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Zion-Seed_51_第45話

Last-modified: 2008-01-10 (木) 10:58:42

パナマ基地は北米大陸・南米大陸の境、パナマ運河付近にある地球連合の基地で、連合に残された、唯一の
マスドライバーがある施設である。マスドライバーには宇宙へ上がる艦艇で溢れていた。その中にある一つ、
ネルソン級宇宙戦艦“フィッシャー”の一室に、アラスカで皆と別れたフレイ・アルスターがいた。
何故彼女がパナマ、それも宇宙へ上がる戦艦に乗っているのかと言うと、彼女の父、ジョージ・アルスターが
ジオン公国に向かうからだった。大西洋連邦の外務次官であるジョージは講和の為に動き出したのである。

 

「フレイ、入るよ」

 

ノックと共にジョージが部屋に入ってきた。

 

「もうすぐ打ち上げだ。体を固定しないと危ないよ」

 

フレイは父親の方を見ようともせず、窓の外を眺めている。

 

「まだ拗ねているか……」

 

フレイはサイを殺したジオンに向かうことに反対していた。彼女にとってジオンは憎しみの対象でしかない。
しかし、ジョージはジオンと講和する為にサイド3へ向かうと言う。散々反対したが、ジョージは外務次官の
権力を使い、強引に彼女を自分と同行させた。

 

「まあいい。サイド3に着けば、ジオンも悪い人ばかりでないことが判る筈だ」
「失礼します。外務次官」

 

あきらめたように腰掛けると、若い士官が入ってくる。

 

「管制塔から打ち上げ許可が出ました」
「結構だ」

 

ジョージは士官に鷹揚に答えると、出て行こうとした。その時、

 

「何だ?」

 

それは唐突に始まった。

 
 

――――第45話

 
 
 
 
 

「西から熱源多数!」

 

パナマ基地の熱源センサーが無数の熱源――巡航ミサイルを捉えたのである。

 

「直ちに迎撃!艦隊にも連絡をっ!」

 

前から将兵の間で、パナマへの攻撃が噂されていた。その為、パナマ基地の対応は早かった。パナマ司令は
即座に迎撃命令を出し、警戒警報を鳴らす。発射された迎撃ミサイルは次々と巡航ミサイルを落としていく。
だが、それでも全てのミサイルを迎撃することは不可能で、突破を許したミサイルが防衛施設を襲った。
このミサイル攻撃に続き、ディン及びインフェトゥスの航空部隊が大西洋側から飛来。パナマの要といえる
運河のガトゥン閘門へ爆撃を許してしまう。カーペンタリアからの侵攻を予想した連合は、艦隊と戦闘機部隊
を太平洋側へ向けており、裏門からの攻勢には対応が遅れてしまう。早すぎた対応が裏目に出てしまったのだ。
戦闘機部隊が迎撃に戻るが、時既に遅し。ガトゥン閘門を破壊されたことによって、太平洋と大西洋は分断
されてしまうことになる。その後、パナマ上空において壮絶な空中戦が開始された。その間にザフトの水陸両
用部隊が海岸線に上陸を果たし、砲台群を破壊しながら内陸へと浸透して橋頭堡を確保しようとする。

 

「敵機を止めろ。何者も通すな!」

 

対する連合はリニアガン・タンクとストライクダガーで迎え撃つ。鈍重なゾノやグーンは電磁リニアガンや
ビームライフルを受けて撃破されていく。

 

「おのれコーディネイターめ!」
「当たれ。当たれぇー!!」

 

しかし、ザフトはグゥルに乗ったMS部隊を支援に回したことで形勢は逆転する。グゥルから降りたジンと
シグーの混成部隊が、次々とストライクダガーを血祭りに上げていく。

 

「何故だ!?何故当たらん!!?」

 

開戦当初よりジオンとの戦闘が中心だったザフトにとって、対MS戦闘は一日の長がある。

 

「こちとらMS戦は嫌とってほどしてるんだ!」
「貴様らとは年季が違うんだよ!」

 

連合もオデッサ作戦を経験した兵士ならばザフトと互角に戦うこともできたが、彼らの大半は本土にて教鞭
を取る身だった。結局、時間が経つにつれて制空権がザフトへと移りつつあり、地上でも劣勢とあって、連合
は後退を余儀なくされてしまう。

 
 
 
 

友軍の劣勢は待機中のドミニオンにも伝えられた。イアンは直ちに第二戦闘配備を発令し、襲来する敵機に
備える態勢を整える。自室で男二人ポーカーとしけ込んでいたムウとモーガンも、トランプを投げ出し格納庫
で待機していたのだが――

 

「無理ってどういうことだよ!?」

 

整備班から出撃が不可能だと告げられてしまった。

 

