Top > Zion-Seed_51_第28話
HTML convert time to 0.007 sec.


Zion-Seed_51_第28話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 18:14:49

「デュエルだ! 誰がなんと言おうと引かんぞ!」
 会議室は2人の男によって騒然とした雰囲気だった。
「貴方も強情な人ですね。ここはストライクを選ぶのがベターな選択です」
 アラスカの地球連合軍統合最高司令部、“JOSH-A”において、連合軍首脳部が会議を開いていた。
議題は、今後の連合における主力MSをどうするか。
 候補に挙がっているのはGAT-X105ストライクを原機とするGAT-01ストライクダガーとGAT-X102
デュエルを原機とするGAT-01Dデュエルダガーの2機である。
「ふざけるな! ザクと同じ性能の機体でジオンに勝てるものか!!」
「火力面ではこちらが圧倒してますよ! この機体にはビーム兵器が装備できるのです」
 その2体を巡って激しい言い争いをしているのがハルバートン中将とムルタ・アズラエル理事だった。
2人は、互いがデュエルダガーとストライクダガーに別れ、機体を推薦したのである。
 本来なら軍首脳部のみで決める筈なのだが、国防産業連合理事であったアズラエルが横槍を入れ、
そこにハルバートンが噛み付いた。ハルバートンは“G”計画の発案者であることと、アズラエルは
そのスポンサーであったことが、他の者を置いてきぼりにして議論されたのである。

――――第28話

 水を一口飲み、一呼吸入れたアズラエルがやや芝居がかった仕草で、話しを始めた。
「確かに、デュエルダガーは良い機体です……」
 デュエルダガーは原機となるデュエルの性能をそのままに引き継いでいる。生産性と稼働時間を
上げるためにPS装甲は備わっていないが、それを差し引いても高性能であった。だが……
「しかし、しかしです。その分コストが掛かる。知ってますか? デュエルダガーの費用はストライク
ダガーの倍なんですよ。だったら数を揃えましょうよ!」
 PS装甲を破棄しても、生産コストは高かった。
 アズラエルは“戦いは数”の考えを持っており、生産性の高いストライクダガーを押していたのだ。
もちろん戦後に途上国へ売ることも踏まえてである。高いデュエルダガーでは買う相手がいないのだ。
「数……と言うがな、MSは兵器だ。兵器である以上、パイロットの育成が必要になる」
 ハルバートンも黙って聞いてた訳ではなかった。
「連合にはパイロットの数がいないし、MS戦術もない。いたずらに数をそろえても意味がない」
「何が言いたいんです」
「私は、MSは万能ではないと考えているのだよ」
 それは“G”計画の発案者とは思えない驚くべき発言だった。
「私の考えはこうだ。宇宙においてはMSの天下だが、地上では違うとな」
 ハルバートンの考えはジオンやザフトを見て出した答えだ。
 確かにジオンはMSを有している。しかし一方で戦車や戦闘機も多数配備している。装甲が厚かろうが、
機動力があろうが、宇宙に対応したMSを重力下で運用するのは難しいのだろう。ザフトもまた、バクゥや
ザウートのようなMSと言うよりMAに近い機体を使っている。
「この事情を踏まえて、地上においては現行の戦車や戦闘機を主力とし、MSは補助にする」
 今は数を揃えるのではなく、パイロットの延命率を高めることに重点を置く。
 これがハルバートンの考えた戦略だった。
「それにストライクダガーを選んでは、メビウスの二の舞になるぞ」
「あれはMAでしょう。MSと一緒にしないでください」
「パイロットがヒヨッコであるのは同じだ!」
「大体、通常兵器で十分と言うならユーラシアに肩入れすることはないでしょう!」
 また議論は白熱し、結局結論は持ち越しとなった。






