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Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第28話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:39:20

第二十八話「新たな鼓動」

(フリーダムはシンによって落とされた……キラ=ヤマトはあれで死んだだろう)
 
シンとジブラルタル基地の通路を歩きながら、レイは考えを廻らせていた。
 
(俺の存在は…キラ=ヤマトを倒し、ラウの仇を討つ事……それ以外には?)
 
レイの頭の中が虚無に支配されていく。
目的となる男は隣の男によって先を越されてしまった。そうなると、レイの存在意義は無くなってしまったかのようにすら思えてしまう。
 
(ギル…何故インパルスのパイロットは俺ではないのですか?俺なら、もっと早くにアイツを倒せていた……)
 
シンに対する複雑な感情が表に出そうになる。それではいかんと、レイは必死に心を落ち着かせて表情に出さないように努める。
 
(俺はギルにとって一体何なのですか?俺はシンよりも劣りますか?)
「やあ、二人とも。よく来てくれた」
 
歩いていると、目の前に見知った黒髪の長髪の男が親しみを込めた言葉で二人を迎える。
ギルバート=デュランダルだ。
 
「二人とも、久しぶりだな?ディオキア以来かな?」
 
とてもプラントの最高責任者とは思えない屈託の無い表情で歩みながら話すデュランダル。
その表情に、レイの気持ちが晴れていく。
 
(キラ=ヤマトなど既に関係ないではないか…俺はギルの為に、ギルの望む世界のために使命を全うさせればいいじゃないか?何をそんなに迷う必要があったのだ、シンもその為に戦ってくれているじゃないか)
「ついてきてくれ」
 
レイが一人で自己完結していると、デュランダルは挨拶もそこそこに二人を別の場所へ案内していく。
それについていく二人。そして格納庫の更に奥、隠されるように収容されていた二体のMSの前でデュランダルは二人に振り向く。

「君達にこの新型のMS、"デスティニー"と"レジェンド"を託す。有効に使ってくれ給え」
 
証明に照らされたその二体は、鈍い銀色に輝く。それは今現在のザフトの技術力が結集された最先端のMSだった。
 
「これを俺…自分達に……!?」
「緊張しなくていい。君達の活躍は私も聞き及んでいる。特にシン=アスカ、君はフリーダムを撃墜したそうじゃないか?本当に良くやってくれたよ、これは褒美だと思ってもらっていい」
「そんな…自分がフリーダムに勝てたのも他の皆のおかげです。レイにも手伝って貰いました」
 
シンはデュランダルに褒められて照れる。
 
「レイも、良くやってくれたな」
「いえ、私は命令に従っただけです」
 
シンは改めて自分に与えられたデスティニーを眺める。
 
(強そうだ……)
 
"運命"の名を冠した機体はシンに御あつらえ向きであった。このデスティニーでシンは自らの運命を切り開く。
 
「あの…アスランの事なんですが……」
「…彼の事は聞いている。優秀な兵士を失ったな…実に残念に思っているよ。彼には不幸が訪れたとしか言い様が無いだろう」
「あの、そうではなくて……」
「いや、それが彼の運命であったのかも知れんな。とにかく彼の死を無駄にしない為にも、君は頑張ってくれたまえ」
「アスランは生きているかもしれないんです」
「ん?生きている?」
「はい、議長」
「そうか…彼は生きているのか……良かったじゃないか」
「まだはっきりとはしてないんですけど……」
 
シンの言葉にレイは驚いていた。よもや、今更になってそのような事実を知る事になるとは思わなかったからだ。
 
「シン、何処でその事を知った?」
「フリーダムのパイロットが言ってたんだ。アークエンジェルに居るって……」
「アークエンジェル……?」
 
レイは神妙な面持ちでデュランダルと目を合わせた。

「もしそれが事実なら、アスランはアークエンジェルより助け出さなければならないな」
 
デュランダルは一呼吸置いてシンに向き直る。
 
「フ…よりによってアークエンジェルか。彼も因果なものだな、またアークエンジェルとはね。それにしても、君が本当にフリーダムに勝てるとは……命令を出しておいてなんだが、正直嬉しい誤算だったよ。彼に勝てる人物がいるとはね……」
「議長、それは我々が捨て駒であったという事でしょうか?」
 
