Top > Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x > lz6TqR1w氏_第36話
HTML convert time to 0.018 sec.


Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第36話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:41:32

 第三十六話「オーブに死す その2」

「バート、状況は?」
「は、はい!ハイネ隊長がシャトルを追撃しましたが、敵の妨害に遭い、逃げられてしまいました……」
 
アークエンジェルと交戦するミネルバ内のクルーにもジブリールを取り逃がした事が報告される。
 
「みすみす逃がしたって言うの……!」
 
タリアは拳をアームレストに叩きつけ、悔しさを表現する。
 
「これ以上の戦闘は無意味ね…司令部に指示を仰いで!多分、撤退命令が出るわ!」
「はい……!」
 
メイリンが旗艦に通信を繋げる。

「撤退…ですか……」
「アーサー?」
「いえ…ここでもアークエンジェルを落とせないとなると、ザフトは彼等をこの先どうするつもりなのでしょう……」
「……」
 
今まで幾度と無く戦場で交戦してきたアークエンジェルに対し、ミネルバのクルーはいつしか執着心を抱くようになっていた。
タリアも例外ではなく、これからの展開が気になっていた。
 
「え…それ、本当なんですか!?」
 
少し間を空けてメイリンが驚きの声を上げる。
 
「どうしたの、メイリン?」
「艦長…それが…継戦です…!」
「え!?」
「司令部からの指示はこのまま戦闘を続行です!」
「何ですって!?」
 
メイリンからの報告にタリアは耳を疑う。
 
「どうしてなの、メイリン!?」
「待って下さい、繋げます!」
 
タリアの正面の大画面に司令官が映し出される。
 
『どうしたのかね、ミネルバ?』
「司令、ジブリールを取り逃がした今、オーブでの戦闘は無意味なはずです。何故戦闘続行なのでしょうか?」
『フン…この戦闘はジブリールを捕える事だけが目的ではない』
「どういうことでしょうか?これ以上オーブを攻め立てる理由が私には分かりません」
『君に教えるつもりは無いが、いいだろう。既に君にも分かっているとは思うが、君等の目の前の相手がその理由だよ。我々の行動を幾度と無く妨害したアークエンジェル…それを匿っていたというだけで十分ではないか』
 
以前、フリーダムを撃墜した戦闘でア-クエンジェルを見逃したのはこの時のためであった。
デュランダルの目的は自分の理想とする世界を構築する為に邪魔な障害を排除する事。その時になってオーブがデュランダルの意向に反対する事を予測し、そうなる前にオーブを無力化する事を以前から企んでいた。
そうするための理由付けの為にデュランダルは、何かとちょっかいを出してきたアークエンジェルを利用してオーブに侵攻する機会を窺っていたのだ。
結果としてジブリールがオーブに逃げ込んだのは偶然が重なっただけで、オーブを攻める事は当初からのデュランダルの計画に組み込まれていた。
 
『諸君らも因縁のある相手だ…不服は無かろう?』
「……了解しました」
『健闘を祈るよ』
 
気の無い言葉を送り、司令官からの通信は切れる。
 
「艦長……」
「動揺しないで。色々思う事はあるだろうけど、問題を抱えているオーブに原因があるのよ。…そう思いなさい……」
「はっ……!」
 
複雑な気持ちになりながらもミネルバは戦闘を続ける。

一方のアークエンジェルでもジブリールが脱出した事は確認されていた。
 
「ザフトは戦闘を止めないつもりなの……?」
「ラミアス艦長……」
「集中を切らさないで!目の前に居るミネルバは大物よ!」
 
苦しい状況が続く中、一人の男がアークエンジェルのブリッジを訪れる。
 
「おい、ちょっとやばいんじゃないか、これ?」
「あなた!」
 
やって来たのはキラに撃墜され、アークエンジェルの捕虜になったネオ=ロアノーク。間違いなくかつてのムウ=ラ=フラガなのだが、記憶を失っているらしく、当時の事は思い出せないで居た。
それをラミアスが知った時、恋仲であった彼女はその事実にショックを受け、意図的にネオを避けていた。
 
