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Zion-Seed_51_第52話

Last-modified: 2008-03-22 (土) 22:45:34

「何て速さだ!」
「敵を喰い止められない、急いで迎撃を!!!」

 

 悲鳴のような報告が次々にローラシア級戦闘艦“ツィーグラー”に押し寄せた。
 ビグロの迎撃に当たった彼らは、その高機動性能に舌を巻いていた。ビグロは他のMSと比べにならない程
の性能差がある。巨体が持つパワーにものをいわせ、次々とザフトの防衛ラインを突破していく。

 

「くっ。予備兵力を回せ!」
「ありません。全て正面戦力です!」

 

 ツィーグラーの艦長は、どうしてこんなことになったのかと自問自答していた。
 一年と少し前までザフトとジオンは同盟関係ではなかったのか?
 ユニウスセブンのことは理解できるが、戦争をするほどだったのか?
 どう考えても答えなど出ない。既に戦端は切られているのだから。

 

「敵正面! 来ます!!」
「迎撃っ!!」

 

 そう叫んだが、彼は既にあきらめていた。あの巨大なMAに対空砲が効くとは思えない。主砲ならば落とせ
るだろうが、相手は高速で動いているのだ、当てられるはずもない。あのMAは収納していた爪を展開すると、
一直線にこちらへ向かってくる。どうなるかは、コーディネイターでなくても判ることだ。

 

「畜生……」

 

 次の瞬間、ビグロの巨大なクローがツィーグラーの艦橋を切り裂き、乗組員達を真空の宇宙へと放り出す。

 

「何処のバカだっ! こんな戦争を始めた奴はっ!!!」

 

 彼が叫んだ最後の言葉は、評議会への怨みであった。

 
 

――――第52話

 
 
 
 

 宇宙攻撃軍はいよいよ本格的な攻勢に入り始めた。ビグロを中心としたMA部隊に、コンスコン少将の第三
艦隊が攻め、さらには空母群から300を超えるMSが押し寄せる。ユウキは必死になって抵抗するが、艦隊戦
でドズルに勝てる筈もなく、もはや各艦が独自の判断で動いている状況だ。

 

「ディアッカ! 北天の方向に3機!!」
「オーケイ、任せなっ!」

 

 そんな乱戦の中にイザーク達はいた。

 

「次から次から……まるでもぐら叩きだ」
「弱気なことは言わないの!」
「でも……!」

 

 イザークとディアッカは、デブリベルトにおけるシャアとの戦闘から、ジオン軍の強さを身に染みていた。
しかし、自分の指揮下にいるシホとアイザックは初めての対ジオン戦に浮き足立っている。

 

「二人共、お喋りはやめろ!」

 

 MS戦は互角に近い形であったが、それも次第に劣勢に立たされ始める。そもそもMSに関してはジオンが
一歩も二歩も先に進んでいる。MSを運用する戦術や戦略はジオンが最初に着手したのだ。コーディネイター
の身体能力を過信してしまったザフトは、もはやMSの質を互角以上にするしか手はない。しかし、

 

「どうしてジンばかりなんだ? 他のシグーはどうした!!」

 

 現在防衛線を張っているのはジンが中心で、ザクの改良型であるS型・F2型・FZ型を有するジオンを相手
にする戦力とは言い難い品物だった。このザクシリーズに相対するため作られたシグーならば対応は可能だが、
そのザク以上の高性能からジオン軍に危険視され、第一攻撃目標に選定、集中砲火を浴びることになる。おか
げで戦闘開始から1時間が経つ頃には、シグーの機影は殆ど見えなくなっていた。
 二人の乗るシグーも狙われており、先程から次々と新手が送り込まれてくる。それも、実力的に上位に位置
するイザークとディアッカが援護に入って事なきを得ていた。新兵二人が赤服であることも救いだ。

 

「また敵です。それも玄人級の……」

 

 MSに不慣れな連合軍とは違って、錬度の高いジオン軍を相手に、彼らは不安を禁じえなかった。

 

「お前達はヴェサリウスまで戻れ」
「しかし、隊長!」

 

 シホが異議を唱えるが、イザークは頑固としてそれを受け入れない。彼は、このままでは二人が足手まとい
になると判断し、一息入れさせようと考えた。

 

「しかしもかかしもない! 命令だ。早く行け!」

 

 そう言うとイザークは、ディアッカと共に敵増援の迎撃に赴く。
 先頭に立って向かってくるのは、見慣れない機体であった。

 

「新型か!」

 

