Top > Zion-Seed_51_第46話
HTML convert time to 0.011 sec.


Zion-Seed_51_第46話

Last-modified: 2008-01-19 (土) 23:04:13
 

パナマ基地に雪崩込んでくるザフトの攻撃は、凄まじいものがあった。作戦前に勝利して宇宙へ舞い戻る事
を誓ったザフト兵士達だ。ムウとモーガンを有した連合を上回る士気で、突撃を繰り返している。

 

「近づけ!連合のMSなど、近づけばどうと言う事はない!!」
「接近戦は不利だ。全機固まって行動しろ!」

 

ナチュラルもMSに乗れたとはいえ、コーディネイターとの接近戦は熟練兵でなければ難しい。対する連合
は密集隊形で決死の防衛を試みた。押されてはいるが、ここが連合軍に残された最後のマスドライバーなのだ。
簡単に明け渡す訳にはいかない。
そんなこれまでにない抵抗を続ける連合軍を遠くから眺める目があった。ディアッカ達別働隊である。

 

「厄介だな」

 

スコープで連合の指揮官機を見ていたディアッカは小さく呟く。

 

「何をしてるんだ。早く狙撃を」
「そうは言いましても、簡単にはいかないんですよ。あの指揮官機、こっちを警戒してます。闇雲に撃っても
無駄弾撃つだけです」

 

彼は連合の指揮官を狙撃する為、この場所を確保したのだが、現状では狙撃が行われていなかった。連合に
モーガンが加入した後、岩山に増援部隊が殺到していたのだ。

 

「出来るといったのは君だ」
「そりゃそうですが、向こうが警戒したら別問題ですよ」
「何でもいいから早くしろって」
「個人的に、このままマスドライバーを目指したほうがいいと思いますが……」
「何か言ったか?議員の子供だからって特別扱いはしねーぞ」

 

ヘルバルトとマーズがディアッカに言う中で、ヒルダは一人押し黙っていた。
ザフトでも優秀な部類なヒルダ達だが、彼らは派閥を意識する軍人だ。ディアッカの父タッド・エルスマンは
何処にも属さない中道派。クライン派の彼女らは、ディアッカの言葉を信用に値するか決めかねていた。

 

「ディアッカ君。我々がここを確保した以上、やってもらわねばならない」
「……りょーかい」

 

渋々スコープに視線を戻す。目線の先にはモーガンの機体があった。

 
 

――――第46話

 
 
 
 

熾烈な戦闘が続く中でクルーゼは、ムウに舌を巻いた。シグーはストライクを狙い重突撃機銃を向けるが、
相手は自分の狙いが判っているかのように機動している。撃てども撃てども命中しない事にイラつきながらも、
彼は冷静に状況を分析した。
ストライクの装備はエールパック。シグーと比べれば機動力は断然上だ。だが、総合的な性能は互角の筈。
となれば勝敗を決するのはパイロットの腕しだいになる。クルーゼ自身は己の腕に絶対の自信を持っていたし、
MS戦の経験もムウより多い。負ける要素など何一つないのだが、

 

「こっちだよ。ノロマ!」

 

ムウの腕は自分の想像を超えていた。こちらが撃つ前に回避行動に出ているのである。クルーゼもある程度
は相手の動きから次の行動を読み取れるが、ムウの回避能力は其の先を行っている。

 

「まさかムウがここまで腕を上げるとは……」

 

クルーゼの落胆も仕方がないだろう。普通の人間が短い期間でここまで腕を上げるなど考えられないのだが、
ムウの場合、シャアやララァ、マリオンにグリーデンといったジオンのNT達との戦闘――直接・間接を問わず
――経験が、彼の才能を本人の気付かないところで急速に促がしていたのだ。

 

「動きが単調だぜクルーゼ!!」

 

冗談ではないとばかりに顔をゆがませる。クルーゼは決して単調な攻撃はしていない。それをムウは単調と
言う事に、何より宿敵との力量の差に、悔しさをにじませた。

 

「こ、こんな事があってたまるか……ッ!」

 

そして決定的な一撃が放たれた。シグーのビーム砲を軽々避けると、ストライクはビームライフルを連射。
シグーは初弾を避けたものの、避けた方向を読んでいたのか、次弾が命中してしまう。右肩部のビーム砲への
一撃で機体のバランスを崩されたシグーは、そのまま転倒する。

 
 
 
 

必死で立て直そうとするクルーゼだったが、機体を立たせたと同時にストライクのビームサーベルが頭部を
破壊、続けて左腕を切り取る。そして身をひるがえし、ムウは二の太刀を浴びせる。何とかレーザー重斬刀を
構えて、一撃を受け止めたが長くは持ちそうにない。

 

「これで終わりだ!!」
「こ、こんな……こんなバカな……ッ!!?」

 

