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Zion-Seed_ガルvsバル_第04話

Last-modified: 2008-06-05 (木) 20:23:14

  ユニウス・セブンを落とした男たち ~ガトーvsサトー~

 その宙域は、真新しいデブリと、生々しい爪あとをさらす残骸にあふれていた。
「ひどいものですね……」
 パイロットの1人が、カメラにぶつかってきた、焼け焦げたぬいぐるみを見て、思わず目を背けた。
「この宙域(うみ)は泣いているのでしょうか……我々に何かを訴えたくて」
「迎えてくれているのだ。私には、それが聞こえる」
 そう言い切った隊長機は、ポイントを確認すると、部下たちに指示を出した。
「さあ、作業を始めるぞ」

 C.E.70年2月22日、ジオンとプラントのトップ会談において、ギレンはプラント側に対し核攻撃をうけた
ユニウスセブンを譲渡するよう要求した。使い道のないコロニーをどうするか聞いてもジオン側は
ユニウスセブンを渡せと言うだけであった。

 この時、プラント評議会議長であるシーゲル・クラインもギレンに全幅の信頼をよせていた。
その為あっさりとユニウスセブンを引き渡してしまう。

 しかし、プラント市民の信頼は最悪の形で裏切られてしまうのだった。

 2月28日。その日、偵察に出ていたザフト艦が、ありえないものを発見した。ジオンに譲渡されたはずの
ユニウス・セブンである。
「馬鹿な! ユニウス・セブンはサイド3へ運ばれたのではなかったのか!?」
 ジオンの艦隊に守られ、核パルスエンジンによって進むユニウス・セブンの行き先は、明らかにジオンの方向
ではない。いや、それどころか、その向かう先にあるのは紛れも無く――
「進路予測、出ました……そ、そんな……予測進路は、ち、地球です!」
「なんだとぉ!?」
 オペレーターの報告に、にわかにブリッジが騒がしくなる。
「どういうことだ?」
「まさか……」
「地球に……ユニウス・セブンを」
「艦長!」
 全員の視線が艦長に集中する。彼は、ことの重大さを瞬時に理解して顔をしかめた。そして、すぐさま行動を開始した。
「全艦に通達! これより全速でボアズに帰還する。一刻も早くこの事態をプラントに伝えるのだ!」
「なっ……この場を放棄するというのですか!?」
 声を上げる通信士に、艦長はその男がユニウス・セブンで妹を失ったことを思い出した。
「落ち着け。気持ちはわかるが、ここで我々だけで行動したところで、ユニウス・セブンを止めるどころか、
撃沈されるのがオチだ。出来るだけ早急に、プラントから艦隊を派遣してもらわなければ対抗できん!」
「しかし……しかしっ!」
 艦長の言葉に、歯を食いしばりながらも、男は黙った。
 本当はすぐにでも飛び出し、妹の墓標を荒らす者たちに報いを与えたい。しかし、彼にはそのすべがなかった。

 だが、そのすべを持つ男もまた、存在したのである。

 アナベル・ガトーの小隊は、ユニウス・セブンの最後尾を護衛していた。
 その位置からは、かつての平穏な農業コロニーの跡を一望することができ、同時に、その無惨な爪あともまた、
まざまざと見せつけられるようだった。
「要塞ですらない、民間人の住むコロニーをこのように無惨に破壊するとは……」
 不快感をあらわにするガトー。しかし彼は、ガルマの提言が無ければ、ギレンがそれを毒ガスで行うところであった
ことも、事前に核攻撃の情報を得ていながら、プラント攻略の大儀を得るために静観したことも知らない。
 彼だけではない。この作戦に参加しているジオン兵のほぼ全てが、ジオンの正義を信じているのだ。

『諸君! 連合の暴挙に対し、今こそ、その報いを与えるときが来た!
我らと、プラントと、そして血のバレンタインの犠牲者たちの怒りが、
今まさに、その象徴たるこの、ユニウス・セブンによって下されるのだ!
これは愚劣なる地球市民に対する裁きの鉄槌である。
神の放ったメギドの火に、必ずや彼らは屈するであろう!!』

