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Zion-Seed_51_第二部第12話

Last-modified: 2008-09-01 (月) 19:29:03

「オーブ連合首長国の全国民に申し上げる。私はオーブ連合首長国前代表、ウズミ・ナラ・アスハの娘カガリ・
ユラ・アスハである!」

 ヤラファス島の国営放送局。そこで一人の少女が数多くのカメラのフラッシュ、そしてテレビカメラを向け
られて立っていた。

「わ、我が愛するオーブ国民諸君、我々は今重大な危機に瀕している。我が国が侵略の脅威に晒されている事
は周知の通りだ。だが私はその脅威を言っているのではない、脅威はむしろ国内にある。それは、国を私物と
して扱い、護るべきオーブ国民をないがしろにした私の父ウズミ・ナラ・アスハのことである」

 カガリの演説は、電波に乗り、TVに映し出されていた。繁華街にある巨大モニターからも、熱弁を振るう
金髪の少女の映像が溢れ出している。そこには誰もが足を止め、黒山の人だかりができていた。彼女の演説は
オーブに存在するほぼ全てのチャンネルで伝えられることになった。
 家庭のTVで、そしてモニターを通じて人々が見守る中、演説は滞りなく進んでいく。

「今オーブはテロ支援国家の汚名をかけられている。これは、連合の対テロ協力要請を蹴った父によって引き
起こされたものだ。オーブの理念は、国家間によって引き出される理念であり、テロリストに対するものでは
ない。にもかかわらず、ウズミはオーブの理念を捻じ曲げ、曲解し、今日の事態を招いたのだ。このままだと、
かけがえのない多くの民が戦火に焼かれてしまう。この責任の一端は、アスハ家の者であるこの私にも有ると
言わなければならない。だからこそ、私はここに立ち上がった!」

 カガリは緊張した面持ちで原稿を読んでいたが、最後にはカメラに向かうとオーブ国民に問いかけた。

「みんな! オーブの理念が本当は誰のための理念なのか、今一度よく考えて欲しい。そして私に力を与えて
欲しい。私カガリ・ユラ・アスハは、独裁者ウズミ・ナラ・アスハに対し宣戦を布告する!」

 クーデターを宣言した瞬間、一斉にフラッシュが焚かれる。

「では、今日の私の決起に賛同してくれた友人を紹介しよう」

 ここで画面が切り替わった。中継を見ていた国民は、画面に映る男に見覚えがなく、一体何者なのかと首を
傾げていた。だが、中継を見ていた軍人は、その男の登場に度肝を抜かれた。

「私はジオン地上攻撃軍総司令官ガルマ・ザビ中将である」
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――――第2部 第12話
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「まずこの様な形で諸君らに語り掛ける事になったのを謝罪したい」

 言いながら頭を下げるガルマ。

「オーブ国民諸君は私の登場に驚いているだろう。何せ地上攻撃軍の長がここにいるのだから、それは当然だ。
だが、勘違いしないでほしい。私は侵略の為にオーブに来たのではなく、カガリ・ユラ・アスハの友人として
ここに立っているのだ」

 そこはレセップスの艦橋であった。ガルマの横にはバルトフェルドが控えている。

「今日の事態を、私は第三者の立場から見させてもらった。テロに加担していないのに、テロ支援国家と指定
されるとは、実にひどい話だ。だが一方で、テロとの戦いを妨害する行動も疑問だった。テロリストに優位な
行動を何故取るのだろうと……。一時は、オーブとテロリストとの関係を疑ったものだ」

 ガルマの言葉に、映像を見ている国民が息を呑む。

「しかし、カガリ嬢との会談で、オーブがその様な国ではない事を確信した。それと同時に、この国がアスハ
家の独裁である事もだ。国政の長である代表首長はオーブ五大氏族からのみ選ばれるが、今ではアスハ家の力
だけが突出して、アスハ家から代表が選ばれる事が通例となっている。上院下院の議会も存在はしているが、
既に形骸化している。これは最早、アスハ家の独裁体制と言っていいだろう」

