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Zion-Seed_51_第41話

Last-modified: 2007-11-28 (水) 22:16:15

「モラシム隊長。ジオンの通信と思われるものを傍受しました。連合の軍艦がオーブに入港したという内容です。
画像も一緒にありました」

 ザフトの潜水母艦クストーの中で、副官のハンスが入手した情報を見たモラシムは、画像の悪い写真を脇に
いたアスランに手渡した。

「アスラン、見覚えは無いか?」
「こ、これは“足付き”!!」

 写真は不鮮明だが、その特異な形状からアークエンジェル級と断定できるものだ。

「アークエンジェル。噂の大天使か」
「なんの意図があってオーブに……」

 地球連合軍の新造艦アークエンジェルならびに機動兵器はオーブのコロニー“ヘリオポリス”で造られている。
経緯からオーブ本国に入港するのはあながち無いわけではないが、腐っても連合の最新鋭艦が中立国に入るの
はおかしな話だ。艦橋にいる者は皆が首をかしげた。

「ここ数日に軍需産業連合理事がオーブに表敬訪問するそうですが。その護衛では?」
「お前、何でそんなこと知ってる!?」
「オーブ発信のラジオニュースでそんな事を言ってましたが……?」

 ハンスが何の前触れもなく口したのは、コーディネイターである彼らにとって重要なことだ。軍需産業連合
理事とはブルーコスモスの現盟主を指差しているのだから。

「それが本当となると大変なことだ」
「確か軍需産業連合理事というのは……」
「ムルタ・アズラエル」

 宿敵の名に一同が騒然となる。

「アズラエルがいるのか。だとすれば、我々コーディネイターにとって攻撃する価値があるな」
「しかし、中立国を攻撃するとなると事は外交問題に発展します」

 それでもブルーコスモス盟主の首と天秤にかければ答えは自ずと出てしまう。

「……ジブラルタルで鹵獲したMSがあったな。アレを使う」




――――第41話






「こんなふうにオーブに来るなんてな」

 椅子にのけぞりトールが感慨深げに言った。ミリアリアも複雑な表情で頷く。オーブ本島に入港したアーク
エンジェル。待機を命じられていたキラたちは、食堂で顔をつき合わしていた。 

「ねえ、これどうする?」

 カズィがおずおずと言い出す。

「フラガ少佐に貰ったこれ」

 彼の手には除隊許可書があった。アラスカで別れたムウが、彼らの為に渡してくれたものだ。

「俺は残るよ。今日までいろいろ考えたけど、ここで抜けたらサイの死が無駄になる」

 ミリアリアは心配そうに見るが、トールの決意は固い。

「トール……」
「それに俺はMSが動かせるんだ。だったらサイの仇が撃ちたい」
「じゃあ、私も……」

 と言いかけたミリアリアをトールが制した。

「ミリィは降りるんだ。カズィも艦を降りろ。もう十分だろ」
「何でそんなこと言うのよ」
「そうだよトール」

 今まで一緒に頑張ってきた仲間から、こんな事を言われれば堪らない。ましてやそれが恋人からなら尚更だ。

「俺たちは戦争に巻き込まれたんだ。途中で降りることもできた。でも、皆が互いを気にして降りなかったろ。
だから正直になろうぜ。自分は戦いたいのか、そうじゃないのかを……。今ここで皆が俺に遠慮したら、次は
何時降りられるか分からなくなるぞ」

 確か似そうだ。今を逃がせばオーブに戻ることは、終戦後にしか存在しない。

「当然、キラも降りるんだ」
「トール、僕は……」
「俺たちを守る為に戦ってさ。悩んでるんだろ。何でもかんでも背負い込んで」

 自分がコーディネイターだから全てを背負い込んでいたキラ。結果的にサイを守ることはできなかったが、
それでもアークエンジェルは無事にオーブにたどり着けた。

「少佐に言われたんだ。サイのことで責任を負うことはないって。恥ずかしいけどとても楽になった。それで
思ったんだ。キラも同じじゃないかって……」
「……」
「お前は頑張ったよ。でも、もういいんだ」

 重苦しい空気の中でキラが何かを口にしようとしたとき、予想外の人物が食堂に現れた。

「おや、ここにいましたか」

 アズラエルである。ブルーコスモス盟主の登場に緊張が走る。

「ヤマト准尉。少し付き合ってもらいますよ」
「い、今からですか!?」
「ちなみに命令です。拒否は認めませんから」
「待ってください。キラは除隊するんです」

 無理やり連れて行こうとするアズラエルをトールが引きとめた。

「除隊?」
「そうです。ですから、もうキラを自由にしてくれませんか」
「……それは不味いです」
「え?」
「だったら尚のこと准尉には来ていただかないといけません」
「ですが……」
「いいよトール。この人は無闇にコーディネイターを傷つける人じゃないから」

 キラはトールを諭すように言う。確かにアズラエルはブルーコスモス盟主だが、意味もなくコーディネイター
を殺戮するテロリストではない(一応)。キラはアズラエルに真意を聞くと、また予想外の答えが返ってきた。