 出撃前に聞いたギレンの演説が蘇る。
「自らが焼き尽くした大地によって、自らが焼かれる……まさに因果応報とは思わんか、カリウス」
「まったくです」
 そのとき、2機に並ぶザクがあった。
「ガトー」
「ケリィか?」
「接近する機影がある」
 見ると、ジンが1機、高速でこちらへ接近してくる。背後には戦艦クラスの熱量が感知された。
「ザフトですね。支援に来たのでしょうか?」
「いや、そのような報告は聞いていない。規模を見る限り、偵察隊のようだが」
その機体は見る見るうちに近づいてくると、突然ガトーたちに重突撃機銃を撃ちかけた。
「なに!?」

「艦長、サトー隊長が出撃しました!」
「なんだと!?」
 サトーは、この隊のMS隊長であり、やはり血のバレンタインで妻と娘を失っていた。
そのためか、ナチュラルへの憎しみは人一倍強く、同時に、ユニウス・セブンへの執着も強かった。
「なんということだ……呼び戻せるか」
「だめです、ミノフスキー粒子の濃いエリアに入ったのか、通信が繋がりません」
「どうしますか?」
 再び艦長に視線が集まる。
「やむをえん。長距離偵察用のジンを用意しろ。連れ帰れるようなら、それでプラントまで引っ張って来い。
我々は、全速でボアズへ向かう」

 ガトーたちは、動揺はするものの、全員何とか機銃をかわす。ジンはそのまま、重斬刀を抜いて切りかかってきた。
「むぅ!」
 間一髪でガトーがヒートホークでそれを受ける。するとジンは、そのままザクの腕を掴んで回線を繋いできた。
「貴様ら! このユニウス・セブンを一体どうするつもりだ!」
 まさに鬼の形相で問い詰める男に、ガトーは面食らいながらも応対する。
「何を今更。我々はこのユニウス・セブンで、愚劣なる地球連合に鉄槌を下すのだ」
「やはりか……やはりこのユニウス・セブンを、地球へ落とすつもりかぁ!」
 ガトーの言葉に、男はますます激昂して切りかかってきた。
「何をする! これは、ギレン総帥とシーゲル議長の間で同意した作戦のはずだ! ザフトが何故妨害する」
「ふざけるな! 議長が、いや、ザラ国防長官が、そのようなこと認めるはずが無い!」
 サトーは、ガトーの言葉を虚言と決め付けた。それは当然で、ザフトはこの作戦について何も聞かされていなかったし、
事実、シーゲルが同意したのはユニウス・セブンの譲渡だけなのだから。
「我が妻と娘の眠る地を! 兵器に貶めて、あの薄汚れたナチュラルの住処へ落とすなどと!」
 サトーは、鍔迫り合いのまま零距離から機銃を撃ってくる。ガトーはパワーに任せて重斬刀ごとジンを離すと、
その隙間にシールドを滑り込ませて弾丸を防いだ。
 ならば、とサトーは重斬刀を振り下ろすが、ガトーはそれよりも早くシールドでタックルを繰り出す。
スパイク部分ではないため威力は落ちたものの、それでもジンを吹き飛ばすことには成功した。

