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Zion-Seed_51_第39話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 17:54:46

「私に何か用かギル?」
「君を笑いに来た。そう言えば君の気が済むのだろう?」
「……何故かな? 前にもこんな会話をした気がするぞ」
「あいにく私もだw」

 能天気に言うデュランダルにクルーゼは怒り狂っていた。友人の甘い言葉に釣られクライン派に下った。
全ては前線でシャアとの決着をつける為にだった、のだが……。

「何故私はラクス・クラインの護衛などをしなければならんのだ!!」
「いいじゃないか。特務隊に選ばれて歌姫の護衛を任されるなど名誉なことだぞ」
「私にとっては不名誉だ!!」

 ここ数日、ラクスはプラント各市ライブツアーの真最中で、スタッフと共に全都市を飛び回っていたのだ。
もちろんクルーゼも同行していた。しかし“護衛”と聞けば格好は付くが、実際はラクスの横に突っ立てるだけ
である。しかも自慢の仮面の影響で、周囲の目が集中することは明白だったことから、移動するたびに芸人と
間違えられていた。

「ハハハッ! 私もラクスがライブツアー中とは知らなかったのだ。許せ」
「不可抗力だと言うのかギル!? まさか私がライブに振り回されている間、シーゲルが失脚しパトリックが
議長になったのも不可抗力と言うのか!?」

 長い。実に長い沈黙の後、デュランダルは笑顔で答えた。

「そうだ」

 反省の欠片もない友人にクルーゼは思わず掴みかかる。

「落ち着けラウ。パトリックが議長になったことで、君も晴れて前線に向かうことになる」
「むっ? 本当か」
「ああ。君はザラ派を裏切ったわけだから、おそらく前線も前線、最前線に飛ば……向かわされるだろう」

 クルーゼが問答無用でデュランダルに殴りかかったのは言うまでもない。

「うがあああぁぁぁ!!!」
「落ち着け! 話し合えば分かる!!」

 しかし、このラウ・ル・クルーゼとラクス・クラインの出会いが、後に重大な事件へと発展する事になるとは、
このときのデュランダルはおろか、クルーゼ本人でさえ気付くことはなかった。






――――第39話






 オデッサ作戦失敗の煽りを受けた連合が人事に右往左往している頃、プラントでも大きな政変が起きていた。
ジブラルタル陥落の責任を取りシーゲル・クラインが議長職を辞任を発表したのだ。通常ならば国防委員長の
パトリック・ザラに責任が持ち上がるが、ザラ派が中心となってシーゲルの甘い戦略を批判し、全責任を押し
付けたのである。それに伴いパトリックが全主導権を握れば現状も変化するとの期待からパトリックが新議長
に選ばれてしまうのだった。
 新政権となったパトリック・ザラは、オペレーション・スピットブレイクの準備を着々と進め、評議会でも
オペレーション・スピットブレイクに向けた議論が続いていた。

「先の欧州における反抗作戦の失敗により知将ハルバートンは失脚しています。彼が失脚することによって、
大西洋の方針が対ジオンから対プラントに移るのは必定です」

 エザリアが出した案もその一つである。当初、プラントはジオンの予想外の強さに苦しんでいた。計画では
開戦初期の段階でジオンを占領して制宙権を万全なものにした後、連合と渡り合うことを想定していた。だが、
プラントの思うようにはいかなかった。意気揚々とソロモンに艦隊を差し向けると大敗してしまったのである。
これではジオンを占領するなど到底不可能。結果的にプラントは連合とジオンの二正面作戦をすることになる。
 しかし、プラントの人口は2000万人、ジオン公国よりも数少ない。ザフトの戦力で二正面作戦は難しいのだ。
そこで目がついたのがハルバートン提督である。提督が連合の士気高揚に利用されているのは明らか。ならば
提督が軍の主導を握れば連合の目はジオンに向けられるのではないか。事実、ジオンに連戦連敗だった連合は
その敗北を隠すようにハルバートンを持ち上げ続けた。結果、連合軍はジオンを第一目標と定め、戦力を動か
していたのである。プラントはこれに呼応するようにザフトの戦力をL1宙域に多く向けることで戦線を維持
した。地上でも連合とジオンを挟んだ形で領地を増やしていった。シーゲルは連合とジオンの潰しあいを想定
したのである。
 ところがハルバートンが舞台を降り、代わりにアズラエルが上ったことによって、連合はプラントに矛先を
向けるようになった。これでプラントは強力なMSを保持するジオンと圧倒的国力を持つ連合の二つを相手に
しなければならない。
 そこで出た策が連合を内部分裂させることである。現在大西洋連邦とユーラシア連邦はオデッサ作戦の責任
を擦り付け合っている。更にもう一カ国加えたらどうなるだろう。如何に国力があると言っても、その基盤が
しっかりしなければ、戦略・戦術において足を引っ張り合うことになる。

