
「はっはっは、これは手厳しい。まあとにかくこちらへどうぞ」

バルトフェルドはユウナの嫌味をサラリとかわして笑みを浮かべた。
バルトフェルドにとっては、デュランダルを討ったときにまんまとユウナにアークエンジェルを持ち去られてしまったこと、オペレーションフラワーでユウナを仕留め切れなかったことは失態だったのである。
バルトフェルド自身、ユウナ・ロマ・セイランという政治家がここまで厄介な相手になると当初は思っておらず、この点にバルトフェルドの油断があったのである。

他方、ユウナにとって、バルトフェルドがいきなり出迎えに来たことは正直驚きであった。
ラクス・クラインの腹心であり、ラクス軍の主要な行動である軍事に関して実質的な指揮権を持っているというアンドリュー・バルトフェルドが、出迎えに出てきたということは、ラクス軍もこの会談に本気であることを示していた。
もっとも、一体何について本気であるのかについてはユウナにははっきりとしていなかったのであるが。

そして奥の部屋へと案内されたユウナを待っていたのは、キラ・ヤマトを始めとした部下を引き連れたラクス・クラインであった。
向かいあう形でテーブルが並べられているが、ユウナには両陣営の間にあるスペースは近いようでとても遠いものに感じられた。

一方でシンとガロードが思いっきりキラを睨みつけ、特にシンは外にいる兵士以上の殺気をキラにぶつけていた。
(おいシン、少し落ち着けよ)
(…わかってる。ユウナさんをそもそも討たせないようにすることが俺達の任務だからな)

「お待ちしておりましたわ、ユウナ・ロマ・セイラン」
「待ち合わせの時間にはまだ少し早かったと思いましたけどね、ラクス・クライン」
「女性を待たせるのは失礼ではないのですか?」
「相手がまともな女性なら失礼でしょうね、まともな女性なら」

早くも両国のトップがにらみ合いを始めて空気がピリピリとし始める。
政治家の子供という点では共通する生まれを持つユウナとラクスであるが、受けてきた教育や積み重ねてきたもの、得意とする手法、目的実現手段等両者の間には埋めようのない大きな溝が横たわっている。

ユウナは、国民の大きな支持を背景にアスハが大きな力を振るうオーブの中で、サハク家とともにアスハ家と対立する立場に近いセイラン家に生まれた。そして父ウナトからいわゆる政治屋としてのあり方を教え込まれ、政治家になるべく、そのための人脈を築くべく海外に留学をして法や政治経済を学んできた。
だが、彼を盲目的に支持する団体や人間は多くなく、いかにして自分の目的を達成するかを考え抜く必要があった。
それ故、自らの目的は、根回しをして外堀を埋めた上で、悪く言えば、コッソリと達成する。

他方でラクスは、地球からプラントの独立を勝ち取るためにプラントの中心人物の1人であったシーゲル・クラインの娘として生まれ、世界は自分のもの、自分は世界のものと母親に教え込まれて育ち、穏健派と「されている」クライン派の長の娘として、歌手活動や追悼行事などを行なって「平和の歌姫」とプラントでは呼ばれていたが、その活動は父シーゲル・クラインの政治活動の一部としての側面があったことは否定できない。
彼女自身は政治家としてはわずかなことしか教えを受けていない。
あくまでプラントでアイドルとしての活動をしてきたに過ぎないのである。

だが、彼女には、ユウナとは全く異なり、自分を盲目的に信奉する存在が多数あった。
これはカリスマという政治家にとってはノドから手が出るほど得たいものである。
そのためか、彼女が望めばその望みはあっという間に実現され、戦争を終わらせたいと願ったときには、当時のザフトの最新鋭の機体であったフリーダムを白昼堂々と窃取することができたし、エターナルという戦艦を強奪することも、彼女が望んだ結果として多くの人間がそれを実現するべく行動し、シーゲル亡き後はファクトリーやターミナルといった組織が自分のバックについて彼女の望みをさらに実現してくれた。

