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Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第53話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:48:54

第五十三話「心をほどけば」

メサイヤの防衛機能は停止し、キラは単身メサイヤの内部へ侵入する。途中、何人かの生き残ったザフト兵と遭遇したが、これを何とか撃退し、キラはメサイヤの中枢へと辿り着く。
其処は白を基調としたメサイヤのコントロールルーム。職員達は既に逃げたのか、コンピューターの前には誰も居なかった。
 
「君が来たのか、キラ君?」
 
銃口を声のした方向に向ける。そこには椅子に座った長い黒髪の男が銃を構えてキラを見下ろしていた。
 
「あなたを…止めに来ました……!」
「ふっ、ふふふ……!私を止めにか?」
「あなたを止められれば、この戦争は終わる!そして、僕達は自由な未来を手に入れる為の礎を築く事が出来る!」
「君はどうやら何も感じていないようだな?」
「何ですって……?」
「この戦いが、今更私を殺した所で止まるわけが無い。これは既に人々の意思だ」
「違う!それを、あなたが煽ったからでしょう!」
「私は平和を目指していた…デスティニープランという手段でな。戦いを引き起こしたのは、それに反発して攻め込んできた君らではないか?」
「僕達は、あなたが賛同しない人々をレクイエムで脅迫するから、こうして止めに来たんです。あなたの言っていることは詭弁に過ぎません」
 
キラは構えていた銃に力を込める。
 
「そうかな?ラクス=クラインを祭り上げて、それでいい気になっているだけではないのかね?」
「あなたにラクスの何が分かるって言うんだ!」
「君も同じだ、キラ=ヤマト。君は自分の人生に満足しているのかね?」
「何を…どういう意味です!?」
「張り合いが無いのではないかね?と、聞いているのだよ。なまじ完璧な人間として生まれてきた君には、自分より数段劣る人々の中ではその人生を謳歌できていない……」
「そんな事は無い!」
「必死になろうとしても、周りの能力が低すぎて、君自身はそれに合わせるしか出来ないのだ。退屈な時間を、周りの顔色を窺って生きるしかない、そうだろう?」
「僕はいつでも必死だ!出来ない事だってたくさんある!」
「だから、君はやろうと思えば何でも出来るのだ。ちょっと本気を出すだけで、このメサイヤを崩壊寸前にまで追い込んだ」
「ち、違う!これは…機体の性能が凄いだけで!」
「それを動かす事が出来るのは、恐らく君ぐらいのものだろう。君は、特別なのだよ」
「僕は特別なんかじゃない!他の…皆と同じ、普通の人間だ……!」
「デスティニープランは遺伝子によってその人の生き方を決定する計画だ。適材適所を世界規模でやるだけのな……君の場合、自分で戦場を選んだわけだがね」
「僕は…戦いたくて戦っているわけじゃない……戦わなきゃ守れないものがあるから……」
「だが、君は戦場から身を引かなかった。私は悩んだよ。君が現れて、正直私も慌てた。だが、悩んだ結果、ある人物の事を思い出した」
「……」
「君に対抗し得る力を身につけるかも知れない人物、シン=アスカの存在をな」
「シン…アスカ……?」
「君も既に何度か戦っているはずだ。そう、かつてはインパルス、そして、今はデスティニーに…運命は彼を選ぶかな?」

デュランダルがキラから視線を外し、柱の物陰に向かって語りかける。
キラはそんなデュランダルの目線が気になり、彼の見つめている先を警戒しつつ視線を移した。
 
「君…は……」
 
キラの瞳に入ってきた人物は、柱に体を預けて二人を見つめていた。額からは血を流している。
 
「シン、君はどう思う?この男と私の言う事、どちらが正しいと思うかね……?」
「……」
 
デュランダルの問い掛けにシンは応えなかった。
キラは言うに及ばず信じていないが、デュランダルの言う事もシンにとっては疑わしいと思わざるをえなくなっていた。
ハイネに吹き込まれた思想が、シンを変えていた。
 
「まだ、応えられないのかね……?」
「俺は……」
「僕達はデュランダル議長の横暴を止めたいだけだ!」

シンが視線を落として困惑していると、デュランダルはおもむろに立ち上がった。
キラは慌てて引鉄に指を当てる。
 
「寄らないで!これ以上は、撃っちゃいますよ!」
「何をそんなに慌てているのかね?私はただ、君が銃を構えているからこうしているだけであって、君を殺そうとは思っていない。君がその指を引かない限り、私は君に何もしないぞ」
「出鱈目を!」
「ふっ…やはり君には戦いは向いていないな?」
 
