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X-Seed_双星の軌跡_第03話_3

Last-modified: 2007-11-11 (日) 16:53:30

 閃光は、一瞬だった。
 メガソニック砲。ヴァサーゴの腹部に内蔵されたこの大口径ビーム砲は、MS搭載兵器と
して正しく規格外の高威力を誇る。先ほどアーモリーワンの外壁を穿ったのも、この一撃だ
った。
 だが――
「ほう」
 メインモニターに映された情景を目にし、シャギアは呆れたように、あるいは感心したように
呟く。
 インパルスは、いまだ『生きて』いた。
 直撃の瞬間、シンは咄嗟にインパルスのVPS装甲の出力を、最硬の強度を持つ『赤』へと
引き上げていたのだ。加えてシャギアが確実に命中させるため、ビームの収束率を甘くした
拡散モードでメガソニック砲を撃っていた事が幸いした。
 どちらかの要因が欠けていれば、シンとインパルスは宇宙の藻屑になっていただろう。
「う……く……が――」
 とは言っても、インパルスの損傷は甚大なものだった。頭部と両脚は失われ、全身が手酷
く破損している。辛うじて無事なのはシールドで守ったコクピット周りのみ。またその衝撃は、
コクピットのシンにもダメージを与えている。
 ずたずたに引き裂かれた装甲がPSダウンし、ディテクティブモードの暗灰色に戻る。
「さあ、その機体も頂こうか」
 シャギアのヴァサーゴが、インパルスに接近する。だが捕獲しようとするその瞬間、弾か
れたように後退するヴァサーゴ。その眼前を、無数のビーム弾が翳め飛ぶ。
 ようやく追いついたレイのザクの射撃だった。
「シン! どうした、シン!!」
 レイの呼びかけにも、意識を失ったシンは答えられない。
「邪魔をしないでもらおうか!」
 ヴァサーゴの両腕が伸張し、クロービームを連射する。だがその不規則で変幻自在の射
線を、ザクは悉く掻い潜った。
 赤と白、二機のMSが交差する。
「今の動き――」
 シャギアの双眸が細まる。
 ヴァサーゴのストライククローは、その柔軟でフレキシブルな挙動によって、オールレン
ジ攻撃端末に近い形での運用を実現している。それをこうも易々と回避するとは――
「少々確かめさせてもらうぞ、白い坊主君」

「艦長、インパルスとの交信が途絶えました」
 ミネルバ艦橋、緊迫したメイリンの報告に、タリアは毅然とした表情で自国の議長を振り
返る。
「議長、私は本艦によってなんとしてでも奪われた機体を奪還、もしくは完全に破壊するべ
きだと意見を具申します。発進の許可を」
「無論だとも、グラディス艦長。みすみすアレを取り逃がしては、この後どれほどの脅威に
なるか。私も十分に把握している積もりだ。国家の安全を司る立場としても、ミネルバには
即座に外の母艦を追跡してもらいたい」
 二人のやり取りに、ブリッジが大きくどよめく。
「今からでは、議長に艦を降りて頂く余裕がありませんが」
「艦長、とても残って報告を待っていられる状況ではないよ。私には権限もあれば義務もあ
る。私は君と、話す為だけに来たのではないからね――タリア」
(え!?)
 デュランダルの意味深げな言葉に、メイリンの耳が旧世紀のアニメ映画に登場する空飛
ぶ象のように広がった。
 深々とため息をついたタリアが、軍帽を被り直すと、腹に響く声を上げる。
「メイリン! ミネルバ発進シークエンス開始! 本艦はこれより戦闘ステータスに移行す
る!」
「りょ、了解! 緊急伝達、全艦にコンディションレッド発令、これは演習にあらず! 繰り返
す、これは演習にあらず!」
 栄光と苦闘に満ちた女神の旅路は、こうやってその幕を開けた。

 結論から述べると、シャギアとヴァサーゴは終始レイのザクを圧倒していた。機体性能、
戦闘経験、操縦技量、その全てにおいて、両者の間には埋めがたい格差があったのだ。
「センスは悪くない、が――」
 右、と見せかけて左。フェイントにかかったザクの右腕が、ストライククローの直撃を受け
てもぎ取られる。コントロールを失ったザクは、錐揉みしながら吹っ飛ばされた。
「見込み違いだったか……ここまでだな」
 ヴァサーゴの腹部装甲が上下に分割され、メガソニック砲の砲門が露になった。
 たかだかMS一機を相手に、非効率極まる過剰殺傷。シャギアは、嗜虐の笑みを浮かべ
ながら白いザクをロックオンする。
 だが――
「上!?」
 天頂方向より、数条のビームが飛来する。回避機動を取ったシャギアが目にしたのは、
二機のゲイツRと一隻の戦艦。
 赤い翼を広げたその姿は、引き絞られた弩を思わせた。