「手伝ってやろうか、俺?」
 
ネオがラミアスに語りかける。
しかし、ミリアリアがラミアスに気を遣って代わりに応える。
 
「ですが、フラガ少佐……」
「俺はネオ=ロアノーク、た・い・さ!」
「あ、ネオさん…ですが、格納庫にはスカイグラスパーの一機しか……」
「俺の腕があれば余裕だって!いいだろ、艦長さん?」
「……」
 
ネオの問いかけにラミアスは応えられない。じれったく思ったネオがラミアスを急かす。
 
「このまま沈みたくないだろ?それとも、俺が裏切るとでも思ってる?」
「そりゃあ…そうです……」
「心配すんなって!あんたみたいな美人さんを裏切るわけ無いでしょ?」
 
記憶を失ってもその軽い口調はムウであった時と同じだった。
その事がラミアスにとって辛い事だったが、同時に少し嬉しい事でもあった。
 
「でも…何で私たちの味方を……」
「俺はあの艦が嫌いなんだ。何度も苦渋を舐めさせられたからね」
「……分かりました。でも、貴方は逃げてください。貴方がこの戦闘に巻き込まれる理由がありません」
「そういうの、強がりって言うんだぜ?任せなよ、悪いようにはしないつもりだ。この状況を見れば苦しいって事、ハッキリと分かるんだぜ?」
「でも……」
「いいな、お嬢ちゃん、発進のタイミング、よろしく!」
「え…あっ……!」
 
言いたい事を言って勝手にネオは出て行ってしまった。
 
「ラミアス艦長……」
「好きに…させてあげて……」
 
戦闘が激しさを増す中、ラミアスは一人思い悩む。

MSデッキに下りてきたネオは、床にぽつんと置いてあるいかにも旧式な戦闘機を発見する。
 
「お!あれあれ!」
 
ネオはスカイグラスパーに駆け寄る。
しかし、そこをメカニックのマードックに見つかってしまった。
 
「あ、あんた!そんなポンコツで何をするつもりだ!?」
「ちゃんと許可は取ってあるよ!心配ならブリッジに繋げてみろよ!」
「そうじゃなくって、フラガ少佐!」
「俺はネオ=ロアノーク大佐だっつの!何度も言わせるんじゃねぇ!」
「自殺行為ですよ!?」
「見くびるなって!これでも連合のエースパイロットだぞ!」
「そりゃあそうですがね……!」
 
ファントムペインの指揮官を任されていたネオは確かにエースパイロットだった。
しかし、マードックが納得したのは、以前のムウが"エンデュミオンの鷹"と呼ばれた連合のエースパイロットでもあったからだ。
ネオは、そんな所も変わらず"ムウ"だった。
 
「あれ…これ……?」
 
スカイグラスパーのコックピットに飛び込んだ瞬間、ネオは妙な感覚を覚えた。
かつてこの戦闘機に乗って戦っていた記憶が、失われた記憶の中に息づいていたのだ。今はまだその事を思い出せないで居たが、ネオの中のムウの記憶は完全に消えていたわけではない証拠であった。
 
「何だよ、この懐かしさは…俺はこの機体を知っている……?いや…連合の機体だから当然か……?」
『ネオさん、準備は宜しいですか!?』
「あ…あぁ!大丈夫だ、いつでも出してくれ!」
『了解!』
「さて…行くか!」
 
アークエンジェルよりネオのスカイグラスパーが射出される。
記憶の定まらぬまま、ネオは連合にもたらされた運命に抗うかのように大空へ飛び立って行った。
 
 
激化の一途を辿る戦闘は、カガリとユウナの存在する場にもその影響を及ぼし始めていた。先程から爆音が徐々に近付いてきている。
その音が聞こえる度に足元が振動する。そして、その振動も時が経つに連れて大きくなってきている。天井に備え付けられているシャンデリアは、そのせいで既に床に叩きつけられていた。
 
