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Zion-Seed_51_第29話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 18:15:41

『ノリス、久しぶりです。
 元気ですか? 私はとても元気です。

 ―― 中 略 ――

 ノリスはシャア・アズナブル中佐と会ったことはありますか。
 実はその赤い彗星が今基地にいるのです。なんでも休暇だとか。
 私は始めてお会いしたのですが、名前のとおり全身赤いんですね。
 話は変わりますが、最近兄の様子が変なのです。
 シャア中佐の持ってきたMSを直視しながらブツブツ呟いて……』




――――第29話




 月に一度送られてくるビデオメールを見て、ノリスはため息を吐いた。
「ギニアス様は何をやっておるのだ」
 そうは言うが察しはついていた。赤い彗星ともなれば、搭乗機は新型かカスタム機となる。技術畑を
出たギニアスにとって、エース機に宛がわれる新技術に目がないのだ。おそらくアズナブル中佐のMSは
かなり珍しい機体だったのだろう。
 ギニアスは、自身が提案した巨大MA構想が却下されて以来、その考えを180度方向転換した。従来の
ザクをより高性能な機体にすることに躍起になっているのだ。何故ここまで考えを変えたのかは不明で、
ノリス自身が確認したところ彼はこう答えた。
『創造してみたまえ。宇宙に浮かぶ無数のザクが、一斉にビームを撃つ姿を……』
 本国ではゲルググが次期量産機に決定したのだが、ギニアスにとってはザクでなくてはいけないらしい。
「困ったものだ」
「ノリス大佐。こちらでしたか」
 煙男の仇名を持つコート・ファルケンバーグ中佐がノリスを呼んだ。
 ファルケンバーグは国防軍時代から軍籍にあるベテラン兵で、ノリスの古い友人でもある。
「マ・クベ中将がお呼びです」
「……いよいよか」
「そのようです」
 オデッサ鉱山基地。
 ウクライナ近辺、黒海沿岸部にあるジオン軍の拠点である。膨大な地下資源産出量を誇るこの基地は、
ジオンの生命線とも呼ばれていた。
「パッカード大佐、入ります」
 扉を開けると、そこには豪勢なメンバーがいた。欧州方面軍司令ユーリ・ケラーネ少将、極東方面軍
司令ガルシア・ロメロ少将、ロシア方面軍司令ウォルター・カーティス准将、遊撃部隊司令ダグラス・
ローデン大佐、他佐官クラスも数多くいる。ユーラシアに布陣する将校が一同に揃っていると言えよう。
いないのはアフリカ方面軍のガルマ・ザビ少将とノイエン・ビッター少将ぐらいだ。
 そんな錚々たる中で中央の席に腰掛けていたのがオデッサ基地最高司令官のマ・クベ中将であった。
 バナディーヤ陥落後、マ・クベ中将は捕虜にしたザフト兵を引き連れてオデッサまで戻ってきたのだ。
元々オデッサの最高司令官はマ・クベであるのだから当たり前であるのだが、今まではアフリカ戦線が
膠着したこと、更にその指揮を取っていたのはザビ家の四男だったことが重なり、キシリアへの忠誠から
オデッサへ戻ることができないでいた。そんな中でガルマがバナディーヤを制圧し、砂漠の虎を撃破した
ことにより、ようやく大手を振ってオデッサへ戻れたのである。
「全員集まったな。では軍議を始めよう」
 ノリスが席に着くと早速マ・クベが本題を口にした。
「今日集まってもらったのは他でもない。ユーラシアの大攻勢についてだ」
 ――やはりそうか。
 ノリスは薄々気づいていた。いや、ノリスだけでないだろう。敵軍の攻勢が近い場合その兆候は随所に
現れる。事実、連合の輸送機がドーバー海峡を頻繁に往来するのが確認されているし、通信の量も急激に
増えていた。たとえその暗号が解析できなくてもかなりの推測は可能なのだ。
「敵軍はユーラシアと大西洋。大半はユーラシアの戦力だが、大西洋からMS部隊が増援として来ている」
「MS部隊ですか? こちらではまだ試作段階と聞いていましたが」
「それはヘリオポリスの機体だろう。量産型は大西洋本土ですでに開発されていたらしい」
 連合のMS部隊。これはジオン軍にとって新たな戦局に入ることを示した。今まで対MS戦闘はザフト
を相手したのみとの考えから、連合に対する油断があったと言える。冷静に考えればジオンとザフトが
MSを兵器として利用しているのだから、連合もMSを開発するのは予想できたことだろう。だがこんな
にも早く量産を可能にした連合の国力に、将達は感心するしかなかった。
「軍勢はドイツ及びルーマニア方面から送り込まれてくる。本隊はドイツ方面からだ」
「そんな詳細な情報をよく知りえたな、中将殿」
 意味ありげに階級を述べるのはユーリだ。
「……戦いに必要なのは情報なのだよ。少将」
「なるほどな。で? プランはあるのかい、中将殿」
 マ・クベはキシリアに取り入って今の地位を手にしたと噂されており、そのような姑息な方法を使って
出世をするマ・クベをユーリは快く思っていなかった。
「ある」
「聞かせてもらおう」
 マ・クベの戦略は第一次防衛ラインをプラハに敷き、その後戦線を整理しつつ後退。キエフまで誘い込み、
オデッサとハリコフからの部隊で包囲、殲滅すると言うものだった。
「前線は欧州方面軍、それに外人部隊に支えてもらう」
「そいつはいい。だが……」
 問答無用で最前線送りを通告されたユーリは笑みを浮かべながらマ・クベを睨んだ。
「ブタベストの戦力が不十分だ」
 戦力配置図を見ると左翼側の兵力は中央と右翼側と比較して異様に薄かった。
「これじゃあ、包囲する前に包囲されちま……」
「その通りだ! 一体なにを考えているのだクベ殿はっ!!」
 大声は発したのはガルシア少将。理由は不明だが、何かとマ・クベを敵視している男だ。
「真面目にやってもらいたいものだ!」
「……ガルシア少将。少し落ち着け」
 横に座るウォルターが止めに入るが、ガルシアはここぞとばかりに捲くし立てる。
「こんな穴のある作戦なんぞ認めるべきではないわ! 認めてほしいなら理由を言え! 理由を!」
 そうは言ってもガルシアは喚き散らし、マ・クベに反論の機会を与えない。
「さあ言ってみろ! 言えんのか! 如何なのだ!」
「スパイでもいるのだろう」
 収拾がつかないところで一言発したのは最年長のダグラスだった。
「マ・クベ司令は、連合のそれなりの指揮官を抱きこんでいるのではないか」
 ダグラスの言っていたことは筋が通っていた。連合に裏切り者、それもかなり上のレベルに裏切り者が
いれば、左翼側のルーマニア方面軍が攻撃しないことも考えられる。敵の戦力配置が分かるのも頷けた。
「諸君らの想像におまかせしよう。他に質問は?」
「もしもの時の増援要請には応えてくれるんだろうな」
「当然だ。既にドム二個中隊をオデッサに配備している」
「……そんな戦力があるなら、前線に回してほしいものだな」
 ドムの進行速度と最大移動距離はザクの倍以上ある。救援機として即座に行動できる機体としては、
オデッサ基地に配備するしかなかった。
「……それでは、各員一層の努力を求む」