走馬灯が見えそうな状況で、ある警告音が鳴り出した。

 

「何だこれは……脱出装置だと!?」

 

真っ赤に染まったモニターに“脱出”の文字が映し出され、それと共にカウントダウンが開始された。
クルーゼにとっては願ってもないのだが、このシグーは実験機である。おそらく試作段階のモノなのだろう。
言い換えれば、どう作動するのか以前にまともに動くのかどうかも判らない代物である。

 

「すごく嫌な予感が……って、ぬわーっ!!!」

 

ストライクに力負けし、重斬刀ごと真っ二つにされる寸前に脱出装置は起動した。

 

「ク、クルーゼ隊長ぉぉぉ!!!」

 

爆散するシグーに叫ぶイザークを尻目に、シホとアイザックは機体からミサイルの様に発射し、あさっての
方向に飛んでいくコックピット部分を眺めていた。

 

「シホさん。あれって確か……」
「脱出装置ですね」
「実験段階で廃止が決定してなかったけ?」
「あの機体に載せたままなのでしょう」
「クルーゼ隊長かわいそうに……。あれってコックピットを射出しただけだから衝撃すごいよ」
「あれで気絶しなければ凄い変態ですね」
「じゃあ気絶したら?」
「只の変態」

 
 
 
 

――ラウ・ル・クルーゼ。
パイロットの腕は認められても、人望は皆無であった。イザークを覗いて。

 

「おのれぇぇぇ!よくもクルーゼ隊長をっ!!」

 

冷めた二人とは対照的に、熱を上げたイザークはストライクに突貫していく。だが、クルーゼが負けた相手
にイザークが敵うはずもなく、デュエルからのビームは全てが空しく宙を抉った。

 

「あんときのデュエルか?所々違うけど、また懐かしい奴が出てきたねぇー」

 

ヘリオポリス脱出以来の再会に感傷的になりながらも、ムウは容赦なくライフルを撃つ。クルーゼの部下が
手練でしつこいのは有名なのだ。しかもデュエルに乗っているとなると、手など抜いてられない。
ムウが気を引き締める中、シホは馬鹿正直に突っ込もうとするイザークを嗜めていた。

 

「隊長。落ち着いてください」
「俺は冷静だ!貴様らは援護しろ!!」
「援護は隊長がしてください」
「にゃんだとっ!!!」
「噛むなよ……アイザック、フォーメーションデルタ」
「了解~♪」

 

それでもシホの判断は正しかった。シャアとの戦闘で損傷したデュエルは、ザフトが独自に開発した装甲
“アサルトシュラウド”取り付けている。背部及び脚部の高出力スラスターにより機動力を強化しているが、
総重100tを超える。重力下での戦闘においては足枷でしかない。
シホの乗るゲイツはジンの後継機として開発されたMSで、ビーム兵器を標準装備している。だからこそ
支援を行うならゲイツよりもデュエルASの方が適しているのである。

 

「シホォォォッ!!俺を無視して仕切るなっ!!」

 

それでも援護を忘れないイザークであった。

 
 
 
 
 

「ひどい目に遭った……」

 

失敗作の装置で脱出したクルーゼは、体中がアザだらけになりながらも、無事にパナマ基地の中枢に不時着
していた。運が良いのか悪いのか、目標であるマスドライバーも目の前にある。とは言っても、MSを失った
クルーゼには何も出来ないのだが、

 

「一先ず身を隠さねば……」

 

自分はパナマ基地のど真ん中にミサイルのように突っ込んだのだ。騒ぎを聞きつけた警備兵が集まるのも
時間の問題である。それに派閥闘争に勝利したアズラエルの影響で、ブルーコスモス派軍人が増している。
ザフト兵である自分が見つかったら最後、捕虜としての扱いを受けることなく袋叩きにされるのが関の山だ。

 

『何だぁー!!』
『ザフトの攻撃か!?』
『敵だ。敵が侵入したんだ!!!』

 

早速、警備兵が騒ぎ出した。
クルーゼはすぐさま近くにあった建物に身を隠すと先のムウとの戦闘を思い返していた。

 

「何故だ。何故、ムウがあれほどの腕を持っているのだ」

 

嘗ての世界大戦中の戦闘機乗り達は、エースともなると経験から相手の動きを予測して敵機を落したそうで、
まるで敵機が自ら銃弾に当りにいく様子なのだという。自慢ではないが、クルーゼも似たように戦う時がある。
しかし、ムウの場合は状況が違う。ヘリオポリス崩壊から今日まで二ヶ月程しかない。そんな僅かな期間で、
相手の動きを予測する経験を得るなど不可能だ。自分でもこの感覚を得るのに一年程かかったのに……。

 

「私がまがい物だからなのか……」

 