 演説を聞いていたバルトフェルドは、その演説内容に興味を示した。何故ならば、文中にある「アスハ」を
「ザビ」に変えても意味が通じるからだ。そう、ガルマはアスハ家の政治体制を批判しながら、ザビ家の政治
体制をも批判しているのだ。そしてその事にガルマ自身は気付いていない。

「この歪んだ政治体制に疑問を持ったのがカガリ嬢である。彼女はそんなオーブに危機感を抱いたのだ。特定
の人物に権力が集中していては、間違いを正す事ができなくなるからだ。事実、オーブの置かれた現状がそれ
である。ウズミ氏の失策を修正できずに破滅の道へと進んでいる」

 この文面を考えたのはマ・クベだ。彼がこの様な演説内容を考えたのは何故だろう。ガルマは優秀だが政治
的野心がない。しかし彼の口からギレンの政治政策を批判させれば、本人の意思とは関係なく、ギレンと対立
構造を作り出すことができる。
 もしやマ・クベは、ガルマを嘗てのキシリアの様な立場に置こうとしているのだろうか。マ・クベがそこまで
考えて原稿を書いたのだとしたら……。

(この演説だけで粛清される事はないだろうが、ギレンは不信を抱くだろうな。それが狙いか?)

 バルトフェルドが自身の考えをまとめる中、ガルマの演説も終わりを迎えようとしていた。

「よって私は、ジオン軍人としてではなく、カガリ・ユラ・アスハの友人として彼女を支持する。そして同じ志
を持つ者は、ぜひ彼女に協力してほしい。このオーブ海軍の同志達のように!」

 再び画面は切り替わり、レセップスの後を随伴するよう航行する、オーブ護衛艦隊の姿が映し出された。
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               *     *     *
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『このオーブ海軍の同志達のように!』

 ガルマの演説が流れるタケミカズチの艦橋では、誰もがコトーを見つめていた。

「コトー様、我々をはめましたね」
「一体何のことか見当がつかんな?」
「惚けないでください」

 トダカを始め、タケミカズチの乗員はアスハ派に属している。オーブ海軍の旗艦なのだからサハク派軍人は
割り当てられなかった。この為、彼らがクーデターに賛同する可能性は低いのだ。カガリもまたアスハだが、
昔気質の軍人であるトダカ達なら、有無を言わさずウズミを選ぶだろう。実際に、トダカ達にはクーデターを
支持する気は一切なかった。
 そこでコトーは、オーブ艦隊をクーデター側に見せかけるようにしたのだ。カガリ支持を表明したガルマと
乗艦レセップス。その後に続くオーブ護衛艦隊の姿は、まるでレセップスに賛同するかのように映されている。
この演出によりオーブ海軍はクーデター側となってしまったのだ。
 トダカはこの状況を作り上げたコトーを睨みつけると同時に、彼の狙いに気付かなかった自分を恥じた。

「コトー様は拘束させていただきます。クーデターに加担した者としてね」
「いいだろう。しかし、この後どうする?」
「我々は軍人です。軍人としての責務を果たします……合戦用意!」

 トダカが告げると副長が続けて復唱した。

「たとえカガリ様と言えど、クーデターを許すわけにはいきません」
「なるほどなぁ、しかし、国民の為にも一戦交えるのはやめておいた方がいい」
「戯言だ。艦長、攻撃命令を!」

 その態度に副長は激昂するが、トダカは冷静に「何故か」と問いかけた。

「レセップスを攻撃すれば、オーブはジオンを攻撃したことになる」
「奴らはジオン軍ではなく個人を名乗っています。我が軍がジオン軍を攻撃した事にはなりません」
「なるほどなるほど、その考えなら筋は通るの。だが、道理は通らん」

