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Zion-Seed_51_第27話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 17:45:46

 地球衛星軌道上に無数の艦艇が浮かんでいた。その数は20隻強。一個艦隊とほぼ同数が並ぶこれら全てが
ザフトの艦艇である。敗戦続きのザフトの中で唯一ジオン相手に抵抗していた“砂漠の虎”の敗北はプラントに
衝撃を与えた。“虎”が居たバナディーヤを落とされたのは、ジブラルタル基地への扉が開いたことを意味する。
焦ったプラント評議会は、急遽地上に増援を送ることを決定。途中ジオンの襲撃に備え、一個艦隊の戦力を投入
してまで地上の戦力を増強しようとしていた。
 その中の1隻であるヴェサリウスの通路にアスラン・ザラはいた。ロッカーで着替えを終えた彼は、ヘルメットを
腰に抱えながら格納庫へ向かう。

「久しいなアスラン」

 背後からの懐かしい声に思わず振り向くと、そこにはかつてのクルーゼ隊のメンバーがいた。

「イザークにディアッカ!」

 ラクス・クライン救出劇以来、アスランはプラント本国で取材という名のプロパガンダに振り回されて隊を
離れていた。このために3人が会うのは実に1ヵ月ぶりだ。

「休暇はどうだった?」
「よせよ。あんなの休暇じゃない」
「貴様のことだ。我らが歌姫と仲良くやってたんだろう」

 言いがかりである。ある意味皮肉なのだが、ここまで言われれば腹も立たない。

「勘弁してくれ……」

 あの“凱旋”以来、イザークは変わった。エリート意識丸出しのイザークはよほどこの敗北に堪えたのだろう。
1度目の敗北の後はシャア憎しといった具合で周りがまったく見えていなかったが、2度目の敗北後、紳士的な
シャアの振る舞いに何か惹かれたらしく、自身の感情を表に出ることが少なくなった。
 自身がMS隊隊長となったことも合わさって軍人としての自覚が現れ始めたようだ。

「これでニコルがいればそろったんだがな……」

 ニコルは“ジオンの拷問”に遭って目に障害を持った――らしい。

「プロパガンダか……母上達は何をやっておるのだ」
「しょうがないでしょ。宇宙じゃ負けてるし、地上も怪しいし……」
「フン!」

 不機嫌そうに腕を組む。
 戦友との出会いに地が出ているようだ。

「父上達も苦労してるんだ。だから今回の地上への増援が行われる訳だし」
「しかし、なんでアスランは降下部隊に志願したんだ? 英雄様なら本国でゆっくりできるのに……」

 アスランは返答に詰まった。地上に行けば連合に所属するキラに会えるかもしれないと考えたからである。
キラに「次の機会に話そう」 などと偉そうなことを言っておきながら、アスランはすっかり忘れてたのだ。
今回の志願が無ければその記憶は忘却の彼方へ向かっていただろう。今回の降下部隊への志願理由がそんな
私情であることをイザークが知ったら……。
 とりあえずアスランは話を逸らすことにした。

「そんな事より聞いたか。クルーゼ隊長の件……」
「ああ。どうなっているのかサッパリ分からん」
「……何のことだ?」
「知らないのかイザーク? 隊長が特務隊所属になったことだよ」

 イザークは驚きのあまり絶句した。特務隊とはFAITHと呼ばれるプラント最高評議会議長直属のトップ
エリートである。評議会議長もしくは国防委員会に認められた者が任命され、その権限は一般の部隊指揮官
より上。現場レベルにおける作戦の立案及び実行の権限までも持つ。これらの高い権限から政治将校に近い。

「クルーゼ隊長がっ! ウソじゃないだろうな!?」
「本当だ。俺も聞いたときは耳を疑った」
「いくらなんでも……まさか金か?」

 酷い言われようだが、査問会に呼び出されたクルーゼは兵達の間で“ヘリオポリスの責任を取らされた”や
“アマルフィ議員の怒りを買って更迭された”といった噂となりゴシップのネタにされていた。クルーゼ自身は
自宅に引きこもっていただけなのだが……。実際はデュランダルがシーゲル他クライン派に働きかけ、クルーゼ
をFAITHとして議長直属とした。

「しかも議長はラクスの護衛役として隊長を使うらしい」
「ナ、ナンダッテーッ!」






――――第27話






 リードはコムサイを地上に降ろすと直にギャンを動かすようプレアに指示した。降りた島は木々が生い茂って
いる。MSと言えども頭が出ない有様で、機体を隠すには好都合だ。空中からの探索では見つけられないだろう。
問題なのは近辺に味方は一人もいないこと。元連合のリードは広い情報網を持っているがここはオーブ近海だ。
連合の船はまずお目にかかれない。そうなると同じ傭兵仲間に期待しなければならないのだが。

