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Zion-Seed_51_第19話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 18:05:14

「キラ、何をしているの!? 戻りなさい!!」
<……すみませんセイラさん>
 セイラの呼びかけに謝罪すると、キラは機体を加速させた。
「戻れ! 戻るんだ、ヤマト少尉っ!」
<……>
 ナタルもキラへの呼びかけを行うが返事はなかった。
「ダメです。応答ありません」
 むしろ逆効果だったのか通信回線を切ってしまう。
「呼び続けろ!」
 ナタルは頭を抱えながら、格納庫のマリューに予備のスカイグラスパーを出すよう頼んだが、
調整不足で不可能だった。ストライクを飛ばせればいいが、エールストライカーは損傷してる。
なによりOSを書き換える時間がなかった。
「振り向かないほうがいいわね」
 ノイマンはナタルの表情を見てみたい衝動に駆られるが、不意に出たセイラの一言を聞き、
それを押しとどめた。きっと鬼の形相であるに違いない。
「大尉、申し訳ありませんが、MA形態で敵情を……」
<無理だ……バクゥがっ!>
 スカイグラスパーの不可解な行動が、相手の疑念を招いた所為か、バクゥが戦線に戻ってきた。
しかも、それに合わせて艦砲射撃まで飛んできる。衝撃がアークエンジェルを激しく揺さぶった。

「クソッ!! どっからの砲撃だ!?」
 ムウは周囲を見まわすが、視界内に艦影は見えない。アークエンジェルは高度をとり始める。
 その最中、イージスと対峙するバクゥ目掛けて小型のミサイルが撃ち込まれた。
「何だ?」
 あさっての方向から数台の戦闘車両が走ってくるのが見えた。
 彼らの攻撃は大した損傷を与えているわけではないが、バクゥは明らかに浮き足立っている。
<そこのMSのパイロット、死にたくなければこちらの指示に従え!>
 イージスが謎の通信をキャッチした。発信元はイージスの真横にいる一台のバギーらしい。
 暫くして地図が転送されると、その一部が点滅していた。
<そのポイントにトラップがある。バクゥをそこまでおびき寄せるんだ!>
 敵か味方かは分からないが、今は迷っている暇はなさそうだ。

<隊長、レジスタンスです。奴らが出てきました>
「おやおや……まさか連中が大天使を助けるとはね」
 攻撃を仕掛けているのは、北アフリカ最大のレジスタンス組織“明けの砂漠”である。
正規軍にとっては取るに足らない相手ではあるが、この組織はあのジオンと繋がりを持っていた。
噂ではあるが、ガルマ自身がわずかな護衛で彼ら本拠地に乗り込み、リーダーと直談判したそうだ。
そのおかげで、パンツァーファウストから対MSミサイルまで、ありとあらゆる兵器を所持しており、
バルトフェルドと言えど無策で相手をするわけにはいかなかった。
「ダコスタ君、撤退信号を出したまえ」
「よろしいのですか?」
「深追いする必要はない」
 ここで大天使をレジスタンス諸共殲滅するのもできなくはないが、バッテリ切れになったところで
ストライクが出てくれば、一転して不利になってしまう。
「どうやら大天使は、ストライクを温存してるみたいだからね」
 作戦終了を宣言すると、バルトフェルドはゆっくりと腰を下ろした。

「……軍法会議モノだぞ。キラ・ヤマト」
 低い声で不気味に呟くナタルの声に、艦橋内はなんとも言えない空気が漂い始める。
 そんな空気を読んだ訳ではないが、レセップスは後退を始めた。
「熱源、引いていきます」
「追撃は控える。フラガ大尉、帰艦してください」
 こうして地球での初戦は終わった。だが、それはナタルにとって最悪な事態が無くなったわけではない。
これから始まる激動のプロローグにしか過ぎないのだから。