シンに向けられた言葉をレイが問い返す。
 
「白状すればそうなるな…君達が失敗した場合の為に後続の部隊も用意してあった。要らぬ心配であったようだがね?」
「しかし、アークエンジェルは取り逃しました。何故すぐに後続を出さなかったのですか?」
「本当はあの場でアークエンジェルを沈めたかったが…気が変わった、といった所かな?尤も、アスラン=ザラがあの艦に居るかもしれないのだから、あそこで彼もろとも沈めてしまっては彼も浮かばれないだろう。結果的には焦る必要は無かったわけだな」
 
含みのあるデュランダルの言い分にシンは引っ掛かる。
自分達が捨て駒であった事は軍人である限り問題無い事であるが、あそこでアークエンジェルを見逃す理由が無いのだ。
 
「気が変わった、というのはどういう事でしょうか?理由を聞かせて貰えないですか?」
「…確信は無いが、一つ思い立った事がある。……今はまだ何も言えないがね。
これで納得して貰えないだろうか?」
「はあ……」
「議長、その思い立った事を教えて頂きたいのですが…?」
 
レイが会話に割り込んでくる。
 
「残念ながらそれは言えない。私の頭の中ではまだ推測の域を出ていないんだ。
それが何処かから洩れて軍内で噂になるのを私は避けたい…分かってもらえないかな?」
「いえ、過ぎた発言でした。申し訳ありません」
「…君達の活躍に期待しているよ」
 
そう告げるとデュランダルはその場を去って行った。

「なぁレイ、アスランの事、どうなるかな?」
「議長も仰っていた通り、助け出すに決まっているだろう?お前はどうするつもりだったのだ?」
「いや、俺だって同じさ……ただ、何か議長にアスランが生きてるかもしれないって言った時、複雑な顔してなかったか?」
「気のせいだ」
「そうかなぁ……?」
「シン、俺達軍人は言われた事を遂行していればいい。そういう事は余り深く考えるな」
「あ…あぁ……」
 
シンはレイの言葉に釈然としないながらも、今は目の前に見えてきた終戦へ向けて進んで行こうと思った。
 
「シン、早速慣らしをするぞ。次の作戦までに錬度を上げておく必要がある」
「分かった」
 
二人はそれぞれ新MSに乗り込み、慣熟飛行に出て行った。
 
 
一方、Ζガンダムが運ばれた工廠では何とかコックピットの修復作業を終え、最後の調整が行われていた。
しかし、この調整が意外と手こずる作業であった。改修されてから一度カミーユが乗り込んでテストしてみた所、反応性の違いからバランスが悪くなっていたのだ。
しかし、それでも何度かバランス調整を繰り返し、やっと形になったΖガンダムは再び鼓動を取り戻す。
 
「これなら行けます」
「分かるのか?」
 
コックピットに座り、軽くマニピュレーターや腕を動かして感覚を確かめるカミーユは手ごたえを感じる。
そして、サイコフレームがカミーユのニュータイプ能力を拡大していくのが分かる。
Ζガンダムの動きが体に馴染むその感覚は調整が上手くいった証拠だろう。
 
「全然違いますね、今までよりもシャープな感じです」
「シャープ?本格的に動かしてもいねぇのに何言ってんだよ?」
「…慣らし、行って来ますね。ここの人に適当に許可取っといてください」
「ん?」
 
マッドが驚くより早くコックピットを閉め、カミーユはテスト飛行に出た。
 
「お…おい、コラ!面倒押し付けやがって!……ったく、少しは休めってんだ」
 
意気揚々と飛び立っていくΖガンダムを見つめ、マッドは煙草を取り出して一服を始めた。

 
(反応速度が上がっている…あの"サザビー"って機体、やっぱりニュータイプ用の機体だったのか……?)
 
