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Zion-Seed_51_第二部第27話

Last-modified: 2009-08-03 (月) 22:41:01

 連合とジオンの戦争が再開されたことによって地上の各地で小競り合いが行なわれるなか、宇宙でも同様の戦闘が頻発していた。
 特にアルテミスまでの輸送は、兵士たちにとって神経をすり減らされる思いだった。物資補給だけでなく、再編中の第1、2艦隊への兵員輸送も行なわなくてはならず、必然的にジオン軍の通商破壊の対象となるのだ。
 今日も大気圏を脱出した連合の輸送艦は衛星軌道上を航行する。彼らは細心の注意を払いながら宇宙を進む。どこにジオンの艦艇が潜んでいるか分からないのだ。哨戒機を飛ばし、安全を確認しながら進む艦艇。初めのうちは敵発見の報ももたらされない、実に平和な航海であった。
 しかし、その航海にも唐突に終わりが訪れる。哨戒機からムサイ発見の報が成されたのだ。

「まずいな、アルテミスまであと少しというところで……」
「どうします、艦長?」
「振り切ろう。この船はムサイより速いからな」

 連合のコーネリアス級輸送艦の足は速い。さすがにナスカ級には追いつかれてしまうが、ムサイ級であれば引き離す事は可能、そう輸送艦の船長は考えていた。
 しかし艦艇の欠点をそのままにしておくほどジオンはバカではない。ジオンは幾度に渡り、ムサイの改修を続けていたのだ。ヤキン攻略戦時に出来た"後期型"、休戦中にナスカ級の情報を元にして開発された"最終型"はナスカ級に匹敵する高速艦であった。

「バカな……こんなはずは……」
「ダメです! ムサイとの距離が縮まっています!!」
「ア、アルテミスへ救援要請! それからメビウスも出せ!!」

 メビウス3機、それが彼らに与えられている戦力である。

「出しても死なせるだけです!」
「出さなければ船が沈むぞ!」

 そんなやり取りをしているうちに、輸送艦の横をビームの粒子が貫いた。ムサイの射程に入ったのである。さらにザクが発進し、恐ろしいほどの速さで艦に迫る。

「もーダメだー!」

 艦橋がパニックになるなか、オペレーターが一つの通信をキャッチした。

「艦長! 通信が入っています!」
「な、なんだ!? 降伏の勧告か!!?」
「違います。これを!」

 手元のモニターに複数の艦影が映し出される。それはアガメムノン級宇宙母艦"エイジャックス"を旗艦にし、40隻の艦艇から構成され、戦前から今日に至るまで、アルテミス周辺の制宙権を確保し続けた地球連合軍の生命線――"第7機動艦隊"であった。
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――――第2部 第27話
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 第7機動艦隊――それはアガメムノン級宇宙母艦1隻に、ネルソン級戦艦10隻、ドレイク級護衛艦24隻、改コーネリアス級軽空母4隻、そしてドミニオンを加えた連合の虎の子の艦隊である。演習目的で動いていた彼らは、偶然にも輸送艦の救難信号を捕まえていた。

「演習中に救難信号が出たと思ったら、まさか我が軍が襲われているとは……地上の連中、宇宙に上げるなら
上げると事前に連絡しろよ。そうすりゃあこんな事態にはならなかったものの」

 第7機動艦隊司令官ゼノン・ティーゲル中将は、エイジャックスの艦橋で愚痴を漏らしていた。彼は"知将"ハルバートンと並ぶ宇宙軍の勇将である。根っからの職業軍人であり、派閥とは程遠い存在、故に事前通告もなしに輸送艦を宇宙へと上げた参謀本部に疑念を抱いていた。

「通信がジオンに傍受されると思ったんでしょう」
「でなきゃ、上のゴタゴタに巻き込まれたかのどちらかね」

 そう答えたのは、エイジャックスに光速通信を通してメインモニターに映し出されたニキ・テイラー中佐とブランド・フリーズ大佐であった。ニキは名家出身のエリートで、常に理性的に物事を考える性格の女性で、一方のブランドはオカマ口調が特徴的な現場からの叩き上げで、古くからゼノンの下にいる人物だ。
 2人はネルソン級戦艦"エンタープライズ"と"エクセルシオール"の艦長で、戦隊指揮官でもあった。

「上?」
「ブルコスよ、ブ・ル・コ・ス」

 アズラエルが行方不明になったおかげでブルコス派で構成されていた軍内部は荒れに荒れた。アズラエルの意思を継ぐサザーランドと新たな風を起こすジブリール。両者のシンパが盟主選挙で真っ向から争ったのだ。結果的に新盟主はジブリールになったが、この混乱はまだ続いている。
 ゼノンはブルーコスモスや派閥政治に興味を示さなかったので、地上のゴタゴタを白い目で見ていたものが、それがこんな輸送任務にまで影響されたのかと落胆するしかなかった。

