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Zion-Seed_515_第01話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 18:10:49

 C.E.70年、1月3日、7時20分。

 ジオン公国は一年以上前から予定されていたこの日に、国際連合理事国に対して、独立戦争の宣戦布告を行った。
 後に「三秒間の布告」と呼ばれるこの宣戦の布告から文字通り三秒後に、ジオン艦艇は地球周回軌道をめぐる
国連平和維持宇宙軍パトロール艦隊に奇襲攻撃を敢行する。
 周到に配備されていたジオン軍宇宙艦艇は鎧袖一触でパトロール艦隊を撃破する事に成功。その後、周回軌道で
謎の警戒態勢をとり始める。

 一方、虎の子のMSを中心としたジオンの主力機動艦隊は、L2に駐留していた国連平和維持宇宙軍第一艦隊に奇襲攻撃を仕掛け、
これを撃破すると艦隊を二分し、ドズル・ザビ中将が指揮するA集団はL4に進路を取り、キシリア・ザビ少将の指揮する
B集団は月へと進路を取った。

 当初、ジオン公国の宣戦布告を受けてなお楽観視していた月面エンデュミオン基地の国連宇宙軍総司令部であったが、
第一艦隊からの通信途絶をもってようやく事態の深刻さを飲み込み始めた。総司令部が月面各基地に警戒態勢を布くよう指示を出すが、
時既に遅くキシリア少将のB集団がミノフスキー粒子を散布し、月面の通信網を遮断した後であった。

 ミノフスキー効果により、目と耳を失った月面の各基地は迎撃も儘ならぬまま各個撃破され、第五艦隊の駐留している
プトレマイオス基地もまともな指揮が取れず、一部の艦艇、MA隊の善戦も空しくバロム大佐の率いる分艦隊に殲滅されている。

 この直後にB集団主力艦隊がエンデュミオン基地を襲来、ぎりぎりで防衛ラインに上がったメビウス、メビウス・ゼロが
迎撃に向かうが、濃密なミノフスキー粒子によって交信が妨害され満足な連携ももれぬまま、ジオンのMS隊に蹂躙される事になった。
 この一方的な戦いを見て、総司令部は即座に撤退を決意する。最悪の事態にはサイクロプスを暴走させ基地施設を破壊するはずであったが、
宣戦布告からわずか10時間で月面基地及び第五艦隊が全滅した事により、これを準備する暇もなく第三艦隊と共にあわただしく撤退する。

 L1へと逃走する第三艦隊を追撃したジオンB集団であったが、およそ半数を撃破した時点で総司令部に見捨てられた
エンデュミオン基地が降伏したためその処理と、L1の第四艦隊との交戦を嫌い反転、第三艦隊は全滅を免れ世界樹にたどり着いた。

 L4に向かったドズル中将のA集団はL4駐留艦隊である第二艦隊と交戦、通信障害により混乱に陥る国連軍を第一艦隊と同じように
蹂躙、殲滅すると廃棄コロニー・メンデルにその進路を向けた。

 宣戦布告より40時間で、国連平和維持宇宙軍は月基地とL4、L2の艦隊駐留基地、そして第一、第二、第五の三つの艦隊からなる
100隻以上の艦艇を喪失。またMAの消耗も激しく一連の戦いで1000機近いメビウスが戦闘に参加したが、その中で帰還できたのは
その一割にも満たなかった。
 対するジオンは小破、中破判定の損傷艦はでたものの喪失艦はなく、この作戦につぎ込まれた900機のMSの損害は一割に満たない
81機、そのうちの戦死者はわずか16名、後に月・L4奇襲攻撃と呼ばれるこの戦いは戦史でもまれな一方的な戦いとなった。

 これがミノフスキー粒子の効果とMSの縦横にわたる活躍によってもたらされた事をジオン軍の指揮官、兵卒はよく理解しており、
公国首脳部の先見の明を称えると共に更なる戦果の拡大に邁進していく事になる。

 国連軍宇宙艦艇の約三分の一を喪失せしめ、月を実効支配したジオンは、国力の劣る自国に勝利をもたらす空前絶後の計画を実行に移す。
 後に言われる『コロニー落し』である。

 1月4日、21時30分。MS、作業ポッド等により補強されたL4の廃棄コロニー『メンデル』は、増設された核パルスエンジンに灯をともされ減速。
地球の重力に引かれ、自由落下に入った。

「愚劣なる地球市民に対する、これは裁きの鉄槌である。神の放ったメギドの火に、必ずや彼らは屈するであろう!」

 ギレン・ザビは鼻息も荒く、声高に宣言した。

 ジオンが選んだコロニー落下地点は、北米大陸の大西洋連邦首都、ワシントンDC。
 この作戦はプラント理事国を、かつて植民地を失いその力を弱めた大英帝国になぞらえ、ブリティッシュ作戦と呼称した。
 ワシントンDCが破壊されれば、国連の実質上の盟主である大西洋連邦は物理的にも精神的にも大きな打撃を受け、ジオンに有利な終戦協定を
受け入れるだろう……と公国首脳部は考えていた。確かに成功していればそうなったであろう。しかしさすがに今回は、国連軍の対応も早かった。