ウェイブライダーによる飛行テストからMSへの変形テストを行う。
その余りにもの違和感の無さに、カミーユは爽快さを感じていた。
 
(今まで出来なかったような微妙な動きが出来るようになっている…このコントロールアームのせいでもあると思うけど……)
 
一挙手一投足が全てカミーユの思い通りになる。それまでのΖガンダムの操縦性とは一線を画す滑らかさだ。
 
「……?」
 
そこに見慣れないMS二機がカミーユの視界に入ってくる。
模擬戦を開始したシンのデスティニーとレイのレジェンドだ。
 
「ん……待てレイ!あれ、カミーユのΖじゃないか?」
『む…?』
 
二人は視線をΖガンダムの方へと向ける。
 
「やっぱりそうだ!直ってたのか……!」
 
ホッとした表情でシンはΖガンダムを見つめる。ステラ救出の際に壊れてしまった事に、彼も少なからず責任を感じていたからだ。
そうやってシンが感傷に浸っている所にレイが提案を持ちかけてくる。
 
『シン、カミーユにも訓練に参加してもらおう。このレジェンドで彼に何処まで通じるか試してみたい』
「えっ…けど、カミーユは訓練の許可貰ってないんじゃ……」
『分かっている、少し待て。その間、お前はカミーユを説得してくれ』
「あ、あぁ……」
 
シンはデスティニーの回線からカミーユに呼びかける。
 
『カミーユ、聞こえるか?シン=アスカだ』
「シン…?それがお前の新型のMSか?…とするとあっちはレイの……」
『ああ、デスティニーとレジェンドってんだ』
「デスティニーとレジェンド…運命と伝説か……」
『Ζも直ったんだろ?』
「ああ、まだ慣らし中だけどな」
『…ならさ、実は頼みがあるんだ。俺達の訓練に付き合ってくれないか?』
「訓練…?許可は取ってあるのか?」
『いや、それがさ…レイが今取り合ってるみたいなんだけど……』

シンはレジェンドのレイに回線を繋ぎなおす。
 
「レイ、話はついたのか?」
『今終わった所だ。議長に直接基地の人間に口を利いてもらった。そっちはどうなのだ?』
「ちょっと待ってくれ、もう一回聞くから」
 
再びΖガンダムに回線を繋ぐ。
 
『許可、取れたってさ』
「取れたって…どうやって……?」
『さぁ、議長に口利いてもらったって言ってたけど……』
「議長に?レイはそんなに議長と親しかったのか?」
『みたいだな』
「みたいだなって…」
『で、付き合って貰えるのか?』
「許可が出たんなら…付き合うよ」
『そうか!』
 
シンはレイにOKサインを出す。
すると、レイがカミーユに通信を繋げて来た。
 
『済まない、カミーユ。どうしてもカミーユと手合わせをしてみたかった』
「構わないが、どうするんだ?三機では難しいだろう?」
『シンとのコンビネーションを試したい。二対一でやりたい』
「二対一!?それはフェアじゃないな?」
『いや、これはカミーユだからこそ出来る事だと思う。他のパイロットでは訓練にならない』
「評価してくれるのは有難いが、手加減はしてくれよ?」
『カミーユが手を抜いてくれるならな……』
 
レイはカミーユの事を高く評価していた。Ζガンダムで空中戦という不利な条件の中で成果を残してきた事がその理由だった。
一同は模擬戦専用の装備を整える為、一旦引き返す。
シンとレイは、その模擬戦でカミーユを敵に回した時の強さを体験する事になる。

 
ザフトの包囲網から命からがら逃げ延びたアークエンジェルはオーブへの道程を旅していた。
そこの医務室でシンに撃墜されたキラは目を覚ます。
 
「キラ…!」
 
最初に彼を呼んだのはカガリだった。
カガリはフリーダムが撃墜された後、キラを捜してストライク・ルージュで捜索に出ていたのだ。
 
「カガリ…僕は……?」
 
キラはハッキリしない記憶を刺激する。思い出したくない光景が蘇ってきた。
 
「そうか、僕はインパルスに……」
「気にするな、生きていただけで儲かりものだ!」
 
カガリはキラを元気付けるように話し掛ける。
アスランはそれを脇で黙って見ていた。
 
「ホント、お前がやられた時はビックリしたぞ?まさかお前が負けるなんて思ってもみなかったからな!」
「そうかな?彼は強かった…と思う……」
「気にするな、次に会った時に勝てればいいさ」
「勝てればいいんだけど……」
 