尚も接近してくるデュランダルにキラの銃を持つ手が震える。キラは人を撃った事が無いのだ。
 
「君の純粋な優しさ…とでも言って置こうか。それは戦争をする上に於いて邪魔なものでしかない。現に今、君は私に銃を向けたまま震えているではないか?」
「僕には覚悟がある!仮にあなたを撃ってでも、それを償っていくだけの……!」
「その覚悟、口先だけで見えないな」
「くぅ……!」
「前大戦終結後、ラクス=クラインもそうだが、君は何処に居たのかね?何故表舞台から姿を消した?」
「と、とぼけないで下さい!ラクスを襲わせておいて……!」
「報告には聞いているが、あれは私ではない。過激派が勝手にやった事だ」
「ユニウスも……」
「あれこそ私の想定外の出来事だ。平和を目指した私が、何故争いを呼ぶような事をせねばならないのかね?」
「それは…今日という日の為では…ないんですか……!」
 
キラの言葉を受け、急にデュランダルは口の端を引きつらせる。そして、堪えきれなくなったのか、笑みを浮かべる。
 
「フッ…ははは!アスランもそうだったが、君も中々想像力が逞しいな……?こんな手の込んだ事をしていたのでは時間が掛かってしまう、そうは思わないのかね?君とて、初めはオーブに戦いを止めさせる為に無駄な介入を繰り返していたではないか」
「僕達は、あなたとは違う!」
「否定するのなら、私を納得させるだけの行動で示すのだな。有言不実行では話にならない」

(ギル…シン……!)
 
タリアは柱の物陰で、何故かシンも居る事に驚きつつも二人の会話を聞いていた。
キラの気持ちも分からないでもないが、デュランダルの言っている事の方が正論に思えた。キラ達の行動は、どう考えても肯定されるべきものではないのだ。
それは、彼らと一番戦ってきたタリアだからこそ実感できる。
 
「君の信奉するラクス=クラインもそうだ。二年前、あれだけの事をやってのけて、それでさよならでは話にならない。彼女は、何故その才能でプラントを導こうとしなかったのだ?」
「ラクスを才能だけで測らないで下さい!彼女は…本当は辛くて、でも、こうなる事が間違いだって思ったから、あなたを止める為に無理して立ち上がったんです!彼女にはもっと休息が必要だったんです!」
「一人の我侭で世界を棒に振るか……君達は二人でアダムとイヴにでもなったつもりかね?それこそ、君が比類なき力を持った人類としての傲慢ではなかろうか」
「僕達は逃げたんじゃない!こうして、戦うべき時に戦える…自由があるんだ!」
「私は全てを犠牲にして戦ってきた…しかし、君の考えでは遅すぎるのだよ、何もかもな!」
「!?」
 
唐突にデュランダルが銃の引き金を引く。乾いた音が響き渡る。
 
「……やはりな、これでは君は消せないか」
「あなたは……!」
「……!」
 
キラは寸前でデュランダルの手の動きに気付き、素早く身を転がして銃弾を避けていた。目の前で繰り広げられる行為に、シンは目を見開く。
 
「私の言葉をそのまま信じた君がいけないのだよ?確かに君は優秀な人材ではあるが、今は私の敵だ。排除するのは当然だろう?」
「あなたは…人を能力でしか測れない哀れな人だ……!それでは、最後にはあなたは一人になります!それで良いんですか!?」
「……遅いのだよ、既にな……」
「何を……」
「ふっ…私にはもう誰も居ない。レイも既にこの世に居ないだろう。私は、全てを投げ打ってデスティニープランに賭けたのだ」
「レイ……?デュランダル議長!あなたは一人なんかじゃない!レジェンドのパイロットは、最後まであなたを信じていた!それに気付いてあげないで、諦めるんですか!?」
「その口ぶりからすると、君がレイを……そうなんだな、シン?」
「は…はい……。俺の目の前で……」
「……辛い思いをさせたな……」
 
(レイが……!?)
 
タリアはレイが既にこの世に居ない事を初めて知った。その事実に驚愕の表情を浮かべる。
 
「君は、それを知っていながら私からレイを奪ったのか」
「僕にだって生きる権利はある!仕方なかったんです……!」
「生きる権利…か……。では、ここで私がレイの仇を討つのも仕方ない事だな」
 