「……ここもそろそろ危ない…僕達の話も…終わりにしようじゃないか……」
 
振動で落ちてきたシャンデリアは二人が挟む間に無残な姿を晒している。
破片が所々に散りばめられ、カガリに語り掛けるユウナの顔には細かい掠り傷が出来、そこから赤い血が滲んでいた。
そして、その髪の色に近い紫で小奇麗に纏められたスーツにも何ヶ所か刻まれている所があり、その中でも特に深く刻み込まれた左の腕はその鮮やかな紫を支配するまでに染められていた。普段のスマートなユウナからは決して想像し得ない程、その姿は無残なものだった。
 
「話を終わりにするって……お前、そんな怪我じゃ!」
 
一方のカガリにはユウナほどの被害は無い。手の甲や服の端々に破片が飛んできた跡は見受けられるが、事前に渡されていた防弾チョッキを着用していた為、大事には至っていない。
 
「フフ…その防弾チョッキは正解だったようだね……僕の方が見込みが甘かったようだ……」

相当な痛みを伴っているのだろう。ユウナは鮮血に染まる左腕を右手で押さえながら息の上がった声で話す。その歪んだ顔にはユウナには似つかわしくない大粒の汗が流れている。
 
「そんな事はどうでもいい!それよりも早く治療を…!」
「それこそどうでもいい。今は君と僕…二人の話し合いが全てだ……!」
「そんな状態でまともに話し合いなど出来るものか!いいから私に掴まれ!医務室まで連れてってやる!」
 
カガリが歩み寄ろうとするが、ユウナは厳しい視線と大声でその歩みを止める。
 
「止めないか、カガリ!何度言ったら分かるんだい!?君は!この状況で!僕との決着を付けるべきなんだよ、分かるかい!?そうでなきゃ意味が無いんだよ!」
「どうしてそこまで拘る!?私には分からない!」
「……どの道この戦闘で僕等の立場は終わる……。いくら父上がジブリールを逃がした所で本気になったザフトが彼を捕まえられない事などあり得ない!そうなればジブリールを匿ってオーブで戦闘を巻き起こした僕等セイラン家は責任から逃れるすべは無い……
ただでさえ不信感を抱かれている僕らだからね…先程の君の言う通りさ…!」
 
ユウナは初めて弱気な言葉を発する。怪我を負っているせいだろうか、何故か気持ちが凄まじく萎えているような気がした。
今ユウナが話したとおり、実際にはセイラン家はあまり信用されていない。それでもユウナの思惑に賛同してくれた頭の柔らかい兵も居たが、少数だった。
これまでカガリに対して強気な発言をしてはいたが、それはただの強がりに過ぎなかったのだ。
 
「だから、今しかない……ここで君に責任を認めさせ、元首を辞退させる事で民衆にまだ僕等のやり方の方がマシだったと思わせる事が出来る……。セイラン家はまだ首の皮一枚で繋がっていられる……」
「……そんなに権力が大事か?お前は自分の私欲の為にそんなになってまでして権力にしがみ付くのか!?」
「私欲……?それは違う!……いや、違わないか……。そう、権力にしがみ付く事は僕の欲望だよ……」
「ユウナ…!そこまで堕ちたか……!」
 