「ですから。イージスも105ダガーもOSを宇宙用に書き換えてしまってるんです」

 

これから打ち上げ予定だったドミニオンをアルテミスに着くまで護衛する為、ムウとモーガンの機体は調整
が済まされていたのである。
しかし、それでも納得いかないムウは班長に詰め寄った。

 

「だったら直に戻してくれ」
「無茶言わんでください。どれだけ時間が掛かると御思いです。丸一日かけなきゃ無理ですよ」
「グ……ッ!」

 

どうにもならない事態に唇を噛む。

 

「本当に動かせる機体は無いのか?」
「ええ……いや、ストライクは、まだ書き換えてませんが……」
「それでいい。イアンに発進すると伝えといてくれ!」
「ま、待ってください!」

 

班長は呼び止めるがムウはお構いなしだ。格納庫の奥に鎮座しているストライクに駆けた。

 

「ちょっと!話を聞いてくださいよ!」
「何だ慌てて。ストライクなら問題は無いんだろ」
「あの機体は、OSが前のパイロットに合わせてたから特殊なんですよ」

 

そうだったと前のパイロットと聞いたモーガンは頭を抱えた。このストライクに前乗っていたのはゼロだ。
強化人間専用OSはナチュラルの物をベースに作られたものだが、反応が敏感すぎて普通の人間では扱えない。
だが、そんな悠長なことも言ってられない。敵は目の前まで来ているのだ。

 

「……アイツなら大丈夫かもしれん」
「そんな訳ないでしょう。反応速度が凄く……」
「とにかく、発進準備を急げ。俺はパナマ基地のMSを借りてくる」

 
 
 
 

『おはよう諸君、君たちに伝えたい事がある。これから、諸君は最も重要な作戦に参加する――』

 

時を同じくして、宇宙からポッドが、パナマに向けて降下が開始されつつあった。各MSには、ザフト艦隊
指揮官からの演説が流れている。

 

「何故だ……」

 

その中で、ポッドの一つに乗るクルーゼは自問自答を繰り返していた。

 

「JOSH-Aを攻めるのではなかったのか……」

 

このオペレーション・スピットブレイクはパナマ基地のマスドライバーを破壊することで地球連合軍の宇宙
と地上の戦力を分断し、連合軍を地上に封じ込めることを目的としたものである。しかし、クルーゼは今回の
作戦発動と同時に攻撃目標がアラスカ基地JOSH-Aに変わるものと思っていた。彼がまだザラ派に属していた頃、
パトリックから聞かされた話ではそうだった。
ところが、彼がクライン派に乗り換えた直後に、パトリックがジオンのヤキン侵攻を知った。それにより、
連合軍を地上に封じ込めるという、従来の作戦で進めることに決定した。

 

『――我らの美しきプラントを開放し、人々に、友人に、そして家族に自由を取り戻すために――』

 

何故このような状況になってしまったのか。それは三つ巴という特殊な状況下が原因だった。三つの勢力が
ある状況で、ある勢力がもう一つの勢力を攻撃した場合、残った勢力が漁夫の利を得ることになってしまう。
その為、パトリックとしてはヤキンを守りきる為にも、連合の横槍は絶対にさせる訳にはいかなかったのだ。

 

『――勝利は我々のものである!取り戻そう、プラントに平和を!勝ち取ろう、我々に自由と未来を!』

 

ちなみに、これは今日の戦争が膠着状態に陥ったことにも起因している。

 

「おのれ、これでは計画が台無しではないか」

 
 
 

世界を混沌へと導こうとしていたクルーゼは想定外の事態に困惑する。何故ならアズラエルにJOSH-A奇襲を
リークしたのがクルーゼだからである。

 

『――それでは諸君、降下を開始する!』

 

長々と演説をした指揮官は宇宙での再会を期待しながら話を終えた。マスドライバーを破壊後、降下部隊は
直ちにビクトリアに移動し、宇宙へと上がる手筈になっているが、この部隊の中から何人の人間が生きて宇宙
へ戻れるかは分からない。分かっているのは全員は戻れないということだ。

 

「まずい。このままでは連合とのパイプが断たれてしまう……」
「隊長。何を呟いているのかは知しりませんが、黙ってもらえると嬉しいのですが」
「おいマーズ!スマンね隊長。マーズは降下が初めてでブルってんだよ」

 

クルーゼは突然の声をかけられ、体が硬直してしまった。自分の呟きを聞かれたのなら不味いことになる。

 

「ヘルベルト、ケンカを売ってるのかな君は?」
「ああ。この作戦で撃墜数の多い方が勝ちだ。やるか?」
「いいだろう。受けて立つ」

 

どうやら二人とも聞いてはいないようだ。安心するクルーゼだったが、

 