キラは自信を失くしていた。相手は自分のフリーダムよりも劣る性能のMSでありながら、自分の常識を超えた力を示していた。それがキラに与えたショックは大きかった。
そんな意気消沈しているキラをカガリが慰める。
脇で眺めていたアスランはそれを歯痒く感じ、キラに問いかけた。
 
「キラ、お前に慢心があったんじゃないか?そうでなければいくら何でもお前が負けるはずが無い」
「慢心?そんなつもりは……」
「無かったとは言い切れないだろう?」
「……」
「アスラン!」
「カガリは黙っていろ。キラが何故負けたか…それをハッキリしておく必要はあるだろ?」

アスランにとっては黙っていられなかった。変に励ますよりは、いっその事少々厳しい事を言ってやらなければならないと感じていた。カガリの慰めはその場凌ぎで、キラの為にはならないと思っていた。
そんなアスランの言葉を聞いて、少し考えてからキラは口を開いた。
 
「確かにアスランの言う通りかもしれない……。僕はあのインパルスのパイロットを心の何処かで甘く見ていたのかもしれない……」
「……」
「だからあの時…僕の攻撃が上手く行かず逆に追い詰められた時、僕は恐怖を感じたんだ。……それが慢心で無かったとは言えない……」
「そう思えたのなら、お前はまだ強くなれるかもな……敗北から学ぶものは多い」
「そんな自信は無いよ……。きっと、再び彼に出会ったとしても、その時はもう僕は彼に勝てないかもしれない……それだけ、あの戦いは必死だったのを覚えているから……」
「そんな事は無いさ、お前は今まで勝ちすぎていた。俺だってお前に苦汁を舐めさせられたんだ」
「そうじゃない…僕は弱いから、負けたら二度と立ち直れなくなってしまうかもしれないって予感がしてたんだ。だから、傷つかないようにするには勝つしかなかったんだ……」
「キラ、お前は……」
 
アスランの手を取り、カガリは一緒に退室する。気が沈んでいるキラには休息が必要だと判断したからだ。
医務室を出た後、カガリは落ち込んでいた。
 
「私がもっとしっかりしていればキラを戦争に巻き込むことも無かったのかもしれない……!」
「カガリ……」
「ユウナ達に実権を握られて…それを止めようとしても何も出来ず……!このままじゃ私は国家元首失格だ!お父様に合わせる顔が無い……!」
「そうかもしれないが、これから取り戻せばいいじゃないか?」
 
悔しさに身を震わせるカガリをアスランが取り繕うように言う。
しかし、カガリの後悔の念はもっと深かった。

「これからでは遅い人も居る…あのシン=アスカって奴もそうだ!私は、その人達に何もしてあげられなかった!」
「……」
「今のままでは私は唯の負け犬だ…お父様から受け継いだ遺志を無駄にしているだけだ!」
「カ、カガリ…そんなに自分を責めるな!」
「……違う、今になって目が覚めたんだ。これは自らを戒めるのと同時に決意表明だ。 アスラン、お前に聞いて欲しい!」
「カガリ…!」
「私がする事は戦場で戦いを食い止める事ではない。戦いは何も生み出さない…それを私が実践してたのでは話にならない事に私はようやく気付いたんだ。だから、オーブの国家元首として相応しい方法で戦いを止める。それが私が本当に為すべき事だ!」
 
カガリの目に力強い光が灯る。アスランはそれを見て、今までの迷走していたカガリとは違う事に安心した。
 
「オーブへ戻ったら先ずはユウナ達を引き摺り下ろすぞ。アスラン、手伝ってくれるよな?」
「勿論だ。…しかし、彼は一筋縄では行かないぞ、大丈夫か、カガリ?」
「承知の上だ。ユウナごときに手こずるようでは私にお父様の跡を継ぐ資格など無い」
「何か考えがあるのか?」
「……こ、これから考える!」
 
たった今カガリの事を見直したアスランであったが、すぐに見解を改める。
行き当たりばったりな所は何も変わっては居ない。しかし、思い立ったが吉日を形にしたような性格こそがカガリの持ち味でもあった。
 
