Top > Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x > lz6TqR1w氏_第51話
HTML convert time to 0.030 sec.


Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第51話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:48:23

第五十一話「混迷の中」

『くそっ!このままじゃレクイエムが……!』
 
デスティニーに追われるキラは焦っていた。
時間を掛けすぎている。これでは何時レクイエムが発射されてもおかしくない。
 
「あんたって人はぁぁぁぁ!」
『もう止めてくれ!君まで死に急ぐ必要は無いだろう!?』
「俺があんたを殺すんだ!履き違えるんじゃない!」
『レクイエムが撃たれちゃうんだぞ!』
「関係ない!レイを殺した事、存分に後悔させてやる!」
 
アロンダイトを振り回し、ヒラリヒラリと馬鹿にするようにかわすストライクフリーダムを追う。
 
『そこまで言うなら……!』
 
ストライクフリーダムは二本のビームサーベルを引き抜き、それを両手にデスティニーに突撃する。シンにとっては好都合になる筈だった。
ところが……
 
「フリーダム!……な、なぁっ!?」
 
得物の大きいデスティニーのアロンダイトはストライクフリーダムの小回りの効くビームサーベルに切り刻まれてしまう。
ならばとアロンダイトを捨て、フラッシュエッジを投げつけるが、廃艦を背にしたストライクフリーダムはそれもあっさりとかわし、フラッシュエッジが廃艦に突き刺さる。
だが、その間にデスティニーは急接近し、ストライクフリーダムの頭部に向けて掌を突き出す。パルマフィオキーナでストライクフリーダムのカメラを破壊しようと目論んでいた。
 
「これで終わりだ、フリーダム、キラ!」
『まだだぁっ!』
 
至近距離でのレールガンを放たれ、デスティニーは体をくの字に曲げて怯む。
ストライクフリーダムはその瞬間に体を入れ替え、逆に廃艦を正面に据える形になったデスティニーの右肩に背後からビームサーベルを突き刺す。
そのままの態勢で廃艦の隙間に向かって突き進む。
 
「お前ぇ!」
『このまま!』
 
ビームサーベルを突き刺したデスティニーの右腕をそのまま隙間にねじ込み、固定する。
 
「ぐぐっ…こいつ!」
 
しかし、シンもこんな事では諦めたりはしない。左腕にビームライフルを撃たせながら、ねじ込まれた右腕を何とか引き抜こうと両脚で踏ん張る。踏ん張れば、何とか引き抜けそうだった。

その様子に、キラは慌てる。
 
『抜けそうになってる…なら、これも!』
 
廃艦の装甲に突き刺さっていたデスティニーのフラッシュエッジを引き抜き、それを今度は左脚の脹脛の部分に突き刺して直ぐ脇の別の隙間にねじ込む。
 
「こいつ!?」
『動かなくなった……?』
 
廃艦に抱きつく形で固定されてしまったデスティニーは身動きが取れなくなってしまった。
 
『ここで暫く大人しくしていてくれ!全てが終われば、誰かが助けてくれると思うから……』
「待てよ、フリーダム!お前…俺はまだお前に復讐が終わってない!待てと言ってるだろ!」
『……ごめん……』
 
ストライクフリーダムはエターナルへ向けて飛び立つ。
 
「謝るぐらいなら!…おい、これを外していけよ!」
 
時間を焦るキラは、ストライクフリーダムの追加装備、ミーティアの受け取りに向かう。それによってストライクフリーダムの火力を強化する事で、レクイエムもメサイヤも破壊しようと考えていた。
 
 
一方のカミーユはステーション・ワンに辿り着く。その機体に纏った光は、カミーユの意思を無視するが如く余計に輝きを増していた。
何処からともなく謎の光がΖガンダムに吸い込まれていく……
Ζガンダムを包む淡い紅い光、そして、止め処なく溢れる霧の様な碧の光。それは、怒りと優しさが混同しているような光景だった。
 
「あれは…オーブ軍はここまで来ている!」
 
カミーユが辿り着いた時には既にザフトの防衛線は崩壊し、前線を突破してきた数少ないムラサメやM1アストレイがステーション・ワンに対して砲撃を行っていた。
ステーション・ワンの円筒の中に入って直接叩こうかというMSも居たが、ザフトも懸命な抵抗を続けているらしく、上手く近づけないでいた。
 