 アークエンジェルは戦場から程近い地点に着陸した。傍に意図も勢力も不明なバギーの集団が停止する。
「味方と判断しますか」
「少なくとも攻撃の意思はなさそうだ……ノイマン曹長、後を頼む」
 ナタルは外に出るハッチまで来たところでフラガ達を確認した。ライフルを構えたクルー数人と共にハッチの
脇に身をひそめている。
「開けるぞ」
 外に出たマリュ-達はアラブ系の男たちと対面した。先頭に立つ男がリーダーなのだろう。髭を厚く生やし、
日に焼けた頬には大きな傷跡がある。彼は鋭い目つきでナタルとムウを見比べた。
「地球連合軍第5特務師団所属、ナタル・バジルール少尉です」
 ナタルの挨拶に男はニコリともせずに答えた。
「俺達は“明けの砂漠”だ。俺の名はサイーブ・アシュマン。……礼なんざいらんさ、わかってんだろ?
別にあんた方を助けたわけじゃない。敵である“砂漠の虎”を討とうとしただけでね」
 こちらの真意を探るように覗き込んできた相手に、ナタルはにこりと笑ってみせる。もちろん演技だ。
そう簡単に、こちらの真意を見せる訳にはいかない。
「“砂漠の虎”相手にずっとこんなことを?」
 傍らのムウが呆れるように尋ねると、サイーブはじろりと顔を見る。
「あんたの顔はどっかで見たことあるな」
「ムウ・ラ・フラガだ。この辺に知り合いはいないがね」
「へえ、“エンデュミオンの鷹”と、こんなところで会えるとはよ」
 ムウは意表をつかれた表情になる。ナタルは微動だにしないが――なるほど、砂漠の真ん中でランチャー
片手にゲリラをやってる連中が、たいした情報通ではないか。
「情報もいろいろとお持ちのようですね」
「ああ、いくらかはな。地球軍の新型特装艦アークエンジェルだろ? 宇宙じゃ名高いクルーゼ隊と
“赤い彗星”に追われて地球へ逃げてきた」
 さすがのナタルも今の言葉には驚きを隠せなかった。まさか連合の最高機密をこんな連中が知っているとは、
情報通にも限度がある。そこまで詳細なデータを一体どうやって? 驚くナタルをよそにして、サイーブは
更にその続きを言おうとするが、そんな彼の言葉をさえぎるように、やや高めの声が上がった。
「X303……イージスと呼ばれる地球軍の新型機動兵器。そのプロトタイプだ」
 ナタル達は金色の髪をした少女に気づいた。屈強な男たちの中であまりにも目立つ髪をなびかせた少女は、
真っ直ぐにイージスに視線を向けている。
「さてと、とりあえずこんな所にいちゃ、いつ襲撃があってもおかしくねえ。俺達の砦に案内するから、
そこで改めて話としねえか?」

 サイーブ他数名を乗せたアークエンジェルがレジスタンスの砦に向かう間、サイ達ヘリオポリス組は
キラの行動について話し合う為、ナタルに呼ばれていた。
「皆、ヤマト少尉から何か聞いてないか?」
「わかりません……地球に降下してから、話す時間なんてなかったし」
「俺もだ」
「熱でぶっ倒れてたからな……」
 皆キラの脱走が信じられなかった。彼は自分がコーディネイターであることを自ら晒し、志願してMSに
乗ってくれた。そんなキラが自分達を見捨てて逃げ出すとは到底思えない。ナタルは何か理由が有ると考え、
ムウやクリスにも心当たりはないか聞いてみた。すると二人は何かを思いついたように答える。
「降下時の戦闘で感じたが、なんかあいつ焦ってたな。いや、怯えてると言うべきか……」
「となると、シェル・ショックの可能性があるわね」
「シェル・ショックってなんですか?」
「新兵がよくかかる病気よ」
 極限状態を経験することで患う神経症で、戦争神経症とも呼ばれるものだ。戦闘中もしくは戦闘後に、
吐き気や混乱、下痢、震えなどの症状を起こし、戦闘に参加する以上不回避と言える神経症だ。
「でもそれだけで逃げ出しますかね」
 皆要領を得ぬまま沈黙が続く中、押し黙っていたフレイが沈黙を破る。
「きっとザフトに投降したのよ」
 とんでもない事を言い出した。
「あの子、コーディネーターなんでしょう」
 皆がフレイの言う可能性は否定できなかった。キラはコーディネイターであるのはアークエンジェルの
クルー全員が知っている。特に正規の軍人は、ムウにクリス、マリューやマードックら整備班を除いて
キラに疑惑の目を向けていた。
「あの子に同胞意識が芽生えても不思議じゃないわよ!」
「そんなこと、有る筈ないだろっ!!」
 トールは大声を上げて否定したが、フレイは納得いかない。
「じゃあなんで脱走したよ?」
「それは……」
 反論しようとするがいい言葉が思いつかない。辺りに険悪なムードが漂い始める。
 そこへ、遠巻きから彼らの話を聞いていた金髪の少女がポツリと言葉を発した。 
「何にも考えてないんじゃないか」
 皆が一斉に彼女の方に視線を向ける。
「いや、お前達の話を聞いていると、そのキラって、なんか抜けてる奴なんじゃないかと……」