言ってデュランダルは更に引鉄に指を掛ける。

「待って下さい!」
 
唐突に響き渡ったのはシンの声だった。
その声に、二人は動きを止める。キラの手の中の銃も、今正に火を噴こうかという状態だった。
 
「…君がやるかね、シン……?」
「くっ……!」
 
デュランダルの言葉にキラは冷や汗を流す。二対一では例え片方を撃てても、もう一人からの銃弾はかわせない。
 
「そうじゃありません……俺、デュランダル議長達の話を聞いていて思ったんです。ナチュラルとコーディネイターの仲が悪いんじゃなくて、本当は考え方の違いがすれ違いを生んでいるんじゃないかって……」
「ほぉ……」
「それって…当たり前の事なんだけど、それを話し合うから対立が生まれるんじゃないんですか?だから、同じコーディネイター同士でも対立が起こる……」
「その通りだ。…だが、それが分かった所でどうなる?戦争にまで発展した思想の対立は今更止められんよ。これは既に私だけの意志の問題では無くなっている」
「でも、話し合うだけなら銃なんて要らないじゃないですか!?そうやって火に油を注ぐようなやり方で話を進めるから、何時まで経っても戦争が終わらないんじゃないんですか!?」
「君はオーブの姫と同じ事を言うのだな?だが、時として抑制する為の力は必要だよ。そうしなければ、世界は無法者の支配する地獄になってしまう。それでは人は何時まで経っても安心して暮らせない。君の様な身の上の人間が増えるだけだ」
「それは…そうですけど……でも、ナチュラルとコーディネイターだって分かり合えれば仲良く出来るんじゃないんですか!?それなのに議長はレクイエムを使った…これって分かり合おうとする前に扉を閉じてるのと違うんですか!?」
「分かり合おうとしても、それが手遅れになってしまえば意味が無い。このまま戦争を続け、人類が絶滅に瀕してしまってからでは遅いのだ」
「だからって!」
「分からないかね、シン?もう話し合いで結論を導き出すには遅すぎる段階に来ているのだよ、この世界はな」
「決め付けないで下さい!議長は神様なんかじゃないんです!まだ時間は残されているかもしれないじゃないですか!?」
「目の前の男を見てもまだそう言えるかい?」
 
視線を傍観しているキラに移す。
 
「この男は天に愛された男だ。彼の思った事は全てが上手く行く…そんな他人を無視したような存在が既に現実として居るのだ。それは、もう人類が決断を下さねばならぬ時が近付いているという事だ」
「この人が……!?」
 
シンは言葉に詰まってしまう。
キラ=ヤマトをまるで神の如く評するデュランダルの言葉に困惑する。そんな事は考えた事も無かった。

「僕はそんなもんじゃない!皆と同じだ!」
「君が自分で気付いていないだけだ。周りの人々は皆、そういう目で君やラクス=クラインの事を見ている」
「そんな事は無い!」
「君は可哀相だな…キラ=ヤマト。君の存在そのものが世界に争いを呼ぶ」
「どういう意味です……?」
 
突然のデュランダルの言葉にキラは不意を突かれる。何を言っているのか分からなかった。
 
「私が何故デスティニープランなどという荒唐無稽な計画を発動しようとしたのか、君は分かるかね?」
「あなたの支配する世界を手にしたいが為でしょう……」
「君を二度と造らせない為だよ」
 
デュランダルの言葉、それはその場に居た全員の呼吸を止めんばかりの衝撃を放った。特にキラは目を見開いたまま固まってしまっている。
 
「シン、君はレイの事を聞いているかね?」
「は、はい……」
「この男もそうだ。レイを造った人間に、究極の人類として生み出された…コーディネイターを超えるスーパーコーディネイターだ」
「スーパーコーディネイター……」
「そうだ。そして、この男を造り出す為に何人もの犠牲が出た……」
 
シンは言葉を失う。自分の知らない所では、このような夢物語が現実として起こっていたのだ。
 
「私の目的は、人類から傲慢を取り除き、悲しい存在であるレイ、そして争いの存在であるこの男を二度と生み出さないようにする事だ」
「争いの存在…僕が……?」
 
デュランダルのレイに対する想いは本物だった。クルーゼと同じ存在と知り、その可能性に同情を感じた彼は、レイの為にデスティニープランを考案したといっても過言ではなかったのだ。
そして、彼等を踏み台にしたような存在であるキラに対する憎しみも、彼等と同じだった。
 
「君は生まれてくるべきではなかったのだよ。君のその力の強さが、人間の心の欲望に火を点ける」
「僕の存在が、欲望に火を点ける……?」
 
二年前に自分を否定してきたクルーゼの声が頭に響く。思い出したくない呪いの言葉が、キラの脳裏には深く刻み込まれていた。
 
「そう…君がコーディネイターを超えた存在である事を知っているのは、ほんの一握りのものだろう。今はまだ良いかもしれないが、それが世界の人々に知れたらどうなると思う?」
「……」
「歴史上の人物としてこの名前を知っているだろう。そう…君はジョージ=グレンの再来なのだよ」
 
ナチュラルとコーディネイターの争いの歴史の始まりの名、ジョージ=グレン。デュランダルは、キラをそう捉えていた。
確かにキラの素性を知れば、ジョージ=グレンの告白の時と同じことが起こるかもしれない。そして、歴史は同じ事を繰り返すだろう。
デュランダルがデスティニープランを発動しようとしたのは、その可能性を潰す為だった。人間の欲望の部分を取り払ってしまえば、誰もキラのような力を欲することは無いだろうと思っていたのだ。

「君が表舞台に出て来たから私は計画の発動を急ぐ必要があった。早くしなければ、君という存在を知った人類は更なる争いを生み出すだろう。君が在り続ける限り、その不安は消えた事にはならないのだ」
「でも…僕には……」
 
キラも何も言えなくなる。デュランダルに突きつけられた自分の存在の可能性は、自分が望む平穏とは全く反対の方向を向いているのだ。
彼にしてみれば、絶望を突きつけられた気分だろう。
 