(それをサポートするのが、俺の役目なんだな……)
 
アスランは感慨深げに通路を闊歩するカガリを見つめていた……
 
 
 
「シン、合わせろ!」
 
「合わせろったって…うわぁっ!」
 
カミーユと模擬戦を開始して既に一時間が経過していた。
ここまではΖガンダムを撃墜する事はおろか、カミーユにシールドを四、五回使わせる事しか出来ていなかった。
コンビネーションを合わせるにしても、Ζガンダムの反応が早すぎてタイミングが全く合っていなかった。加えて機体の習熟度の差もある。

『どうする、レイ?このままじゃ練習にもなりゃしないぜ」
「…一旦休憩にしよう。もう一度確認が必要だ」
『分かった……カミーユ、一旦休憩しよう!』
 
シンがカミーユに呼びかけ、三人は一旦MSから降りる。
 
「カミーユ、何がフェアじゃないだよ?十分じゃないか!」
「手加減してくれてたんだろ?」
「冗談じゃない!」
「レイは?」
「パワーのある機体は慣れなくてな…カミーユが手加減してくれると有難いんだが」
「レイまでそんな事を言う……手加減出来ればしているさ」
 
そう言ってカミーユは笑う。シンとレイの力は確実に増していた。
 
「シン、作戦会議だ。もう一度確認をするぞ」
「確認ったって…これ以上は難しいだろ?」
「それでもやらなければ、議長の期待に応えられないぞ」
「…わかったよ……」
 
シンとレイはカミーユに作戦を悟られないようにその場を少し離れる。
カミーユはその場に腰を下ろし、この異世界に迷い込んでからの事を思い返した。
 
この世界で初めに出会ったのはシン=アスカである。
最初に彼を見た時、彼の凶暴なまでの性格がカミーユを悩ませた。
当時、シンはカミーユを名前で呼ぶ事は決してなかった。カミーユからの違和感を感じ取った
シンの警戒心が、カミーユを決して認めようとしなかったからだ。
しかし、そんな彼も次第にカミーユを受け入れて行く。
ステラをきっかけにカミーユの告白を聞いたシンは、自分と似た様な境遇のカミーユに親しみを抱いた。それは話したカミーユにとっても同じ事で、二人はステラを救うという目的を共有する意識を持ち始めた。その事はベルリンでのデストロイ戦で顕著となる。
シンはステラの為に自分を犠牲にする事を厭わず、カミーユはそんなシンの願いを成就させる為に捨て身の突撃を敢行し、フリーダムに落とされた。
フォウやロザミィを失ったカミーユにとって、ステラを救うという事は自らに救済を求める事に他ならない。
そうしてステラを救出し、シンは取り込まれそうになった闇から這い出る。
唯一の懸念であったフリーダムを撃墜して過去の鎖を断ち切り、シンはこれから望む未来を生きる為に歩き出す。
 
(僕はシンと出会うためにこの世界に来たのか?)
 
今までどの様な理由で異世界に飛ばされたのか見当もつかないで居たが、ふとそんな考えがカミーユの頭の中を過ぎる。
 
「よし、いいな?お前がかく乱するんだ」
「わかった……待たせたな、カミーユ。続きをやろう」
 
シンとレイの作戦会議が終わったらしく、三人は再びMSに乗り込み、訓練を再開する。
 
「さて、どう出る?」
 
コックピットの中で神経を尖らせながらカミーユは二人の動きを警戒していた。
 
「先ずは俺からだ!」
 
シンのデスティニーが背中にある特徴的なバーニアスラスターから光の粒子を撒きながら高速で接近してくる。
 
「単独で来た!?レイは!」
 
レイはシンの動きに合わせるように大きく迂回しながら様子を窺っているようであった。
 
「余所見とはいい度胸!これまでとは違うぜ!」
 
微かに残像を残しながらデスティニーはフェイントを織り交ぜながらΖガンダムに接近する。
 
「早い…!だが!」
 
ウェイブライダーで高速離脱を試みるカミーユ。しかし、向かった先にはレイが待ち構えている。
カミーユは変形を解き、訓練用のライフルでレジェンドを進行方向からどかせる。
レイはあっさりと退いたものの、動きを止めたΖガンダムにデスティニーが追いついてきた。
 
