Top > Zion-Seed_ガルvsバル_第02話
HTML convert time to 0.005 sec.


Zion-Seed_ガルvsバル_第02話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 18:09:52

 バーニアを全開にして正面のディンに突撃する。ディンは慌てた風も無く機体を右へ滑らせると、余裕を持ってその突進をかわした…
…つもりだった。
 ガルマは左のバーニアのみを全力でふかし、回転しながらもディンを正面に捉え続けた。果たして放たれた機銃は過たずディンを蜂の
巣にする。体勢を立て直して急上昇すると、ループを描いて頭上から急降下しながら1小隊に銃弾の雨を降らせた。素早く散開したディ
ンだったが、逃げ遅れた1機が翼を砕かれて墜落する。動揺したディンに、今度は急上昇しながら真下からの攻撃を加え、破壊する。わ
ずか1分で、3機のディンが撃墜された。
 バルトフェルドは、その戦いから目が離せなかった。
「まいったね……まさか彼が、ジオン・ズム・ダイクンが主張した“ニュータイプ”ってやつなのかな?」
「“ニュータイプ”?」
 怪訝そうな顔をして尋ねるダコスタに、バルトフェルドは冷や汗を拭いながら、
「冗談だよ。冗談でも言わなきゃやってられないさ。あんな無茶な戦闘機で、ディンがなすすべも無いんだからねえ」
おどけた風に答えたものの、その顔に笑みは無かった。
「一旦引き上げだ、ダコスタ君。これまでの戦果でも、ジオンに与えた損害は充分すぎる。これ以上勝ち戦に泥を塗るべきじゃないよ」
 その間にも、ディンは次々にやられていく。すでにガルマを囲んでいた隊は壊滅し、今はガウの攻撃部隊がその猛攻にさらされていた。
「うおおおおおおおおっ!」
 今まさにガウを襲わんとしていたディンに狙いを定める。ディンは両手両足を撃ち抜かれバランスを崩しながらも、どうにか飛行して
撤退しようとする。しかし、ガルマはそれを許さなかった。最後の機銃弾が撃ち放たれ、ディンはコクピットを打ち抜かれて停止する。
それは、偶然にもガルマ機回収のため格納庫を開いていたガウの中に墜ちていった。
 すかさず消化剤がまかれ、ディンが回収される。続いて推進剤を使い切ったガルマも、そこへ無事着艦したのだった。


 ガルマの登場で持ち直したジオン空軍は、ディンを押し返すことに成功した。さらにレセップスから信号弾が上がり、バクゥら地上部
隊も撤退していく。しかし結果は、マゼラアタック大隊は壊滅、MSの損耗率も30%を越え、ドップ部隊もその大半が撃墜と、ジオン
の紛れも無い大敗であった。
 ガルマはガウに帰艦すると、緊張と疲労からバッタリと倒れた。マ・クベはそれを聞いて再び頭を抱えたが、粛々と撤退の指示を出し、
ガウをひと足早くカイロへと向かわせた。そして自身は地上のダブデに降り、地上部隊の後退の指揮をとることにした。
「さて、問題は誰をしんがりにするかだが……」
 後退の際、最後尾を任されるしんがりは、敵の追撃を抑える最も重要であり、また最も死亡率の高い部隊である。彼は、各中隊から損
傷の少ない部隊を集め、その中から選ぶことにした。