「さて…それならばもう一度君に問おう、シン。私とこの男、君はどちらが正しいと思う……?」
 
デュランダルがシンに問い掛ける。そんなデュランダルの視線に身を硬直させながらもシンは意を決して口を開く。
 
「俺は…議長には申し訳ないですけど、どちらもおかしいと思います……」
 
シンの口から出た声は、とても細い声だった。傷を負っているせいもあるだろうが、それ以外にも何か含むものがあったのだろう。
 
「何故そう思う?」
「…デュランダル議長の言っている事は分かります。この人が憎しみを呼ぶ存在だって事は、多分俺がそうだからだと思うんですけど理解できるんです。でも、納得は出来ないんです」
「だったら僕達に…」
 
シンとデュランダルの会話に割って入ってキラが口を出す。しかし、そんなキラの言葉が癇に障ったシンはキラを睨みつける。
 
「あんたは黙ってろよ……!俺が今、どんな気持ちでどれだけ怒りを我慢してるか分かってるのか?本当なら、今すぐあんたの首をねじ切ってやりたいところなんだぞ……!」
「……!」
 
キラはシンの迫力に言葉を失う。満身創痍で虫の息に等しいはずなのに、シンから発せられる凄まじい怒りの炎がキラをたじろがせた。
こんな人物には会った事が無いキラは、初めての経験に自分より年下の男に恐怖を覚えた。
 
キラを黙らせたシンが続ける。
 
「議長…議長の仰っている事は議長自身の頭の中の事だけで…それは普通に暮らしている人には関係ない事だと思うんです」
「関係はあるさ、人類全体に関わる事だ」
「でも、それってこの間議長が仰っていた人類の傲慢と同じだと思うんです。議長一人の考えで世界を変えちゃうのって、傲慢なんじゃないんですか?」
「……」
「そう思うと、議長の言っている事って俺には信じきれないんです……その傲慢のせいで二年前の俺みたいな思いをする人が出てくるかもしれないから……」
「そうだったな、君は……」
「だから、俺はもっと可能性のある未来を目指したいんです。ナチュラルもコーディネイターも仲良く出来るような……」
 
ステラを思い出す。よく考えてみれば、彼女と自分はナチュラルとコーディネイターだった。そんな自分達が想いを寄せ合えるというのは、自分が真に望む誰もが笑い合える本当の平和なのだと思った。
だから、デュランダルの言う事はシンには肯定できない。折角見つけられた自分の希望を消してしまいたくなかったからだ。
 
「すみません、議長……俺、ザフトなのに……」
「…いや、それが君の導き出した答ならそれで良い」
「デュランダル議長……」
 
シンにはそう言ったデュランダルの表情がとても寂しそうに見えた。デュランダル自身も苦しんでいるのだろう。それはきっと一人で居る辛さなんだろうと思った。

「しかし、君の協力が得られないとなると……」
 
キラの気がシンに引き付けられているのを見計らって、デュランダルは銃の引鉄に指を添える。
 
「この男の始末はやはり私がしなければならんと言う事だな!」
「!?」
 
デュランダルの銃はキラの頭に照準を合わせていた。
しかし、その前にキラがデュランダルの行動に気付き、弾みで銃の引鉄を引いてしまう。
 
「デュランダル議長!」
 
本当は引くつもりではなかった。話し合いで解決できるなら、それに越した事は無いと思っていた。
しかし、自分の命が危険に晒されてしまった今、彼は半ば本能的に銃の引鉄を引いてしまったのだ。
 
銃弾がデュランダルの胸を目掛けて飛ぶ。確実に命中するはずだった。
しかし……
 
「うあっ!」
「タリア!?」
「タリア艦長!?」
 
急に飛び出してきたタリアがデュランダルを庇って、背中に銃弾を受けた。
シンは慌ててふらつく体を二人の下へ向かわせる。
 
「あ……あぁ……」
 
キラは自分で撃った銃弾が、初めて人に当るのを見て震えた。今まで何度と無く誰かの銃弾が人に命中するのを見てきてはいたが、自分で撃った銃弾が誰かに当った事は無かった。見ているのと自分がやったのではまるで違う。
そして、MSで敵を倒すのとも全く違った。それは、キラにとって初めての経験だった。自分の放った銃弾が、人間の肉を突き破り体内へとねじ込まれる。それを想像しただけで喉の奥からこみ上げてくるものを感じた。
その事実に恐怖して、思わず手にした銃を手放してしまう。
 
「タリア!…君が何故……」
「酷い人…あなたが…私を呼んだんでしょ……?」
 
タリアを抱きかかえ、デュランダルは問い掛ける。背中を支える手に夥しい量の血が流れているのが分かった。
シンは取り乱すデュランダルの傍らで黙って見ているしか出来なかった。
 