「いやいや、簡単なことです。私の護衛をやってもらうだけですよ」






 オーブ首都オロファト。その中でも最高級に該当するホテルの一室で、オーブ前代表のウズミ・ナラ・アスハは
この世でもっとも会いたくない人物を待っていた。チラリと時計を見ると約束した時間を15分も過ぎている。

「このまま来なくていいのだがな」
「ウズミ様、アズラエル様が到着しました」
「チッ、来たか」

 部屋に入ってきた会談相手を目にして立ち上がると社交辞令の握手を求める。

「遥々ようこそ、アズラエル理事」
「これはこれはウズミ・ナラ・アスハ“前”代表」

 ウズミの差し出した手を握り返し、アズラエルは薦められるままに椅子へ腰を下ろした。その背後は護衛に
選ばれたキラが付いている。キラは心臓を鷲づかみされるような緊張感に耐えながらウズミを見ていた。

(あれがウズミ前代表か)

 今までヘリオポリスで暮らしていたキラにとって、ウズミはブラウン管の中の存在でしかなかった。それを
間近で見ることになろうとは想像もつかないことである。
 そんなキラを見たウズミはアズラエルに訝しげに訊ねた。

「そちらは?」
「護衛ですよ。キラ・ヤマト准尉、オーブから連合軍に志願してくれた勇敢なる若者です」
「差別主義者がよく言う」

 胸を張るアズラエルを余所に、ウズミはきつい言葉で言い返した。

「勘違いしないでください。僕は差別などしてませんよ。区別してるだけです」
「ふん、どうとでも言うがいい」

 唸るウズミの顔には何故か動揺が見えた。そんな動揺に気づいたアズラエルは薄ら笑みを浮べ問いただす。

「どうされましたか?」
「なんでもない。話を始めよう」

 異様な雰囲気のまま会談は始まった。






 軍港から私服で歩く二人はミリアリアとカズィである。二人はトールを気にしてか、頑なに除隊を拒否して
いたが、肝心のトールが無理やり二人を降ろしてしまったのである。その手口は二人の両親に連絡して迎えに
来させるという巧妙なものだ。トールだけなら意地を通せるが、親が来るとなるとそうもいかなかった。

「あのまま流されるよりさ、これでよかったと思わない?」
「思わない」
「でも、ミリィがいることでトールが戦いづらくなることもあると思うよ」
「どういう意味よ!」

 まるで自分の所為でトールが危険になるように言うカズィにミリアリアは激怒する。

「お、怒らないでよ。僕はただ、ミリィの乗る艦が落とされたらトールが大変だって話を……」
「うー!!」
「それにさ。トールが危なくなったときに、ミリィは平静を装えるの?」
「そ、それは……」

 オデッサでもトールが危機に瀕したとき、彼女は錯乱し、通信士として機能していなかった。戦場において
私情を挟むと隊そのものが危険になる。ミリアリアも頭では分かっているのだが……。

「それでも私の気持ちはどうなるのよ!?」

 オーブで暮らしている間にトールが戦死しましたと聞かされたら堪らないだろう。

「こうなったら私もトールの親に連絡しようかしら。貴方の息子が私を捨てるんです~、って」
「止めといた方がいいよ」

 危ない方向に進みつつあるミリアリアを諌めつつ、カズィは話を変えようとしたとき、物売りらしい女性が
二人に話しかけた。そばかすが特徴的で、二人とはあまり年は離れていないだろう。

「ちょいと、そこのカップルさん。何か買わないかい」
「カップルじゃありません!!」
「……(そりゃあ、分かってるけどさorz)」

 女性の言葉を全力で否定するミリアリアをよそに、カズィはなんだか悲しくなった。

「またまた、そんなこと言わずに買っとくれよ」
「いりません!」
「す、すみません」

 ミリアリアの態度にカズィが頭を下げながら、二人は走っていってしまう。女性は二人を追おうとする矢先、
サングラスをかけた金髪の男が彼女の肩を掴んだ。

「貰おう。いくらかな」
「ええっと、今はちょっと……」
「たしか一〇七号だったな」
「!!」

 彼はクワトロ・バジーナ。またの名をシャア・アズナブル中佐である。

「さっそくお前の見た艦のことを話してもらおう」
「は、はい」

 このような形で接触があるとは思っても見なかった彼女は、手に汗握りつつも詳細を話した。シャアは満足
そうに聞き終えると、金貨を詰めた袋を彼女に手渡した。

「なかなか優秀だな。君はもういい」
「え、でも」
「勘違いするな。ここからは私の仕事だ。君は家に戻り、今夜の連絡を待て」

 それだけ言うとシャアは堂々とアークエンジェルのいる軍港へ歩き出した。
 軍港は連合の新造艦が停泊しているのだ。不審者は警備兵に捕まってしまう。彼女は呼び止めようとするが
間に合わず、シャアは軍港の手前で警備兵に止められてしまった。

「ダメダメ! ここは関係者にしか入れないよ」
「身内がその関係者でね。呼び出してもらいたいのだが」
「……その身内とアンタの名前は?」
「セイラ・マス。私は兄のエドワウ・マスだ」