 イザークが直視したのは、ジオン最強のMSであるゲルググを有する第302哨戒中隊である。

 

「見慣れぬ機体があるな」
「あれは連合のものですね」

 

 ゲルググの操縦者、アナベル・ガトー少佐は副官カリウスの言葉に心が踊った。シャアがヘリオポリスで奪取
したブリッツを技術部が調べたところゲルググに迫る性能があったと言われている。ガトーは、ジンやシグー
程度の相手では、折角のゲルググが宝の持ち腐れであると考えていたので、強敵を相手に嬉しくなった。その
反面、ザフトが連合の機体に頼るほど弱体化しているのに同情を禁じえなかった。

 

「カリウスはガンズ、ビスレィ、ダルシムらと砲戦型を! 私は正面の機体をやる!」
「お一人でよろしいのですか?」
「カリウス。私を見くびるなよ!」

 

 心配したカリウスは、今までのガトーの活躍を思い出し、それが杞憂であることに気付いた。
 アナベル・ガトー――ソロモン攻防戦のおり、鬼神のごとく活躍で“ソロモンの悪夢”の二つ名を得た彼は、
ザフトでも警戒対象として通達されている。

 

「失言でした」
「判ればいい。各機散開!」
「「「はっ!」」」

 

 散開すると同時にバスターが射撃を開始する。ミサイルポッドをばら撒き弾幕を張ると、デュエルがそれに
まぎれてシヴァによる狙撃を行なう。ゲルググは難なく回避するが、イザークはそこを狙い持っていたビーム
ライフルを正射した。

 

「やはり、なかなかやる!」

 

 ガトーは自分の予想が当たっていたことに満足しながら、デュエルに相対した。間違いなくこの相手は強い。
自分が相手にしなければ、部下達はやられていただろう。カリウスなら生き残れるだろうが、他の面々は実戦
を片手で数えるほどしか経験していない。それならばとガトーは砲戦支援型と思われるバスター迎撃に部下を
当たらせたのである。
 ガトーはデュエルのビームライフルを回避することに専念した。ビームライフルは攻撃力が高く、その一撃
が戦艦の装甲を貫くほどだが、如何せんエネルギー消費が激しい。しかも単発式なので連射が利かない。ザク
マシンガンのような連発式ならば、面による射撃が可能で、回避は困難になる。しかし、ビームだと一転して
点での射撃となり、回避は容易だ。しかし、

 

「なるほど。奴と同じ手を使うか……」

 

 そのことにイザークは気付いていた。シャアとの戦訓がガトーの考えを見抜いたのである。彼は手持ち武器
をビームサーベルに変えると得意の接近戦に持ち込もうとする。ディアッカも戦場を見渡すのが上手くなった
のか、カリウス達のザクに囲まれながらも、デュエルへの援護を忘れない。

 

「おもしろい。そうでなくては!」

 

 ガトーは歓喜と共にビームサーベルを引き抜いた。相手がコーディネイターであろうと関係ない。強敵には
敬意を持って相対せねばと、振り下ろされるビームサーベルを受け止める。幾度かの剣撃の後、鍔迫り合いの
形になる。

 

「ビクともせんだと!? なんてパワーだ!!」

 

 両手持ちにして、必死に押しているにもかかわらず、デュエルのビームサーベルは片手で構えるゲルググを
圧倒できない。如何に新型機と言えど、全く押せない事態にイザークは困惑した。

 

               *     *     *

 

 この乱戦の中で獅子奮迅の活躍をしていた部隊があった。ジン・ハイマニューバを有するコースト隊である。
 彼らが狙うのはジオンの新型MAビグロだ。ビグロはザフト艦艇を次々と、まるで死神の様に沈めていく。
戦艦の主砲並のメガ粒子砲にMSをも握りつぶせるクローアーム。遠距離からは一方的に撃たれ、接近戦を
仕掛けようにも高い機動力に四苦八苦。近づけたとしても直に距離を取られてしまう。
 そんなビグロに機動力に唯一対抗できたのがハイマニューバであった。ミハイル・コーストは、得意の集団
戦法を駆使して、ビグロに襲い掛かった。

 

「ト、トクワン隊長ーっ!!」

 

 デミトリー曹長は集中砲火を受ける中で敬愛する上官に助けを求めたが、その上官であるトクワン大尉にも
コースト隊は襲い掛かっていた。ビグロを相手に27mm機甲突撃銃が効かないと悟った彼らは、試作段階である
ビームカービンで迎撃に当たっている。射程距離は短いが、近接戦闘ならビグロの装甲も撃ち抜く威力を持つ。