「後ろから!?」
 
「貰ったぁぁ!」
 
デスティニーは大剣アロンダイトを模した得物でΖガンダムに襲い掛かる。
カミーユはそれをシールドでいなして回避するが、デスティニーはΖガンダムの周りを囲むように高速で飛び交う。流石のカミーユもこれを狙撃する事は出来ず、ウェイブライダーで一旦離脱をする。
 
「!?」
 
しかし、そこに又してもレイのレジェンドがΖガンダムの行く手を阻む。
 
「また居る!?いくら最新鋭でもウェイブライダーの加速に追いつける筈が無いのに……」
 
狙いを定めてくるレジェンドに、又しても動きを止めざるを得ない状況になるカミーユ。
同じ様にデスティニーが後ろから追いついてくる。
デスティニーがΖガンダム周りを囲うように飛び回り、レジェンドが動けないΖガンダムを狙撃してくる。

「さっきまでと何が違う…!?」
 
カミーユがウェイブライダーに変形して、デスティニーの隙を突いて離脱しようとした時、レイのレジェンドがこちらの動きに合わせるように移動するのが見えた。
カミーユはそれを気にしつつも離脱しようとするが、その時、ある事に気付いた。
 
「そうか!そういう事なのか!?」
 
デスティニーの一人包囲から逃れたカミーユを待っていたのは当然の如くレジェンドである。
 
「良くやるよ、こっちの動きが誘導されていたなんて……!」
 
カミーユは構わずにレジェンドに突っ込む。
 
「むっ…カミーユ、気付いたか……?」
 
レジェンドは最新鋭機とは言え、純粋な高速移動形態であるウェイブライダーに追いつくだけの加速力は持ち合わせていない。それは機動性に優れているデスティニーにとっても同じ事である。
しかし、現在随一であると思われるデスティニーの機動性を生かしたかく乱戦法でΖガンダムの離脱方向を限定させてしまえば、後はレイがその先で待ち伏せしていれば良いわけである。
目の前に敵が現れれば大抵のパイロットは動きを一瞬止めてしまう。そうなれば作戦は成功である。
機動性のあるデスティニーがそれに追いついて、又同じ事の繰り返しである。
これは二人が仕掛けた無限ループの罠であった。
 
『シン、お前も仕掛けろ!突破するつもりだぞ!』
「えっ!?逃げられちゃうのか!?」
 
シンは言われたとおりに訓練用ライフルを撃つ。しかし、カミーユにそれが通用するはずも無くアポジモーターの一蒸かしで簡単に回避する。
レイもウェイブライダーの前に陣取り、行く手を遮ろうとしたが、目の前に迫ったΖガンダムが直前で変形を解く。
真正面の至近距離で鉢合わせになる形になり、レイは慌ててライフルを撃とうとした。
だが、それよりも早くΖガンダムが上から回りこむように背後を取り、レジェンドの背中から訓練用ライフルを命中させる。
 
「ぐぅっ…!」
 
「ああっ!レイがやられた!?」
 
追いあげるシンであったが、Ζガンダムがレジェンドの陰に隠れて一瞬見失う。
 
「シン、動け!止まるんじゃない!」
 
レイが必死に叫ぶが、動きを止めてしまったデスティニーにΖガンダムが不意打ちする形で訓練用ライフルを撃ってくる。

「なんのっ!」
 
シンは辛くもこれを回避するが、飛び出したウェブライダーがデスティニーに向かってくる。
 
「デスティニーの動きについてこれるもんか!」
 
シンは再びデスティニーで高速移動を開始する。光の粒子と残像が重なり、デスティニーの動きをより早く見せる。
これにはカミーユも打つ手が無い。殺気を感じ取るのがやっとであった。
 
「はしっこいな、何処から狙って来る……?」
 
Ζガンダムが変形を解き、デスティニーの動きを警戒しながら訓練用ライフルを適当に撃つ。
 
(よし…カミーユにはこちらが見えていない……!)
 