 笑いながらコトーは首を振った。

「あの艦にはガルマ・ザビが乗っているのだ。たとえジオン軍人として乗っておらずとも、彼がザビ家の者で
ある事に変わりはない。そしてザビ家の人間を殺めれば、間違いなくジオン公国はオーブに宣戦布告し、全面
戦争に移行するだろうな」

 それを聞いた誰もが顔面を蒼白にさせた。確かにそれはありえるからだ。
 宇宙にあるプラントは、スペースノイドの枠に入る。キシリアの治療が行われているので彼らからも寛大に
扱われているが、地球にあるオーブに容赦する必要性はない。

「一佐、お前にそれだけの覚悟があるのか? この大地を焼き尽くされるだけの覚悟がある上でレセップスを
攻撃するのか?」

 プラント陥落時にキシリアが暗殺されかけると、その場にいたドズルは理性を失って暴れたという。2人は
犬猿であったと聞くが、それでもそれだけの怒りを見せたのだ。もしガルマが殺されれば、ドズルなら全軍を
率いてオーブに攻め込みかねない。
 だが、それ以上に恐ろしいのはギレンである。この男が本気を出したときの想像がつかない。もしかしたら
オーブ本土にコロニー落しをするかもしれない。
 トダカは背筋がゾッとした。天空を覆い隠す程の巨大なコロニーが、轟音と共にオーブの大地に落ちてくる
さまを想像したのだ。オノゴロ島が、カグヤ島が、そして首都オロファトのあらゆる全てが消し飛ぶ様が目に
浮かぶようであった。
 トダカ1人の犠牲なら自分の信念を選んだだろう。彼は、軍人は政治に関わるべきはないとの信念を持って
おり、如何に戦火を免れるとはいえ、目前のクーデターを見過ごすのは、悪しき前例を作る事になると考えて
いるからだ。しかし、その結果がオーブ全土を焼き尽くす事態になるのなら……。

「君の信念は知っているよ。軍人は政治に関わるべきはない。確かにその通りだ。しかし、軍人の本質とは自
国民を護る事ではないのかね?」

 コトーの言葉はトダカの心に深く突き刺さるのであった。
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               *     *     *
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 コトーがトダカを説得している頃、オノゴロ島は大混乱に陥っていた。それもその筈、首都オロファトでの
カガリ決起が原因である。
 当初は、カガリの日頃の行いもあり、イタズラ程度にしか思われていなかった。前代表ウズミの子とはいえ、
16歳の娘の話を信じろというのがおかしい。ところが画面にガルマが映るやいなや、将兵達は大パニックを
起こした。カガリだけならイタズラで済ませるが、ガルマが出てきたとなるとジオンの関与が考えられるのだ。
 あの小娘はオーブをジオンに売ったのか、カガリ様はジオンに騙されているんだ、といった声が聞こえる中、
ロンド・ギナ・サハクの一言で周囲は静まり返った。

「皆の者、聞け! カガリ・ユラの言うとおり、今日の事態を起こしたのがウズミ・ナラであることは明白だ!
よって、我がサハク家はカガリ・ユラを支持する! 我らは彼女と共に独裁者ウズミを討ち取るのだ!」

 ギナの言葉はサハク派軍人を落ち着かせた。カガリの支持者がガルマだけなら、オーブはジオンに乗っ取ら
れるのではないか、と疑念を抱くだろうが、オーブの軍神と謳われるギナが支持するならば、カガリの決起も
信用できよう。

「何、なに、ナニ?」
「コレどうなってるの?」
「みんなウズミ様を倒せって叫んでるけど?」

 まあ、中にはアサギ達のように事態を理解できない者もいるが……。

「俺達はクーデターを支持する立場となった」
「ええっ!!」
「ウソでしょ!?」
「バリー君、私達にそんな気はないよ」
「無駄だ。我々がギナの後ろに控えている時点で決定的だ」
「「「そ、そんな~!」」」