「こいつを潰せれば……」
 
Ζガンダムはビームライフルを連射したが、所詮はステーション・ワンよりも遥かに小さいMSの携行兵器である。いくら撃った所で決定的な打撃にはならない。
 
「こんな時にメガランチャーがあれば……!ん?」
 
何かに気付き、視線をオーブのM1アストレイ部隊に移す。その中の一機が大型のランチャーを携行していた。対レクイエムの為の特殊装備である。
 
「そこのMS!ランチャーを!」
『な、何!?』
「こいつで……!」
 
Ζガンダムは大型ランチャーを奪い、それをステーション・ワンに向けて撃つ。
しかし、その大型ランチャーの一撃も大した損害を与える事は出来なかった。

「これじゃあ発射までに潰すには時間が掛かりすぎる……!」
『お、おい!あんたは何だっての!?ザフトじゃないのか!?』
「どうすれば……!」
《お前の底力、そんなもんじゃないだろ?》
 
「……!ハイネ……?」
 
確かに聞こえたハイネの声。カミーユの感情が昂ぶる。
 
「やれるというのか…俺に!」
 
ビームライフルを納め、ビームサーベルを取り出す。インフィニットジャスティスを葬った時と同じ様にビームサーベルの出力がスペックを超える。
 
『な…なんだあれは!?俺は幻でも見ているのか!?』
『ば、化物か、あのMSは!?』
『おい…これはやばいんじゃないのか、何か光ってるし!?』
『に、逃げるぞ!』
 
オーブ軍のMS部隊はΖガンダムの異常さに怖気付き、こぞってステーション・ワン付近から撤退する。
 
『おい、貴様!ザフトが何をしている!?』
 
慌てて通信を繋げてきたのは、ステーション・ワンの防衛に当っていたイザークだった。
 
「……」
『聞こえんのか、Ζガンダム!返事をしろ!』
『お、おいイザーク!何か様子が変だぞ!』
『えぇい!うるさいディアッカ!奴がしているのは反逆行為だぞ!』
『け、けどよ…ビームサーベルってのはあんなに伸びるものなのか……?』
「済みません、離れていてください!」
 
そう言ってΖガンダムはステーション・ワンの円筒の中へ突入していく。
 
『貴様!』
『馬鹿っ、止せイザーク!』
『何をするディアッカ!』
『冗談じゃないって!あんなのに関わるな!』
 
Ζガンダムを制止しようとするイザークのグフをディアッカのザクが制した。
そして、ステーション・ワン内部に潜り込んだΖガンダムは手にした巨大なビームサーベルを大きく振りかぶる。
 
「うぅおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
 
雄叫びをあげてΖガンダムが肥大化したビームサーベルを振り回す。
 
『うっ…これは……?』
『こんなの常識じゃねぇぜ……!』

視線の先にはステーション・ワン。その内側から破裂するように外壁から爆発の光が瞬く。
 
『ステーション・ワンが……!』
『性質の悪い夢だぜ……!』
 
ステーション・ワンの装甲を突き破ったのか、時折ビームサーベルの刃の光が飛び出してくる。
やがて円筒の口から吐き出すように夥しいまでの煙が立ち込めると、その中から一筋のバーニアスラスターの光が伸びていくのが確認できた。
イザークとディアッカは、目の前の圧倒的な光景が信じられなかった。
 
『ステーション・ワンのゲシュマイディッヒ・パンツァーが沈黙しました!』
「……」
 
ゴンドワナからの報告にイザークは目蓋を下ろして沈黙する。
瞬間、レクイエムから発射されたビームが残骸となったステーション・ワンの円筒を通過する。しかし、偏向する筈のビームは曲がらず、そのまま明後日の方向に突き抜けていってしまう。
 
『これでレクイエムは使えないな……』
 
ディアッカの方は放心したように呟く。未だに現実なのかどうかの区別がに戸惑っていた。
  
ステーション・ワンを破壊し、離脱したカミーユはレクイエムの光を眺め、戦場の気配を探る。
 
(レクイエムは何とかなったぞ、ハイネ!)
 