母の言葉、自分の下に集う者達、集まってくる強大な力と終わらない戦争。
これらのものが、彼女に自身こそが、自身のみが絶対に正しい存在であり、自分に反する存在は絶対的に間違った存在であり、自分こそが「世界のために」行動する存在なのだという認識を与えてしまうことになってしまったのである。

「そんなことよりも、我々の国の代表であるアスハ代表を連れてきていただけたのでしょうね?」
「もちろんですわ。オーブはカガリさんの国。あなたのような者が手にしてよい国ではありません」
「これは面白い。私が代表業務をせざるを得ない状況を作り出したのはどこのどなただったでしょうか」

ユウナがラクスを睨みつけた。しかし、それしきのことでラクスが動じることもなくユウナを睨み返す。
その時、ラクス側にある扉が開き、ザフトの兵士に連れられて来たカガリが姿を現した。
顔に若干の疲れが残っているのが外から見てもわかるが、彼女の目はまだキラによって拉致される前のものと変わらない輝きと強さが宿っている。

「そうしてオーブを好きなままに扱うあなたは正しいのですか?カガリさんを前にして正しいと言えますか?」
「私はオーブの法、ウズミ様の唱えたオーブの理念に反するような行いをした覚えはありませんよ。
 それよりも他人を意に反して拉致することの方こそ正しいんですか?」
「ダブルエックスなどという大量破壊兵器を振りかざし、人々を戦いに駆り立ててよいのでしょうか?」
「それより先に僕の質問に答えていただけますか?質問を質問で返されては話し合いにはならないでしょう」
「カガリさんもよくご覧になってください。そして誰が正しいのかよくお考えになってください」
「それはこちらも望むところですよ。アスハ代表、私たちのどちらにあなたの信じるものがあるか、その目でしかと確かめていただきたい」

「あ、ああ」

カガリの表情には、いきなり話を振られたことによる少しの戸惑いがあったが、それを見たラクスが
口を開こうとしたところに、ユウナがそれを遮った。

「それにしてもおかしいですね、
 わが国はデュランダル議長を不法な武装蜂起によって殺害したテロリストに攻め込まれたり、正体不明のテロリストにコロニーを落とされそうになったために軍を出動させたことはあっても、人々を戦いに駆り立てたことなどありませんよ?私が言ったのは、自分のみが絶対正義という妄言を垂れ流すテロリストに屈することなど、オーブは自分達への侵略を許さないとする理念に反すると言っただけですが?」
「なぜあなたはそうやって世界の平和を願う私の言葉を遮るのですか?」
「平和とは人々が手を取り合い共に作り上げるものです。決して誰かが一人で押し付けるものなどではない。
 それよりも早くアスハ代表の身柄をその不法な拘束から解放してもらえませんかねぇ?」
「…あなたがその首を私達の前に差し出すのが道理でしょう?」
「何らの手続を踏むこともなく、ただ戦うことのみで己の欲望を充たす人間によく道理などという言葉を恥ずかしげもなく口にできたものですな」
「カガリさんはどうですか?今の私達の言葉のどちらが正しいかこれでわかったでしょう」

このときの状況は、カガリにしてみれば今更何を言っているのか、という感じであった。
確かに、一昔前の自分であったならば、ラクスの言葉が正しいのだと、ラクスが正しいのだと感じ、その感じ方に何らの具体的な根拠や手段方法の考察のないままに、ただ、その聞こえのいい言葉に賛同していたはずである。
だが、今は違った。ラクス・クラインのやっていることは明らかに世界中の法やルールが許さないものであり、ラクスの言い分は一方的に自分の意見を叩きつけて服従を強いようとしているようにしか見えなかったのである。
(もっともその理由が何なのかは具体的には何だったのかは少し忘れていたが)
オーブに返せと何回声高に叫んだか数えることすら馬鹿馬鹿しいほど、彼女はオーブに帰ることを望んでいた。
その要望をないがしろにして「セイランに騙されている」「洗脳されている」と言ってカガリを拘束し続けたのは紛れもなくラクス・クラインとキラ・ヤマト、そしてその手の者達であった。