「愚痴はここまでにしよう。輸送艦までどれくらいかかる?」
「現在地からではおよそ10分かかります」
「戦艦は足が遅いからね」
「ならばドミニオンを先行させろ」

 高速艦であるドミニオンなら艦隊よりも早く輸送艦へたどり着ける。

「ちょうどいい機会だ。あそこの新人どもに実戦を経験させる」
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 ゼノンの命を受けたイアン・リー少佐は、輸送艦を護るべくドミニオンを戦闘宙域へ進む。ブリーフィングルームに待機していたムウも、MSデッキに流れていった。

「モーガン大尉は!?」
「遅刻だぞ、少佐。俺はもうカタパルトで用意している。新人ども同様だ!」

 イージスに乗るモーガンからの言葉にムウは顔をしかめる。

「俺が最後かよ」
 ムウはワイヤーリフトを使って、急ぎ早にストライクに乗り込んだ。
 そのドミニオンからMS隊が発進するよりも早く3隻のムサイは動いた。3隻が一斉にドミニオンに向けて砲撃を行なう。メガ粒子砲のビームがドミニオンに走り、一つが左舷デッキをかすめた。ラミネート装甲のおかげで大した被害ではないが、初弾から当ててきたことで、ムサイの練度の高さが垣間見える。

「操舵手、回避行動は任せる! 砲手、応戦しろ!」

 ドミニオンも負けじとゴットフリートを正射する。それと同時に、イージス、ストライクと発進し、最後に出たのが連合の新型機"ダガーL"であった。
 ダガーLがカタパルトデッキから射出され、パイロットのステラ・ルーシェは不思議な感覚を感じていた。訓練とは違う、戦場にある独特の空気は初陣の彼女には不可思議なものだったのだ。
 1番前をムウのストライク、そしてその少し後に彼女の仲間、スティング・オークレーとアウル・ニーダの機体があった。彼女は3人の機体を追う形でダガーLを操作した。

「ステラ、もたもたしてんじゃないよ。置いてくぞ」
「迷子になっても探してやんねーからな」

 短い髪を立てた鋭い目のスティングと女の子みたいにかわいい顔をしたアウルがからかうように言う。

「お前ら、ステラを怖がらせるんじゃない!」

 そんな2人をムウが叱るが、ステラはそんな揶揄を気にもせずに操縦に徹していた。

「いいか。今日は3人とも実戦の空気を感じるだけでいいからな」
「そりゃないぜ。やっと初陣なんだ。好きにやらせろよ!」
「敵はムサイ級が3にMSが12、数の上では相手が勝っている。隊長だけが戦うのは効率的じゃない」

 我が侭を言うアウルと論理で攻めるスティング、性格の違いがよく出ている。

「俺1人に勝てないお前らが、俺の心配をするなんざ百年早い!」

 3人のやり取りを無視して、ステラは敵の姿を凝視していた。彼女は戦闘においては性格が好戦的になる。敵との射程距離が縮まるにつれて、彼女の血が徐々に温度を上げていった。そして射程距離に入ると同時に、ステラはトリガーを引いた。
 放たれたビームは、ジオン側もしっかりと把握していた。当然、余裕を持ってその一撃を回避する。そして左右に分かれて挟み込むようにムウたちへと迫った。

「ステラか!? 早い、早いよ!」
「あのバカ、何やってんの!」
「チッ!」

 ステラのダガーLに迫る敵機に、ムウのストライクは横手から反撃、1機を大破させると、ダガーLの肩を掴んで揺さぶった。

「ステラ、ビームはもっと引き付けてから撃てと教えたろ!」
「ごめんなさい……」

 ステラはムウの活躍に息を飲み、改めて彼の後ろにしっかりと付いていなければならないと感じていた。

 戦闘に入るとアウルは牽制しながら敵部隊に近づく。ところが彼の放った攻撃はいとも簡単に避けられて、手痛い反撃を受ける羽目になった。
 ハンドグレネードの爆発が、アウルのダガーLを吹き飛ばす。

「うわぁ!?」

 透かさずスティングがフォローに入る。

「迂闊だぜ、アウル!」

 彼らが相手をしていたのはジオンでもベテランの部隊だった。それに機体もカタログスペック上はゲルググ並と言われるザク改である。新型機のダガーLとはいえ、性能差はほとんどないといってよかった。
 スティングはバズーカを持つ機体にスティレットを投擲するが、ザク改のパイロットは楽に回避してみせた。追い討ちをかけようとそれにビームカービンを撃ち込もうとする。しかし、別のザク改が援護のマシンガンを放ってきた。
 避けられないと悟ったスティングはシールドで弾丸を防ぎ、距離を測ってアウルの横まで後退する。追撃にかかるザク改だったが、ムウとステラが間に入った。