――自然に生を受けた者と人工的に生を受けた者には、才能に対する差が生まれるのだろうか。
クルーゼは、ムウとムウの父アル・ダ・フラガに呪詛を唱えながら手持ちの装備を確認する。

 

「手持ちは、これだけか」

 

自分にあるのは携帯用の拳銃のみ。敵兵に見つかったら元も子もない。

 

「こうなったら連合のMSを奪って逃げ……」

 
 
 
 

『居たぞー!こっちだー!!』
「なにっ!もう見つかったのか!?」

 

考えるヒマもなく発見されるクルーゼ。ザフトの軍服に怪しい仮面を被っていれば目立つのも当然である。
そんなことにも気づかない程、クルーゼは焦っていた。足音のするほうを発砲しながら通路を駆ける。

 

「ええい。正面からも」

 

前方から声がすることに歯軋りしながら、現れる連合兵を撃ち抜いていく。すると女の叫び声が聞こえた。
軍人とは思えない、とても可愛らしい少女の声だ。

 

「おやおや……」

 

通路を曲がって飛び込んだ光景に、クルーゼは揶揄するような笑みを浮かべ見る。視線の先には連合の制服、
長い赤髪を後ろで結び、座り込み震える手で銃を構えている十代の少女の姿があった。

 

「…………パパ?」
「パパが恋しいのかね?」

 

何を勘違いしているのか、クルーゼには分からなかったが、この少女の存在は使えた。

 

「喋るな。悲鳴を上げたら撃つ。分かるな」

 

唖然とする少女に銃を突きつけると、彼女は慌てて首を縦に振る。

 

「MSがある場所を教えろ」
「し、知らないわ」
「そうか、では用無しだな」

 

トリガーに指を掛ける仕草に少女の顔が恐怖に引きつった。その表情を微笑みながら見つめたクルーゼは、
怯えた少女の目を直視する。

 

「もう一度聞こう。MSのある場所を教えるのだ」

 

少女――フレイ・アルスターはクルーゼの言葉に頷くしか生き延びる手段がなかった。

 
 
 
 
 

フレイは何故こんなことになったのかと自問自答していた。
あの時、艦内に警報が鳴り響くと、ジョージは士官と共に艦橋へ行ってしまった。暫らく呆けていたフレイ
だったが、いつまで待っても父は戻ってこない。窺うように通路を覗くと、兵士達が慌ただしく駆けていた。
自分に目を止める者が誰もいない事を確認すると、彼女は艦を抜け出していた。
本来、フレイはサイの事が好きだったわけではない。父親の紹介で彼と会ったときは、父が喜ぶならと思い、
婚約を了承した間柄だった。初めの内は表面上の付き合いに終始していた彼女だったが、サイと接していくと、
彼の真正直な性格に心を引かれた。そしてサイが本気で自分の事を好いていてくれている事に気付き、初めて
本気で好きになろうとしていた。
その矢先にサイは殺された。危ないことはやめてほしいと事前に何度も言った。だが、サイにはフレイだけ
でなく友人達を守りたいという正直な気持ちがあった。その為にフレイの言葉を受け入れなかった。
だからこそサイを殺したジオンは到底許せるものではない。どんな手を使ってもフレイはジオンに復讐する
筈だった。それなのに連合は講和をするという。父から聞かされたときは目の前が真っ暗になった。
それから何度も父に頼み込んだが受け入れてくれる筈もなく、事もあろうにジオン本国に行こうという始末。
フレイは絶望感に打ちひしがれていた。そんな時に、このチャンスだ。
もしかしたら何かできるかもしれない。父がダメなら別の人に頼めばいいのだ。父にパーティに連れられた
経験もあり、連合政府上層部には顔見知りがいる。子供の頃によく遊んでくれた人もいる。彼らに頼めば状況
を変えられるかもしれない。そんな思いでフレイは艦を出た。
しかし、冷静に考えれば上手くいく筈がない。
現実を知らない子供の妄想でしかない。
にも拘らずフレイは、何とかなると考えていた。ジオンに復讐する思いだけが彼女を突き動かしていたのだ。
そんなジオンへの増悪が彼を呼び寄せたのか、フレイはクルーゼに会ってしまった。

 

「さあ言え。MSは何処だ?」

 

クルーゼは急かすように銃を顔に押し付ける。フレイは泣きそうなるのを堪えながら、何とか声を絞り出す。

 

「待って。私はこの基地の人間じゃないの」
「ほう。では……」
「は、話を最後まで聞きなさいよ。この基地のことは知らないけど、私が乗ってた戦艦ならMSがある筈」
「ある筈……か。確証が無い物言いだな」
「その艦はジオンに行くの。講和の為に。護衛って言ってたからMSもある筈よ!」

 

フレイの様子を見ながら、クルーゼは暫し考えた。嘘は言ってないだろう。しかし、戦闘艦の中に入るのは
見つかるリスクが高くなる。

 