心の中でガッツポーズをする。
 
(でも、これでザフトからも狙われる事になる……)
 
そう頭の中で呟いた時、唐突にメサイヤからの通信が入る。
 
『これはどういう事かね、カミーユ=ビダン?』
「デュランダル議長……!」
 
相手はデュランダル。直接繋げてきたという事は、もう誤魔化しは効かない事になる。
 
「見ての通りです。あなたのやり方は間違っています」
『君も私を傷つけるのかね……』
 
そう言うとデュランダルはあっさりと回線を切る。
カミーユは拍子抜けを喰らったが、最後のデュランダルの不敵な笑みは唯の負け惜しみには見えなかった。
 
機動要塞メサイヤの司令室の中、デュランダルはモニター画面に囲まれて椅子に鎮座していた。
戦闘は佳境に入り、事態は既にどちらが優勢とも取れない状況に陥っている。
デュランダルはそれでも表情一つ変えずに事の成り行きを見つめていた。
 
(タリア…ハイネ…そしてカミーユ……皆、私から離れていくな……)

「レジェンドはどうなっている?」
「は、少々お待ち下さい……出ました、先程から信号がロストしています」
「レイが?」
「はい、恐らくは……」
「沈んだというのか……ぅむ……」
 
デュランダルは目蓋を下ろし、物思いに耽る。戦況は最早どう転がるか分からない、レクイエムはカミーユの裏切りで使えない、忠実な部下のレイも居ない。
残されたのはこのメサイヤと僅かなザフト兵だけである。
 
(いや、タリアは違ったな……)
 
デュランダルは目蓋を上げる。
 
「ミネルバは?」
「現在アークエンジェルと交戦中です」
「緊急招集をかけ給え。ミネルバはメサイヤの守りに就かせる。それと、艦長をこちらへ」
 
唐突にデュランダルはタリアを呼び寄せる。
 
その頃、満身創痍のミネルバとアークエンジェルは不毛な消耗戦に入っていた。
撃てる弾はほぼ撃ちつくし、切り札の陽電子砲も沈黙している。船体のあちこちから煙を噴出し、僅かに残った弾を意味もなく撃っているだけに過ぎなかった。
そこへミネルバに友軍艦から通信が入る。
 
『ミネルバ、聞こえるか?』
「は、はい!こちらミネルバ」
『報告だ。ステーション・ワンがそちらのΖガンダムによって沈黙した。以後、Ζガンダムをエネミーと見なし、遭遇した際にはこれを殲滅しろ』
「えぇっ!?」
 
司令官からの報告にメイリンが大声を上げる。
 
「ちょ、ちょっと待って下さい!何かの間違いです!カミーユはそんな事は…」
『残念ながらカミーユ=ビダンがステーション・ワンを破壊したのは事実だ。その時の映像も残っている』
 
「どうしたの、メイリン?」
 
慌てるメイリンを不思議に思ってタリアが問い掛ける。しかし、メイリンは顔色を青ざめるだけで反応しない。
 
「メイリン?」
 
その時、モニターの一つにステーション・ワンが爆発と煙を噴出す映像が映し出された。
 
「え……どういう事……?」
 
信じられない光景が目に飛び込んでくる。見た事もない長いビームサーベルの刃が、ステーション・ワンを刻んでいるのである。
小規模の爆発が大量に起こり、ステーション・ワンの光が少しずつ消えていく。

「カミーユが…やったそうです……」
「カミーユが?何を言っているのこんな時に……こんなCGで合成したような遊びをしている場合じゃなくってよ」
『それは現実に起こったことだ』
 
メインモニターに司令官が映し出される。その表情は真剣そのもので、嘘をついている風には見えなかった。
 
「……何が起こったというのです?」
『ステーション・ワンから出てきた光の先を拡大してみろ。答はそこにある』
「光の先……」
 
バートに目配せをし、言われたとおりにする。映像を巻き戻して拡大すると、そこには見覚えのあるMAの姿が映っていた。
 
「ウェイブライダー……」
『ステーション・ワンはΖガンダム単機によって破壊された。これは厳然たる事実だ』
 
信じられないといった表情でタリアは固まってしまった。他のクルーも、戦闘に対応してはいたが心の内は不安定だった。
 
『信じられないのは分かる。しかし、現実としてこの様な事が起こってしまったのだ。獅子心中の虫だったわけだな、カミーユ=ビダンとやらは』
 
司令官の言葉が突き刺さる。カミーユをミネルバに乗せたのはタリアの決断とはいえ、一任したデュランダルにも責任はあるだろう。しかし、これまで共にザフトとして戦ってきたカミーユの急な心変わりが信じられなかった。
 
