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Zion-Seed_ガルマ_第02話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 18:09:01

「さて、次は北アフリカのZAFTか。目だった動きは無いが、最近小規模な攻撃が頻発しているな。
あちらも、こちらとの大規模な会戦は避けるつもりではあるようだが……解せんな」
「それについては、挑発の意図は無いと見てよろしいかと」
プラントにとっても、まず叩くべきは連合である。
感情的な反発から開戦に至ったものの、プラントの立場はジオン公国に近い。
また、経済的に自立しているジオン公国が、ある程度妥協して連合と手打ちを行えるのとは対照的に、
連合の経済植民地から脱却するためには、連合を完膚無きまでに討っておかなければならないのだ。
中途半端な勝利では、条件無しでの完全な独立を果たすことが不可能だからである。
「ガルマ様同様、アンドリュー・バルトフェルドはそれが見えている男です。
しかし、ガルマ様ほど彼の権限は大きくは無い。それが彼の不幸でしょう。
彼はラウ・ル・クルーゼとは違い、プラントの中枢からは疎まれておりますからな」
「よせ、そう人を持ち上げるものではない。だが、それならばここ最近のZAFTの動きに説明はつくな」
ガルマやマ・クベには信じられないことだが、プラント上層部は連合とジオン相手の二正面作戦を
勝利するつもりでいるとしか思えないのである。
おそらく、バルトフェルドも後ろから突付かれ、形ばかりの攻撃を仕掛けている、といった
ところなのだろう。とは言え、砂漠の虎の二つ名を持つバルトフェルドの攻撃による被害は、
決して無視できるものではなかった。
「バクゥ相手に奇襲されては、グフでも厳しいからな。とはいえ、ルッグンやフリッパーで
戦線全体をカバーするというわけにも行くまい」
正面から戦えば、ジオンの混成部隊とてザフトに劣るものではない。
バクゥは確かに陸の王者だが、濃密な空爆に耐えられるわけではない。
ドップとルッグン、そしてザクの乗ったドダイによってディンを駆逐し、
その後遠距離からの砲撃で足止めされたバクゥをドダイやガウ攻撃空母で破壊する、という
戦闘教義は、実際に勝利を収めていた。虎が正面からの戦闘を回避する理由は、ここにもあった。
「ここは干戈を交えずして、相手に勝つことが上策でしょうな」
「ふむ。何か策があるようだな」
ガルマは、マ・クベを信頼している。彼の忠誠が自分ではなく、その先のキシリアに向けられた
ものであることは十分承知しているが、彼の忠告や提案はどれも傾聴に値した。
己と全く異なる思考法をする、有能な人物は貴重な存在でなのである。
「彼らの補給を切り崩すのです。カーペンタリアは北アフリカからあまりにも遠い。
彼らはアフリカ連合を通して補給を受けていると見て間違いありますまい」
ならば、アフリカ連合を味方につけ、逆にサボタージュさせれば良い。
そうすれば、さしもの砂漠の虎も音を上げることになるだろう。それがマ・クベの案だった。
「なるほど、面白いな。早速実行してくれ。すでにアフリカ連合とパイプを作っているのだろう?」
「ご存知だったのですか」
ガルマの答えにマ・クベは驚いた。
自分の行動は腹心のウラガン以外には知られていないと思っていたからである。
「私も兄上だけでなく、姉上から学ぶこともある。問題が無いから放置した、それでは不十分かな?」
「いえ…敬服いたしました」
本心からの台詞である。虎という名将との戦いが、ガルマを成長させたのであろうか。
キシリア、ドズルという相反する2人の将が、彼の将来を嘱望する理由を垣間見たマ・クベであった。
「それでは、すぐに工作を始めることに致します。吉報をお待ちください」
「少し待ってくれ。さっきの提案に加えて、もう一つ策がある。骨を折ってもらえないだろうか」
執務室から退出しようとするところを呼び止め、指示を与える。
この指示が後に与える小さな、だが重要な影響について、まだ誰も知ることは無かった。


マ・クベに指示を出した後も、ガルマの仕事は終わらない。
運ばれる書類に目を通し、指示を与え、説明を求める。軍隊とは巨大な官僚機構である。
無論、最終決裁権者のガルマまで上がってくる案件は限られたものではあるが、
逆に言えばそれは全て今後を左右するものばかりである。
「ヒルドルブ……ほう、これはいい。バクゥよりも速いのか」
試作モビルタンク、ヒルドルブ。最高走行速度110km、最大射程32kmの30サンチ砲を備えた
巨大戦車である。地球降下作戦前にザクとのコンペに敗れたが、プラントの参戦に伴う情勢の変化から
再度性能試験が――地球で――行われることになった兵器であり、
ZAFTのザウート同様可変機構を持ち(こちらは戦車から半MS形体への変形だが)、
ザクやグフの装備も同時に使用できることも強みであった。
「これがあれば、あの大敗も無かったかもしれないな」
砂漠の虎に挑み、返り討ちにあった記憶が脳裏に蘇る。
積極的に戦いを挑む気は無いが、次に戦う時は負けはしない。
ガルマは知らず拳を握り、決意を新たにした。

「さて、これで今日の予定も終わりか。ようやく一息つけるな」
仕事が終われば、司令官の顔から、少し疲れが目立つものの、年相応の顔に戻る。
彼は地球方面軍の司令官ではあるが、同時に弱冠20歳の青年にすぎない。
だが、最上位者であるガルマには私的な話をする相手すらいないのだ。
そこからくる重圧は、並みのものではなかった。
「せめて、シャアがいてくれればな」
ため息とともに、今は宇宙にいるだろう親友を思い浮かべた。
ただ一人、ザビ家の御曹司であるガルマと対等に付き合ってくれたシャアがいれば、
公私共に頼りになることには疑いは無かった。
しかし、「話し相手が欲しい」といった理由で派遣を要請することが出来るはずも無い。
「話し相手か……イセリナはどうしているだろう」
イセリナ・エッシェンバッハは大西洋連合の大都市、ニューヤーク市長の娘であり、
数年前にオーブで開かれたパーティーで出会って以来、ガルマとは恋中であった。
地球とジオン公国は遠いため、お互い家族に隠れて、
ビデオメールのやり取りを交わす程度の間柄ではあったが……
(もっとも、キシリアはそのことを知っていて、逆に便宜を図っていたのであるが)
戦争が終われば、また会える。だが戦争終結のためには連合の中核、大西洋連合を落とす必要がある。
身勝手な考えとは自覚しているが、彼女がいるニューヤークを火の海にすることはしたくなかった。
「そういえば、あの少女は元気だろうか」
カガリ・ユラ・アスハ。彼女のおせっかいな空回りが無ければ、
自分はイセリナと恋仲どころか、話しかけることすら出来なかったのではないか。
戦火と関わりが無くとも、コロニー落としとニュートロンジャマー投下は
オーブにも様々な影響を与えているだろう。せめて息災でいるといいが……
そう思っている相手が、まさか自分のすぐ近くにいるとは、ガルマの考えの及ばないところであった。