「ラクス、悪いけどお前、やっぱおかしいよ。なんで自分ばっかりが正しいと思えるんだ?
 やることなすこと全部自分の思い通りじゃないと気が済まないなんて頭がどうかしてる」

「カガリ!なんてことを言うんだ!?」

これまで口を閉ざしていたキラが声を上げた。彼にとっては、今のカガリの発言はラクス・クラインを侮辱するものであり、カガリがいくら自分の姉であったとしても到底見過ごすことができなかったのである。

だが、ラクスは、カガリの言葉に僅かながら表情を変化させながらキラを制して、カガリに応える。

「いいのです、キラ。カガリさんはやはりまだセラインに騙されているのです…可哀想に…『仕方ない』ですわね」

そう言ってラクス・クラインは髪を掻き上げて、その髪留めに手を触れた。
その瞬間、場の空気が突然変わったことにガロード、シン、ジャミルが気付き、ジャミルとシンが手前に置かれたテーブルを蹴り上げ、ガロードはユウナを床に押し倒す。
そして次の瞬間、ガロード達の頭上を銃弾が通り過ぎて行った。

「ガロード!シン!」
「わかってる!」
「カガリはどうなった!?」

ユウナの問いに、ガロードが威嚇射撃をしながらプラント側に目を向けた。
既にそこには護衛に囲まれたラクス・クラインと、扉の近くでキラ・ヤマトに手を引かれていくカガリの姿があった。

「まだそこにいるけどキラに連れて行かれそうだ!」
「ならカガリを頼む!僕は大丈夫だ。今カガリを連れて行かれる訳にはいかない!」
「おい、ガロード。俺が突っ込んで奴らの気を引いてやるからお前がアスハを助けて来い!」
「突っ込むってお前!」
「これでも元ザフトレッドだ!忘れてただろ!」
「ああ、忘れてたぜ!」

2人は不敵な笑みを浮かべ、得物を手にして目配せをすると、それを見ていたジャミルがピンを引き抜いた手榴弾を放り投げた。
やがてガロード達に銃を向けていたザフトの兵士達の悲鳴が爆発音とともに聞こえてくる。
そして同時に2人は爆煙に紛れて突っ込んでいった。
シンは身をかがめ、次々と向かってくるザフト兵に手にしたナイフを突き刺して、ときに急所を切り裂いていく。
ガロードもシンに斬られた兵士のマシンガンを奪い取ってキラとカガリを追っていった。

「ユウナ様、早くこちらへ!」

一方でジャミルやトダカらに護衛される形でユウナは建物からの脱出を終え、港に戻るための車に向かっていた。
だが周囲ではオーブ軍とラクス軍との銃撃戦が続いており、両軍の兵士が1人また1人と倒れていっている。
そして、迎えの車まで辿り着き、それに乗り込もうとしたときであった。

「ラクス様のために!」

オーブ軍の軍服を纏った男の放った銃弾が、ユウナの背中から腹を貫いた。
この男を始めとする、オーブ軍兵士になりすましたザフト兵は
バルトフェルドがこのような事態になったときのために用意していた隠し球であった。

