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Zion-Seed_515_第02話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 18:11:04

 先のコロニー落しにより、ようやく国連プラント理事国は、これが単なる武力闘争で無いことを認識した。

 一方、かねてから確固とした経済基盤を作り上げてきた、コペルニクス市を中心とする月の地球側の恒久都市郡は、
1月11日未明、中立を宣言。いかなる戦闘行為にも協力しない旨を、プラント理事国、ジオン両政府に通達。
 これらの都市郡は国連、ジオンにとっても必要な存在だったので、当初から攻撃目標にされる事もなく、中立宣言も両政府は承認している。

 同日、プラント評議会も中立を宣言、この戦争に対し静観を決める事になる。

 これはジオンにとって寝耳に水の事態であった。開戦前よりジオンはプラントに対し水面下で同盟の交渉を行っていたのだが、
開戦に至っても返答はなく、ようやくのプラントからの返答は同盟の締結ではなく、中立の宣言。
 
「ふん、プラントも存外に時流が読めぬとみえる。よりによって静観とはな……」
「ですが兄上、プラントが動かぬとなると……ブリティッシュ作戦の失敗が尾を引きますな」
「……世界樹を落とす、次は外さんよ」
「だが兄貴! それには将官連中も反対の奴が多い。それに我が軍もここ一連の作戦で消耗している」

 これらの動きに対し、ジオン軍は艦隊を再編。前回のブリティッシュ作戦で失敗したワシントンDC破壊を再び行うべく、
今度はL1の世界樹に狙いを定めた。
 この決定には、公国軍内部からもかなりの反対意見が出された。

「我らジオンが独立を果たすには、腐りきった国連の盟主たる大西洋連邦の威信を砕かねばならん。そしてそのくだらぬ威信の
象徴こそが北米東海岸、そしてワシントンDCなのだ。……わかるな? ドズル」
「それは、そうだが……」
「ドズル兄さん、現状ではこれ以上の一手はありません。もちろん、再編の時間はいただけるのでしょう、兄上?」
「ああ、作戦決行は1月15日。時間は……ドズル、お前に一任する」

 だが結局は、ギレン総帥の強い意向により決行が決まった。
 ブリティッシュ作戦の再開である。

 1月13日未明、L4の宇宙要塞へと改装中の『新星』改め『ソロモン』から、ドズル中将自らが指揮を取る第一連合艦隊が発進した。

 旗艦『ファルメル』以下、3つの艦隊から成るその連合艦隊は、ジオン軍の作戦行動可能な全戦闘用艦艇の8割に当たる73隻から構成されていた。
 その内訳はグワジン級戦艦:4隻、チベ級重巡洋艦:12隻、ムサイ級巡洋艦:30隻、その他補助艦艇:29隻。
 また、作戦に参加したMSは実に1500機。
 この事からも、いかにジオン軍部が今回の作戦に力を入れているかが伺えるだろう。

 その頃国連軍は、次の攻撃目標がL1、世界樹である事を察知していた。
 さすがに今度は国連も、手をこまねいて見ているだけはなかった。
 国連平和維持宇宙軍総司令官、ビラート中将の指揮により、直ちに集結可能な艦艇が世界樹に集められた。
 このときハルバートン准将は損傷艦を中心とした予備艦隊と共に、アルテミスで待機している。

 ジオンが行動を開始すると思われる15日までに、可能な限り艦隊を集結させる。数をもってジオンに当たる。
これが、今回ビラート中将のとった戦法である。

 単純な事ではあったが、実際、開戦初期の国連軍の損害は各個撃破された事によるところが多く、先のコロニー防衛戦では
ハルバートン准将の指揮の下、それなりの被害をジオン側にも与えている。
 2倍で駄目なら3倍。単純ながら最も有効な戦法であった。

 最終的に集結した艦艇数は、以下の通り。
 アガメムノン級戦闘母艦:12隻、ネルソン級戦艦:63隻、ドレイク級護衛艦:109隻、その他補助艦艇:52隻。
 総艦艇数236隻からなる大艦隊は、ジオン艦隊に比して、ざっと三倍以上の戦力である。

 これだけの艦艇を集めた国連軍にも不安要素は存在した。開戦からこれまでの戦闘で、大量のMAパイロットを消耗したことによる
艦艇護衛用のメビウス隊の不足である。この戦い用意できたMAはわずか300足らず。
 いささか物足りなくあるが、これらMAパイロットが一朝一夕に育成できるわけもなく、1月15日、9時、ビラート艦隊は
世界樹を発進した。

 後に、第一次世界樹戦役と呼ばれる、人類史上最大の艦隊戦は、双方意図せぬ遭遇戦から始まった。

 1月15日、20時55分。先発していたジオン軍の第二起動艦隊がビラート艦隊を補足するとほぼ同時に、ビラート艦隊でもこれを補足。

「諸君らの健闘に期待する!」

 このビラート中将の一声が、攻撃の合図となった。

 国連軍各艦が攻撃態勢に入る中、ジオン第二機動艦隊司令のコンスコン少将は連合艦隊本隊に連絡艇を送ると共に、
ミノフスキー粒子を戦闘濃度で散布、MS隊を敵MAへの迎撃にあてるため出撃させる。
 10倍以上のビラート艦隊を前に、一定の距離を保ちつつ遅延戦闘を行うコンスコン艦隊。
 これはコンスコン少将の指揮もさることながら、ビラート艦隊が急造の寄せ集めであり、緻密な艦隊運動を取れなかった事も
起因している。