「ダメだ! 火の振りかからねえ所には傭兵がいねえ」

 平和の国と呼ばれるオーブでは傭兵のいることが稀であった。

「ジャンク屋なら腐るほどいるが……待てよ」

 リードはコンソールを操作するとオーブに立ち寄っているジャンク屋リストを開いた。その中で知った名を
見つける。

「やっぱりだ! ロウの野郎、オーブにいやがる」

 ロウ・ギュール――サーペントテールとはある事件で知り合ったジャンク屋の男である。ブルーの兄弟機である
レッドフレームの持ち主で、MSの腕も中々の者だ。

「頼むぜ。迎えを寄こしてくれ」

 シャア相手ではさすがに見劣りするが、藁にもすがる思いでロウに電子メールを送った。ジャンク屋の船なら
オーブに立ち寄ることができる。そうなればジオンも手出しはできない。

「後は迎えが来るまで時間を稼ぐだけだ」

 拳銃の安全装置を外すとコムサイから降りる。既にプレアはギャンを運び出していた。これからのプランを
話すとプレアは申し訳なさそうに頭を下げる。

「貴方達への依頼は地球に降下して完了したのに……」
「気にするなよ。アフターサービスってやつだ」
「いえ、これ以上迷惑はかけられません。ここからは僕一人でなんとかします」

 何かを決意ような目でリードを見つめる。プレアはリードにこれ以上は任せられないと考えていた。傭兵で
ある彼の任務は既に完了している。だからこそ地上に降りてからは自分自身の力で核融合炉をマルキオの下に
運ぶ使命を全うしなければならない。そんな義務感がプレアを動かした。

「身を隠すところも多いですし……」
「バカを言うな!」

 身を隠しやすいといっても、全長20メートルを超えるMSが動けばその痕跡が確実に残る。それを追われれば
発見はたやすい。しかも相手は赤い彗星のシャアであり、ギャンと同じ核融合炉を内蔵したゲルググに乗って
いるのだ。銃しか持たないリードでは役に立つとは思えないが、それでも子供を一人で放り出す程愚かではない。

「お前な、一人で何とかなると思ったら大間違いだぞ!」
「僕は大丈夫です。導師様はそう言っていました」

 リードはめまいがした。一体何がプレアをここまで突き動かすのだろう。この子は何の根拠もなしに自分は
死なないと確信している。それが運命であるかのように……。

「ダメだ! 子供は大人に言うことを聞きやがれ!」

 リードは今回の依頼者であるマルキオに疑念を懐いた。
 彼はこの幼い少年に何を吹き込んだのだろう。






「ダメですね。中身は空っぽです」

 リカルドが拳銃をホルスターにしまいながらコムサイから出てくる。

「MSの跡があるのでそれを追うしかありません」

 コムサイの発見は容易だった。コムサイが着陸できそうな島を探せばいい。オーブに直接降りることも考え
られるが、コムサイは傭兵の所有物である限り着陸は不可能だ。あの国は理由なき入国を認めていない。
 ジャンク屋ならば別だが、傭兵が宇宙から降りてきても直ぐに追い出されるだろう――裏で動いているのが
オーブなら話は別だが。

「しかし、この木々だと空からの探索は無理ですね」
「つまり中佐のゲルググと俺のザク改だけで探すのか……」
「俺のザクは……」
「リカルド少尉の機体を直すには、早くても3日は掛かりますよ」

 ガックリと肩を落とすリカルド。そんな中、シャアは修理したゲルググを見上げる。

「ゲルググの調子はどうか?」
「問題ありません。関節を取り替えただけですからね。シールドも予備があります」
「よし……アンディ、お前はザンジバルの護衛をしろ。探索は私が行なう」

 自機を確認したシャアはアンディに言う。

「中佐だけで!?」
「リカルドの機体は使えない。そうなると戦力はゲルググとお前のザク改だけだ。手分けをして探索すれば
効率は良いが、ザンジバルが襲われる可能性も考えねばな……」