「スティング、ステラはそっちにいかせる」
「さっき「実戦の空気を感じるだけでいい」とか言ってなかったか?」
「状況が変わったんだ!」

 初陣の彼らには酷な命令と思えるが、実際はそうでもない。彼らはアズラエルが力を注いで造られた人間、"エクステンデッド"と呼ばれる人口ニュータイプなのだ。暗示によって死の恐怖をなくし、潜在能力を高められており、実戦経験を別にすれば、数値上はムウやモーガンに匹敵するポテンシャルを持つ。

「仕方ねえな。ステラは突っ込んで敵の陣形をかき乱せ」
「分かった」
「アウルは背後に回って強襲。俺は2人のサポートだ」
「オーケー、オーケー」

 それに強化されている以前に、3人は連携がよく取れている。そんな背景を知っているムウは、ここは彼ら3人に好きにさせたほうがいいと判断していた。

「さて、俺は……」

 単独行動を選んだムウは、手近の敵機に照準を合わせ、機体を急速移動させる。彼のストライクが装備しているガンバレルパックは、メビウスゼロを小振りにしたようなもので、これは単体での飛行を可能としている。このパックのバーニアを利用して、銃弾を掠らせもしないまま敵機に肉薄する。

「はやっ……?!」
「遅いっ!!」

 慌てて後退しようとしたザク改へビームサーベルを振りかざす。そして立て続けにガンバレルを展開した。
 敵パイロットの視線がガンバレルを追った隙を突いて、ストライクの放ったビームがザク改を貫いた。
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 ムサイ級軽巡洋艦"キャメル"の艦橋では、指揮官のドレンが苛立っていた。

「木馬の同型艦か、ヘリオポリスで相手したとき以来だな」
「大尉、ノーマルスーツを着用してください」
「ばーか。指揮官が真っ先にノーマルスーツを着られるかよ」

 ドミニオンと交戦していたのは、ジオンの第六艦隊に属するドレンの哨戒部隊だった。パトロールの途中に偶然連合の輸送艦を見つけた。輸送艦とはいえ見つけたからには無視するわけにはいかない。ドレンは敵艦を拿捕しようとしたが、その矢先に連合軍艦隊が出張ってきた。
 相手の数が少ないのが幸いだったが、艦隊の中に"木馬"と呼ばれた艦艇を見つけ、さらにXナンバー2機と新型機の存在に、嫌な予感がドレンの頭を過ぎった。

「MSは深追いするな! 木馬は3艦で仕留める! その後、反転後退だ!」

 ムサイ3隻で後続の艦隊とやりあうのは自殺行為だが、何もしないで後退するのは軍人として面白くない。そう考えたドレンはドミニオンだけは落とそうとしていた。
 しかし、戦場を注意深く観察するとあることに気付く。敵のMSが4機しかいないのだ。

「おい、敵は5機じゃなかったのか!?」

 事前報告ではドミニオンから発進した機影は5つだった。しかし戦闘に参加しているのは4機だけ……。

「あのザク改は!?」
「クランシーのです。奴は、残り1機を見ていないと言っています」

 キャメル艦橋の横にいたザクがジェスチャーなのか首を振る。
 「そんなはずはない」と言いかけたドレンに、オペレーターから高熱源体の接近が報告される。

「ミサイルか?」
「いえ、MSのようです!」
「残りの1機か……。狙いは本艦か!?」
「違います!」

 叫びと同時に右翼にいたスワメルの主砲をビームが貫く。続けて上方からMA形態のイージスが立て続けに艦橋部分とエンジンにスキュラ砲を叩き込んで、そのまま下方へと流れていく。この攻撃でスワメルは、艦のいたるところで爆発を起こした。あれでは乗組員が脱出する暇もない。
 僚艦を叩かれたのを見たドレンは驚愕しながらも、キャメルとトクメルに対空砲火の弾幕を張り巡らすよう指示を出した。

「クッ、何としてでも落とせー!」

 だが、彼の不幸はまだ終わらない。モーガンの奇襲が成功したことで、チャンスとばかりにドミニオンからローエングリンを発射された。スワメルが爆沈したことで浮き足立っているキャメルとトクメルは必死に回避運動を行うものの、陽電子砲はトクメルの右エンジンに命中し、大きな被害を与えた。これでトクメルも継戦能力を失うこととなる。
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 艦隊戦で優位に立つなかで、MS戦も連合に立ちつつあった。3人の強化人間は見事なコンビネーションで歴戦の戦士が操るザク改を撃破する。そしてフラガのストライクも4基の有線ガンバレルを巧みに操りながら敵機を追い詰めていった。