 一方で、その頃のキラ君は、
「これからどうしよう……」
 少女の言ったとおり、砂漠の真ん中で途方にくれていた。

「うわあああぁぁぁっ!!!?」
 キラは息も絶え絶えに起き上がると、燦々とふりしきる日差しに目を細める。
「夢か……」
 ひどい悪夢を見た。ムウのイージスやアスランのシグーが呆気なく撃破され、自分に向かってくる赤いザクに、
ストライクがPS装甲ごと真っ二つにされる夢だ。
「ここはアークエンジェルじゃないんだな……」
 昨日、自分が脱走したことを思い出す。
 だが、衝動的に逃げ出したものの、今後どうするかをまったく考えてない。
「目先のことしか見てなかったからな」
 まったく白紙のまま逃げ出すなど本末転倒だ。だからといって脱走をやり直すわけにはいかない。
「……おなかすいた」
 とりあえずキラは、空腹を満たすため、上空から見つけたタッシルの町に向かった。

 タッシルに着くと手近にある店に入る。キラはそっけなくあたりを見回すと数人の客が談笑していた。
「そしたらアイツ、子供相手に五機落したってホラ吹いてるんですよ」
「新入りのくせに生意気だな」
「今度シメるか!」
 彼らを横目にカウンターの席に座ると、冷たい水と簡単なセットを頼んだ。
「えっ? 水もお金を取るんですか?」
「ここいらじゃ貴重だからね」
 しぶしぶながら承諾し、出された水でのどを潤した。朝から空腹の上、炎天下の中を歩き続けていた所為で、
ただの水が格別の味になっている。キラは頼んだセットメニューに口に運びながら、今後のプランを考え始める。
 ザフトやジオンに投降する気は初めからない。昨日まで連合の艦に居た自分が投降すれば、事情など聞かずに
捕虜にされる。そうなればオーブに帰ることなどできないだろう。
(このまま南下してビクトリアに行こう。そこから、南アメリカ経由でオーブに行ければ……)
 そこでキラははっと、人の気配を感じ我に返る。
「おい小僧! 何シケた面してる!?」
 店に居た客の一人がキラに絡んできた。厄介なことに関わりたくないキラは無視を決め込んだが、その態度が
気に入らないのか、男は語気を強めながら命令するように声を荒げる。
「こっちに座れ!!」
「……」
「聞いてんのか? おいコラ!?」
 乱暴に胸倉を掴み上げられた。
「何するんです!?」
「ここはお前みてぇなガキが来るとこじゃないんだよっ!!」
 そんな状況にあっても、キラには余裕があった。ナチュラルがコーディネイターである自分を相手に勝てる
はずがない。相手もコーディネイターならマズイが、キラは男の顔を見てそうではないと判断した。
「僕と本気で喧嘩して、ナチュラルが勝てるわけないだろ」
「てめぇ! コーディネイターか!?」
 周囲に殺気が漂う。どうやらキラをザフトと思ったらしい。コーディネイターというだけでだ。
「我らジオン軍人を前に、自ら正体を晒すとはな」

 ジオンという単語にキラの心臓が高鳴る。まさかこんな所にジオン兵がいるとは思ってもみなかったからだ。
 先程までは強がりはどこへ行ったのか、キラの体は震えだした。
「なんだあ? 怯えてるのか?」
「かわいい顔して、ママのオッパイが恋しくなったか!」
 笑いながらキラを取り囲むと、男はキラの胸倉を更に力を込めて掴み上げようとしたその時、
「おい」
 店の扉から声が掛かった。
「何してる?」
 そこには一人の軍人がいた。身長はキラよりも少し高いくらいか。顎ヒゲを生やし、くずれたように軍服を
着ているその男は、服装からの印象とは裏腹に眼光だけは妙にぎらついていた。
「ザフト兵らしき男を尋問してました!」
「コーディネイターだそうです」
「コーディネイター? どこに?」
「で、ですから……」
「そんな奴どこにもいないぞ」
 男はワザとらしく、きょろきょろと辺りを見回すと、やや威圧するように男達に言った。
「とっとと行け……見逃してやる」
「……」
 男達はキラを放すと、無言で立ち去った。
 キラはなにがどうなってるのかわからずに、空いている席に座った男を見る。
「すまなかったな連合の家出少年」
 なりふり構わない言葉にキラは動揺した。しかし目の前のジオン兵は、キラの動揺など気にもとめない。
「俺はデメジエール・ソンネン少佐だ。よろしくな」