シンがそう確信すると、模擬アロンダイトを構えて機を窺う。
 
レイはその様子を見ていて、違和感を感じていた。
何かがおかしい…シンが優位に見えるが、レイにはそうは思えなかった。
 
(何を企んでいる、カミーユ……そうか!?)
 
シンがΖガンダムの背後を取った時、シンはついに仕掛ける。
 
「貰ったぞ、カミーユっ!」
 
「止せシン!誘いに乗るな!」
 
レイが忠告した時には既に遅く、この時を待っていたと言わんばかりに振り向いたΖガンダムがデスティニーに照準をつける。
 
「接近戦を仕掛けたのがお前の敗因だ!」
 
カミーユは突っ込んで来るデスティニーに容赦なく訓練用ライフルを放つ。勝利を確信して仕掛けたシンにこれがかわせる筈も無く、あっけなく直撃を受ける。
結局カミーユの勝利という形で模擬戦は終了する事となった。
 

ジブラルタル基地に戻った後、シンとレイは反省会を開いていた。
 
「シン、何故接近戦を仕掛けた?カミーユの反応の良さはお前も知っているだろう? あそこは狙撃をするべきだった」
「カミーユはこっちに気付いてないと思ったんだよ、俺は行けると思ったんだ」
 
不貞腐れてシンは応えた。
 
「良く考えてみろ、あの時カミーユが何の考えもなしにライフルを撃つと思うか?あれはお前を誘っていたんだ」
「見えていたのか?」
「そこまでは分からん。だが、仕掛けてくる瞬間は見えていたんだろう。そこに馬鹿正直に突っ込んできた誰かさんが直撃を貰ったというわけだ」
「……悪かったな、レイこそ先に落とされてたけど」
 
せめてもの反撃のつもりでシンは厭味を利かせる。
 
「……俺達はまだ強くなる必要がある、という事だ」
「何だよそれ?」
 
先にスタスタと帰って行くレイ。呆れた様にシンもそれに続いていった。
 
(ん……?)
 
歩き出した途端、シンは足元に違和感を覚える。力が上手く入らないような気がした。
しかし、普通に歩く分には支障は無く、気のせいだと思うことにする。
 
「絞られたか、坊主?」
 
帰り際、シンにマッドが話しかけてきた。
 
「何なんですか、あれ?前よりも格段にパワーアップしてませんか?」
「はぁ?反応は早くなってる筈だが…それでも前とそれ程変わってる筈無えんだけどなぁ、基本的にパーツ組み上げただけだから」
「そんなはず無いですよ!
セッティングを大気圏内用に特化させたりしたんじゃないんですか?」
「馬鹿を言うんじゃねぇ、あれは元々空間戦闘用にセッティングされてたんだぞ。大気圏内ではいくらセッティングを合わせようとも汎用のデスティニー以上の性能は出ないはずなんだ」
「Ζだって汎用MSの筈でしょ?」
「そうだがな、汎用可変MSとしてはセイバーとどっこいどっこいの性能しか無え筈なんだよなぁ。……自力飛行も出来ないし、空中戦は余り想定して無いようだしなぁ」
「それって…宇宙に出たらもっと凄いって事ッすか!?」
「ん…そう…なるな……?」

シンは愕然とする。
あのフリーダムに勝利した事がシンに自信をつけさせていたが、それでも制限つきのカミーユに二人で掛かって勝てなかった事がシンにとって屈辱だった。
 
「お前の場合、やたらと接近戦を仕掛けようとするのが悪い癖だ。得意かなんだか知らねぇが、カミーユにとってはやりやすかったんだろうぜ」
「接近戦でフリーダムを落としたのに……」
「そりゃあ相手がお前のスタイルを知らなかっただけだろ?勝手知ったる相手ってのはな、そういうところを突いて来るもんなんだよ」
「そっか…俺もルナのヘタクソな射撃を笑えないな……」
「そうへこむなよ、カミーユはΖに慣れちゃいるが、お前とレイは全く扱えちゃいない状態だったんだからよ。それに、これはあくまでこっちの手の内を知ってる奴限定の話なんだ」
「そうなんですけどね」
 