「こっちが本命!」

 四方八方から襲いかかるガンバレルに狙いが定まらずに翻弄されるザク改。ガンバレル自体の攻撃力はそれほどでもないが、動きが止まったところにビームライフルが直撃した。
 これでムウは4機のザク改を撃墜したことになる。ストライクの高性能性に加え、ガンバレルという特殊な武装が彼の実力を一段と高めていた。
 次の相手に視線を移すと、敵機は信号弾を放った。不利を悟ったのか宙域のザク改は一挙に後退していった。

「隊長、敵が逃げてくぜ! 追撃しよう!」
「ダメだ。輸送艦の護衛が最優先だろ」
「でもっ!」
「敵だってバカじゃない。艦隊が来ると知れば撤退するさ」

 だからこそ敵を減らすいい機会じゃないかと考えるアウルだが、スティングとステラがムウの命令に従ったことで、彼も嫌々ながら食い下がるしかなかった。
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 結局、戦闘はこれで終了した。キャメルはイージスの猛攻を受けながらも、どうにかして宙域を離脱した。しかしトクメル、スワメルは撃沈、MSも7機を損失するという甚大な被害を受けてしまう。対する連合側は然したる損害も受けずに輸送艦を保護することができた。

「上出来だな。強化人間とやらもなかなか役に立つことが分かった」

 結果を知ったゼノンは満足してシートに腰を下ろした。当初彼は、強化人間というのを信用していなかった。頭の固い科学者が作った兵士など、実戦では役に立たないと考えていたのである。

「そうですね。彼らがもっと居てくれれば、この戦争は勝ったも同然です」
「あら? テイラーちゃんはそういう考えなんだ……」

 ニキはブランドとは違い、強化人間を戦力として考えてしまう典型的な軍人だった。彼らが生まれる過程で何人もの犠牲者が出ようと、興味など示さないのだ。

「エリートさんはこれだから困るのよね。戦争は数字では図れないのよ」
「中佐、私は別にそういう意味で言ったのでは……」
「あー2人とも! そういった話は後にしよう。それよりも今は活躍したドミニオンクルーを出迎えようではないか」
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 宇宙で騒動が起きている頃、旧英国領のジブリール宅ではロード・ジブリールが報告書に目を通していた。

「圧倒的じゃないか、我が軍は……」

 それは第二次オデッサ作戦の報告書である。ビラード中将率いる軍団は、ジオンのユーラシア方面軍を破り、オーストリアを占拠したのだ。MSの3割を失う結果となったが、ジブリールからしてみればジオン軍を敗走させたことのほうが重要であった。

「このままいけばオデッサは陥落、ジブラルタルの我々のもの。そしてオーブを落とせば……次は宇宙だ」

 今後の構想を想像してほくそ笑むジブリールだが、早期に戦争を再開した連合にそんな戦力は残っていない。それを知ってか知らずか、彼は自分の妄想に酔いきっていた。

「ジブリール様、新しい報告書でございます」
「またか……盟主になったとはいえ、この書類の数は何とかならないものか……」

 目を通さなくてはいけないものが多くなり、ジブリールもなかなか大変な毎日を送っていた。

「オデッサ作戦への増援? アレだけ与えれば落とせるだろう、無能が!」

 書類に目を通していると、1つの報告書に目が止まった。

「そんなバカな!!」

 その報告はアークエンジェルを占拠したオーストリアで目撃したというものだった。太平洋で始末したはずの艦が生き残り、ジオンに味方しているというのだ。

「何だこれは! どういうことだ!!」
「ビラード中将によれば、このアークエンジェルらしき艦に度々襲撃され、被害が広がっていると……」
「そんなことを聞いているのではない! アークエンジェルは始末したんだろ!?」
「ふ、不明です」

 秘書の首に手をかけながらジブリールは激怒する。とばっちりを受けた秘書は、ジオンがアークエンジェルを回収したのではないかと予想すると、怒りの矛先はオーブへと向かった。

「忌々しい! オーブ軍め、撃沈したなど、ふざけたことを言いおって!!」
「どういたしますか」
「ネオに連絡を取れ!!」

 ジブリールは不確定要素を確実に破壊すべく、大西洋でジブラルタル基地に牽制をかけているキュリオスをぶつけろと命じた。この判断が彼の最大の失策であることに気付きもせずに……。