 兎に角、これによりサハク派はカガリに付いた。サハク派は軍の半数を占めている。この影響力は大きく、
派閥に属していない部隊もカガリ支持に呼応するようになっていった。
 そうなると黙っていないのがアスハ派である。彼らはカガリ支持を表明する者に攻撃を仕掛けたのだ。元々
アスハ派とサハク派は仲が悪い。一方がカガリに付いたとなれば、もう一方はウズミに付くの当然と言えよう。
しかし、全てのアスハ派がウズミに付いたわけではなかった。

「俺はカガリを支持するぜ!」
「奇遇だな。俺も同じ考えだ」

 言うのはワイド・ラビ・ナダガとファンフェルト・リア・リンゼイだ。

「本気か? 本気でウズミ様を裏切ると……?」
「当たり前だ。俺は昔から“カガリ派”なんだよ!」
「麗しき姫に仕えるのが“オーブの騎士”というものだ」

 いきり立つ2人にガルド・デル・ホクハは黙り込む。

「2人の妄想は別にして、私も同意見ですね」

 それでも、2人に同調するようにホースキン・ジラ・サカトが続いた。

「ウズミ派の大半は今の地位を守りたい者だ。奴らを蹴落とせば、代わりに我々の地位が上がる」
「話が分かるなホースキン。やっぱりお前もカガリを狙ってるんだな」
「失礼な。私は生存率の高いほうを選んだまでだ」

 彼らの家はオーブに古くから住む氏族の一員である。だが、その身分は五大氏族よりかなり低く、下級氏族
と呼ばれていた。彼らはそれぞれの家の跡継ぎであり、出世の為の手柄を求めて軍に身を置いているのだ。

「それで、ガルドはどうするんだ?」

 そう言われたのはガルドは沈黙した。ホクハ家は代々軍人であり、カガリに組みするのは抵抗があった。

「頭の固いお前の事だ。ウズミに付くんじゃないか?」
「この状況下でウズミ様に付けば、お前達と敵対する事になる」
「ならどうする。俺達に同調するか?」
「……そうせざるおえまい」

 考えた末の決断だった。ウズミ派に付き、事態を乗り切ったとしても、後には連合との戦争が待っている。
疲弊した戦力ではオーブを護る事などできない。
 ガルドは、個人の感情を優先して国が焼かれるなど本末転倒だと、自身に言い聞かせた。

「よし決まりだ! 俺達はカガリに付く!!」

 この様な形で、地位向上を目論む下級氏族がこぞってカガリ支持を表明したのである。おかげでサハク派と
アスハ派のパワーバランスは崩れ、状況はカガリ派に優位になっていった。
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               *     *     *
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 スクリーンから流れるカガリとガルマの演説は、窮地に立ったオーブ氏族にとって、驚天動地の驚きだった。
昨日、あれ程までウズミを肯定し、コトーの意見を愚作と蔑んだカガリが、ウズミに対して反逆しているのだ。
それも、ジオン公国の力を借りて引き起こすという、中立にあるまじき行為をやってのけた。

「何の茶番だこれは!!?」

 ほとばしった怒号は、ガルマに対して向けられた。
 ガルマ・ザビという青二才の司令官。奴が、カガリをそそのかした。奴はアフリカを占領していたザフトを
撃破し、明けの砂漠を指揮していたサイードを取り込み、何食わぬ顔でカガリを自軍に招きいれ、要らぬ知識
を与えると、娘にクーデターを実行させてしまった。

「それにしてもカガリめ、男に走ったのか。アスハ家の名を持ちながら、オーブをジオンなどに売り渡すのか。
今日まで育てた恩を忘れおって、あの金髪の小娘がッ!!」

 カガリに対して罵声を浴びせるウズミの姿は、他の者に奇異に見られた。まるでカガリが実の娘ではないと
言っている様なのだ。事実、ウズミとカガリは本当の親子ではないのだが、この場でそれを知っているものは
ホムラくらいである。