「失礼します」
 軍議を終えたノリスは、ケラーネと共に前線へ向かうべく準備をしていた。そこにマ・クベの副官である
ウラガン中尉が自分を呼びに来た。何でも内密な話があるらしい。
 執務室に入ると、マ・クベは自分のコレクションである白磁の壺を磨いていた。
「良い物だとは思わんか?」
「ハ? ハァ……」
「貴公に芸術は分からんか……掛けたまえ」
 言われるがまま席に着くと、マ・クベを見やった。
 この冷徹な司令官は自分に何の話をするというのだ。
「何の……用ですか?」
 ノリスは探るように言った。
「そう警戒するな」
 マ・クベは磨き終えた壺をウラガンに渡すと、自身も席に着き、ノリスと向き合う。
「呼んだのは他でもない。部隊の配置場所を変更する」
「配置場所ですか?」
「貴公の部隊は、今作戦においてこの場所に陣取ってもらう」
 マ・クベの指差した地点はキエフの北にあるミンクスだった。鉱山地域の手前に位置する場所である。
「……私の隊が鉱山の防衛、ですか」
「そうだ。この位置で北部からの軍勢を押さえてほしい」
「北部? 敵軍は東部からのみ侵攻すると、軍議で仰せられた中将ですぞ」
「敵軍が攻め込んでくる情報を得たのだ。貴公も知っておろう、例の木馬だ」
 木馬――連合で開発されたMS運用艦のコードネーム。
 ヘリオポリスを出港し、赤い彗星の追撃を経て地球に降下したと聞いていたが、その木馬が作戦に参加
していると言う。
「しかし、分かりませんな」
 疑問を投げかけるノリスに、マ・クベは無表情のままだ。
「新造艦とはいえ、少々大げさではありませんか」
 確かにMSを運用している木馬が北方から攻めてくれば、ジオンの構築した防御陣が崩れる可能性がある。
しかし相手はたった一隻の軍艦。搭載できるMSも二個小隊、多くて三個小隊ぐらいだろう。奇襲された
のなら分かるが、情報は既に得ている。ならば自分が出ずとも基地防衛隊だけで対処可能ではないのか。
「貴公は、その一隻の軍艦が砂漠の虎を破った、と聞いても同じことが言えるのか」
「……砂漠の虎を破ったのはガルマ様では?」
「表向きはな」
 バナディーヤの占領は、本国やジオン軍の占領地域に広く知れ渡っていた。
 何と言ってもあのザビ家のお坊ちゃんが名将バルトフェルドを破り、捕虜にしたのである。親の七光り
で昇進したと囁かれていたガルマの評価は軍人たちの間で一変した。ノリスもその一人だった。
「ガルマ様がバナディーヤを占領する前に虎は敗れていたのだよ。木馬によってな。我々は行ったのは、
弱って満身創痍のザフト軍を包囲し、降伏勧告をしただけに過ぎん」
 もちろん迅速に軍勢を動かしたガルマの判断力は評価されるべきだが、そのガルマを数ヶ月に亘って
苦しめたバルトフェルドを、たった一隻で破るとは。
「さらに同じ艦がもう一隻来るそうだ」
「木馬の同型艦!?」
「それを貴公に撃破してもらう」
 やっと自分が呼ばれた訳を知った。自分はオデッサでも上位に位置するパイロットだからだ。
 だがマ・クベの言葉には腑に落ちない点もあった。
「このような情報を何故軍議で……」
「貴公にはドム二個中隊を預ける。確実に木馬を落とせ」
 ノリスの言葉を待たずして発したのは部隊の増強であった。しかも“ドム二個中隊”をである。
「御待ちください。その戦力は前線への救援機では……」
「北部に敵軍が見つかった。防衛の為にドムを向かわせる。ただそれだけのことだ」
 人は常に安心を求める。自分の後ろに最新鋭機のドムがいるのといないのでは、前線の兵たちの心情は
大きく変化する。マ・クベはそこまで読んだ上、軍議で出さなかったのだ。
「私はケラーネ少将を買っている」
「しかしこれでは……」
「傍らのローデン大佐も老練な戦略家だ。増援は必要ないだろう」
 その言葉にノリスはマ・クベの策略を全て理解した。初めから救援など出す気がないのだろう。
 ドズルの配下であるユーリと外人部隊の長ダグラス。
 マ・クベにとって二人は捨て駒以外の何者でもないのだ。キシリア派であるマ・クベはドズル派を嫌って
いるし、外人部隊は名の通り本国出身者ではなく移住者で構成されているからだ。ここにガルマが居れば
このような派閥間の争いは行われなかっただろうが……。
「それともう一つ。優秀な兵を貴公に与えよう」
 机の引き出しから書類を取り出すと、それをノリスに手渡す。
 受け取った書類に目を通すと、思わず目を見開いた。何故なら嘗てフラナガン機関から連れて来られた
赤目の少女の写真が貼られているのだから。
「貴公が受けたくないのなら別の者……そうだな、ニアーライト少佐にでも頼むが?」
「引き受けさせてもらいます」
「それが正しい答えだ、パッカード大佐」
 指で壺を弾いた音色が、部屋に響きわたった。