 この島から一番近い基地となると日本になる。ザンジバルを失えば救援も難しい。

「アンディに護衛を任せる」
「しかし中佐一人で大丈夫ですか?」

 いくらシャアといっても地上戦の経験は少ない。ゲルググも地上運用も前提にした機体だが、本格的な戦闘
は今回が初めてだ。

「見縊ってもらっては困るな」
「こりゃヤブヘビでしたかね」

 細かい指示をマリガンにすると、シャアはゲルググに搭乗した。

(アンディには悪いが……)

 ああ言ったものの、相手がNTなら足手まといにしかならない。ララァと同じ真のNTかもしれない相手はこの
島の何所かにいる。それがシャアを緊張させたが、相手にとって不足は無い。捜すにしても、自分がNTとして
覚醒しているなら、相手の存在を感じ取れる筈だ。

「やってみるさ……」






 同じ頃オーブではMSが演習を行なっていた。赤いガンダムタイプが4機。その中でやや形状が異なる機体が
レッドフレームだ。

『ロウ、メールが来てるぞ』

 ハチのモニターにその内容が映し出される。

「なんだぁ? リードのおっさんからだ。なになに……」
「ロウコーチ! 何してるんです!?」

 演習中にも拘らずいきなりメールの確認をし始めたロウに他の3機から通信が入る。ロウはそれを無視して
メールを読み終えると、その3機に向けて叫んだ。

「……お前等! 演習は一時中止だ!!」
「ちょっと! 何言い出すのよロウ!」

 抗議も無視し、一目散に船がある港を目指す。港は新しい船“リ・ホーム”の搬入をしていた樹里は、駆け
込んでくるレッドフレームに唖然した。

「ロウ! アンタ演習は!?」
「ピートリーを出すぞ!」

 ピートリーはアフリカの砂漠で放置されていた中型陸上戦艦である。地上での足代わりだ。

「何で?」
「リードが迎えを寄こせって行ってるんだ! ジオンの新型MSを手土産にな!!」

 そう言ってメールを見せる。仲間の一人であるリーアムは読み終えたがいい顔をしなかった。

「待ってください。ここに――ジオンの襲撃もありうる――と書いてあります。浅はかな行動は……」
「バカヤローッ! ジオン製だぞ! あの脅威のメカニズムをこの目で見なくてどうすんだ!!」
「しかしこれは危険です。行くのなら入念な準備を……」
「直に行くぞ! 船を発進させろ!」
「な、何故私の意見を無視するのですか……?」

 ロウはリーアムの愚痴にも聞く耳持たず、樹里と共にピートリーへ乗り込んだ。






 コムサイを離れて森を彷徨う鬼ごっこは2時間が経過した。

「海岸に出てくれませんか?」
「待て、そんな事をしたら発見されるぞ」

 プレア達は密林の中を移動し続けたおかげでシャアの追撃をかわしていた。むやみに森を出ると高台から視認
される恐れがある。

「リードさんが呼んだのは船なんですよね。なら海岸線に出て、こちらの位置を教えないと……」
「そうだな。だが何時来るかが分からんと合図のしようもない」
「ですから、リードさんだけで海岸に出て欲しいんです」

 プレアの意見は至極最もである。確かにリードは救援を呼んだものの、通信設備の整ったコムサイはジオン
軍の手に渡ってしまい、連絡手段は皆無だ。しかしリードはプレアの言葉に違和感を感じた。先程から視線を
合わそうとしないのだ。

「合図があれば直ぐに駆けつけますから」

 何かたくらんでいるような仕草が見え隠れする。しかし――

「……分かった」

 どちらにせよ、このままではこの島から脱出することもままならない。リードはプレアの案を承認し、コック
ピットから出て地面に降りると、確認するように叫んだ。

「いいか! 絶対に赤い彗星と戦おうなんて思うなよ!」
「分かってます!」

 それを聞くとリードは仕方なしに海岸へ走った。後ろ姿を見ながらプレアは小さく何かを呟いたが、リードに
それが聞こえることはなかった。






 プレア・レヴェリーは連合によって作り出されたクローンである。
 優秀な兵士を作り出そうと考えた連合は、高い空間認識能力を持つメビウス・ゼロ部隊の一人から細胞を採取し
クローンを作る実験を行った。培養装置の中で生み出されたクローンに成長促進剤を投与し無理矢理体を成長
させ、パイロットとしての教育を受けさせる。これはかつてのソキウス計画をナチュラルで行うというものだ。
 この実験が成功すれば連合は短期間で従順で優秀なクローン兵士が誕生する――筈だった。実験が最終段階に
入ると、致命的な欠陥が分かった。無理な成長を行った反動なのか、クローンの身体機能に低下が見られたの
である。シミュレーションでの成績は優秀だが、実機を使った戦闘だとGに耐え切れないのだ。
 この結果に計画は即座中止された。実戦で役に立たない兵士など、軍にとって何の価値もないからだ。そして
それは戦いの道具として育てられたプレアにとっての死を意味していた。
 そんなプレアを助けたのはマルキオ導師である。連合に影響力を持っていたマルキオは、プレアを拾い育てた。
そしてSEED――優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子――を持つ救世主の存在を教えると
マルキオはプレアにこう言った。