 会談の主な内容は、今後モルゲンレーテが連合に技術協力を行うか否かの協議だった。

「どんな条件を出そうともうオーブが連合と関わることはないぞ」
「MS開発に一度でも関わったのですよ。そう簡単に手を引かせるわけにはいきません」
「いいや。引かせてもらう」
「貴方は自分が言っている意味を理解してますか?」

 会談はアズラエルが妥協点を示しながら話を持ちかけ、ウズミがそれを拒む形で終始した。幾度かの衝突を
経たが、最終的にモルゲンレーテは、コスモグラスパーの開発のためにPMP社、アドヴァンスト・スペース・
ダイナミック社、FUJIYAMA社らと共同事業で開発を続けることになる。ウズミは最後まで複雑な顔を
していたが、これが政治的妥協点なのだろう。渋々といった表情だ。

「さて、ここからはオフレコでお聞きしたいことがあります」
「なにかな」
「オーブはこれからも中立を保つつもりで?」

 アズラエルはウズミの前で足を組みかえると、本来の目的を切り出した。アズラエルはウズミとの会談で
オーブの中立についていくつか確認したいことがあったのだ。

「当然だ。それが我が国の理念でもある」
「昨年のエイプリール・クライシスに今年のヘリオポリス崩壊。プラントの攻撃によってオーブも目に見える
被害を受けています。それでもですか?」
「プラントには謝罪と賠償を要求をしている」
「しかし、返事はない?」
「……」

 切り返しにウズミは黙り込んだ。あのヘリオポリス崩壊の原因がザフトにあることは明白である。通常なら
宣戦布告と思われても仕方のない行為なのだ。それを抗議や賠償だけで終わらせるなど世論が許さないだろう。
現在オーブは、アスハ家主導の下で騒動の火消しに躍起になっている。おかげで世論は沈静化されつつあるが、
それでもサハク家などの軍関係者は、連合と組してプラントに報復すべき主張している。

「まさか、このまま“遺憾です”の一言で幕引きをするおつもりですか?」
「貴様はオーブに内政干渉するつもりか!?」
「ですから、オフレコって言ってるじゃないですか」
「ノーコメントだ。貴様に言う義理はない」
「それは残念」

 あまり残念そうに見えないアズラエルは、チラリと横にいたキラを見た。

「さて、最後になりますがよろしいですか?」
「まだあるのか」

 ウズミは嫌そうに顔を向ける。

「ヘリオポリスが崩壊したときにですね。あの宙域にオーブ軍がいたという情報がありまして」

 眉をひそめるウズミ。

「オーブ軍が?」
「はい。そうだとしたら、何故ヘリオポリスの救援に出向かなかったのか不思議でしてね。当時の代表だった
貴方なら、何か知っているのではないかと思いまして」

 この言葉に驚いたのはキラだった。ヘリオポリスの防衛にはミストラルが十数機が付いていたが、あの時に
他にもオーブの軍勢がいたなど初耳なのだ。

「……知らんな」
「本当に?」
「くどい!」
「ヘリオポリス出身のヤマト准尉を前にして同じことが言えますか?!」

 アズラエルは探るようにウズミの表情を観察した。ウズミはキラに興味を示そうともせず、蓄えたひげを
触りながら冷たく言い切った。

「言える」

 その顔に動揺は無いが、僅かな感情の変化を見せていた。

「……そうですか。僕としてはMSをこっそり開発していて、それを回収しに来たのではと思いましたが」
「想像力が豊かだな」
「褒め言葉としておきましょう。それでは……」






 会談が終わり二人が車で帰路に着く途中、アズラエルはキラに問いかけた。

「オーブの国民として、今の会談に何か思うものがありましたか?」
「……本当なんですか。ヘリオポリス近辺にオーブ軍がいたこと」

 もしそれが本当なら、ヘリオポリスは崩壊することなく、今もコロニーとして機能していたかもしれない。

「さあ? 私には分かりませんね」
「でも!」
「僕個人の情報網にそれらしい話があっただけですよ。別に確固たる証拠があるわけじゃありません。ただ、
この情報の提供者は、僕の中でかなり信用できる人物でしてね」
「そう、ですか……」

 アズラエルはガックリとうな垂れるキラに顔を近づけ、耳元に囁いた。

「そんなに気になるというのなら、ご自身で調べてみればいかがです。X105のOSを瞬時に書き換えた君だ。
ハッキングなどお手の物でしょう?」

 それは悪魔の囁きにも似たものだった。

「ハッキング……?」
「おっと、口が滑りました。前途ある青年に犯罪行為を助長するとは……。今のは忘れてくださいね」
「……」
「さてと、運転手さん止めてください」

 声に車は軍港の前で停まる。

「ここからは非公式の会談です。君はもういいですから艦に戻ってなさい」

 キラは車を降りると、何か決意した目で走り出した。その光景を後ろから見ていたアズラエルは、本来の彼
であるブルーコスモス盟主の顔になる。

「そうです、そうですよキラ・ヒビキ! 君は自分の目でオーブの実態を知るのです!」

 それは全てが自分の計算どおりに動いた優越感に浸る顔だった。