 ハルバートンはヘブンスベースに戻ると、旧友と共に飲みに出ていた。
 結局、アラスカで行われた次期量産機の選定はデュエルダガーとストライクダガーの比率を3:7とした、
いわゆる「ハイ・ロー・ミックス」構想で決定した。ハルバートン自身もその構想を受け入れる代わりに、
オデッサ作戦への戦力増強の為、アークエンジェル級二番艦“ドミニオン”の受け渡しをアズラエル理事に
約束させたのである。
「そうか、やはり貴様も今作戦はユーラシア軍次第だと思うか」
 一応の妥協によって機動戦力を得たハルバートンは、作戦が磐石なものになったと考えていた。
 それでもユーラシア軍がどこまで粘れるかと言う不確定要素が存在するが、それは横で飲む旧友が何とか
すると言ってくれたのである。
「ああ。我が軍の練度は完璧だからな」
「ユーラシアとしても自国の領土が係っている。あまり不信感を与えたくはないが……」
「確かにそうだ。だがビラードは月から逃げ帰った男だぞ」
「……そうだな」
 酒を飲みつつ言った旧友の言葉にハルバートンは頷いた。
「俺は全軍の指揮を取らねばならん。ユーラシア軍の監視はお前に任せるぞ?」
「勿論だ。同期だろう俺達は?」
「そうだな。俺は良い友人を持ったよ、エルラン」
 このときハルバートンは酔っていた為か、エルラン中将の作ったかのような笑みに気づく事はなかった。