(やれやれ、厄介な役目を押し付けられたもんだね)
 シーマはひとりごちると、ブリーフィングルームを見渡した。
 早々に後退の判断を下したシーマ隊は、最も損傷の少ない小隊の一つだった。それゆえ、彼女は上司であるアサクラによって、いやお
う無くしんがり部隊に推挙されてしまったのだ。
 アサクラの目的はわかっている。部下の手柄を横取りして、自身の出世に利用するつもりだろう。開戦当初からシーマたちを最前線に
派遣し続け、自分は安全な場所でその手柄だけを得ていた男を思い出し、シーマは反吐が出る思いだった。
(もっとも、こいつらの方がマシかっていうと、どうなんだろうね?)
 シーマは冷めた目で、自分以外の3人の男を見た。ノイエン・ビッター、ランバ・ラル、デザート・ロンメル。いずれも地球方面軍にその
人あり、といわれる軍人だ。彼らは皆、自ら志願してこの任務に就いている(表向きには、シーマも志願と言うことになっている)。
「では、やはりゲリラ戦を仕掛けて時を稼ぐのが最良と言うことか」
 この4人の中では階級が最も上であるビッターが、自然、議長として場をまとめる。
「私も賛成です。真正面から仕掛けても勝ち目がない以上、本隊の盾となるよりは我々から仕掛けるべきかと」
ロンメルが賛成し、ラルは無言で首肯した。
「うむ。シーマ殿はどう思う?」
 最後に、ビッターがシーマに意見を求めた。3人の視線が、シーマに集中する。
「反対だね。あたしはあんたたちと違って、自殺願望はないんだよ」
「なんだと!? 貴様、それはどういうことだ! 我らはジオンの理想を実現する礎として、ガルマ様を助けるために……」
「それが自殺願望だってのさ。あたしは、ご立派な理念のために犬死にするつもりはさらさら無いんだよ」
 ロンメルが激昂し、シーマが挑発する。見かねて、ビッターが割って入った。
「やめんか! シーマ、理由を聞こう。ゲリラ戦では勝ち目がないということか?」
 ビッターの言葉に、シーマは自らの考えを語り始める。
「あの犬っころ(バクゥ)の性能は見ただろう? ザクで相手にならない以上、下手に仕掛けたところで、消耗するのはこっちの方さ。お
まけに機動力でも向こうが上だから、逃げられるとも思えないしね。だいたい、あのだだっ広い砂漠で、どこに隠れて戦おうってのさ」
「なるほど、確かに一理ある」
 今までゲリラ戦を主張していたラルがシーマの意見に同調した。これにはビッターもロンメルも驚いたが、ラルは構わず続ける。
「シーマの危惧は、わしも考えてはいた。それを補う策も無論用意してある。だが、“虎”相手では同じ手は何度も通用すまい。やつが
撤退するまで、果たしてそれが持つかはわからん」
 ラルは一同を見渡すと、不敵な顔で言った。
「ならば、最初の1戦で決着をつけるというのはどうだ?」


「シーマ」
 ブリーフィングを終え、作戦の準備にかかろうとしたシーマは、ラルに呼び止められた。
「礼を言うぞ。お前のおかげで、勝機が見えたわ」
 意外なラルの言葉に、シーマは焦ったように答える。
「やめておくれよ、こそばゆい。あたしは、自分が死にたくなかっただけさ」
「そういう視点も、戦場では必要なのだ。お前のような現実的な見方のできるものがな」
 そう語るラルを見て、シーマはふと、彼が何故この任務に志願したのか訊いてみたくなった。
「あんたは、なぜ志願したんだい? 正直、こんな任務で生き残れる可能性なんてほとんどないだろう?」
 するとラルは、真顔のまま、
「わしの出世は、部下たちの生活の安定に繋がる」
と、言ってのけた。
「は、ははははは! いいね、あんた。ジオンの理想うんたら言い出すヤツよりずっといい」
 過酷な戦場で、いつのまにか生き残ることが全てになったシーマとは似て非なる、思いもよらない理由だった。しかしそれゆえ、ラン
バ・ラルという漢が、その俗物的でありながら温かい「戦う理由」が、彼女にはひどくまぶしかった。
(私の上官も、あんたみたいな男だったらね……)
 シーマはひときしり笑うと、真面目な顔になって手を差し出した。
「気に入ったよ。あんたの大博打、あたしも一口のらせてもらおうじゃないか。この作戦、絶対に生き残るよ」
「うむ。だが、重要なのは、作戦を成功させられるかどうかだ」
 しっかりと釘をさすラルの職業軍人ぶりに苦笑しながら、しかしシーマは固くその手を握った。