「くっ!」
「問答無用!!」
 プレアの目に光刃が映った。ゲルググが手にしたビームナギナタが赤く輝く。
「僕達が戦うことはないのにっ!」
 仕方なく搭乗口を閉めるとギャンのOSを起動した。それとほぼ同時に跳躍したゲルググがギャンの
鼻先に着地する。一瞬のにらみ合いの後、互いの剣をかざしあった。
「この!」
「その程度か!」
 シャアとプレアは激しくビームの刃を切り結ぶ。
 一気に勝敗を決しようとするシャアは凄まじい猛攻をギャンに向ける。だがプレアも負けてはいない。
近接戦闘に特化したギャンのサーベルは、ゲルググのそれより出力が高い。そんな機体性能に助けられ、
必死に踏みとどまり、押されては押し返す。
「どうして分かってくれないのですかっ!」
「くだらぬ戯れごとになど付き合っている暇はない!」
 プレアが上段からサーベルを振り下ろすと、シャアは必要最小限の動きでそれをかわす。
「何者かの代弁など、聞く耳持たん!」
 かわすと同時にシャアの一撃が腹部をなぎ払う。
 プレアはなんとかサーベルで防ぎ、ゲルググの剣撃を弾いた。
「違います! 僕は僕の意思で……」
「ならばその意思とやらを示してみろ!!」
 目も眩むビーム光を煌かせながら打ち合うゲルググとギャン。
「これなら!」
 ギャンの重量を利用し、のしかかるように打ち込むプレア。シャアはナギナタでそれを受け止めるが、
剣速と剣圧に圧倒されてしまう。
 ギャンの自重量はゲルググよりも10t以上ある。ギャンの機体装甲が厚く設計されているからだ。
しかし両機の運動性能に差はない。これは駆動方式に優劣が存在するのである。流体パルスシステムを
採用したゲルググより、フィールドモーター駆動を実現させたギャンの方が中身の運動性が上なのだ。
 ゲルググは装甲を薄くし軽量化を図り、代わりにシールドを装備させることで防御力を向上させたが、
シャアは運動性を重視してかシールドを捨てていた。
「どうか投降してください! 格闘戦でギャンには敵いませんよ!」
「……甘いな! その程度の腕でっ!」
 だが格闘戦が有利とて、NT能力に勝るとて、シャアの技量はプレアよりも圧倒的に上回っていた。
「決定的な実力の差を思い知らせてやる!」
 シャアはナギナタへのエネルギー供給を止めた。鍔迫り合いの真っ最中にもかかわらずゲルググの
手にした刃は光を失う。突然のことにプレアは、いきおいあまって突っ伏し、前のめりに体勢を崩す。
「うわっ!」
 プレアが驚いている間もシャアは次の行動に移っている。
 ゲルググがナギナタを片側だけ展開すると、前よりも太さと光量が増していた。リミッターを解除し、
ナギナタ本体のエネルギーを全て片側に収束させたのだ。
 ゲルググは大幅に出力を増した光刃をギャンの盾に突き立てた。すると貫いたビームが盾の中に搭載
されていたミサイルに引火して爆発が起こった。体勢を崩していたギャンは、衝撃で吹き飛ばされる。
「これで動けまい!」
 勝負はその一瞬で決まったと言っていい。
 立ち上がろうとするギャンに体当たりし転倒させたシャアは、その四肢を切り落とすと、止めとばかりに
ギャンの頭部を破壊した。
「終わりだな」
 完全に戦闘不能にしたギャンからプレアが出てくる気配はない。
 シャアは気配からプレアが気絶したのに気づいた。まだ幼い少年には耐えられない衝撃だったのだろう。
「NTを殺めるのは気が向かんが……」
 シャアはナギナタを片手にギャンを見下ろす。
 気絶してくれたのは幸いだ。彼は何も感じないまま死ねるのだから。
 コックピットを狙いナギナタを振りかぶったその時、
「待った!!」
 シャアに予想外の人間が割り込んだ。
 振り向くとMSが森から出てきたのだ。
(“G”!? だが……)
 MSは連合の“G”によく似ていた。正確には劾の乗っていたブルーに似てると言える。
 だが、それよりも機体に付いているマーキングがシャアには気になった。
「そのMS。もう戦えないだろ? なにも止めを刺すこたないぜ」
(……面倒な)
 そのマークはジャンク屋組合のものだった。
 戦争によって放棄された物を回収・修理しリサイクルする者達が集まってできた集団で、あらゆる国家に
対し中立のスタンスを取ってる。
「これは我が軍の問題だ。現時点で君が介入することではない」
「でもよ、パイロットは抵抗できないんだ。わざわざ機体ごと破壊するなんて勿体ないだろ?」
 ――結局それが本音か。
 全てのジャンクはジャンク屋に回収された時点で、その所有権がジャンク屋に移ることになっている。
この男がギャンを回収しようと目論でいるとなると、自分がギャン本体を破壊しようとした行為を見て
いられなかったのだろう。事実、男からは焦りが感じられる。
「残念だが、私は機体の回収が任務でね。見ていてもMSが君の手に渡ることはない」
「ん~、そりゃあ残念だな。でも、やっぱ機体を破壊するのは止めてくれねえか? 頼む!」
「……何故だ?」
「この機体、めちゃくちゃ整備が行き亘ってるんだ。コイツを造った奴は、かなり機体を大切にしてんだな。
ボロボロでも見て分かるぜ。造った奴の思いがよ」
 何が言いたいのか、見当が付かない。
「それを知っちまうと、やっぱ破壊するのは忍びないだろ」
 この言葉に、シャアは構えたナギナタを収めた。
 男に毒を抜かれたのだろう。彼から感じるのはMSに対する愛情のみだ。男を始末するのは簡単だが、
シャアとしても中立の相手を敵に回す必要はない。
 シャアは、男にMSから降りるよう指示すると、ギャンからプレアを救出させた。
「機体は回収させてもらう。その子は……君に任せよう」
 正体を知る者を野放しにするのは気に掛かるが、彼の様子を見る限り、いたずらに喋ることはないだろう。
「おう、任された」
「それと、少年――プレアとか言ったか。プレアが目を覚ましたら言伝を頼みたい」
「なんだい?」
「君はあまりにも視野が狭すぎる。もっと多くの人に触れ合うべきだ」
 自分がララァと出会って分かったように、この少年にも自分の道を導き出してほしい。
「いいぜ!」
「サーペントテールにもよろしく言っておいてくれ」
「おう……あっ!」
 男は自分が致命的なことを口走った。
「やはりな」
 本来、ジャンク屋はジャンクのあるところに現れる。こんな自然豊かな島にいることはまずないのだ。
となるとこの男はプレアの仲間か。
「ええっと……」
「行け。聞かなかったことにしてやる」
「す、すまねえな」
 吃りながら、男のMSは森の中に姿を消した。