その兵士はその場で即刻射殺されたが、目の前で発生した信じ難い光景にその場が凍りつき怒号が響き渡る。

「ユウナ様!しっかりしてください、ユウナ様!」
「だ、大丈夫だ、それよりカガリを…」
「トダカ一佐、今は代表代行を艦へ!」

ユウナに凶弾が命中した頃、シンの援護の甲斐あってガロードはカガリとキラの姿を発見した。

「待ちやがれ!」
「くっ!?」

ガロードがキラに向けて拳銃を向けるが、他方のキラもカガリの肩を掴みながらも空いた手にした拳銃をガロードに向けている。

「へっ!てめえと面合わすのは3度目だな、キラ・ヤマト!」
「やっぱり君は慰霊碑とディオキアのときの…」
「次から次へとあっちこっちで暴れまわって罪もない人たちを傷付けやがって…いい加減観念しやがれ!」
「僕だって好きで戦ってるんじゃない!僕は世界のために仕方なく戦ってるんだ!」
「何が仕方なくだ!プラント乗っ取った奴がバカ言ってんじゃねえ!そうやってラクスが言ってただけだろ!?」
「君こそどうしてダブルエックスみたいな危険なものを!」
「んなもん、てめえのフリーダムと同じだろうが!
 ミーティアとかいう化け物つけて暴れまわるフリーダムと何が違うか言ってみやがれ!」
「でも…それでも僕達は世界を守りたいんだ!」

この言葉にガロードが敏感に反応した。
フリーダムを乗り回して世界中で好きなように暴れまわった挙句、オノゴロ条約締結により一度は終わった戦争を、言いがかりにしか聞こえない理屈でラクス・クラインとともに再び巻き起こしたのはキラ・ヤマトである。
にもかかわらず、世界を守りたいといったキラの言動は、ガロードにとっては矛盾しているにも程があるものだった。

「手前らだけが世界を守ってるみたいなこと言ってんじゃねえ!お前らのせいで戦争がまた始まってんだぞ!」
「でもラクスが!」
「もういい!さっさとその銃降ろしてカガリさんを返しやがれ!」
「そうだ、もうやめろキラ。はっきり言って私は今のお前達を信用できない」
「いい加減にしてよカガリ!なんで君はわからないんだ!?」
「どうでもいいけど、ロックを解除しないと銃は撃てないぜ?」
「えっ?」

ガロードの言葉にキラが驚いて拳銃のロックを確認しようとしたとき、彼に一瞬の隙が生じた。

これはもちろんハッタリであり、ガロードもまさかこのような古典的な嘘に引っ掛かるとは思っていなかったのであるが、ガロードがこんなことをしてみようと思ったのは、以前ディオキアでキラがシンに一方的に殴られたり、現に拳銃を持つ動きがぎこちなかったことから
MSのパイロットとしては極めて優秀であっても、生身での実戦経験はほとんどないのではないかと推測したからである。

「うおりゃあああ!」

体を低く屈めてガロードはキラに体当たりをぶちかました。
下から突き上げられる衝撃によって転がり、回転が止まった後もガロードとキラはもみ合いになりながら、床に落ちた拳銃を拾うべく取っ組み合いになる。
だが、基本的身体能力という点では最高のコーディネーターとして作られた「スーパーコーディネーター」であるキラが大いに優越することは否定できない。
ガロードを突き飛ばし、拳銃を先に手に取ったのはキラであった。

「もうやめてよね、どうして君達はラクスに従わないんだ?せっかくラクスが平和な世界を作ろうとしてるのに」
「やめろキラ!」
「御託並べてんじゃねーよ、ターコ。結局手前らが世界を支配したかっただけだろうが!」

少し離れた所でカガリが叫ぶが、キラが銃口を下ろすことはない。

(くそ、ここまでなのかよ!)

ガロードが悔しさに歯を食いしばり、キラが引鉄に指をかけたときであった。

(そこを動かないで下さい…)

ガロードの頭の中にティファの声が響いてきた。
そして、何かが近付いてくる音と銃声が聞こえてきて、キラの脇の壁から一台の白いトラックが正面から突っ込んできた。

その衝撃でキラは前に倒れ込み、ガロードとカガリは突然の出来事にやや呆然としている。

「ふ~、さっすがフェイズシフト装甲だ、壁をぶち破ってもなんともないぜ」
「バカ!燃費悪くて使いモンにならねーよ!それよりティファ、ガロードは本当に大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です」
「ちわ~っす、大天使特急便でーっす。ガロード・ランさん、判子お願いしま~す」