 国連軍の大艦隊発見の報告を受けたドズル中将は、即座にコロニー落しの中断を決定。工作艦を後方に待機させつつ、
第二機動艦隊へ合流する為、艦隊を急行させる。

「この戦いで、理事国どもに引導を渡してやるわ!」

 このジオン随一の猛将に指揮された第一連合艦隊は、高い戦意と熱狂を持って戦場に突入する。
 22時17分。先行した200機から成るMS隊がビラート艦隊に強襲を仕掛ける。迎撃に出たメビウス隊を軽く一蹴すると、
艦隊に襲い掛かった。
 この先行部隊は、特にMS操縦に優れた熟練パイロットで構成されており、そのメンバーはブレニス・オグス少佐を隊長に、
シャア・アズナブル、ランバ・ラル、ジョニー・ライデン、シン・マツナガら後にジオンを代表するトップエース達である。

 これによりビラート艦隊の一部が混乱した状況下で、22時40分、ジオン第一連合艦隊が戦場に突入したのである。
 混乱から立ち直った艦艇が果敢に反撃するものの、戦局はすでに乱戦に移行しつつあり、そして乱戦下でこそMSはその真価を
発揮するのである。
 この戦いで、多くのパイロットが核バズーカ、および通常兵器で国連軍の艦艇を破壊。大いに勲功を立てている。
 中にはたった一機のMSで、5隻の戦艦を沈めたシャア・アズナブル中尉のような猛者もいた。

 そのようなパイロットが他にも多数いたのだから、いかに3倍の戦力を持っていようと国連軍の旗色は悪かった。

「ここまでだな……」

 ビラート中将は乗艦する旗艦アキレウスに迫る、漆黒のMSが銃口を艦橋に向けるのを、どこか他人事のように感じながらつぶやいた。

 1月16日、3時11分。ビラート中将戦死。

 この時点で戦いの趨勢は、既に決していたといってよい。

 ミノフスキー粒子散布下の状態ではメビウスはMSの相手足りえず、国連艦隊御自慢の複合射撃管制システム役に立たず、
護衛戦闘機を失った状態で、盲目撃ちのまま、ジオンのMS隊に次々と撃沈されていった。
 国連艦隊は半数以上の艦艇を失い、このまま戦闘を継続すれば、全滅は免れなかった。

 ここで驚くべき働きをしたのが、戦艦ドゥーリットルに乗艦していたサザーラント大佐である。
 1月16日、4時10分。大佐は戦闘中域からの離脱を決意したが、ジオンの攻勢は未だ衰えず、その隙を見せなかった。
 そこでその隙を無理やり作り出す為に、大佐は艦隊を3分し、それぞれの方向(地球、L4、L5)に独自に撤退を開始させた。

 大佐自身は、ブルーコスモス系将兵で構成された最も少数の艦隊と共に、L4方面に真っ先に遁走。
 これは敵艦の数が少ない事を利した撤退作戦であるが、大佐自身を含めたブルーコスモス系将兵を脱出させる為、
残る半数以上の味方を囮にした撤退作戦でもあった。

 一方、ジオン側の司令官ドズル中将は、敵の目論見の半分を察知。よもや指揮官が真っ先に逃げ出すとは思わなかった為、
目標を最も多数の艦艇が逃走した地球方面に絞り、追撃を開始した。
 この追撃は、逃走する国連艦隊に自らを盾に味方を逃がそうとする指揮官も不在だった為、国連艦隊は簡単に戦闘能力を喪失し、
ジオンにL5方面に逃走した艦隊への追撃に、部隊を割く余裕さえ与えてしまう。

 自身が逃走する為、味方を犠牲にしたサザーラント大佐ではあったが、盟主の庇護があるため軍法会議はともかく、降格は免れぬ
状況であった。
 自身の出世にさほどの興味を持たぬ大佐ではあったが、これがブルーコスモスの軍内部における、影響力の低下につながる事だけは
懸念していた。

 だが、運命は大佐に味方していた。進行方向に偶然、ジオンの工作艦艇郡を発見したのである。
 ミノフスキー粒子の濃度が薄めであった事も幸いし、国連軍艦艇は護衛のムサイ級を無視して、最大射程で主砲を工作艦に叩き込むと、
一目散にL3・アルテミスへと逃走した。

 結果的にこの攻撃こそが、今回のジオンの作戦目的に最も打撃を与える一撃となった。
 ジオン艦隊は世界樹を制圧するものの、多くの工作艦、特に核パルスエンジンを喪失した為、コロニー落し自体は中止せざるを得なかったのである。

 撤退作戦を立てた指揮官が真っ先に逃走した為、士気の崩壊した国連艦隊の殆どが脱出に失敗した。
 国連艦隊は投入した戦力の90%以上を失い、脱出に成功しアルテミスにたどり着いた艦艇の数は17隻にしか過ぎなかった。

 この戦いにおける両軍の損害は、

 ジオン軍、グワジン級戦艦(4隻):1隻大破、チベ級重巡洋艦(12隻):2隻撃沈、1隻大破、2隻中破、
ムサイ級巡洋艦(30隻):4隻撃沈、5隻大破、4隻中破。

 国連軍、アガメムノン級戦闘母艦(12隻):10隻撃沈、2隻中破、ネルソン級戦艦(63隻):48隻撃沈、7隻大破、8隻中破、
ドレイク級護衛艦(109隻):92隻撃沈、15隻大破、2隻中破。

 結局この戦いは、当初の目的こそ果たせなかったものの、ジオン側の圧倒的勝利で幕を閉じた。

 後日、世界樹を視察で訪れたデギン公王と、ドズル中将との間にこのような会話があった。

「この破壊の跡は、戦艦のビームによるものか?」

 その問いに、中将はこう答えている。

「いえ、我が軍の、MSによるものです」

 と。

 このエピソードこそ戦場の主役が、艦船による長距離誘導兵器から、MSによる有視界下戦闘に移り変わった事を如実にあらわしていた。