『もう一度伝えるが、Ζガンダムは敵勢力としてエネミー認定された。遭遇した場合はこれを殲滅せよというのが先ず一つだ』
「了解……」
 
珍しく気落ちするタリア。しかし、責任ある立場の彼女はそれに逆らうわけには行かず、了承の返事をする。
 
『そして、もう一つはメサイヤのデュランダル議長からの勅命だ。ミネルバはメサイヤに配置、直ちに向かえ』
「……ミネルバ了解です」
『それと艦長?』
 
モニターの向こうの司令官が何かを言いたそうに目で訴える。タリアは承知し、手元の受話器を耳に当てる。
 
『ミネルバ艦長タリア=グラディス、デュランダル議長がお呼びだ。指揮は副長に任せてメサイヤの司令室へ向かえ』
「了解」
 
一言だけ返事をすると、直ぐに受話器を置いた。
 
(カミーユ…何故……?)
 
他のクルーも同じ気持ちだった。カミーユの突然の裏切り行為、混乱が深まっていくこの状況で行為に及んだという事は、最初からそのつもりだったのだろうと推測できる。
そんな嫌な考えを持ちたくは無かったが、そう考えざるを得ないのも事実だった。

「艦長…カミーユは一体何の為に……」
「あの子は賢い子……だから、何を考えているかなんて私には分からないわ……」
 
諦めたような表情にアーサーは言葉に詰まる。自分とて信じたくは無いが、現実としてそうなったからには受け止めるしかない。アーサーは顔を俯けた。
 
「でも……」
 
続くタリアの声。その声にアーサーは再び顔を上げる。
 
「あの子は私たちを裏切ったりはしない筈よ……だから、私はあの子を信じたい……」
「艦長…しかし……」
「レクイエムは悪魔の兵器よ。あの子はそれを撃てなくしただけ……信じましょう、カミーユはきっと何かを捜しているのかもしれないわ」
 
自分でも不思議な位意味不明なことを口走っているのが分かる。しかし、ここまで届くカミーユの力の影響力が何かをミネルバに感じさせているのかもしれない。
それに気付いては居ないが、アーサーも何となくタリアの言葉が理解できたような気がした。
 
「……はい」
 
視線を戦場に向ける。他のクルーも今のタリアの言葉を聞いていて、何故か納得してしまった。不思議なフィールドがミネルバを包んでいるような気がした。
 
(結局、決着を付ける事は出来なかったわね……)

少しの間考慮した後、何かを決心する表情で戦場を睨むアーサーに顔を向ける。
 
「アーサー、後は頼んだわよ」
「は?艦長?」
「出来るわね?」
「な、何を言ってるんです!?私は……!」
「皆聞いて、現時刻を以ってこの艦の指揮はアーサーに全てを一任するわ」
 
立ち上がってうろたえるアーサーを尻目に、タリアはクルーに告げる。戦闘中にも関わらず、ざわざわとどよめき声が起こる。
 
「メイリン、艦内放送でクルー全員に伝えなさい」
「え…でも……」
「ミネルバの艦長としての最後の命令よ。忠実にね……?」
 
母親が娘に諭すような優しい表情でタリアはメイリンに微笑んでみせる。その表情に目を奪われている自分がいる事にメイリンは気付いていない。そのまま固まったようにタリアの顔を見つめている。
 
「お願いね……」
「ちょ、ちょっと艦長!?私じゃ、私じゃ駄目なんですよ!艦長!」
 
タリアはアーサーの制止も聞かずにブリッジを後にした。
残されたクルーは目の前のアークエンジェルとの戦闘に休みなく対応していたが、アーサーとメイリンだけは呆然としたままだった。

「メイリン、何やってんの!?さっさと友軍に後退支援要請を出す!」
「あっ……は、はいっ!」
「副長もボーっとしてないで指示出してくださいよ!」
 
チェンとマリクが放心する二人に喝を入れる。それにようやく自我を取り戻したメイリンだったが、アーサーは立ち尽くしたままだった。
 
「メーデーメーデー、こちらミネルバ、後退支援お願いします!」
「副長、早く後退を指示して下さい!このままじゃミネルバは沈んじゃいますよ!」
「う…あ……しかし……」
「しっかりして下さい!タリア艦長は副長なら出来るって思って任せて下さったんですよ?副長がそんなんでは、戦いが終わった後に怒られます!こっちはとばっちりを受けたくなんだから!」
「ん…うむ……!」
 