「ギル…あなたは…一人ではないわ……。私があなたの…側に…ずっと居てあげる……から……」
「……この傷は致命傷じゃない。直ぐに手当てすれば、まだ君は助かる。だから、これ以上はしゃべるな」
「いいのよ…こうしてあなたに抱かれて…いると、あなたの事が…良く分かる……。ごめんなさい、ギル……ずっと、寂しかったのでしょう……?」
「何も言わなくていい、全ては、君の傷を癒してからだ」
「分かるのよ…自分の体の事…ですもの……。でも、これであなた…に……寂しい思いをさせなくて済むのだから…悔いは…ないわ……」
「気をしっかり、タリア!」
 
叫ぶデュランダルに笑顔を見せ、タリアは傍らで佇んでいるシンに視線を移す。

「シン…あなたは…成長したわね……?自分で物事を…考える事が出来るように…なった……」
「タリア艦長……」
「あなたの成長は…私にとっても喜ばしい…事だった……。ううん…ミネルバの皆は私の子供同然…ですもの……。皆、立派になった…わ……」
「止めて…止めて下さい…タリア艦長……そんな事言うの……!」
 
今にも消えそうなタリアの声に、シンは涙が出てきた。
シンは、ステラの件もそうだが、タリアにとてもお世話になっていた。時には叱られる事もあったが、そこに愛情が含まれていた事をシンは知っている。
親を亡くしたシンにとっては、タリアは母親代わりだったのかもしれない。
 
「タリア、もういい。今は一刻も早く治療を……」
「それよりも…ギル……私と約束して……」
「そんなもの、いくらでもしてやる。だから……」
「私が居なくなれば…私の子供は…一人よ……?」
「そうだ。だから君は生きなくちゃならない。頑張るんだ、タリア!」
「分かるのよ…私には…もう時間が殆ど…残されていない事くらい……」
「弱音は君らしくない。君を失ったら、私はどうすればいい?君なくして私は生きられないかもしれない……」
「あなたはそれ程…弱くないわ……」
「タリア……?」
 
微笑んだままタリアは瞳を閉じる。
 
「子供の事…よろしくね……愛してるわ…ギル……」
 
タリアはデュランダルの顔に手を伸ばしたが、それがデュランダルの頬に触れる事は無かった。タリアの呼吸が止まり、糸が切れた操り人形の様に腕が下がる。
 
「タリア……」
「……っ!」
 
デュランダルは顔をタリアの胸に埋め、震えた。
少しの間そうやって震えていたが、やがて優しくタリアを寝かし、立ち上がる。
一方のシンは安らかに眠るタリアの顔に視線を向けたまま立ち尽くしていた。
 
「……この結果だ、キラ=ヤマト。私のやることは何時も全てが遅い。だから、計画の発動をレクイエムを使ってでも早めようとした……」
 
デュランダルは茫然自失のキラに向けて銃を向ける。
 
「もっと早くに君を殺しておくべきだったよ」
 
メサイヤのコントロールルームに乾いた銃声が響く。
 
 
前線を退いたアークエンジェルの中、回収されたアカツキから気絶したムウが引きずり出される。
 
「大佐さん、大佐さん!目を開けてくれよ!」
 
マードックがムウの頬を張って呼びかける。
 
「む…ううん……!マ…リュー……」
「大佐さん!?…大丈夫みたいだな、こんな時に女の夢を見てられんだから」
 
安心してマードックは立ち上がる。すると、ムウは目を覚ました。
 
「こ…ここは……?」
「よう、大佐さん、気分はどうだ?」
「マードック…ここはアークエンジェルか!?」
「何とぼけてんだよ?俺ぁこの艦以外に居るかっての!」
「と、言う事はマリューも無事なんだな!」
「ああ?何言ってんだよ、大佐さん!いくら惚れたからって、んな当たり前の事を今更言ってんじゃねぇよ」
「そうか…アイツの言ってた事は本当だったか……」
「さっきから何言ってんだ、大佐さん?」
「……俺は大佐じゃないぜ?マードック」
「……?どうしたってんだよ?あんた散々自分の事をネオ大佐だって言ってたじゃないか?」
「思い出したんだよ、俺。心配かけたな」
 
アークエンジェルのブリッジでは、先程からザフト軍の動きが急に散漫になった事に気付いていた。
 
「これは…キラ君がメサイヤを落としたということでしょうか?」
 
チャンドラが呟くようにラミアスに訊ねた。
 
「多分、そうでしょうね……」
「これで後は残りを何とかすれば…この戦争は終わりって事か」
「そうよ、あと一息、頑張りましょう!」
『おい、ラミアス艦長!ちょっとデッキに降りて来てくれ!』
 
デッキからの通信でマードックがミリアリアの耳が裂けんばかりの大声で叫んでくる。
 
「ちょっと、もう少し小さい声で話して下さい!」
『おお、スマンな。って、それよりも、直ぐに艦長をデッキに降ろしてくれ!大変な事になったんだ!』
「……だ、そうですけど?」
「大変な事……?」
『おう、そうだ!早く降りて来い!』
 