 オーブ近海での戦闘から3日――シャアは大破したギャンを回収後、種子島基地へ入港した。
 種子島基地は太平洋に面したジオン公国唯一の軍港だ。表向きはただの飛行場であるが、島の地下には
広大な潜水艦基地が建設され、潜水艦に水中用MSを多数配備している。さらに日本との同盟を踏まえ、
技術指導をする公国開発局の人間が多く滞在していた。
「この度は感謝の言葉もありません。少将がいなければ我々は太平洋で孤立しておりました」
「楽にしていい。ドズル閣下から話は聞いているよ、シャア・アズナブル中佐」
 答えたのは軍人らしくない男だった。顔立ちは整っているが、どことなくやつれた印象を受ける。
「今回の任務はさすがの赤い彗星でも手こずったようだね」
 男の名はギニアス・サハリン。技術指導員を統べる技術少将で、第一世代のコーディネイターでもある。
しかし彼は杖を手にしており、身を委ねながら歩いていた。
「そのようで……少将、御体の具合はいかがでしょう?」
「すまないが心配は無用だ。最近はすこぶる調子が良い」
 ギニアスは深刻な病に冒されていた。12歳のときに宇宙線を浴びる爆発事故に遭ったのだ。医者は曰く、
コーディネイターでなければ死んでいた。それほど深刻なものだった。
「早速ですが、ザンジバルに大気圏離脱用ブースターを取り付けてもらいたいのですが」
「ふむ、残念だがそれは考慮できない」
「何故です。我々の任務は特務であり……」
「アズナブル君。この種子島にHLVは無いのだ」
 HLVとは、軍事用スペースシャトルである。通常一つの基地に脱出用として用意しているはずだが……。
「日本は東アジアの監視が厳しくてね、打ち上げそのものが禁止されている」
 種子島は日本の宇宙開発の中心地となっていたが、東アジア共和国が建国された折に閉鎖されていた。
これは宇宙開発の主導権を大陸側が握りたいが為、共和国主席の一方的な要求である。日本側にとって、
この基地が閉鎖されるのは屈辱の極みだが、当時の政府にこの要求を跳ね除ける力は残されていなかった。
 そんな基地に目をつけたジオンは、太平洋方面への橋頭堡にすべく、島を軍事施設に改造したのだ。
「うまくこの基地を再利用できたが、打ち上げとなると東アジアに察知されてしまう」
 この島にザンジバルが着陸したこと事態、危険な賭けだったのだ。
 もし日本が東アジアに反旗を翻していれば打ち上げも可能だったかも知れないが。
「慙愧に耐えんが、分かってくれたまえ」
「了解しました。……そうなると我々が宇宙に上がるにはバイコールまで向かわなくてはなりません」
「うむ……しかし、ザンジバルで向かうのは危険だ。かと言って、潜水艦でスエズ基地を目指す手もあるが、
現在のインド洋はザフトの水中戦隊が活発になっている。秘密裏に向かうのは難しいな」
 プラントは地上戦力の増強を行っている。インド洋にザフトの潜水艦が多数いるのも、ビクトリアへ兵を
輸送しているからだろう。だがこうなると、困るのはシャアだ。このままでは宇宙に上がる方法が無い。
「安心したまえ。言っただろう、“ドズル閣下から話は聞いている”と」
 ギニアスは何やら封筒から書類を出すと、その書類をシャアに渡した。
「休暇届……?」
「そう、休暇届だ」
 ギニアスの言葉は答えになってない。
「意図が読めませんが」
「ふっ……そこに書いてあるとおりだ。ドズル閣下は休暇を取るよう命令してるのだよ」
 なんでもドズル曰く“シャアは働きすぎ”だそうだ。度重なる任務に温情を与えたくなったのだろう。
 それにしても休暇か。言われてみれば開戦以来、シャアは一度として休んだことが無い。バイコールへ行く
にしても難しいとなれば、これはいい機会かもしれない。
「協力できることがあれば何かするが?」
「……では――」
 ギニアスの好意を聞き、シャアはある考え得た。この間にプレアを裏で操っていた人物を調べてしまおうと
思いついたのだ。この人物はおそらくオーブに居るだろう。そうなれば目立たない足が必要だ。
「――この基地の潜水艦を一隻、貸してもらいたい」