ユウナは視線を落とす。カガリの言葉など聞いていないかのように虚ろな瞳をしていた。
 
「そうさ…欲望だ…!この国を…オーブをより良い国にしたいという僕の欲望だ!野望だ!願望だ!」
「!?」
 
ユウナの言の葉が加速する。堪えきれないユウナの想いが決壊したダムの様に溢れ出した。
 
「僕はこのオーブという国が大好きだ!ナチュラルだコーディネイターだとかに関係なく様々な人々がここで暮らしている!その国の代表の中にセイラン家がある…それが幼い頃からの僕の誇りだった!」
「……!」
「本当に良い国だったよね!?けど、それも二年前にあっさりと崩されてしまった!悔しかったよ…憎かった…侵攻してきた連合も、狙われていたアークエンジェルもそれに乗っていたコーディネイター、ナチュラルも…オーブが戦場になるのを許したウズミ様も……!」
「そ…それは……」
「そして最後にはあのマスドライバーを破壊し、当の本人はそのまま自爆……!馬鹿げている!自分だけ先に楽になって後の事は全て残された僕らに丸投げだ!悲しむ暇も無い……!残された人達の事を何も考えてなど居ない!」
「お父様はそんなつもりでは!」
「君とて同じだろう!…そうして僕等が事後処理に忙殺されている間に戦争は終わり、君がウズミ様の後を継いで元首になった……」
 
ユウナはカガリの言葉に遮られる事無く溜めていた己の本心を吐露していく。
最早全てを言い尽くすまでユウナの口は止まらない。

「僕は期待したよ…君のその力強い声がこれから先のオーブを導いていくかと思うと、それだけで僕の過去に対する憎しみは浄化されていく気がした……けど、期待外れだった!
君は自分の立場をちっとも分かっていない!自分の立場が分からないから世界情勢の裏側も見えてこない!だから君はあの時も理念を振りかざして大西洋連合との同盟にも反対したんだ!」
「だがそのせいで今、こうしてオーブが再び戦場になってしまったんじゃないか!?」
「結果として、だ!あの時の大西洋連合の立ち振る舞いを見ただろう!?あの場で同盟締結を無視したらどうなるか…今の君なら分かるだろう!?いくら素晴らしい理念でも、それだけで国は守れない!国を守る為には相手の裏を斯くしたたかさも必要なんだ!」
「お前は最初から大西洋連合に服従したわけじゃないのか!?」
「当然だろ!?オーブを戦争に巻き込んで…それだけで僕が終わらせるわけ無いじゃないか!?戦争が終わればまた元の時代に戻る…その時を出来るだけ小さな被害で迎えるための同盟のつもりだった!」
「お前は……!」
 
ユウナの息が大きく弾み、肩を激しく揺らし始める。満身創痍…その言葉が今のユウナにぴったりの言葉だった。
 
「……」
 
だが、ここまで話し終えて自らの無様な姿に疑問を持ったユウナは息を整える。
感情に任せて言葉を放り投げるのは自分らしくないと思った。
しかし、この様に惨憺たる有様になってカガリと対面する事で初めて沸き上がる気持ちを抑え切れなかった。
口調は抑えられるが、感情は拍車が掛るばかりである。
 
「……僕はね…君が好きだったんだよ……」
「な…何を……!?」
「いつでも前向きな姿勢、ハッキリと意思を伝える声、そして皆を引っ張るリーダーシップ……どれも僕が持ち得ないものだった……」
「いきなり何を言っている!?」
「無い物ねだりってね…異性には自分には無いものを求める傾向があるらしい……僕には君がとても輝いて見えていたんだよ……」
「……」
「君が僕の婚約者だと知った時、胸が詰るほど嬉しかった……君が弟君に攫われた時の結婚式なんてホント、天にも昇る気持ちだったよ……。だからこそ、余計に君が情けなかった……僕の気持ちを無視し、更に期待を裏切った事が……」
「ユウナ……」
「カガリ…君は僕に誓えるか?この国を…オーブをまた以前のような素晴らしい国に戻すと…皆が愛したこの国に平和を取り戻せると……僕に誓えるか?」
「それは……」
「今ここで、決めて欲しい……君が僕を否定するのなら、僕が君に聞きたいのはその誓いだけだ……」
「お前は私から元首の座を奪いたいんじゃなかったのか……?」
「ちょっと前までは本気で思ってた。でもね、冷静になったら何故か急に気付いちゃったんだよ…君を好きになった時点で、僕の運命は決まっていたって事に……だからかな、あの時嘘と分かっていながらも君をあっさり帰しちゃったのは……」
「でも、私を暗殺しようとしたのは……」
「流石にイラッと来る事はあるさ……僕は完璧な人間じゃないもの……」
 