「ウ、ウズミ様、オーブ海軍がカガリ様の支持に回りました。オノゴロでもロンド・ギナ准将が声を上げられ、
カガリ様を支持すると……」
「あの小娘はアスハの名を語る資格などない! “様”など付けるな!!」

 ウズミがカガリを引き取ったのは、特殊な出生の彼女を養子として、後に自分の手駒として操る為である。
コーディネイターを養子に迎えたサハク家への牽制の意味もあった。おかげで彼は、血のつながりを捨て能力
主義に走ったのである。だが、駒が駒として機能しなくなれば、親子の関係など有って無いものだった。

「憲兵をTV局に回せ! 首謀者を即刻拘束しろ!!」

 怒り狂うウズミが指示を出す中で、一部の氏族達が嫌悪の表情を見せた。カガリの決起もさることながら、
ウズミの傲慢な態度に、嫌気が出始めたのである。
 そんな氏族を代表してか、ウナトが高らかに声を上げた。

「それでウズミ様はこの事態をどう処理なさるおつもりですかな」
「なに!?」
「お身内にクーデター首謀者がいるのですぞ。事態を想定できなかった者として、ウズミ様はどう責任をとる
のか、と申しております」

 質問と応答の間に、かなりの沈黙が続いた。ウズミはどう答えるべきか迷ったが、今はそれどころではない。

「……責任問題は後にしろ。今はそんな場合では――」
「更に言えばクーデターによって軍の戦力は半減しましょう。その上で明日の回答にはどの様に答えるのか、
ウズミ様の意見を申してもらいたい」
「…………今までどおりだ」
「内乱で戦力が半減しても、ですか?」
「当然だ。オーブの理念は護らなくてはならない」
「なるほど、解りました」

 ウナトは立ち上がるとウズミを無視してホムラに向き合った。

「ホムラ代表、これよりセイラン家はカガリ様を支持いたします」

 沈黙があたりを支配する。それは無言の悲鳴にも似ていた。

「なんだと……」
「カガリ様の仰る事は正しい。オーブは立憲君主を掲げてはいるが、実際はアスハ家の絶対君主だ」
「今まで私の顔色を伺っていたお前が、旗色が悪いから寝返るというのか」

 問う声はかすれ、ひびわれていた。

「愚かな、お前が私の下で政治を行っていた事実は否定できん。今更寝返ったところで遅いわ」
「そうですね。ですが、私にはユウナがいる」
「!!」
「私がアスハ派の閣僚として色々とやってきたのは事実。しかし、ユウナは貴方の政治にはかかわっていない。
ユウナがいるかぎり、セイラン家は終わりません」

 自分をトカゲの尻尾とし、ユウナをカガリの懐に潜り込ませる。これがウナトの出した結論であった。

「今頃息子は、カガリ様の下へ向かっておるでしょうな」

 相手が連合ならば、あるコネを使って生き残る事は可能だ。しかし、クーデター側にその様なコネはない。
だからこそ早急に彼らに取り入らねばならなかった。中級上級氏族の中で、真っ先にカガリを支持すれば印象
も良くなるだろう。ましてや自分ではなく歳の近いユウナの口からカガリに取り入れば、彼女の性格から無碍
にはできまい。

「き、貴様……」
「ウズミ様、戦闘が始まりました。行政府に攻撃を仕掛けております」

 オペレーターの士官が、こわばった声を投げかけた。それが一同の冷結を溶かした。

「敵は何処にいるのだ」
「それが……数機のMSのようです」

 一同は視線を互いに交錯させた。驚きというより安堵がウズミ達の表情にある。首都オロファトを護る本土
防衛軍には、従順なアスハ派軍人のみで構成され、M1アストレイの二個中隊が配備された精鋭集団である。
如何にMSとはいえ十機にも満たない数ならば余裕だ。何処の部隊かしらないが、何を考えているのか。
 スクリーンの画面が防衛軍の姿を映し出す。アストレイがライフルを構え、周囲を警戒している。そこに、
突如として空間が揺らいでMSが出現すると、アストレイにロケットランチャーを撃ち込んだ。