 ジオン後退の報を聞き、バルトフェルドはすぐさま作戦会議を開いた。
「追撃するんですか!? しかし、我が方の損害も甚大です。ザウートは壊滅しましたし、ディンの数も半分近く減っています」
「ザウートなんて飾りだよ、ダコスタ君。偉い人たちはそれがわかっちゃいない」
 鼻で笑いながら、平然と上層部批判をすると、バルトフェルドは続ける。
「バクゥはほぼ無傷だ。そしてバクゥがあれば、我々は砂漠では無敵だ。違うかね?」
 自信に満ち溢れた言葉に、その場に居た者が次々とうなずく。
「しかし、またガルマ・ザビが出てきたら……」
 ダコスタがさらに言い募る。
「その心配は無いよ。彼を収容したガウはすでに離脱している、今から襲うのは足の遅い地上部隊だ」
 バルトフェルドは自身の戦略を説明する。
「まずは敵の数の優位を崩す。そして、地球方面軍をアフリカに釘付けにするんだ。そのあいだに味方が他の拠点を押さえてくれる」
 そしてニヤリと笑うと、言った。
「ジオンのヤツラに教えてやろうじゃないか。“砂漠の虎”の恐ろしさをね」


 翌朝、負傷者と損傷した機体をバナディーヤへ下がらせると、バルトフェルドは追撃を開始した。
「隊長! レーダーに異常発生。おそらくミノフスキー粒子です」
「来たな」
 バルトフェルドはバクゥを出撃させると、先行させた。まもなく、敵MS発見の報告が上がる。
「ザクが2小隊ほど、展開しているようです。敵本隊の姿は見えません」
「待ち伏せ……いや、足止めか。本隊を逃がすために時間を稼ごうという腹か。健気だねぇ」
 バルトフェルドは決して敵を軽んじてはいなかった。ジオン地上部隊の名だたるエースたちの情報も得ていたし、伏兵や罠の可能性も
充分に承知していた。 
「良し、攻撃を開始しろ。ただし、罠の可能性もある。地雷があるかも知れんから、正面からは行かずに回り込んで挟み撃ちにしたまえ」
 だから、並大抵の相手なら、小細工ごと踏み潰してザフトは勝っていたはずだ。
「さあ諸君、戦争をしにいこうか」
 彼の敗因は、唯ひとつ。敵が、ジオンの誇るゲリラ戦のプロフェッショナルだと知らなかったことである。

 正面を無視して、大きく迂回しながら展開したザフトの姿を見て、ロンメルは皮肉気に笑った。
「さすがに真正面から正々堂々来るほど馬鹿ではないか。だが……」
 ニヤリと笑って、手に持ったスイッチを押し込む。
「我々も、貴様らとまともに戦うつもりは無い」
 次の瞬間、砂地に埋設された地雷がいっせいに爆発した。

「地雷!?」
 目の前で起こった爆発にダコスタが目を見張った。
「落ち着け、ダコスタ君! レセップスを停止されろ! 爆心地は!?」
 動揺する副官を叱咤し、バルトフェルドが矢継ぎ早に指示を出す。
「艦正面、及び敵部隊の周囲です。バクゥの展開していた地帯ではありません」
「被害なし……? 暴発か?」
 敵の意図を計りかねて怪訝な声を出すダコスタと対照的に、バルトフェルドのそれには焦りが生じていた。
「しまった……! 目くらましか!」
 爆発で巻き上げられた砂が視界をさえぎっていた。ミノフスキー粒子の効果で電波が、砂漠の熱で熱反応が封じられている上、信号弾
や光信号による通信も封じられたことになる。
「ダコスタ君、ここは任せる! 全周囲を警戒して、いつでも緊急発進できるよう備えておいてくれ!」
「待ってください、隊長はどこへ!?」
「通信が出来ないなら、直接向こうに行って指揮を取るしかあるまい? バクゥで出る!」
 それだけを叫んで、バルトフェルドはブリッジを飛び出した。しかしこのとき、すでに先行したバクゥ部隊は熱砂の蜉蝣の恐怖を味あわされてていたのである。