「その為に南アメリカに工作を仕掛け、大西洋と対立させる……か」

 プラントが目をつけたのは南アメリカ連邦だった。“コロニー落とし”により国土を削られた南アメリカは
ジオン公国に激しい憎悪を持っている。まさに最適の存在だった。

「上手くいけばいいがな……」






 己の執務室に戻ったパトリックは、疲れた様子で扉を叩く音を聞いた。返事をすると彼のよく見知った男性
が入ってきた。前議長のシーゲル・クラインである。

「遅くなりました、ザラ議長」
「畏まらなくてもいいぞ、シーゲル」
「そうか……ならば、パトリック。あえてそう言わせてもらう」

 シーゲルはパトリックに近づいた。そこで始めて気付いたが、パトリックの顔には苦々しさが見て取れた。

「講和すべきだ。これ以上、連合と事を構えるのは得策ではない」

 シーゲルは一枚の書類を机に置いた。それはオルバーニの親書であった。内容はザフトの縮小や戦争指導者
の引渡し等だが、評議会の解散は含まれていない。

「対等の条件ではないが、これなら自治権は確立できる!」
「馬鹿を言うなシーゲル。我々の目的は独立だ。そのような形だけのものではない」
「だが、話し合うことで相手に譲歩案を出させることも必要だ!」
「アズラエルが主導権を握った時点でそんなことは不可能だ。もはや我々は勝たねばならん。そうしなければ
滅ぼされてしまうぞ!」

 声を荒げ反論するパトリックにシーゲルは別案を出した。

「……では、ジオンとの講和はどうだ」

 ジオンとの講和。公王が元ブルーコスモス重鎮とはいえ、コーディネイターを差別していないジオンならば
確かに和平もありうるが、パトリックは一言で切り捨てた。

「ありえん」
「何故だ?! 嘗て同盟を結んでいたジオンなら……」
「ありえんと言った筈だ!」

 厳しい口調で否定するパトリック。その顔には感情があらわになっている。

「お前、まだレノアさんを……」
「当たり前だ。レノアの墓標を崩した罪、到底許せるものではない」

 パトリックの激しい怒りにシーゲルは言葉を失った。

「――パトリック、私は……」

 シーゲルにはパトリックに負い目がある。彼が議長の頃、ジオンとは同盟関係であった。だが、彼はギレン
の目論見を感化できずにユニオス7をジオンに引き渡してしまった。その結果は地球へのコロニー落しという
形になり、パトリックの妻レノアの遺体はユニオス7と共に消滅してしまったのだ。パトリックは戦後に妻の
遺体を引き上げる計画を立てていたのでこの暴挙による怒りは凄まじい形でジオンへと向けられていた。

「お前が気に病むことはない。もう、終わったことだ」

 俯いたシーゲルを気遣うように声をかけたパトリックは、引き出しから一束の書類を取り出した。

「お前は、私は復讐鬼のように見ているのだろう。だが、これを読んでくれれば誤解は解けるのではないか」

 それは情報部からの報告書であった。シーゲルは手に取り、中身を確認する。すると、一枚一枚めくる度に
シーゲルの顔色は青褪めていく。

「こ、これは……そんな、まさか!」

 そこに書かれていた内容は、ジオン公国が近いうちに大艦隊を組織している詳細な報告。つまりプラントへ
の全面攻勢を裏付けるものだった。

「何かの間違いじゃないのか!?」
「事実だ。私も何度も確認した。ジオンは近いうちに攻めてくる」

 その答えにシーゲルは瞑目する。

「どうするのだ!?」
「迎え撃つしかなかろう」
「降伏という手は……」
「ありえる……と思うか?」

 シーゲルは苦々しい表情で首を振った。どんな敵が来ようと、戦ってもいないのに降伏など世論が許さない。
それにプラントはジオンとの同盟を一方的に破棄して戦争状態に突入している。あのギレン総帥が黙って降伏
を受け入れるとは到底思えなかった。