ハッキリしないアーサーをバートが叱咤激励する。それに呼応して、アーサーはタリアの座っていた艦長席に腰を下ろす。
 
「……ミネルバ進路転進!デブリを楯にしつつメサイヤまで後退する!同時に後退信号を上げい!」
「了解です、艦長!」
「アークエンジェルへの牽制は最大限しておけ!弾数は気にしなくていい、奴らを追いかけさせるな!」
 
マリクがミネルバをアークエンジェルから後退させる。ミネルバの機銃が弾幕を張ってアークエンジェルを寄せ付けない。
 
(私がやってもいいのですね、タリア艦長!)
 
アーサーは目を皿のようにして戦場を見つめる。
 
 
「ああ、タリア艦長、さっきのはどういう事なんです?」
 
ノーマルスーツを着てMSデッキまでやってきたタリアを見つけて、マッドが無重力の中を泳いでくる。
 
「マッド主任、ランチの発進準備をお願いね」
「は?本当に坊やに任せるんですかい?」
「今は彼が艦長よ、口は慎む事ね?」
「はぁ……ですが……」
「アーサーはやれば出来る子よ。居るでしょ、本当は実力があるのに発揮できない子って?」
「それがあの坊…副長さんですかい?」
「今は艦長。大丈夫、例えミネルバが沈んでも、皆を死なせたりはしないから」
「タリア艦長がそう仰るのでしたら……それで、どちらへ?」
「私を呼びつけた人のところよ」
「艦長を呼びつけた?誰がですか?」
「……私のいい人よ」

そう告げるとタリアはランチの入り口に向かう。タリアはカミーユの事を告げなかった。カミーユと接する機会が多かったマッドには、先程の事実は辛いだろうと思ったからだ。
 
「メサイヤの近くに来たら出して頂戴」
「パイロットは…」
「自分で出来るわ」
 
タリアはランチに乗り込む。
 
(後はあの人の側に居るだけ……)
 
コックピットで顔を伏せ、その時を静かに待つ。デュランダルが自分を呼びつけたのは、かつてのステラの件で提示された条件によるもの。戦局が混乱で読めなくなってきた今、過去の清算をするのは今しかないと考えているに違いない、とタリアは思っていた。
 
(あの人も、追い詰められている……?)
 
戦場の騒々しさとは裏腹に、タリアの心の中はデュランダルに対する疑問で静けさを保っていた。
 
 
オーブ・連合軍陣営の奥の方、ピンク色の派手な戦艦エターナルのブリッジで、ラクスは遠くを見つめるような目で沈むMSを眺めていた。
今この場にいることは、自分がこれまで行動してきた結果である。
そして、その見つめる先で何人もの人が死んでいくのも自分のせいであると、ラクスは思い上がる。彼女は本心から平和を願ってはいるが、自分の言葉の影響力というものを理解していなかった。
しかし、今この状況に立たされれば立たされるほどその事を痛感させられる。
 
「えっ!そうですか、分かりました、ご苦労様です。……バルトフェルド艦長、ステーション・ワン沈黙です!レクイエムは撃たれてしまいましたが、間一髪で間に合ったそうです!」
「そうか、やってくれたか!これで後が楽になった!」
「いえ、それがどうも報告におかしな所があって……ステーション・ワンを破壊したのは例の"Ζガンダム"とか言う奴らしいんです」
「報告は正確に伝え給えダコスタ君?そりゃあザフトのMSじゃないか」
「討伐隊の報告によれば間違いないようなのですが……」
「映像、出せるか?」
「はい」
 
ダコスタが映像を切り替える。すると、そこにはステーション・ワンを破壊して飛び去っていくΖガンダムの姿があった。
 
「ステーション・ワン破壊に向かった部隊が送ってきた映像です。私にはとても信じられない光景ですが……」
「化け物だな……キラのフリーダムも化け物だが、これは次元が違う……正真正銘の化け物だ……」
 