正面の大画面にマードックのアップが映る。水分を補給していたチャンドラは思わず噴出してしまった。
 
「ちょ、ちょっと、マードック主任!」
『てめえみたいな野郎には言ってねぇ!じゃ、待ってますよ、艦長!』
 
チャンドラの抗議も聞かずに、マードックは通信を切った。

「艦長……」
「あの様子じゃ、良く分からないわね……」
「行った方が良いんじゃないですか?」
「それは駄目よ。まだ戦闘は続いているんだから……」
「大丈夫ですよ、アマギさんが見ててくれます!」
「お…?あ、あぁ、ここは自分に任せてもらっても大丈夫です!」
「しかし……」
「敵の抵抗は弱くなっているんです、マードックさんの言っている事が本当に大変な事だったら一大事ですよ!」
 
皆に言われて、ラミアスは少し考える。
 
「……何が大変なのか言わなかったのが気掛かりだけど、確かに一大事だったら大変ね……分かったわ、少しの間だけ辛抱して頂戴!」
 
そう言ってラミアスはブリッジを後にしてMSデッキに向かう。
 
 
「お、来たな艦長!」
 
無重力を泳いでラミアスがマードックの下にやって来る。
 
「どうしたの、マードック主任?」
「おう、それがな……って、何やってんだよ!」
 
マードックが後ろを振り向いて誰かに話しかけている。
ラミアスはきょとんとした表情で何があったのか分からないでいる。
 
「やっと会えたんでしょうが!こそこそしてるなんて、男らしくないですぜ!」
「うぉ!止めろよ、みっともねぇ……!」
 
小声で誰かの声がした。
 
「あのぉ……」
「あぁ、ちょっと待ってて下さいね?…ほら、男ならバシッとやる!」
「ま、待てってマードック!こういうのは気持ちの準備というのがだな……!」
「なぁに言ってんですって!そんな事関係ないでしょ!ほらっ!」
「あ……!」
 
マードックに押し出されてきたのはムウだった。何となくバツの悪そうな表情で、横目でラミアスをチラチラと見ている。
 
「ネオ大佐……」
「あの…その……」
 
何があったのかラミアスには理解できていない。ムウの方も、何かしどろもどろになりながら、口をもごもごさせている。

「あの…大変な事って、マードック主任?」
「ほら、言いたい事あるんでしょ?伝えなきゃ!」
「ちょっと待てって言ってるだろ!俺はこういうのは苦手なんだよ……」
「その、時間がないので早くしてくれませんか?まだ戦闘は継続中なんで、直ぐにブリッジに戻らなければならないんですけど……」
 
困った表情でラミアスが告げる。それに焦ったマードックがムウをけしかける。
 
「何やってんだ!自分で言えないなら自分が言っちゃいますよ!いいんですか?」
「……うぅむ……」
「あぁ、もうじれったいな!」
「だから、ネオ大佐が何なんです?」
「戻ったんですよ、記憶が!」
「え……!?」
「フラガ少佐だった記憶が戻ったんです!な?」
「あ…あぁ……そういう事だ」
 
照れくさそうにムウは片手で頭を掻く。そして、期待するように横目でラミアスに視線を移したその時……
 
「った!?」
 
ムウの横っ面をラミアスの平手が叩いた。
 
「な、何す…」
 
文句をつける前にラミアスがムウの胸に飛び込む。そんな状況にムウは目が点になってしまう。
 
「もう…何でもっと早く言ってくれなかったの……ムウ……?」
 
顔を伏せるラミアスの表情は見えない。しかし、その声は彼女が泣いていることを表現していた。
そんなラミアスをムウはそっと抱きしめる。
 
「…すまなかった、マリュー……」
 
デッキの隅で抱き合う二人に当てられたのか、マードック以下他のクルー達はそっとその場を離れた。
 
「もう…何処にも行かないでよね……?」
「ああ、もう何処にも行かない、ずっとお前と一緒さ…約束する……」
 
戦場では、彼等のように再会を果たせる確率は低い。彼等は幸運だった。
そして、彼等は知らない。別の場所では、再開した男女が再び引き離されてしまった事に。
それでも、ムウとラミアスは抱き合う。彼等にとって、二年間という時間は途方もなく長い道のりだった。
 
 
「…ぐ……は…ぁ……!」
「デュランダル議長!?」
 
デュランダルがキラに向けた銃は、その弾をキラに放つ事無くデュランダルの手から離れる。その様子にシンは叫び声を上げる。
 
「ぐ…ぅ……」
 
デュランダルの白と黒の制服の胸の部分から赤い血が拡がっていく。
キラはそれを見つめ、ただ突っ立っていた。
 
「……」
 
デュランダルに放たれた銃弾は、三人以外の誰かだ。デュランダルはキラを狙っていたし、キラは既に銃を手放していた。シンは手に銃を携帯していない。
キラは恐る恐るその銃弾が放たれた方向に顔を向ける。
 