「何でっ!」
 キラの叫びにソンネンは目をぱちくりする。
「……おいおい、マジかよ?」
 どうやらハッタリだったらしい。キラは自ら墓穴を掘ってしまっていた。
「いかんな……おやじ、聞かなかったことにしてくれ」
 ソンネンは店の主人に願いながら、幾分かの金をカウンターに置いた。主人はそれを受け取ると、
何事もなかったように食器を洗いはじめる。
「もしかして、家出もホントか?」
 キラは対応に困った。目の前の人物がジオン兵であることから信用はできない。だが、自分を助けたことを
見ると悪い人ではなさそうだ。
 キラは警戒しながらもソンネンの問いに頷いた。
「脱走兵かよ……とんだ捨て猫を拾っちまったな。さしずめ俺は犬の警官か」
 絵本に例えられ、幾分か緊張が緩む。
「ここじゃ不味いな。おい、俺について来い」
「……結構です」
「ここにはジオン兵がウヨウヨいるぞ」
 あんただってそうじゃないか。内心でツッコミを入れながらも、キラは渋々ソンネンに従った。

 ソンネンの部屋に通されると、キラは周囲を気にしながら腰かけた。
「そう警戒するな。兵士なんて隠れてねえよ」
「なぜこんな事をするのです?」
「ああ、それは……く、くく……」
 突然ソンネンは苦しみだし、その手は何かをまさぐるように動いた。キラは唖然とその光景を目にしていると、
彼はピルケースを取り出し、錠剤のようなものを飲み下す。
「ぐぐ……くっ……。へへっ、ドロップだ。食うか?」
 ソンネンが差し出したピルケースを見る。ドロップと言ってはいるが薬であるのは確かだ。ドロップという
表現は冗談なんだろうが、キラにはその薬が何なのか見当もつかなかった。
「病気ですか」
「病気……そうだな。それより……」
 苦しみが治まったのか、ソンネンはキラを目を見ながら助けた理由を口にした。
「お前に似た奴を知ってる。現実から逃げて、人生をただ生きてる負け犬……そいつと同じ目だ」
「逃げて悪いんですか!?」
 キラはソンネンを睨みつけると激高した。
「そうだよ! 怖いんだ、僕はっ!! でもしょうがないでしょっ!!」
 キラは感情の赴くままに語りだした。自分がどうしてあんなところに居たのか。
 ヘリオポリス崩壊、MSに乗るようになった経緯、そしてアスランとの再会。
「僕だって、皆を守るために頑張ったんだ……っ!」
 あの“赤い彗星”と対峙し、キラは死を覚悟したこともソンネンに話した。連合のエースであるムウや
親友のアスランを一蹴したあの姿は忘れられない。
 そんな危機的状況から生き残ると、今度はコックピットに入る度に体が震えだす。軌道上での戦闘も、
何とか勇気を振り絞って出撃していた。
「それなのに……あの人はっ!」
 ナタル・バジルールは自分の働きをなんとも思っていない。
「だったら自分でやってみろ……そう思って……」
 うずくまると、また体が震え始めた。
「チクショウ……」
 そんなキラをソンネンは無表情で眺めると、立ち上がりシャツを放り投げた。
「砂漠の夜は堪えるぞ、泊まってけ。ベットは貸してやる」
 キラが話終わる頃には日が沈み始めていた。
「それから、明日家に帰れ!」
「今更帰れませんよ……」
「バカ野郎。お前は自分からMSに乗ったんだろ。自分の正体まで晒して」
「……それは」
「お前には責任があるんだよ、MSに乗るって言った瞬間からな。甘ったれた事言ってんじゃねえよ」
「……」
「とにかく、明日出て行け」

 同じ時間、タッシルから北に数十キロ離れた地点で巨大な機影がうごめいていた。
 光る6つのモノアイが周囲を警戒している。
「で? 間違いないのかい」
「はい。同じものです」
 そう答えるダコスタにバルトフェルドはため息混じりにつぶやいた。
「何のつもりで、こんなとこに放置したんだか……」
「ナチュラルの考えは分かりませんよ」
「……兎に角、進撃は一時中止だ」
「しかし……」
「これをこのままにしておくかい? そういう訳にもいくまい」
「はぁ」
「早速だけどダコスタ君。戻って作業用のザウートを持って来てくれ」
 命じられた副官の足元には、機体の半分が砂に埋まったスカイグラスパーが横たわっていた。