冷や汗を浮かべ、唾を飲むバルトフェルド。一目見た瞬間は映画の中のワンシーンぐらいにしか見れなかった。

「しかし…この力、レクイエムやメサイヤにも使えないか……?」
 
顎に手を当てて考え込む。メサイヤにはジェネシスが備えられていた。ヤキン戦役の時のジェネシス程ではないが、あれも十分脅威になりえる兵器である。それも放って置くことは出来ないのが彼等の心情だった。
 
「どう見ます、ラクス=クライン?」
「え……?」
 
他人行儀な態度で話しかけるバルトフェルド。ラクスはオーブに残してきたカガリの代わりとして軍を率いる立場にある。それは、ラクスのカリスマを利用したカガリの案であった。故に、そこを加味してバルトフェルドの言葉遣いも丁寧になる。
 
「聞いていらっしゃらなかったのですか?」
「は…すみません……」
「しっかりなさって下さいよ?貴女が居なければ、こんな戦い直ぐに負けちまうんですからね。けど、どうやらいい報告のようです、こちらのシンパが増えるかもしれません」
「ΖガンダムというMSに乗った方の事ですか?」
「そうです。そのパイロットは元々ザフトではなかったという事は聞いていますね?一部ではナチュラルという噂もあります。それが議長の言う事に反感を持って離反する…考えられる話です」
「ですが、その者がわたくし達に手を貸すという事は……」
「我々はデュランダル議長の野望を阻止する為に戦っているのです。それに共感しないわけがありません」
「…左翼方向からフリーダムです!」
「ん……?」
 
ダコスタの報告にバルトフェルドは一旦話を切り上げ、視線を移す。すると、そこにストライクフリーダムがやってくるのを確認できた。
ストライクフリーダムはマニピュレーターをブリッジに接触させると、通信を繋げてくる。
 
『エターナル、ミーティアを下さい!直接レクイエムとメサイヤを叩きます!』
「ステーション・ワンが沈んだという事は聞いているな?」
『ハイ!』
「なら、先にメサイヤを潰せ。頭を潰しちまえば、レクイエムの破壊が楽になる。ステーション・ワンが沈黙した今、直ぐにはレクイエムは撃てないはずだ」
『了解です!』
「よし、ミーティア射出!」
「あ……」
 
バルトフェルドが号令を出す。ラクスはそれに待ったを掛けようとしたが、上手く声が出せずにタイミングを失してしまう。
 
「キラ、アスランはどうしている?」
『え……?』
「先程から繋がらんのだ、あるポイントで制止したまま動かないんだが」
『……落とされたんですか?』
「反応はまだ残っているが、どうなったのかは分からん、心配か?」
『……ハイ』
「分かった、MSを一機アスランに寄越す。お前は早くメサイヤを止めてきてくれ」
『お願いします』

ストライクフリーダムはミーティアとドッキングし、加速を掛けて再び前線に向って行く。
ラクスはその後姿を、僅かな時間だけでも目に焼き付けていた。本当はキラと話をしたかったが、戦場の空気がそれを止めた。
 
「ラクス=クライン、先程の話ですが、Ζガンダムをこちらに引き込みましょう。そうすればこの戦い、我々の勝利です」
「勝利が欲しくて戦いをしているのではありません。ですが、今は戦わねばならぬ時なのですね……」
「ラクス=クライン……」
「分かりました、説得してみます」
「よし、エターナル前進!アークエンジェルの援護に出る!」
 
行動しなければ良かったと思う反面、行動しなかった時の事を考えると怖くなる。
人生にifは無いと知りつつも、ラクスはそう考えるのが怖かった。
故に、こうなってしまった以上、出来ることはする、戦うべき時は戦う。自分の弱さを受け入れ、それを乗り越えようとラクスは無理に自分を奮い立たせる。
本当はキラに励まして欲しいところだが、自分自身の力でやってみようと決めた。
何時までもキラに甘えていてはいけないと思った。
 
 
一方、廃艦に固定されたデスティニーはそのまま月の重力に引かれて月面に落ちていた。
何とか廃艦から離れようともがくが、四肢の自由が効かない為、思うように力を発揮できない。
 