「シーゲル。我々は宇宙の全戦力をもって迎え撃つ。その為にもオペレーション・スピットブレイクは行う必要
があるのだ。解ってくれ」






「見事に平和なものですな。中佐」
「“アポリー”」

 アンディの自然と出た“中佐”と言う言葉に、シャアは注意する。

「失礼しました。“クワトロさん”」

 オーブ本島。正式名称はヤラファス島に首都オロファトは所在する。行政府が置かれ、様々な政策が決定さ
れるオーブ連合首長国の政治拠点だ。
 そんな首都の住宅街を、名を変えたシャアたちが歩いていた。街の様子はのどかそのもの。連合とプラント、
ジオンが戦争をしているなど微塵も感じない。シャアの目にはこの国の人たちが時刻の平和を過信しすぎてい
るように見えた。

「――戦争とは無縁の国、か……皮肉だな」

 そんな国に、ジオンの核融合炉を強奪しようとした人間がいる。しかも首謀者はNTを利用しているのだ。
NTの未来を考えているシャアにとって、それは決して感化できないことである。

「これで最後か?」
「リ……“ロベルト”のが最後です」

 暫くするとリカルド戻ってきた。成果がなかったのかあまり良い顔をしていない。

「ロベルト、そっちはどうか?」
「ダメですね。“プレア”と言う名の子供に心当たりはないそうです」
「そうか……」

 二人が肩を落とす。これでオーブに来て二週間が経つが一向に成果が見えないことになる。シャアは休暇を
使ってまでオーブでの調査を行っていたが、調査は困難を極めた。なんせ分かっている手掛りは“プレア”と
言う少年の名前のみなのだから仕方がないのだが。
 一先ずオーブにある小中学校にハッキングして在校生徒の名簿を調べたものの、少年の名は出てこなかった。
今は孤児院を調べているが、情報をまとめて管理している学校とは違うので、自ら聞き込みに向かわなければ
ならない。養子を探していると偽って調べているが、結局当たりは無く、無駄足に終わってしまう。

「他に孤児院、もしくはそれに該当するものは?」
「無いですね。オロフォトは調べました。他の都市も同様。オノゴロ島は軍事の中核なので有りえませんし。
カグヤ島はマスドライバーがある玄関口……」
「これはオーブが拠点ではないのでは?」
「もしくは傭兵として常に戦わさせているか」

 シャアは二人の推測に異議を唱えた。状況からプレアが個人で動いているのは考えられない。必ず裏に何ら
かの組織がいる筈だ。そしてそれはオーブにある。

「だが傭兵だとしても子供だと目立ってしょうがないな」
「何か無いか? 子供が混ざってても違和感ないものって……」

 悩む二人を尻目に、シャアはプレアの言葉を思い出す。

『世界から憎しみの連鎖を断ち切るにはSEEDを持つ貴方の力が必要なんですよ!』

 彼の言葉は、まるで救世主にすがるようなものだった。そう、救世主に――

「救世主……思想……宗教……教会」

 シャアは何か思いついたよう呟いた。

「へっ?」
「そうだ教会だ。この国に教会や修道院のようなものはないか?」

 アンディとリカルドは思わず顔を見合わせた。






「ありましたよ」
「間違いないのだな?」
「ええ。内偵も済ましてます」

 シャアたちはオーブ本島からやや離れた位置にあるアカツキ島に移動していた。

「盲点だったよ。今の時代に修道院とは」

 ジョージ・グレンがEvidence01を伴い木星圏より帰還したことによって宗教は廃れていた。トリノ議定書
採択時に若干息を吹き返したものの、今ではマルキオ導師しか宗教家は存在しない程である。
 そんなマルキオがオーブに修道院を建てていた。修道院ならば孤児院としても機能できる。

