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Z-Seed_◆x/lz6TqR1w氏_第12話『帰還』

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:32:26

《カミーユ》
《何だい?》
《もう……行っちゃうの?》
《ああ。そろそろ行かないと、ミネルバを降ろされてしまうからな》

端正な顔立ちで、エキゾチックな服装をした女を一瞥すると、カミーユは踵を返して歩き出した

《何で……?》

紫のルージュから溢れた問掛けに、カミーユは振り返った

《何でそんなにあの艦にこだわるの……?》
《放っておけない奴がいるんだ》
《……》

悲痛な面持ちになる女――カミーユを送り出していいものだろうか、
ここにいた方がいいのではないかという思いが頭をよぎった

《……気を付けて》

止めることは出来なかった
カミーユはそういう人だという結論に至ったのだ

《ああ、ありがとう。フォウ》

歩を進めていくカミーユの姿を、女――フォウ・ムラサメはなるべく悲しみが滲まないように、にこりと笑った

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機動戦士ZガンダムDESTINY
第12話『帰還』

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カーペンタリア基地から少し離れた区域
――ザフト軍が所有する演習場がである

そこには4機のMSが佇み、その足下にはパイロットスーツに身を包んだ4人の男女がいた

「当初はシンのみの予定だったが、艦長たっての希望によりパイロット全員での訓練を行う。
訓練といえども、真剣に取り組むように。以上」
「「「了解!」」」

集団を取り仕切る者のお決まりの台詞に対して
敬礼を取る部下達の姿がそこにあった

「先ずはシンからだ。後ろに乗れ」
「はい!」

シンは、セイバーのコックピット裏に急ごしらえで作られたシートに腰をかけ、がっちりと体を固定させるベルトを締めた

「じゃあ、行くぞ」

ドゥゥゥ!
バーニアが爆音を立て、セイバーを空に駆け上がらせる
適当な高度まで機体を押し上げると、セイバーは四肢を曲げてMA形態へと形を変えた

「舌を噛みたくなかったら、喋るなよ!」

その言葉が合図となり、急速に空を舞い始める

「うわぁあぁぁ!!」

アスランの言葉も忘れてシンは絶叫した
凄まじいGで体が強張りながら目の前のシート越しにモニターを見た
その光景は自分が限界ラインを引いていた地点をあっさりと越えていたのだ

「喋るなと言っている!!」

そんなシンに怒鳴りつけるアスラン

急降下、急上昇を繰り返しながらも、時折、制動をかけてMS形態へと変形する
何回かその動きを繰り返して地上に降り立つと、シンの目は虚ろになっていた

「うぇぇぇ!」

コックピットから降りた途端に吐気をもよおすシン
――苦痛には耐えられても、吐気には耐えられなかったのだ

「もし吐いたらもう一度だ」

非情とも取れるその言葉にシンは怒りさえ感じたが、
先程の恐怖体験はしまいと必死で吐気をこらえた

「これが正しい内臓の鍛え方だ。ったく、艦長からお前の特訓を聞いたときは耳を疑ったぞ」

しかし、アスランの言葉はシンには届いていない

「……何でアスランさんは平気なんですか?」

ルナマリアの素朴な疑問に対して、アスランは頭を抱えた

「俺がアカデミーにいた時は、これを一日中やらされていたぞ」
「似たようなことはしましたけど……」

アスランの言葉に軽いショックを受けるルナマリアだった

「まあ、お前達は平時に入学したから無理もないか……
次はルナマリアだ」
「ええっ!!」
「これに耐えれるようになって初めて一人前なんだ」

涙目になりながら後部シートに座るルナマリアの姿に、レイは捨てられた子猫の姿を思い出した

――三人の名誉の為に言っておくが、エースパイロットとして名を馳せたアスランの機動は異常である
彼は手を抜くという言葉を知らない――

訓練を終え、三人はボロ切れのように横たわった

「よし、次は……」
「「「えっ!」」」

それを気にも留めないアスランの言葉に過剰に反応する――あれは『最初の』訓練だったのだ

「安心しろ。次は吐くような思いはしない
各々の機体に乗り込め」

指示に従い、重い体を引きずりながらコックピットに乗り込むと、通信が入った

『次は鬼ごっこだ。鬼の役は俺だ
俺に接触された奴は……分かっているな?』

身震いする面々――合図も聞かずに散々になる

『おい!……まあいい』

アスランは標的を決め、それに向かって飛び出して行く

「俺かよぉぉぉ!?」

不幸な星に恵まれたのはシンであった

必死でバーニアを吹かすが、じわじわと距離が縮まる

『セイバーの方が素早いんだ!どうすればいいかよく考えろ!』
「……はっ!」

シンは足を止め、セイバーに対して向き直った

――振り上げられるセイバーの腕部――

「触られなきゃいいんだろ!!」

その脇をかいくぐり、一気にバーニアをフルスロットルまで押し上げる――!

『それだ!!今の感覚を覚えておけよ!!』
インパルスはそのままセイバーの背後を後にする

――敵の近接攻撃をかいくぐれば自ずと敵に隙が生じる
MSの白兵戦において隙を取るのは勝ちに等しい
つまり、この訓練の目的は回避と反撃の連動性を高めることにあるのだ――

『次はルナマリアだ』
『いやっ!来ないで!痴漢っ!』
『……なんだそれは』
『だって触りにくるんでしょ!?』
『語弊がありすぎるぞ!!』

アスランが執拗にルナマリアを追い掛け回したのは言うまでもない

訓練に疲れ果てたシンはミネルバへの帰路についた

自室への道中には医務室があり、
ふと気が向いたシンはカミーユを見舞うことにした

「失礼します」

何時ものようにドアを空けた
たが、そこには違和感があった。普段は挨拶をしても静寂の中に吸い込まれていくだけだった

しかし、この日は違ったのだ

「やあ、シン」

窓際に佇んでいた青年が振り返って挨拶を返してきたのだ

「……えっ?」

何が起きているのかよく理解出来ない――訓練のせいで頭が鈍っているのだろうか、いや、違う

「どうしたんだ?そんな顔して」

どんな顔なんだ
そんなに面白い顔をしているのか
ああ、もうどうでもいい

「カミーユさん!」

シンはカミーユに駆け寄り、その胸の中でさめざめと泣き始めた
カミーユが本当の意味でユニウスセブンから帰ってきたのだから

「心配かけて済まなかったな。ほら、泣くなよ。男だろ?」
「……すみません……うっ、ううっ……」

泣かないほうが無理な話だと、シンはそのまま泣き続けた
嬉しさで涙したのはこれが初めてだった