 1月5日、12時。L1、国連軍宇宙基地『世界樹』を発進した第四艦隊と第三艦隊を中心とする残存艦隊が、最初の攻撃を、
コロニーとそれを護衛するジオン艦隊に仕掛けた。
 この時の戦闘で、コロニーの降下目標がワシントンDCであると確信した国連軍、特に大西洋連邦所属軍人の焦燥は相当なもので、
アルテミスで訓練途中であったにもかかわらず、第八艦隊に迎撃用核ミサイルを搭載させ急行させている。

 この寄せ集めの艦隊を指揮したのは、第八艦隊司令のデュエイン・ハルバートン准将。合流前に戦死していた第四艦隊司令の後を引き継いで艦隊を再編、
迎撃艦隊を指揮する事になる。
 迎撃艦隊とジオンのコロニー守備艦隊との交戦は6日未明から8日にかけて幾度となく繰り返された。しかし補強されたコロニーは、
いかに核ミサイルとはいえ外壁を崩す程度で、いまだ原型をともっていた。

 1月8日、13時15分。国連艦隊は、まずはコロニーを守備するジオン艦隊を叩く作戦に出た。この戦いは本戦争開始後五日後にして初めて
起こった本格的な艦隊戦となった。
 この時の両軍の保有戦力は、ジオン軍54隻(グワジン級戦艦:2隻、チベ級重巡洋艦:7隻、ムサイ級巡洋艦:29隻、その他補助艦艇:16隻)
国連軍116隻(アガメムノン級戦闘母艦:7隻、ネルソン級戦艦:31隻、ドレイク級護衛艦:54隻、その他補助艦艇:24隻)で、
国連軍はジオン軍の倍以上の戦力を保有していたが、やはりこの戦闘の趨勢を決めたのはMSの働きであった。

 ジオン軍の保有MSは450機、国連軍の保有MA600機と数こそ劣っていたが、ミノフスキー粒子散布下におけるキルレシオは実に1:10、
メビウス隊のインターセプトを突破したジオンMS隊が次々を艦隊中央に突入した。
 次々と火球に包まれる自軍の艦艇を目の当たりにしたハルバートン准将は、コロニーの破壊を断念、撤退を決意した。

「あの巨人どもを、我が軍でも飼っておればな……」

 旗艦メネラオス艦橋でハルバートン准将は、苦々しげに、そうつぶやいたと言われている。
 もはや誰もが、ブリティッシュ作戦の成功を信じて疑わなかった。
 9日になると、国連艦隊からの攻撃も、また地上からの核ミサイル攻撃も途絶えた。
 地表に接近したコロニーをこれ以上攻撃しても、逆に分散した場合、逆に被害範囲が拡大すると考えたからだ。

 8日ごろからワシントンDCを中心に、北米東海岸から大量の市民が避難をはじめていたが、1月10日、2時15分、大統領専用機が
J・F・ケネディ空港を飛び立つのを皮切りに、東海岸各地から無数の輸送機が飛び立った。ついに大西洋連邦の撤収作戦が始まったのだ。
 コロニーの予定落下時刻は、9時5分前後とされていた。
 無論、全ての市民が脱出できたわけはなく、いまだ数千万人の市民が何らかの脱出手段を探していた。いかな大西洋連邦といえど数千万の市民を
すべて避難させられる手段もなく、一部の軍人が輸送機で市民を避難させる自己満足程度の行動を取ったのみで、数千万の市民はここ一世紀以上
世界の中心であった北米東海岸と運命を共にするものと思われていた。

 そして、8時27分、コロニーは大気圏に突入、このまま行けば40分後にはワシントンDCに落着するはずであった。

 だが、ここで予想外の事態が発生する。

 8時35分、宇宙空間から今までの戦闘で劣化していたコロニーは、ウラル上空で四散、崩壊してしまったのだ。
 そしてその前半部はそのまま太平洋ハワイ沖に落下。残る各部も、それぞれ四散し、北米北部、シベリアなどの各地に落下した。
 すんでのところで救われたワシントンDCであったが、ハワイと太平洋沿岸部の被害はすさまじかった。
 ハワイ諸島は文字通り水没し、大西洋連邦太平洋艦隊は海の藻屑と消えた。また、衝撃波によって生じた津波、高波が太平洋沿岸部に襲い掛かった。
台風以上の暴風雨は1週間以上、地球規模の気象異変は以後6年にわたって続く事になる。
 死者・行方不明者は1000万人近くまで達し、地球の自転速度すら、速められたのだ。

 かくして、両軍に多大な損失を与えたこの作戦は、ジオン軍の思惑を外れた形で幕を閉じた。

 特に護衛艦艇の多くを失ったジオン軍の損失は大きく、チベ級重巡洋艦1隻撃沈、3隻中破、ムサイ級巡洋艦2隻撃沈、3隻大破、4隻中破
という損害を受け、また、140機(戦死・行方不明者は59名)ものMSを失っている。

 もちろん、ここまでに150隻以上の艦艇を失い、1500機のMAとそのパイロットのほとんどを喪失した国連軍に比べるものではなかったが。