「……!?」
 
其処に立っていたのはアスランだった。キラは驚きに顔を歪める。
そしてデュランダルは前のめりにタリアと重なるようにゆっくりと倒れた。
 
「デュランダル議長!」
 
「アス…ラン……?」
「デュランダル議長は倒した……」
 
キラはアスランの表情に恐怖を覚える。その顔は、既に彼が知っているアスランの顔ではなかった。
その表情は、悲しいのか、怒っているのか、それとも悩んでいるのか…もしくはそれら全てが入り混じった表情なのか。とてもではないが形容しがたい複雑な表情をしていた。
他の人が見れば、ただ暗い顔をしているだけにしか見えないだろうが、アスランと付き合いの長いキラだからこそ、その違いが分かる。
 
「君…は……」
「……」
「アスラン!あんた……!」
「シンも居たのか……。俺はハイネを殺したよ……」
「……!?」
 
アスランは微かに笑って銃を下ろし、シンに顔を向ける。
 
「アス…ラン……か……」
「デュランダル議長、これであなたの野望もおしまいです。せめて、このメサイアをあなたの墓標にして下さい……」
「やはり、君…達は……私の最大の…敵だった…訳だ……な……?」
「……行くぞ、キラ」
 
アスランは振り向いてコントロールルームを後にしようとする。

「待て、アスラン!」
 
痛みで震える手でシンは銃を取り出し、アスランに向ける。
 
「シン…お前に構ってる暇は無い……」
「良くもそんな事を……!」
「そんな状態では俺に当てる事は出来ない。そんな事より、早くしなければお前もここで死ぬ事になるぞ?」
「くぅっ……!」
「それとも、俺が殺したハイネのところに逝くのか……?」
「あんた…あんたはぁぁ!」
 
シンが感情の赴くままにトリガーを何回も引く。しかし、震える腕では照準を全く合わせることができず、狂ったように銃弾は明後日の場所に命中するだけだった。
 
「アスラン……」
「奴は放っておいて脱出するぞ」
「けど……」
「もうデュランダル議長は終わりだ…ここもいずれ崩れ去る。早くしなければ、俺達もここで死ぬ事になるぞ」
「う…うん……」
 
キラとアスランは去っていった。
 
アスランはカミーユのΖガンダムにインフィニットジャスティスを切り裂かれた後、意識を取り戻し、メサイヤへやってきたのだ。
脚部を喪失していたが、インフィニットジャスティスは何とか自力で動く事が出来た。
 
「くそっ、くそぉっ!アスランめぇ!」
「…シン……君も…早く行きたまえ……」
「デュランダル議長!」
「君の様な…若者をここで死なすのは惜しい……。私を…否定したのなら…新たな世界で君の思うままに生きて見せたまえ……」
「ですけど……!」
「タリアと…二人にさせて欲しい……」
「……!」
「頼む……」

息も絶え絶えのデュランダルの言葉にシンは俯いて少し考え込む。
しかし、やがて意を決したのか、顔を上げて口を開く。
 
「分かりました……」
「済まないな……?」
 
シンは傷ついた体をフラフラさせながらメサイヤのコントロールルームを去る。
出口で寂しそうに二人を振り返ったが、寄り添う彼等を見つめて無言のまま流れて行った。

残されたメサイヤの二人、デュランダルとタリアは、その身を重ねて不思議な感覚に包まれていた。
 
「タリ…ア……」
 
仰向けになっているタリアの顔に自分の顔を近づけて呼びかける。しかし、タリアは瞳を閉じたまま、返事をしなかった。
 
不意に誰かの声が聞こえた。それは幻聴のようで違う、不思議な声だった。
 
《ギル…負けたな……?》
(…ラウか……?)
《君が負けるとはな…あれほど負けるのが嫌いだった君がな?》
(私は負けたのではない…ただ、遅かったのだ……)
《同じ事だ。君は負けたのだ》
(……)
《納得していない顔だな?》
(当然だ、君とて負けた身なのだからな……君だけには言われたくない事だ……)
《私は勝ち負けなどどうでも良いのだ。ただ、私の願いが叶うのならな……?》
(人類を滅ぼす…か……?それこそ叶わぬ願いだったではないか)
《ふっ…キラ=ヤマトの様な人形が存在している限り、世界は遠くない未来に滅ぶよ……私はそれで十分だ》
(…大層な事を言っておきながら、随分と気の長い男だよ、君は……死して尚願い続けるとは……)
《大層な事を考えるからこそ、時間を掛けようとする……私の短い寿命では生きている間に成就できない事は分かっていた。だからニュートロンジャマーキャンセラーの情報を連合側にも提供して早期の相互破滅を狙ったのだが、キラ=ヤマトに邪魔をされた。
だが、悪い事ばかりではなかった……人間のエゴ、それを最も体現しているキラ=ヤマトが私の願いを叶えてくれる…奴の意思に関係なくな……?それが分かっただけでも私は満足だった。それに、死んでしまえば人間誰でも気が長くなるものさ》
(そういうものか?)
《そういうものだ。君もこちらに来てみれば分かる事だ、生きている時よりも苦しまずに済むぞ……》
 