「は……?」

 アストレイと抗戦するMSを見たウズミは、思わず間の抜けた声を出してしまった。
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               *     *     *
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 アッガイ――コストを抑えた廉価版の水陸両用MSである。巨大な頭部は固定されており、モノアイレール
は横方向の全周ターレットに加え、上方向にも設置されている。武装は頭部に105mmバルカン砲を4門装備。
他の水陸両用MSと同様に腕部に伸縮性のフレキシブル・ベロウズ・リムを採用し、右腕のみ格闘戦用に6本の
クローを備え、その中心に機関砲、左腕部には6連装ロケットランチャーを装備する。また前にも記したが、
ミラージュコロイドが組み込んだ事で高いステルス性を有している。水中よりも湿地を中心とした陸上におけ
る機動性が高く評価された機体だ。しかし、装甲が脆弱であるという欠点もあった。偵察機として開発された
経緯もあり、防弾性は軽視されていたのである。
 スペックだけを見ればアッガイだとアストレイには勝てないのだが、それを根底から崩したのがミラージュ
コロイドであった。想像してほしい。突如として目の前にアッガイが出現し、自機に攻撃を仕掛けてくるのだ。
大半は驚き、立ちすくむだろう。この本土防衛軍と同じように……。

「全滅……アストレイ二個中隊が……一機残らず……全滅……」

 オペレーターは放心状態で、“全滅”という言葉を繰り返した。同じ言葉だけが繰り返し彼らの耳に入り込む
のかと思えた頃、下の階から耳を突くような音が聞こえた。銃撃戦の音だ。どうやら行政府に敵が進入したら
しい。氏族達の目がウズミに集中する中で、端に座っていたホムラがかすれた声を振り絞った。

「全ては終わった。我々は敗北したのだ。それを認めよう、兄上」

 数秒の間をおいて、反対する叫びがおこった。ウズミが声を張り上げ、ホムラに詰め寄る。

「いや、まだ終わってはいない。オノゴロで戦う同志もいる。それを無視して敗北など」
「同志ですと! 一体何の同志ですか! 兄上は派閥だ、何だと言うでしょうが、彼らは同じオーブ軍です。
友軍同士で争っているのですぞ!!」

 力強い声が部屋に響いた。ホムラが叫んだのである。
 オーブを実質的に支配しているウズミ。そんな兄の言うとおりにしてきたホムラ。今までは慣例的に周囲の
者がウズミに従っていた。だが、この瞬間に2人の立場は入れ替わった。

「うるさい。お前は私の言うことを聞いていればいいのだ!」
「今まではそうでした。でも、もう違う。私は兄上の命には従えません」
「この裏切り者が! 誰のおかげで代表になれたと思っている! オーブの理念を――」
「黙れ下種!!」
「!?」

 このウズミの言葉に割り込んだのはホムラではなくウナトである。

「貴様は、この一方的な状況を目にしてもなお、民よりも国の理念を護ろうというのか!? 時勢を見極めら
れぬ愚か者が!! そもそも貴様は代表首長の座を辞した身でありながら、何の所以をもって最高指揮官たる
ホムラ様の言葉を妨げるのか!? 如何に前代表であるとはいえ、増長も極まる!!」

 それは鬼気迫るものだった。今まで我慢してきたものが渾然一体となって、彼の体内で爆発したかと思えた。

「オーブの代表はホムラ様であり、降伏の決断をするのもまたホムラ様だ。貴様が口を挟む余地はない!」

 ウナトの指示で、警備員がウズミを取り押さえにかかる。必死にもがくウズミだったが、屈強な警備員には
歯がたたず、呆気なく拘束される。悔し紛れに散々暴言を吐くが、もはや聞く者はいない。
 数分後、オーブ連合首長国代表首長ホムラの口から、全軍に向けて降伏の意思が語られることになった。