シンがMSデッキを後にした後、Ζガンダムからカミーユが降りてくる。
少し寂しそうなシンの背中を見て小さく息をついた。
今回は自分が勝ったが、シンの成長は著しいものがあった。タイマンであるならば暫くは負けない自信があったが、レイとのコンビネーションで来られると直ぐに自分は負けてしまうだろうな、と感じていた。
 
「やっと戻ったか、この我侭小僧め」
 
煙草を銜えて腕を組んだマッドが豪快な笑顔でカミーユを迎える。
 
「何です、それ?」
「面倒な事は俺に押し付けて自分だけ楽しい事をしようってんだから、堪ったもんじゃねぇな」
「訓練の何処が楽しいんです?戦争する為に鍛えてるんですよ、楽しいわけないじゃないですか……!」
「嘘だな、顔、にやけてるぞ」
「え……?」
 
冷静な表情を作っていたつもりだった。しかし、確かに一見してみれば普段と変わらない表情をしているように見えるカミーユであったが、年の功を見せるマッドにしてみればそんな些細な表情の違いを見分けるのは容易い事だった。
 
「そんなんで俺の目を誤魔化せると思うなよ?こちとら技術屋だ、細かい部分の違いは直ぐに分かっちまうんだよ」
「敵いませんね、マッドさんには」
「そうだ。例えば、口の端が微妙に釣り上がっている。これは先程までにやけていたクセが抜けきってねぇ証拠だ」
 
マッドが銜えていた煙草を指にはさみ、それをカミーユの口元に向けて指し示した。
その行為に、カミーユは露骨に嫌そうな顔をする。
 
「分かりましたよ。分かりましたから、煙を僕に向けるの止めて下さい」
「おっと、おこちゃまには刺激が強すぎたか?」

肩眉を吊り上げ、口元に笑みを浮かべる。嫌がるカミーユを見て楽しんでいるようだった。
 
「でよ、カミーユ。サザビーの残りの奴はどうする?」
「どうするって…スペアとして保管できないんですか?」
「いや、それはそうするんだがよ……本国の連中がこれを欲しがらねぇわけがねぇわけだ。それでも、Ζの為だって言えばミネルバに残しておくことは出来んだけどよ、データは最悪送らにゃあならねぇかもしんねぇ。そうなったらどうする?」
 
Ζガンダムに比べ、サザビーはこの世界に於いてかなりのオーパーツである。Ζガンダムは珍しいには違いないが、この世界の現段階の技術レベルとはそう大きな違いは無い。しかし、サザビーのようなレアな素材は別である。その技術をプラントの研究員が欲しがらないわけがない。
マッドは、それが与える影響を懸念していた。
 
「データですか……出来ればそれは避けたいと思います。この世界に余り影響を与えたくありませんから……」
「ま、そう言うと思ったぜ。そりゃあ、俺にとっても魅力的なんだがよ、そういうとこ、考えてねぇわけでもないんだ」
「じゃあ、どうするつもりなんです?Ζの修理が終わった今、いつその命令が来てもおかしくないですよ」
「……データを全て消しちまうことはできねぇか?」
「それは出来ますけど…本当にそれで誤魔化せるんですか?」
「心配すんな、伊達に歳食ってるわけじゃねぇぜ。……よし、そうときたらバックアップしてた奴も消すしかねぇな、名残惜しいがよ」
 
話が纏まった所でカミーユは自室へと戻って行った。データの消去はマッドに任せ、やっとΖガンダムの復活にこぎつけたカミーユは久しぶりにゆっくり休みたかった。
 
その日の夜遅く、一人パソコンのモニターと睨めっこをしたまま固まっているマッドの姿を、他の整備士達は目撃していた。何事かと思って眺めていたが、やがてマッドはエンターキーがめり込むのではないかと思えるほどの力で押す。
そして、マッドは普段の彼からは想像できない面持ちでMSデッキを後にしていった。
その目には、うっすらと涙が浮かんでいたという……
 
その後、ザフトはロゴスの拠点、ヘブンズベース攻略作戦を行う事になる。
ミネルバも主力としてその作戦に参加する事となる。
デュランダルの望む舞台が整いつつあった……