「デイル機およびショーン機、アンノウンMSと接触! 交戦を開始します!」
「インディゴ53、マーク1ブラボーに不明艦1!」
 メイリンとバートの報告に、タリアは頷く。
「それが母艦ね。諸元をデータベースに登録、以降は対象をボギーワンと呼称する」
 タリアはそこで一拍置く。船出即初実戦――ブリッジクルーの緊張は最高潮に達した。
「艦橋遮蔽! 進路インディゴデルタでボギーワンに突撃! 全兵装使用自由!」
 やつばきに命令を出すタリア。同時に艦橋がフロアごと下降し、船体内部の主要防御区
域(ヴァイタルパート)内に設置された戦闘指揮所(CIC)と直結する。
「アーサー、砲戦指揮は任せるわ。操舵は私が指示します」
「りょ、了解――主砲(トリスタン)および副砲(イゾルデ)、全門開け! ランチャーエイト、
1番から4番まで対艦ミサイル(ナイトハルト)装填っ! 砲雷撃戦準備、照準ボギーワンに
合わせっ!」
 次々と艦の武装が起動する中、背後からデュランダルがタリアに声をかける。
「彼らを救助する方が先ではないのかね、艦長」
「そうですよ。だから母艦を撃つのです。敵を引き離すのが早いですから、この場合は」
 少々、うんざりした口調で振り返るタリア。その顔には見えない文字で『素人は茶でも飲ん
で黙っていろ』と書かれていた。

『兄さん、そろそろ潮時だよ』
『分かっている。少しばかり遊び過ぎたようだな』
 内心で舌打ちしながら、シャギアはオルバに答える。
「欲をかき過ぎては、元も子もなくなるか」
 決断すると、行動は早かった。ヴァサーゴの機体を反転させ、ガーティ・ルーを目指す。
(それにしてもあのパイロット、まさかな……)
 先ほどまでの戦闘を反芻し、小さく頭を振るシャギア。
『どうしたんだい、兄さん?』
『少々気にかかる事があってな。これより帰投する』

 急速に遠ざかる敵機の姿を目にし、レイは大きく息をついた。
「逃げた――いや、見逃してくれたのか」
 一人呟き、乱れかけていた呼吸を整える。常に冷静沈着なレイにとっても、初の実戦がも
たらす重圧と昂揚は相当なものだった。
 と、飛来した二機のゲイツRから、通信が入る。
「無事か、レイ?」
「手酷くやられたな」
 ゲイルとショーン。レイやシン、ルナマリアと同じくミネルバ所属のパイロットだ。緑服だが、
前大戦での実戦経験を持つベテランである。
「俺はいい。それよりシンを頼む」
「おう、了解だ」
 二機のゲイツRは熟練した機動で大破したインパルスに取り付くと、手早く確保する。
「気絶してるが、心臓は動いてるようだな。タフな野郎だ」
「そうか」
 それを見届けたレイも、ザクをミネルバへと向けた。

 目を開いたシンがまず見たのは、オレンジ色の前髪をした、人懐っこそうな少年だった。
「お、気がついたかシン」
 少年――整備兵のヴィーノ・デュプレは、安堵の笑みを浮かべる。
「ヴィーノ――こ、ここは?」 
「ミネルバだよ。動かない方がいい。直ぐに医務室まで運ぶから」
 そう告げるとヴィーノはシンを抱え、コクピットから飛び出す。既に無重力状態にあるため、
二人は緩やかな動きで格納庫の床に降り立った。
 そこでは、レイとルナマリアがストレッチャーと共に待機していた。
「すまね、後は任せるよ。俺まだ仕事あるんで」
「分かった。さあシン、横になって」
 ヴィーノからシンを受け取ったルナマリアが、ストレッチャーに寝かせる。
「状況は……どうなってるんだ――?」
 ズキズキと痛む頭を抱えながら、シンは問い質した。
「それは――」
 押し黙るルナマリアに代わり、レイが答える。
「件の不明艦――ボギーワンと呼称する事になったが――には逃げられた。奪われた三
機のセカンドシリーズMSごとな。今、このミネルバで追跡中だ」
「そうか……」
 それを聞いたシンが悔しそうに唇を噛み締めると、ストレッチャーに拳を叩きつける。ひど
く弱々しい音が響いた。
「負けたんだな、俺たち」
「だが、まだ生きている」
 淡々と、レイが答えた。
「ならば、次の機会があるという事だ。違うか?」
「だから今はとにかく休む事、分かった?」
 上から睨みつける二人の戦友に、シンは不承不承ながら頷いた。
「分かったよ、レイ、ルナ」
 急速に、再び意識が薄れていく。
 意識を手放す直前、最後にシンが目にしたのは、無残なまでに破壊されたインパルスの
姿だった。

 ――次は、負けない。

?