「くそぅ…フリーダムの奴……!」
 
コックピットの中でキラに対する憎しみを募らせていく。
シンはレイの仇すら討てず、こんな間抜けな状態で拘束されている事をもどかしく思う。
 
「それにしても、さっきからのこの息苦しい感覚……カミーユなのか?」
 
遠くに居ても感じるカミーユのプレッシャー。それは最初にカミーユと接触したのがシンであるという事にも関係していたが、それ以上にカミーユの力が暴走を始めている事に大きな要因があった。
恐らく、この戦場に居る誰もが何となく感じている事だろう。
 
『……ン……シ……シン……!』
「…何だ?」
『シン!』
「ステラ……!?」
 
聞こえるはずのない声がシンの耳に聞こえてくる。
最初、その声すらもカミーユの力による幻聴だと勘違いしてしまう。しかし、レーダーにインパルスの反応が映り、それが幻でない事に気付く。
 
『シン!今助ける!』
「ス、ステラ!?何でステラがこんな所に……」
 
腕も脚もないインパルスがデスティニーに体当たりをする。その衝撃で挟まれた腕と脚に振動が伝わり、先程よりも少し固定が緩くなった。
シンはデスティニーの出力を上げ、固定されていた右腕と左脚を引き千切って廃艦から逃れる。

『シン、大丈夫?寒くなかった?』
「あ、あぁ……ありがとう、ステラ……」
 
この広い戦場の中、ステラが迷わずに自分の下に来れた事にシンは驚きを隠せない。
 
「どうしてここが分かったんだい?」
『ステラはシンの事は何でも知ってるから……だから、何処に居てもステラはシンの居る所が分かるの』
「ステラ……」
 
奇跡みたいなものだろう。シンを想うステラの気持ちが彼女を彼の下へ導いたとしか思えなかった。
そんなステラの強い想いを再認識し、シンは今すぐステラを抱きしめたい衝動に駆られる。
 
『シン、もう帰ろ?ステラ、これ以上シンが傷つくの辛い……』
「ごめん…まだ……」
 
ステラの気持ちは有難かったが、レイを殺したキラをシンは許せないでいる。
フリーダムと決着をつけるまでは戦場から逃げたくはなかった。
 
『何でシンはステラを置いて行こうとするの?ステラ、シンにとって邪魔?』
「そうじゃないんだ……まだ許せない奴が残ってる。レイを…俺の親友をこの世界から消した奴が、まだ存在しているんだ……。そいつを倒すまでは……」
『レイ、もう居ないの?ステラ、分かんない……』
「ステラは分かんなくていいんだ。ただ、そいつを倒さないと俺は…俺の気が済まないんだ…」
『……今のシン、怖い声してる……そんなシン、嫌い……』
「え……?」
『シンは優しいからシンなのに、怖いシンはシンじゃない!』
「ステラ……はっ!?」
 
涙ながらに語るステラに気を取られていたが、シンは頭上に新たな反応が現れた事に気付く。
 
「何だ、あれ……!」
 
下からでは巨大なMAが浮いているとしか思えない。進行方向が正面だとは思うが、その両側に何かが飛び出しそうな何かがついている。後ろの方はコンテナとブースターだろうか、やたらと無駄にデカイ。
そして、良く目を凝らしてみると、チラッと金色の間接らしきものが見えた。下からなので良く分からないが、見方によってはMSがくっついている様にも見受けられる。
 
「まさか…あれは……!」
 
士官学校時代、シンはヤキンドゥーエ戦役の事を学んでいた。
その時、特に印象に残っていたのが大戦末期に三隻同盟がとんでもない超兵器を投入してきた事だった。それはたったの一機で戦略級の働きを見せ、数の少ない三隻同盟を勝利に導いたと言う。
そして、シンには金色の間接らしきものに見覚えがあった、否、忘れるはずがなかった。先端にドッキングしているそれは、先程まで自分と戦い、そしてレジェンドを破壊してレイを殺した張本人……
 
「フリーダム!」
 
シンの体中が痛いほど熱を帯びる。度重なるデスティニーのパイロットを無視した機動に耐え、痛めつけた体が悲鳴を上げる。
しかし、そんな事はシンにとって最早関係ない事になっていた。