そのトラックから出てきたのは、ノイマン、チャンドラ、そしてティファであった。
いざというときにダブルエックスの運搬を頼まれていた2人は、出発のタイミングを決めかねていたのであるが、未来を予知したティファに頼まれ、こうしてやってきたのであった。

「ガロード…大丈夫ですか?」
「へへ、なんとか大丈夫みたいだ。ありがとな、ティファ」

少し顔を赤らめている2人を余所に、キラはカガリと拳銃を探していたが、
逆にチャンドラがキラの頭部に拳銃を突きつけた。

「悪いが動くなよ、ヤマト?」
「またあなた達ですか!僕の邪魔をしないで下さい!」
「おいおい、俺達の商売の邪魔したのはお前さんだっての」
「僕達がアークエンジェルに乗ったときに一緒に来なかったのにどうして…」
「いやそんなこと言われても俺達は犯罪を犯罪を思わないほど世間知らずじゃないからなあ…」

「ガロード、ダブルエックスを持ってきたぞ。アスハ代表は俺達が何とかするから早く乗れ!ザフトが出てくるかもしれない!」
「おう!助かったぜ2人とも!」

ガロードはティファを連れてダブルエックスに向かって行く。
他方で、手の空いたノイマンはトラックにカガリを連れて行った。

「こっちはオッケーだ、チャンドラ!」
「了解!」

チャンドラが拳銃を構えながらトラックに乗り込み、そのドアが閉められる。

「ここでお前の命は取らないでおく、昔仲間だったときにお前に助けられたことはあったからな。追っ手が来ないうちにさっさと逃げろよ」

一応、キラがストライクに乗っていたときやアラスカでアークエンジェルを救ってきたことは確かであり当時からアークエンジェルの乗組員だった人間としては、それらには彼らも感謝をしていたのである。

キラは無言でその場から走り去っていくと、カガリがポツリと呟いた。

「ありがとな、あいつを助けてくれて」
「さあどうでしょう?俺達は、昔は仲間だったからってのがありますけど、ガロード達はそうじゃないですから」
「…やっぱりもうあいつらは…」
「まずはセイラン代表代行の下にお連れしますのでシートベルトを」

カガリとしてはラクスやキラの考え方には最早ついていくことができなかったが、彼女にとってキラ・ヤマト、ラクス・クラインという存在が大きいものであることも確かであり、わずかながら、キラ達が激しく憎まれていることにどこかで悲しさを感じていた。

一方で、ダブルエックスに乗り込んだガロードは、ティファを膝の上に乗せると、Gコンを差し込んでダブルエックスを起動させた。

「ガンダムダブルエックス、いくぜ!」

白いトラックの屋根が開いてその中から、巨大な砲塔を背負ったMSが立ち上がり、オーブ軍、ラクス軍が交戦している建物付近に突然姿を現した。

ダブルエックスが起動したのとほぼ同じ頃、キラはラクスの待つストライクフリーダムの下に辿り着いていた。

「キラ、カガリさんは?」
「ごめん、邪魔が入って…それより早くストライクフリーダムに乗って」
「それではまずはカガリさんを取り戻しましょう、私も共に参ります」
「でもそれじゃ・・・」
「いえ、下手に戻るよりはストライクフリーダムの方が安全です。お願いいたしますわ、キラ」
「う、うん。キラ・ヤマト、ストライクフリーダムいきます!」

ほぼ同時に動き出したダブルエックスとストライクフリーダムは、会談が行なわれていた建物を挟んで睨み合いになっていた。
しかし、キラの目的はカガリの奪還であり、いくらダブルエックスが目障りな存在であっても、
それにこだわり続けることはできなかったのである。

ストライクフリーダムは飛び上がりカガリを乗せた白いトラックに向かっていこうとする。
しかし、そうはさせじとダブルエックスがストライクフリーダムの前に立ち塞がった。

「へっ、そう簡単に逃がすかよ!」
「くそ、また君か!」
「さっきの借りはヤミ金以上の利息をつけて返してやるから覚悟しやがれキラ・ヤマト!」
「いい加減、僕の邪魔はやめてよ!」