『運命を背負った存在ですよ。貴方のようにね……』

 プレアが自分自身はSEEDを持つ存在だと直感したのはそれだけで十分だった。
 自分には不思議な力がある。
 並外れた動物的直感と空間認識能力。
 この二つを兼ね備えたプレアは、戦場で敵を視認することなく気配で探知し、その機動を読み、一方で敵の
攻撃を察知して回避するなど、体の弱い子供とは思えない力を持っていた。この力がSEEDならば、自分が生ま
れてきたことには何か意味があるはずだと考えたプレアは、以来マルキオの言うことは何でも聞くようになる。
 だがプレアにも疑問はあった。自分はクローンであり、自然な形で生まれた人間ではない。そんな自分が
SEEDを持つというだけで世界を変えられるのか?疑問が不安に変わる頃プレアはシャアに会った。そして彼が
自分と同じ力を持っていることを知る。
 この出会いはプレアを奮い立たせた。シャアこそが世界を変える人物だ。そして自分の使命はシャアをザビ
家の手から救い出すことなのだ。そうとなれば直にシャアを説得しなければならない。

「僕はあの人に会わなければ……」

 必ず分かってくれるはずだ。彼はあのジオン・ズム・ダイクンの子なのだから……。

「ごめんなさい」

 リードの後姿を見ながらそう呟くと、プレアは来た道を引き返した。






 ゲルググが一歩、また一歩と森の中を進む。歩くごとに脚が土の中にめり込んだ。森の木々は、太陽の光を
求めて高い位置に葉をつける。そのため地面は暗く、じめついている。
 シャアは地球に住んでいた時期があった。士官学校を卒業して間もない頃、シャアはガルマをたきつけて国連
軍基地を急襲したことがある。それが明るみとなって予備役に入っていた間、地球で土木作業をしていたのだ。
この経験は地上におけるMS戦に生きると考えたが、この島ではあまり関係ないようだ。

「そううまくはいかんな」

 葉の間から光がこぼれ落ちている。目標は森を抜けたようだ。何故己の身を晒すような行為を犯すのかシャア
は理解できない。

「何だ……?」

 そうなればトラップが仕掛けられてるはずだが、逃走しながらでは困難である。地雷を埋める時間があるなら
逃げる方が効率がいい。仮に仕掛けるにしても対MSとなると人手がいる。相手はギャンに乗るNTとサーペント
テールが5人の計6人。宇宙船に乗っていた2人、MSを動かしていた劾ともう1人を含めた4人は降下してい
ない。ギャンに搭乗しているNTを除けば傭兵は後1人いる計算になるが、この人数では設置など無理だ。

「誘っているのか」

 リカルドとの戦闘を見たシャアはの第一印象は“でたらめ”であった。実戦を知らない新兵の動きと言える
だろうが、それは時として恐ろしく感じてしまうことがある。プロになればなるほど、戦いの限界も見えるし
無茶もしなくなる。だが素人は何が危険で、何がそうでないかを知らない。リカルドの敗北は相手がNTである
だけでなく、素人故の敗北とも言えよう。

「いるな……直ぐそこに……」

 シャアは森を抜けたところにあのNTがいることを感じたが、

「悪意は感じない。これは……やさしさ、か? バカな……」

 シャアには相手は一体何を考えているのか皆目見当が付かなかった。戸惑いながらも機体を動かし森を抜ける
と赤い機体に太陽の光が降り注ぐ。日に当たった赤いゲルググは華やかだ。いや華やかすぎた。通常なら機体
に迷彩でも施すのだろうが、赤色にジンクスを感じているシャアは地上でも色を変えようとはしない。

「……むっ」

 そんな赤い機体を待ち構えるように、白銀のMSは立ち尽くしていた。シャアはゆっくりとゲルググを近づ
けるが、次に見たのは驚くべきものだった。ギャンの腹部にあるコックピットが開かれ、搭乗者が顔を出して
いるのである。