「ガトー!」
「大丈夫だ、ケリィ。私が相手をする」
 返事をしつつも、ガトーは困惑していた。相手から感じる怒りは本物だ。破壊されたコロニーにここまで執着すると言う
のも彼にはなじみの浅いものだったが、それ以上に、少なくとも彼自身はこの作戦について知らされていないということが気にかかった。
 そもそもが、プラントのコロニーを地球に落とすと言うのに、ザフトが一切手を貸さないと言うこと事態が不自然だ。
(まさか、本当に……)
 ガトーの心に、ほんの僅か、ギレンへの疑惑が浮かぶ。それは決定的な隙となった。
「ガトー!」
 ケリィの声にわれに返ったときには、もう、ザクの右腕が重斬刀に切り裂かれていた。
「ちぃっ、私としたことが!」
 すばやく左腕で殴りつけて距離をとり、右手から離れたヒートホークを掴む。迷いを振り切るためにも、
ガトーはサトーへ説得を試みる。
「落ち着け! 君の気持ちはわからんでもない。しかし、この作戦が成功すれば、連合は壊滅的な打撃をこうむる。
いわば、ユニウス・セブン自身が、自らの復讐を遂げるといってもいい。君の家族も、恨みを晴らす機会を得て喜んでいるとは
思えんか?」
「勝手に決めるな、この墓荒らしどもがぁ!」
 サトーも、これがパトリック・ザラの立てた作戦なら、納得は出来たかもしれない。
 あるいは、戦争が中途半端に終わり、プラント市民が血のバレンタインの記憶を忘れたかのようにのうのうと暮らしている中で
狂気に支配され、少数で地球のナチュラルを殲滅できるだけの作戦としてそれしかなければ、彼はそれを実行するだろう。
 しかし、ジオンという所詮よそ者が、わかった様な顔をして自分たちの聖地を砕こうとしているのは、
彼にとって許せることではなかった。

 サトーの猛攻は続いていた。
 機体の性能も、実戦のキャリアも、ガトーの方が上だ。しかし、ガトーの心にある迷いが、サトーの気迫が、それを埋めていた。
(間違っていると言うのか……我々が……)
「ガトー、何をしている!」
 たまらず、ケリィが前に出てジンをけん制する。
「ケリィ、私は……」
「ガトー。君が何を迷っているのかは聞かない。だが、これだけは覚えておいてくれ。
戦いに状況など選べはしない、戦いは、生か死かだ。男が戦いを始めた以上、決着はどちらかの死でしかつくことはない。
そして君は、ここで死ぬわけにはいかないだろう」
 そうだ。ジオンの理想を実現するためにも、私はまだ戦わなければならない。なのに、肝心のギレン総帥を疑うような
まねをするなど、自分は何を考えていたのか。
「そのとおりだ。私はまだ死ぬわけにはいかない……すまなかった、ケリィ」
 ガトーは操縦桿を握りなおすと、ジンに向かって機体を走らせた。
「来るか!」
「もはや語るまい……勝負!」
 ヒートホーク一閃、重斬刀を破壊すると、そのままタックルを喰らわせる。先ほどと違い、充分にスピードの乗った体当たりだ。
サトーは衝撃で意識を失い、ジンもろとも暗黒の宇宙へと投げ出された。

「大丈夫か、ガトー」
「ああ、すまん、世話をかけた」
「気にするな」
 そこへ、カリウスのザクが近づいてきた。
「大尉、あれを」
 見ると、先ほどのジンを、偵察型のジンが掴み、プラントのほうへ飛び立つところだった。
「かまわん、ほうっておけ。ケリィ、カリウス、すまんがこの戦闘、報告はせんでくれないか」
 それは、彼なりの情けだったかもしれない。
 間違いなく、プラントはこの作戦について噛み付いてくるだろう。そのとき、ジオンに有利になるであろう事実を、
彼は己が胸の内に秘めた。
(我々は、知らぬとはいえ彼らの聖域に土足で踏み込んでしまったのだ。その責めは甘んじて受けるべきだろう)
「プラントとも、開戦することになるかもしれんな」
 ぼそりと、ガトーは呟いた。そのときは、ジオンを守るため、自分も戦うだけだ。自らの故郷を守ることに、迷いは無い。
「だが今は、この作戦を成功させることが先だ」

 この後、プラントはジオンに宣戦布告、前線基地であるソロモンに何度となく攻撃を仕掛けてくる。
 その最前線には常に、鬼神のごとき活躍を見せ、“ソロモンの悪夢”の名で恐れられることになるアナベル・ガトーの姿があった。

                                                         END

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