思い返せば、ユウナはどんな時でも自分に厳しくしながらも甘かったような気がする。それは、きっと本当に自分の事を案じてくれていた故の気遣いなんだろうと気付いた。

「おかしいとは思った…私に接触を求めてきたのも、あの場であっさり引き下がったのも、今思えばそんな事する必要は無かった。本当に私をこの国から排除したかったのなら……」
「分かって貰おうなどとは思わないよ。君に銃を向けたのは事実だからね……ただ、情けない君に少しでもマシになって欲しかった…周りに甘えてばかりの君に目を覚まして欲しかったんだよ……」
「ユウナ……」
「さて…それなら僕に聞かせてくれないか……君の心からの決意を……!」
 
カガリは考え込む。勿論その答えは最初から決まりきった事だが、それを今のユウナにどんな声で伝えればいいか、それに自信が無かった。
その時、一際大きな爆音と振動が起こった。この部屋は最上階ではないが、真上の屋根に破壊されたMSの残骸が墜落したのだ。二人の居る部屋の天井からも小さな破片が落ちてくる。
 
「くぅ……!」
「さあ、早く僕に誓って見せておくれ……そうすれば、僕は君を許してあげられる……」
「そんな事言っても、この状況では!」
 
外で待機していた護衛たちの扉を叩く音が聞こえる。先程の衝撃で歪んだ扉が二人を閉じ込めてしまったようだ。けたたましい打撃音は扉を打ち破ろうと必死に体当たりをしているのだろう。
 
「君のオーブに対する気持ちはその程度なのかい?こんな揺れで口に出せないほど弱い決意なのかい?」
「うぅ……!」  
「カガリ様ぁぁ!今お助けいたします!」
「銃だ!銃を使え!」
「馬鹿者!誤ってお二人に当たってしまったらどうするつもりだ!?」
「銃を使わずにブチ破るしかない!」
 
外から慌ただしい兵士達の声が聞こえる。
 
「カガリ、もう時間が無い…それとも、僕には誓えないのかい?」
「そんな事は無い!お前がオーブの事をどれだけ想っているかを、私は知った!」
「なら、聞かせてくれ……僕の憧れた君の力強い声で、それで僕は安心出来るんだ……」
 
差し迫ってくる時間の中、ユウナの言葉だけが時間を遅らせるようにゆっくりと紡がれる。その言葉が、アスランとも違う安心感と自信をカガリに与えた。
 
「分かった……!」
 
ユウナはカガリの声を聞くと、力の無い笑顔を見せた。痛覚で全身の力を奪われていたせいだろう。
しかし、それでもユウナの笑顔は不思議な穏やかさを醸し出していた。
もう、カガリに先程までの迷いは無い。
目元は引き締まり、真一文字に結んだ口元は凛々しさを醸し出す。ピンと背筋の伸びた姿勢は威風堂々とし、普段のカガリよりも一回り体格が大きくなった印象を与えた。
カガリの決意が固まる。

「私、カガリ=ユラ=アスハ、オーブ国家元首はここに宣言する!オーブに対する脅威を取り払い、必ずや元の平和な国にする事を…私の全てを懸けて……誓う!」
「……ありがとう…カガリ……」
 
ユウナがその場に崩れ落ちる。ずっと我慢していたのだろう、精神力のみで立っているのも最早限界であった。
 
「ユウナ!」
 
カガリが倒れたユウナに駆け寄ろうとした所で部屋の扉を破って護衛達が雪崩れ込んでくる。
 
「カガリ様、御無事で!?」
「ユウナ様は…あっ!?」
 
ユウナに同調していた護衛が倒れているユウナを発見した。
 
「早くアイツを医務室へ連れてってやってくれ!」
「何て無茶を……!おい、二人で抱えて至急医務室へ運べ!」
 
護衛達がユウナに近寄ろうとした時、ユウナは再び立ち上がった。
 
「もう、終わりだよ……」
「は……?」
 
ポツリと呟くユウナの真上から破片が落ちてきた。先程の衝撃で崩された上の階の瓦礫が天井を圧迫していたのだ。
 
「さようなら、カガリ。最後に僕の好きだった君の姿を見れて…良かったよ……」
「ユウナ……!?」
「さあ、行きなさい、カガリ。僕は君にこの国の未来を預けた……」
「ば…馬鹿な事を考えるな!私にはお前の力が必要だ!」
 