クルーゼがデュランダルの傍らにやってきて腰を降ろす。そして、目元を隠す仮面の視線がデュランダルの表情を捉えた。その様子に、クルーゼは怪訝に思う。
 
《……まだ納得していないようだな?君は諦めの悪い男だ》
(私は負けるのが何よりも嫌いでね……。こうして死を目の前にしても、諦めきれないのだよ……)
《何故、其処まで拘る?》
(……昔、全てに負けたからさ。私は、それを認めたくなかった……)
《それから、君は勝ち続けた……?》
(そうだ、議長選にも勝ったし、ジブリールにも勝った。そして、それが世界を正しい方向に導く唯一の手段だと思った。だから、私はもう二度と負けるわけには行かなかったんだ……)
《だが、最後の最後で負けた……》
(……)
《これは、その君の思い上がりが招いた敗北だ。認めるべきではないのかね?》
(君の目的に比べればちっぽけな物だ。それに、私のしようとした事は君の為でもあったのだぞ……?)
《私を言い訳にするつもりか?確かに、君の考えたデスティニープランが世界のシステムになれば、二度と私やキラ=ヤマトの様な存在は生まれてこないだろう。しかしな、君の本音はやはり過去の負けを帳消しにしたかっただけだよ》

デュランダルの言い分を切り捨てるクルーゼ。そんなクルーゼに、デュランダルは苦笑するしかなかった。
 
(ふふふ…手厳しいな……。確かに君の言うとおり、私はあの時失ったものを、勝ち続けることで取り戻そうとしていたのかもしれない……)
《ククク…結果、君は取り戻す事はおろか、全てを失ったわけだがな……。……しかしギル、例えあなたの本音がそうであったとしても、あなたの心に救われた心もあるんです……》
 
口調が変わる。その変化に気付いたデュランダルは、思わずクルーゼの顔を確認した。
 
《私は、ギルの為に生き、ギルの為に死んだ…ですが、それは決して間違いではなかったと思っている……》
 
クルーゼがマスクを外すと、そこにはレイの顔があった。
 
《ギルは私に優しさを与えてくれた…それがあったから私は精一杯生きる事が出来たんです……ギルが居なかったら、僕は何の為に生きればよいか分からなかった……》
(レイ……)
 
夢か幻か分からないが、デュランダルは自分の体が動く事を知る。そうして、俯いて泣いているレイを優しく抱きしめた。
 
《ギ…ル……僕は生まれてきて良かったって思えたんだ…ギルのお陰で……》
(ありがとう、レイ……しかし、私は負けたのだ……。これは私にとって恥ずべき事だ……)
《どうしてそこまで勝ち負けに拘るの?》
 
今度は女性の声が聞こえた。
 
《それって、もしかして私のせいなのかしら?》
(いや……)
 
声が聞こえた方向に目を向けると、タリアが微笑んでいた。
 
《馬鹿ね……始めからそう言えば良かったのよ。それをあなたは無理して、私に気を遣って……》
 
話しながらタリアが近寄ってくる。
 
《子供は確かに欲しかったわ…勿論、今の私の子供も愛している……。けど、私はあなたも愛したのよ?》
(君の夢を壊したくなかったんだ……)
《ホント、馬鹿な人……あの時の事を負けたと勘違いしているんですもの……》
(しかし、あれは私の負けだった……。君との間に子供を設けられなかったのは、君との恋愛に負けたという事なんだよ……。私にとっては絶対に負けたくない戦いだった……)
《…あなたは何でも難しく考えてしまうのね。でも、今は自分の事、許せるんじゃない?》
(……そうかも知れない……)

不思議とデュランダルはそう思えた。今までデュランダルは、タリアを他の男に奪われた事で負けてしまった自分を恨んでいた。
しかし、今こうしてクルーゼやレイ、タリアと話をしていると、何故だか急に自分を許せるような気持ちになった。
デュランダルはそんな自分の気持ちの変化を不思議に思った。
 
(何故だか分からないが…今はとてもすっきりした気分だ……)
《ギル…それはきっとあなたが素直にあなた自身や僕達を見ていてくれるからだ》
《そうよ、蟠りなく接すれば、人は分かり合えるのだから……》
 
二人がデュランダルに手を伸ばす。
 
《《だから、行きましょう》》
(ああ……)
 
デュランダルは微笑んで差し伸べられた手を握る。
 
……柱が倒れ、崩壊を続けるメサイヤのコントロールルーム。最早崩れ落ちるのも時間の問題であった。
そんな中、中央の議長席の前で、折り重なるように倒れている二人の表情は、無表情ながらも微笑んでいるように見えた。
やがて、天井の瓦礫が降り注ぎ、二人の姿は見えなくなっていった……