『どこだぁー!?』
『向こうの通路で銃声がしたぞぉー!!』
「ッ!仕方がない。女、案内しろ」
「女じゃないわ。フレイって名前があるんだから」

 
 
 
 
 

ジュール隊と戦っていたムウは、三機を相手に互角の勝負を繰り広げていた。シホとアイザックのシグーが
同時攻撃を仕掛けたと思えば、ストライクが紙一重でかわして反撃を加える。シグーに隙が出たところを後方
のデュエルASが115mmレールガンを放つ。

 

「いい連携だねぇ……けどなっ!!」

 

ムウは機体を軽くジャンプさせてレールガンを回避、そのまま一回転してシホのゲイツに踵落しを食らわす。
シホはこの馬鹿げた攻撃に凍りつき、ストライクの蹴りで地面に叩きつけられ、凄まじい衝撃に悲鳴が上がる。

 

「きゃあああぁぁぁ!!」

 

ストライクは、そのままうつ伏せに倒れたゲイツを踏みつけ頭部を破壊、アイザックが慌てて追撃するが、
それよりも早く距離を取った。隙を見てイザークは、シホ機に通信を繋ぐ。

 

「シホ大丈夫か!?」
「何とか……」
「アイザック。シホを連れて離脱しろ。俺はあのストライクを……」
「隊長、ストライクが下がっていきますが」
「にゃにぃぃぃーーー!!?」

 

振り向くと全速力で離れていくストライクが見える。

 

「悪いけど、お宅らだけに構ってられないんでね!」

 

バクゥを破壊しながら逃げていくストライクに向って、逆上したイザークがビームライフルを連射するが、
当然命中する筈もなかった。

 

「き、貴様あああぁぁぁ!!逃げるなあああぁぁぁ!!!」
「隊長、一旦下がりましょう。見た所戦況はこちらに有利です。無理はすべきではないかと思われます」

 

アイザックが言うとおり、戦況は連合がジリジリと押されつつあった。如何に戦術家のモーガンを持ってし
ても、士気の優るザフト軍を押さえるのは難しい。

 

「ぐぬぬぬぅぅぅっ!!仕方がない。後退だ!!」

 

唇を噛みながらシホ機を抱えると、遠目に見えるストライクを見て、次は勝つと心に誓うイザークであった。

 
 
 
 
 

同じ頃モーガンは戦術を練り直していた。
前線指揮官を軒並み失い、正に“大尉の墓場”と化している中で一人奮闘している。

 

「忌々しい……クソッ!」

 

モニターを睨めつけながら115mmリニアガンを撃つ。先刻から自分に向けての狙撃が活発になっているのだ。
前から気になっていたので増援を向けたが、部隊からは何の音沙汰もない。

 

「第1、第2中隊は後退。第3中隊は支援に回れ!!」

 

指揮の最中の狙撃は実に腹が立つ。もはや基地まで後退した方が良い判断したモーガンは、段階的に部隊を
後退させる事にした。部隊を下げればマスドライバーが破壊される危険が伴うが、逆に基地に備え付けられた
砲台群や打ち上げ準備中の艦艇から支援を受けられる。何より狙撃される心配もない。

 

「全機、態勢を立て直すぞ!」

 

指示を出した所にムウのストライクが駆寄って来た。

 

「大尉も下がれ!バッテリが少ないだろ!」
「無用だ。少佐の方は?」
「まだまだ行けるぜ。イージスとは大違いだ!」

 

今までムウが乗っていたイージスとこのストライクは同じGATシリーズだが、造り上げた過程は全く違った。
イージスは初期の試作機として造られた機体であり、このストライクは試作データを検証して、幾分か性能を
上げた機体なのだ。バッテリも新型で、装甲もPS装甲ではない新しい装甲を採用している。

 

「なんだか知らんが、この機体は俺に合ってるみたいだ」
「……空間認識能力にゼロ並みの反応速度。やはり、こいつは当たりか?」
「何だ?何言ってんだ。聞こえない!」
「只の独り言だ。それより右翼から敵陣をかき回してくれんか。岩山からの狙撃がうるさくてな」
「了か……ッ!!?」
「どうし……ッ!!」

 

途中で声を失うムウとモーガン。瞬間、一条の光が天から戦場に降り注ぐ。訳も分からず両者が見上げると、
太陽を背にした一機のMSがあった。
輝く白い四肢、体はグレイと青のツートン、巨大な6枚の翼を広げ、頭部には角に似た4本のアンテナ――
ストライクと非常に似通った形状を持ちながら、フレームには共通するところがない。
戦場にいる誰もが唖然とする中で、そのMSは全周波数に向けて通信を送り始めた。

 

<ザフト、連合、両軍に伝えます。戦闘を中止してください!>

 

その声は、まだあどけない少年の声であった。