カガリの頬を涙が伝う。一方のユウナはその様子に微笑みながらも怪訝に思っていた。

「何故泣くんだい?君が勝者で僕が敗者…そうなることで君はこれから先、今までの責任を僕に押し付けて有利に国を纏めていけるようになる…もっと堂々としてなさい……」
「そんな…そんなことの為にお前は……!」
「言っただろう?オーブを守っていく為には相手の裏を斯く様なしたたかさが必要だって……君に欠けているのはその狡さなんだよ……君は優しすぎる……」
「駄目だユウナ!お前には私を導いて欲しいんだ!一人じゃ無理なんだよ!」
「…ありがとう、カガリ……でもね、やっぱり僕はここで消えた方が君の為には一番いいんだよ……。僕の想像するオーブの未来…いくら思い浮かべてみても、そこに僕の姿は無い……つまり、そういう事なんだ……」
「そんなの!お前の描いた勝手な空想で自分の命を捨てるのか!?私はそんなの絶対に許さない!」
「君の為には僕が負けたことを確実に知らしめる必要がある……。悪のセイラン家は正義のアスハに敗れた、という確かな事実が必要なんだよ……」
「違う!私はお前に勝ててなどいない!だから…」
「君がオーブを放置していたのは事実だ……。未熟な君がそこから一気に国を纏めるには、僕が君に負けたという結果が必要になる……」
「私はお前とこの国を再建したい!だから、馬鹿なことは止めて早くこっちへ来い!」
「……君は僕を許すつもりで居るみたいだけど、それはいけない考えだよ……君が新たに纏めていくオーブに、悪のセイラン家の長男である僕は居てはいけないのさ……国民の信用に関わるからね……」
「そんな事を考えて……!何でそこまで私の為に……」
「……全ては大好きな君の為に……」
 
こんな恥ずかしい事を口にする以上、自分も愚かなんだろうとユウナは思う。自分の死が最も効果的とはいえ、それ以外にも行方をくらませるという方法もあったのだ。
しかし、こうして自分の好きな女性の為に命を懸けて尽くす自分が心地良い。そして、その後の事を考えると、堪らなく自分が愛しく感じる。
 
(僕はカガリに呪われてたのかな……?でも、とても気持ちいい呪いだ……僕は幸せ者だろう……)
 
恐らく自分は変態なんだろうと思う。しかし、それで自分が満足するのだから、それでいいと思う。所詮、自分も感情の動物かと自嘲する。
ユウナに降り注ぐ破片はやがて大きな破片に変わっていった。
 
「ユウナァァ!」
「お止め下さいカガリ様!危険です!」
「くっ……ユウナ様……!」
「じゃあ、君たち…後は頼んだよ……」
 
必死にユウナを助けに行こうとするカガリを護衛達が懸命に押さえつける。
ユウナに従っていた護衛達は最後になるであろうユウナの姿をその目に焼き付けていた。
ユウナの上から落ちてくる破片は、既に瓦礫の雨に変わっていた。
 
「ユウナァァァァァっ!」
 
カガリは護衛に引き摺られる様に部屋を出された。
ユウナの護衛達も限界までユウナを見つめていたが、最後に彼に向けて敬礼をすると、その部屋を後にした。
 
崩れ落ちる部屋の中、ユウナは最後までスマートな自分の姿勢を崩さぬよう限界を超えて立ち尽くしていた。
ふと、今になって理解できた事が頭の中を駆け巡る。
 
「そうか…分かったぞ、ウズミ様の気持ち…」
 
瓦礫と埃が舞う中、ユウナはその言葉を残して姿を消した……