「あの家が、マルキオ導師の修道院です」 
「問題は子供達の中にプレアが居るかどうかだ。行くぞ」
「ええっ! 正面からですか?」
「手は考えている」

 修道院は随分古びたものだった。それでも窓には明かりが見えるから人は住んでいるのは分かる。シャアは
遠慮しがちに扉を叩く。中から出てきたのはやや太った中年の女性だ。その姿はとてもシスターには見えない。

「夜分遅くにすみません。マルキオ導師はご在宅ですか」
「どちら様ですか?」
「導師の知り合いの者です」
「……導師は不在です」

 彼女は突然訪れた三人を不審そうに見つめている。当然だろう。いきなり導師の知り合いと言われても信じ
る者はいない。しかし、真実は導師本人にしか分からないので無下に追い返すわけにもいかない。

「ではプレアは居ませんか?」
「プレア……?」
「ええ。久しぶりに会いたいので」

 プレアの名に安心したのか、女性は警戒心を解く。

「あの子と顔見知りなのかい?」
「はい」
「なんだい。それなら初めから言っとくれよ」

 女性の言葉にシャアは内心で喜ぶ。大当たりだ。女性は手のひらを返すように三人を招きいれた。修道院は
静かなものだった。明かりもない。そんな静けさと薄暗さの中でも三人は周囲の間取り確認していた。
 応接間に通されると、シャアは女性の死角になっていたリカルドに目で合図した。

「すまないねえ、マルキオ様の知り合いを装ってるんじゃないかと思ったんだよ。でも、プレアを知っている
なら問題ないね」
「そうですか。早速ですが……」
「クワトロさん、その前にトイレを借りたいのですが」

 話の腰を折るようにリカルドが女性に話しかける。女性は嫌な顔一つせずに厠の場所を教えた。

「失礼。改めて、プレアはどこに?」
「申し訳ないんだけど、あの子はここに居ないんだよ」
「……そうですか。それは残念だ」
「あの子の病気が悪化してね。このままじゃ命に関わるから、マルキオ様がプラントに連れていかれたのさ」

 シャアは平静を装ったが、内心では怒りに満ちていた。コーディネイター国家のプラントなら他国に比べて
医療技術は高い。プラントへ連れて行くのは正しい判断だろう。しかし、言葉を変えればマルキオと言う男は
病気の子供を戦場に出したことになる。

「腕の立つ医者がいるらしくてね。確かギルバートとか言う名前だったね」

 そんなシャアの心情を知ってか知らずか、女性は話を続けるのだった。






「さ~て。何かお宝はないかな?」

 トイレに立ったリカルドはマルキオの部屋へ忍び込んでいた。この修道院がプレアを裏で操っていた首謀者、
つまりはマルキオの拠点であることは分かった。そうなれば後は目的である。プレア自身は核融合炉を地球の
エネルギー問題解決に向けて使うと言ってはいたが、マルキオが一体何を目的としてるかは不明なのだ。彼は
今に残った唯一の導師であり、連合の外交官という肩書きを持つ男である。そんな男が核を何に使うのか……。
 部屋の探索を続けるリカルドは鍵のかかった引き出しを見つける。

「いかにもって感じだな~」

 鍵は電磁式ではなく従来のアナログな物だ。リカルドはキーピックでいとも簡単に引き出しを開ける。

「こいつは……っ!」

 中には一束の書類が置かれていた。リカルドは書類の一枚一枚に目を通す。が――

「読めん」

 書類に書かれていたのは無造作な点の羅列であった。俗に言う“点字”である。マルキオは盲目な為、点字を
使っているのは当然であった。リカルドは点字など読めないが、雰囲気だけで何かの論文ではと推測した。

「鍵がかかってたから大事なものだよな……」

 ブツブツ文句を言いながらも、リカルドは書類の用紙を全てカメラで撮影する。後に翻訳した書類を読んだ
シャアはギレンに対する憎悪以上の感情をマルキオに向けるのだが、それはまた別の話……。