「お前たちいい加減にしろ!これからの作戦はピクニックではないのだ。お遊び気分はやめてもらおう!」

 

そこにヒルダの叱咤が轟く。しかも、

 

「それからクルーゼ“隊長”。この状況を放置するとは、一体何をお考えだ!?」

 

威厳のある一言に、クルーゼは沈黙してしまった。他者が見れば、誰もが彼女が隊長と思うだろう。

 

『クルーゼ隊。ポッド降下します。衝撃に備えてください』

 

衝撃が走り、体が重くなる感覚を感じつつ、クルーゼは計画の修正を考えていた。

 
 
 
 

橋頭堡を得たザフトは陸戦用MSを揚陸させ、一気にパナマ基地に雪崩込んだ。ザウートが後方から自慢の
火力を見せ付けると、前方ではバクゥが縦横無尽に駆け回る。ジンとシグーを数にモノを言わせて食い止めて
いた連合のMS隊も、この猛攻に戦線が崩壊し始めていた。
そんな猛攻を続ける部隊の中に、イザークのデュエルとディアッカのバスターも混ざっていた。両者ともに
宇宙から降下した部隊である。

 

「新兵ども。全員ちゃんと付いて来てるか!?」

 

イザークは目の前のストライクダガーを真っ二つに切り裂きながら、部下に目を配る。

 

「シホ機。問題ありません」
「こちらアイザック。問題なしです」

 

イザークの問いに答えたのはシホ・ハーネンフースとアイザック・マウである。二人とも士官学校を卒業した
ばかりの新兵だが、MS戦では優秀な成績を収め、アデス隊に配属された。二人ともシグーに搭乗している。

 

「こっちもOKですよ。隊長さん」
「了解だディアッカ。こちらジュール隊、司令部応答してくれ」

 

イザークは、アスランやニコルが隊から離れてからアデス隊のMS小隊長となっていた。
シャアとの戦闘以来、イザークは激情的な部分が無くなりつつあった。それを見たアデスは、部下を宛がう
ようにした。責任感を与えようと考えたのである。今ではアデスの目論見通りに優秀な隊長として働いていた。

 

「進路を確保した。我々はこのままパナマ基地に向かう」
『了解した。未確認の情報だが、“足つき”と思われる艦艇が要るそうだ。注意してくれ』
「何?本当か!?」
『あくまで未確認だ。幸運を祈る』

 

足つきの存在にイザークは目の色を変える。彼にとって足つきは因縁しかない相手だ。あのヘリオポリスの
出来事から、嘗ての仲間たちとは離れ離れになっているのだから。

 

「どうやら運が向いてきたらしいな」
「熱くならないでくれよイザーク」
「判っている。援護は任せたぞディアッカ」

 
 
 
 

イザークたちがパナマ基地を目指しだした頃、クルーゼも近郊に部隊を降下していた。途中、リニアガン・
タンクやストライクダガーを倒しながら、彼らもマスドライバー破壊に向かっていた。

 

「ふむ、マスドライバーはこっちだな」

 

パナマ基地は森の中に造られた天然の要塞だ。方角を正確に把握していなければ迷ってしまう。

 

「本当にこっちであってるのかい?」
「間違いない。こっちだ」

 

胡散臭く見るヒルダを無視しながら、クルーゼは全身の毛がそそり立つのを感じていた。

 

「この感覚……。間違いなく奴だ」

 

己の宿命の相手に気づき始めたのである。
シャアとは別の意味での宿敵。
絶対に負けは許されない存在。

 

「ムウ・ラ・フラガ。感じるぞ、貴様が……」

 

自分の血がムウの存在を見つけ出していた。己の体に流れるフラガの血が同じ存在を嗅ぎ分けているのか。
見事、クルーゼ隊はパナマ基地目前に辿り着く。だが、そこには強固な防衛戦が張られており、先に来ていた
イザークたちも足止めを喰らっていた。

 

「久しいなイザーク」
「クルーゼ隊長!?」

 

嘗ての上司との再会に、イザークは懐かしく感じた。

 

「戦況は?」
「敵は膨大な数で抵抗をしています。制空権を確保できれば、爆撃で殲滅できますが」
「それでは時間が掛かりすぎる」

 
 
 

この作戦は電撃戦なのだ。もたついていたら他の基地から援軍が来てしまう。

 

「……ディアッカ、あそこに岩山が見えるだろう。あそこから敵指揮官の狙撃は可能か?」
「出来ますよ。あそこまで行けたらの話ですが」

 

高台の確保は、観測所や狙撃場所として重要である。だからこそ連合も周囲に戦力を置いていた。

 

「では頼む。護衛はヒルダ、マーズ、ヘルベルトの三人を付ける」

 

意外な答えにイザークが待ったをかける。

 