「こんな子供がっ!」

 ギャンのパイロットがまだあどけない少年であることに驚愕する。
 まだ若いとは思っていたが、彼――プレアは若すぎた。

「君は自分の立場が分かっているのか?」

 とりあえずプレアを値踏みするようにシャアは言った。

「貴方にとって僕はMS強奪犯なのでしょう」
「……強奪犯の1人ではないのかな?」

 子供にダイクン派と接触して新型MSを強奪するような大それたことを計画できるはずがない。彼自身は
運び役であり、真の首謀者が裏にいるはずだ。

「君はただの運び屋だ。指示を出した人間がいるはず」
「確かに。でも言ったら捕まえるでしょう? あの方は世界に必要な人です。喋るわけにはいきません」

 言葉に違和感を感じる。名前を話さないのは分かりきっていたが、後の言葉は何だ?
 ――あの方は世界に必要な人です。
 少年は首謀者を盲目的に信じているようだ。しかしこの言い方は異常である。

「……まあいい」

 気を取り直し、質問を続ける。

「MSを奪ってどうするつもりだ?」
「僕はMSをどうこうするつもりはありません。必要なのは核エネルギーです。これさえあれば
飢餓に苦しむ人々を救えるんですよ」

 地球は深刻なエネルギー不足に陥っている。投下されたNJによって原子炉の核分裂が抑制され、活動が
停止されているのだ。各国、核以外の方法で何とかしようとしているが、やはり限界がある。そんな中で、
NJの干渉を受けない核融合炉に望みを掛けるのも理解できるが……。

「腑に落ちんな」

 確かにこの状況下で核融合炉の存在があれば、多くの人間を助けることができるだろう。しかし、核融合を
扱うには相応の知識が必要不可欠。ジオンは融合炉の開発に成功し、ミノフスキー博士の助力もあって小型化
に成功した。
 それに対し連合は融合炉の小型化はおろか開発段階で頓挫している。プラントや他の中立国も同様にだ。
融合炉を手にし量産しようとしても一から解析しなければならない。
 彼の言う“人々を救う”を実行するには知識・技術・生産力を兼ね備えなければ不可能だ。

(首謀者は何らかの組織のトップだな)

 連合やプラントではない。もしそうなら傭兵を使うことはしないからだ。

(そうなれば中立国……やはりオーブか?)

 モルゲンレーテの技術力は地球でもトップクラス。部分的には連合やプラントの技術を凌駕している。

(もう少し探ってみるか……)

「今度は僕の質問に答えてくださいシャアさん、いやキャスバルさん」

 少年の言葉がシャアを苛立たせた。

「大丈夫です。ここには僕しかいません。傭兵さんには離れてもらってます」

 そういう問題ではない。この少年は自らが口にした言葉の意味をまったく理解していない。もし“キャスバル”の
存在がザビ家に知れたら自分はおろか少年の命も危うくなるのだ。

「今の世界は憎しみの連鎖がおこっています。ナチュラルとコーディネイターは互いが互いを差別しあう。そんな
連鎖をどうすれば断ち切れるでしょう?」

 身振り手振りを入れながら話す姿はまるでギレンのようだ。不愉快極まりない。

「僕はあるお方からその方法を教わりました。でもその為には己から憎しみを取り除かなければならないのです!」

 話が見えない。この少年は何を言ってるのか。

「復讐という増悪に取り込まれてはいけません!」
「……?」
「貴方は……キャスバルさんは世界を変えられる人です!」
「何を言っている!」
「世界から憎しみの連鎖を断ち切るにはSEEDを持つ貴方の力が必要なんですよ!」

 プレアの言葉にシャアは呆れた。
 この少年は自分を救世主か何かと勘違いしてるらしい。

「ずいぶん自分勝手な物言いだな……」

 自分はザビ家打倒のためジオン軍に身を置いたのだ。もう一度ダイクンの旗を掲げるためではない。今は
人類の革新を見届けるためララァと人生を歩むことにしたが、それでも正体を明かす気はなかった。

「私は世直しなど考えていない!」

 そもそも自分が正体を明かしたところで何になる。クーデターでも起こすのか? 第一、ダイクンの息子と
いうだけで人が集まるなど現実にはありえない。ラル家やカーウィン家なら賛同するかもしれないが、両家と
も落ちぶれている。事実上ダイクン派は崩壊状態なのだ。そして今回の事件でダイクン派が関わっていること
から風当たりは更に増すだろう。プレアの美麗賛辞にシャアは珍しく感情的になった。

「その才能を何者かに利用されている者の言うことか!」

 それを合図に、シャアはナギナタを引き抜いた。