キラはSEEDの力を発動させ、ビームサーベルを引き抜いてダブルエックスに斬りかかる。
同じくガロードもハイパービームソードを引き抜いてそれに応戦する。
オーブで戦ったときと異なり、両機体のパワーは互角であり、互いが斬撃を繰り出す一進一退の攻防が繰り広げられていた。

「右上、次は正面です」

ストライクフリーダムとは初対戦であるガロードは、そのスピードに適応するまで、ティファの予知能力の補助を受けていた。
ダブルエックスはティファの告げた方向からやってくる斬撃を捌きながら、負けじと自らも斬撃を繰り出して切り結ぶ。
ストライクフリーダムに乗ったキラは、新しい機体に乗っているにも関わらずオーブのときと同様に自分の攻撃が見切られているかのような動きに苦虫を潰したような表情を浮かべつつ、突きを繰り出した。
だが、ストライクフリーダムの動きに適応を始めたガロードは、ダブルエックスの右半身を後ろにそらしてサーベルを回避し 目の前のストライクフリーダムの顔を思いっきり殴り飛ばした。

「こうなったら!」

コックピットに大きな衝撃を受けながらキラはストライクフリーダムに連結ビームライフルを手に取らせてダブルエックスに向けて発射する。

「なに!」

とっさにダブルエックスはディフェンスプレートでそれを防ぐが大きな衝撃で吹き飛ばされ、なおも追撃してきたストライクフリーダムのケリによって地面に強く叩きつけられた。

「ティファ、大丈夫か!?」
「私は大丈夫です。でも…」
「クソ!あんなの何発も喰らってらんねえぞ!」

ガロードはダブルエックスを再びストライクフリーダムに向かわせようとするが、その時、ストライクフリーダムから通信が入ってきた。

「聞こえますか、私はラクス・クラインです。ダブルエックスのパイロット、ガロード・ラン、あなたに話があります」
「何か用かよ!」

ガロードにとってはラクス・クラインはキラ・ヤマトとともに世界を荒らして回り、デュランダルを殺害して戦争を再び始めただけでなく、身勝手な要求をオーブに突きつけて侵略しようとしたテロリストでしかない。
そのため、ガロードとしてはラクス・クラインに話などはなかったのだがつい売り言葉に買い言葉で言ってしまったのであった。

「私達はカガリさんを救い出さねばなりません。道を開けなさい」
「何言ってやがる!オーブでカガリさんを連れ去ったのはてめえらだろうが!」
「そうやってセイランやデュランダルの言葉を再生産するあなたは本当に正しいのですか?
 あなたが信じて戦うものは何なのですか?」
「俺は俺が正しいと思ったからユウナさんと一緒に戦ってんだ!てめえにガタガタ言われる筋合はねえ!
 俺が信じるのは仲間たちと俺自身だ!だからてめえらのせいで世界が滅ぶのを防ぐために戦ってんだよ!」
「私は世界のもの、世界は私のもの…私は世界のために戦っているのです。もうこれ以上の邪魔はおやめなさい」
「ガロード…あの人から自分以外を滅ぼしても足りないほどの決意を感じます…」
「ティファ…」
「世界にはデュランダルやセイラン、ロゴス…この世界を滅ぼそうとする者ばかりいます。
 もはや他の人間に世界を任せていて争いはなくならない、世界は滅んでしまうのです。
 ですから世界のものである私が世界を平和なものに作り上げていかなければならないのです」
「じゃあてめえと違う意見の奴はみんな平和の敵、世界の敵だとでも言うのかよ!?」
「その通りです。世界のものである私が平和な世界を作らなければならないのですから、私だけが平和な世界を作れるのです」

この時、ガロードの中で何かが音を立ててキレた。

「ふざけるなぁ!」

ダブルエックスがストライクフリーダムに凄まじい速度で突っ込んでいく。
ストライクフリーダムはビームライフルを放つがそれをすべて紙一重でダブルエックスは回避し、ストライクフリーダムの懐に入り込み、ディフェンスプレートで再びその顔面を殴りつけて吹き飛ばした。