「よくも戻ってきたな!この偽善者がぁぁぁ!」
『シン!?』
 
抑えきれない、抑える気のない感情を爆発させ、損傷したデスティニーはスラスターを全開にしてストライクフリーダムに突っ込んでいく。
 
『…!下から反応……デスティニー!』
「悪趣味な関節の色で助かったよ!お陰でお前を落とせる!」
 
小回りの効かないミーティア装備のストライクフリーダムはデスティニーにコンテナにしがみ付かれてしまう。
 
『君はそうまでしてラクスのやろうとする事を邪魔するの!?』
「ラクスなんて関係ない!俺はお前を倒す!」
 
左腕しか残されていないデスティニーはしがみ付く為にパルマフィオキーナは使えない。更には高エネルギー砲も使えない。
ただ振り落とされないように耐える事しか出来なかった。
 
『そんな状態で、何が出来るって言うんだ!』
「うるさい!お前なんかに、俺のやろうとする事を否定されて堪るか!」
『議長は……!』
「ああ、そうさ!俺は議長の言う事に疑問を持っているさ!けどな、お前達の言う事はもっと信じられないんだよ!」
 
高速で移動するミーティアの上で、必死にデスティニーが片腕で耐える。
しかし、振り落としに掛るキラは急旋回をかける。
 
「ぐっ…!くそ…ぉ……!」
『誰を信じるかなんて君の勝手だけど、それで誰かの邪魔をするのは良くないよ!』
 
急に逆方向への旋回をかけ、頑張ってきたデスティニーも堪えきれずに振り落とされてしまう。
 
『もう、本当にこれで大人しくしていてくれ!』
 
キラは、デスティニーのフェイズシフト装甲ならば耐えられるだろうと踏んだ。
ミーティアのコンテナの蓋が無数に開き、そこから雨のようなミサイルが大量に飛び出す。その数たるや、デストロイに勝るとも劣らぬ数だった。
そのミサイルの雨を、デスティニーは回避できない。
 
(お…俺はこいつに何も出来ずに……?)
『だめぇぇぇぇっ!』
「!?」
 
コックピットの中、正面のモニターに影が入る。それはデスティニーをミサイルから守り、そして吹き飛んでいった。

「あ…あ…!」
 
デスティニーを庇ったインパルスが焼却されたゴミのように煙を噴き、月面の引力に引かれて落ちていく。
たくさんのミサイルを受けたせいか、展開されていた筈のフェイズシフトが切れ、焼け跡と区別がつかない灰色になってしまっている。
インパルスは落下中にデブリにぶつかり、分解する。恐らくデブリに衝突した衝撃で上下のパーツを繋ぐ部分が壊れたせいであろう。
そのまま月面に落ちる事無く爆発を始めた。
 
「う…嘘だろ……?」
 
インパルスの爆発の光が残骸を伴って飛び散る。装甲の破片や、シリンダーの部品、何が爆発したのか分からない青い光が、涙の滲むシンの紅い瞳の中に写る。
シンには何がどうなったのかなど分からなかった。ただ、インパルスが爆発した…それだけしか分からなかった。
 
『また……!くっ!』
「う…あ…うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 
翼を広げ、デスティニーは逃げようとするストライクフリーダムに猛追をかける。
 
『もう止めてくれ!これ以上被害を増やしたくない!』
「何でだぁ!?父さんも母さんもマユもレイも…ス、ステラまでも!どうしていつもあんたは俺から大切な人を奪っていくんだぁ!?」
 
涙を流し、嗚咽交じりの声で叫ぶ。
 
『こんないつまでも…』
 
キラにしてみれば、シン一人にいつまでも構っているわけにはいかない。
ミーティアユニットの先に腕のように生えている物体からビームソードを伸ばし、振り向きざまにデスティニーを横に薙ぎ払う。
しかし、デスティニーはそんな不意打ちをかわし、左腕をストライクフリーダム本体に伸ばす。
 
「あんたは一体何なんだぁ!」
『止してくれ!』
 
しかし、詰めが甘かった。もう一つのビームソードが覆いかぶさってきたのだ。
それにも何とか反応して回避運動をとるが、ビームソードの柄の部分がぶつかり、デスティニーは吹き飛ばされてしまう。
 
「うわあああぁぁぁぁぁ!?」
 
そのまま再び月面に叩き落とされ、シンは体を強く揺さぶられてコックピットの中で激痛にのた打ち回る。痛めつけていた体が痛覚で脳に警告を与える。
シンはこれ以上デスティニーを動かす事が出来なかった。
 
『……』
 
キラはそれを見届けると、無言のままメサイヤへと向かった。