「クルーゼ隊長。護衛は自分たちが行います」
「高台の守りは固い。新兵の混ざった君の隊では無理だ。少数で最大の力を発揮できるのはこの三人組だけだ」

 

思わぬ褒め言葉に、マーズとヘルバルトはクルーゼの力量に感心した。

 

「へぇ、分かってるじゃないか隊長殿は」
「確かに妥当な判断ですな」

 

そう任された二人は意気揚々と言う。が、マーズは鋭い視線でクルーゼを見ていた。

 

「昔の部下の前では上官らしく振舞うのだな……」
「何か言ったかね?ヒルダ・ハーケン」
「いいえ」
「不満があるようだが、私はフェイスだ。従ってもらうぞ」

 

ヒルダは黙ったまま聞いていた。

 

「バスターのような長射程で火力のある機体は他にない。ゲイツも優秀な機体であるが、その一点では劣る。
命がけでディアッカを護衛しろ」
「……了解」
「隊長らしく……か。中々様になってるだろう?」

 
 
 

皮肉を込めた一言を聞くこともなく、ヒルダのゲイツは戦場に向かった。

 

「クルーゼ隊長、今のは?」
「こちらの話だ。さて、少しばかり休憩としよう」

 

だが、イザークは少し考え込むと、沈んだ声で反省の弁を述べた。

 

「隊長。この場を借りて隊長に謝らなければなりません。あのヘリオポリスで自分達がしっかりしていれば、
隊長が処分を受けることはありませんでした」
「気にするな。アレは私のミスだ。慣れない機体で出撃させた私のな……」
「いいえ。全ては自分達の……」
「やめたまえ。ここで責任を説いても仕方がない」

 

クルーゼは優しく語りかけた。まるで我が子を諭す父親のように……。

 

「見た所、随分と精進したようだ。君には気を使わせたようだな」
「隊長……」
「ありがとう。私もまだまだ未熟だ。イザーク、こんな私だが、私の背中を守ってくれるか」
「もちろんです。微力を尽くします!」

 

クルーゼの口が笑みを浮かべた。しかしそれは、イザークが思っているような笑みではない。自分にとって、
まだまだ手駒が増えることに対する笑みだった。
暫らくすると岩山から超高インパルス長射程狙撃ライフルによる狙撃が開始される。無事に高台を確保した
ようだ。ディアッカの精密な狙撃は、連合の指揮車と指揮官機を撃ち抜いていく。

 

「おい。どうした!?」

 

現場指揮官を次々に失った連合は大混乱に陥った。ナチュラルがコーディネイターに対抗するには、連携が
重要になってくる。しかし、MSを直接指揮する者がいなくなれば烏合の衆でしかなかった。

 

「このまま一気に突破口を開くぞ!」

 
 
 

混乱する敵を尻目に、クルーゼの青いシグーが飛び出す。それを見てイザークとシホ、アイザックが続いた。
この間もバスターからの支援は続く。そして他の部隊も次々に突撃を敢行した。途中で撃破される者もいたが、
次々に突入してきたMSは傷口を広げていく。

 

「ダ、ダメだ。これ以上は支えられん!」
「どうすればいい?!誰か指示を!!」
「援軍要請はどうした!?」

 

怒号が飛び交う中で、一機のMSが雄たけびを上げた。

 

「数はこっちが多いんだ。お前等落ち着け!」
「誰だ。守備隊の者ではないな!?」
「騎兵隊ことムウ・ラ・フラガ少佐だ!!」

 

その名に誰もが思い出した。我が連合軍の英雄の名を……。

 

「エ、エンデュミオンの……」
「呆けてないで前を向け!敵をよく見るんだ!」

 

ムウがライフルを構えると、デュエルダガーと共にもう一人の英雄が到着した。

 

「間に合ったな。モーガン・シュバリエ大尉だ!以後、俺達が現場の指揮を引き継ぐ!!」

 

エンデュミオンの鷹に月下の狂犬という連合が誇る二大エースの救援に歓声が上がる。そしてそれはザフト
からも上がった。殺気の含まれた高らかな笑いと共に……。

 

「久しぶりだなムウ・ラ・フラガ!」
「ん?お前、クルーゼか!」
「クックックッ、今までの怨み、ここで晴らさせてもらうぞ!」

 

クルーゼはムウとの再会に、今まで自分にされた屈辱の数々を思い出す。

 

「芸人呼ばわりされたこととか、芸人呼ばわりされたこととか、芸人呼ばわりされたこととか……」
「はあ?一体何の話だ」

 

忌々しいあの男はこの手で始末しなければならない。

 

「どれもこれも貴様の所為だっ!死をもって、その罪を償えっ!!!!」
「わけ分からんこと言ってんじゃねぇー!!」

 

こうして戦いは第二局に移る。