「くだらねえ御託並べてんじゃねえ!てめえは世界を支配したかっただけだろうが!
 てめえらの訳わかんねえ理屈で世界を滅ぼされてたまるかぁ!!!」

体勢を整え終えないストライクフリーダムになおもダブルエックスは追い討ちをかけるべくハイパービームソードを振り下ろす。
ストライクフリーダムはそれをなんとか受け止めるが、ダブルエックスは勢いに任せてコックピットを蹴りつけた。

しかしガロードの勢いに押されコックピットに直接伝わる衝撃に耐えながら、キラも口を開く。

「いい加減にしろ!ラクスだって戦いたくて戦ってる訳じゃないんだ。君はラクスの苦しみがわからないのか?
 本当は戦いたくないのに、セイランやデュランダルみたいなのがいるから心の痛みに耐えて…ラクスは今泣いているんだ、どうしてそれがわからない!?な…」
「わかってたまるかぁぁぁぁぁ!!!てめえこそふざけたこというのもいい加減にしやがれ!
 みんながやっと掴んだ平和をてめえらのわがままでぶっ潰されてたまるかぁ!!!」

ガロードの怒りに呼応するように、ダブルエックスのハイパービームソードが、連結ビームサーベルを切り裂いた。

ガロードは、崩壊して荒れ果てた世界で仲間達と戦ってきた末に、カトックから世界を滅ぼすという過ちを繰り返すなという願いを託されて、ダブルエックスで戦ってきた。

今、このCE世界では2度の大きな戦いを経てボロボロになりながらも、ナチュラルとコーディネーターの融和に向けてようやく停戦に至ったのである。
これ以上戦いが続いたのでは世界の体力がもたないし、ようやく融和を始めたナチュラルとコーディネーターの間に再び大きな亀裂が入りかねない。そうなってしまっては、それこそ世界は滅んでしまうであろう。

にもかかわらず、聞こえのよさげな言葉を吐きはするものの、その実質は自分のみが正しいと盲信して終結した戦争を再び巻き起こし、他者に服従か滅びのみを押し付けるために躊躇いもなく武力を行使して戦いの火種を振り撒くラクス・クライン、キラ・ヤマトの思考・行動は、ガロードにとって世界を滅ぼそうとするものそのものであった。

連結ビームライフルを切り裂かれたストライクフリーダムは咄嗟にサーベルを手に取り斬撃を繰り出す。
ダブルエックスはそれを受け止めるが、目の前にストライクフリーダムの腰にあるクスフィアスが伸びてくる。
しかしこの攻撃はオーブでキラがガロードに繰り出したものと同じであった。

「同じ手ぇばっか喰らうかあああ!」

ガロードはダブルエックスを右に移動させ、伸びたクスフィアスの砲身を掴み、遠心力を利用してストライクフリーダムを振り回す。
やがてクスフィアスの砲身が限界に達し、根元からもぎ取れてストライクフリーダムは地面に叩きつけられた。
とどめをささんとダブルエックスはストライクフリーダムに迫るが、その目前をビームブーメランが通り抜けた。
ガロードはそれを切り払いストライクフリーダムと距離を取るが、そこに現れたのはフリーダムとジャスティスであった。

「ラクス様、離脱なさってください。エターナルの発進準備ができました!」
「いえ、カガリさんを早く…」
「敵艦も間もなく発進するはずです。もう間に合いません!」
「…わかりました。キラ、私をエターナルに」
「うん、わかった!」

そう言って、キラはストライクフリーダムを港の方へ向けて飛び立っていった。
それに続いてフリーダム、ジャスティスもその場を離脱していくが、さすがにあの3機を相手に追撃をするのは困難なため、ガロードはその場を離脱して、アークエンジェルとクサナギが停泊している港の方へダブルエックスを向けた。