 

「私に手術ミスは許されんのだ!!」

 

 ミハイル・コーストが乗るハイマニューバはバーニアをフルにして加速してビグロと平走する。繰り出される
クローアームを掻い潜り、肉薄してビームカービンを放った。零距離に近い位置からの射撃はビグロの装甲を
貫くには十分で、デミトリーの乗った機体は炎に包まれながら明後日の方向へ突進していった。。

 

「うああーっ!!」
「デミトリー!? おのれっ!」

 

 部下が目の前でやられたことに歯軋りしながらも、トクワンは冷静に周りを見渡せていた。

 

「レズナー大尉、デミトリーがやられた。一旦後退しよう」
「なんと!?」

 

 高機動戦を得意とするMAは乱戦では不利になる。突撃艇ともなれば的でしかない。被害を少なくする為に
もMA隊は後退を決意する。これによってザフト艦艇への被害は少なくなり、ユウキに若干の余裕を持たせた。
おかげで指揮の混乱は収まりつつある。それでも劣勢は変わらないが、それを挽回するチャンスが転がり込む。

 

「今だ! 一気に突き抜けろ!」

 

 ミハイルはビグロを追撃しつつ、ジオンの空母群に打撃を与えようと考えた。空母が無ければMSは補給が
できない。沈めることができれば戦況を五分に立て直せる。そこにウィラード艦隊の増援がやって来れば勝機
も見える。

 

「一隻でも多くの敵空母を破壊する!」

 

 コースト隊が追撃しているとの情報は、ケリィたちに伝わった。

 

「奴らが?」
「おそらく目的は空母だ」

 

 ケリィはトクワンの言葉に考え込む。

 

「……トクワン大尉、俺は殿を勤める。防空を密にするようドズル閣下に伝えてくれ」
「幾らビグロでも……。無茶だレズナー大尉!」
「無茶でもやらなければならん! 行け!」

 

 ケリィはスロットルを引き、機体を反転させると、迫り来るMSを睨んだ。

 

「さあ来いコーディネイター! ここは一機たりとも通さんぞ!!」

 

 後退するMA隊を守るように両腕を広げるビグロ。ミハイルは、その光景を不可思議に見つめながら敵空母
の位置を索敵していた。

 

「盾になると言うのか? 勇敢なのか、それとも馬鹿なのか……」
「どうなさいます?」
「愚問だな。相手にする暇はない。このまま突き進む!」

 

 コースト隊はケリィのビグロを無視しするように、隊を左右に分けて通過しようとする。しかし、

 

「通さんと言った筈だ!!」

 

 ケリィは巨大なアームで背後からハイマニューバを鷲掴みにすると、密集していた編隊に向けて投げつけた。
投げ飛ばされたハイマニューバはその編隊を道連れに爆発、合わせて4機の敵MSを破壊する。あまりの光景
に呆気にとられるコースト隊。彼らを余所に、ケリィはメガ粒子砲で牽制しながら前面に立った。

 

               *     *     *

 

 ガトーの乗るゲルググは、正式名称をMS-14S。そう、シャアが乗っていた機体と同じく核融合炉を搭載した
彼の専用機である。

 

「チィ! ならば!」

 

 正攻法では無理と判断したイザークは、バルカンで牽制しつつ背後に回り込もうとする。ガトーもエースの
称号を持つ身だが、そこはコーディネイターの身体能力が勝っていた。

 

「むうっ!?」

 

 ガトーは眼下に迫るビームサーベル。

 

「ナニィ!?」

 

 だが、そのデュエルの一撃はシールドで防がれた。ガトーの実戦経験がデュエルの動きを先読みしたのだ。
 イザークはそれを確認するや、再び回り込もうとする。が、

 

「やるな。さすがはコーディネイター、反応が早い。だがっ!!」

 

 最早、それを許すガトーではなかった。再び切りかかるデュエルを、またもシールドで防ぐと、今度はその
ままシールドをデュエル顔面に押し付ける。イザークはメインカメラを隠され躊躇してしまう。それも一瞬で
あるが、その一瞬が戦場では命取りになった。
 その隙を見逃すガトーではないのだ。高出力のビームサーベルがデュエルを襲った。イザークは、回避する
ことが不可能であると瞬時に気づき、アサルトシュラウドをパージした。直撃を避けるにはこれしかなかった。

 

「小癪なっ!」
「!?」

 

 一旦距離を取ろうとするデュエルに蹴りを入れ、追撃にかかる。確かに技量という一面のみならばイザーク
は僅かながら優っていただろう。だが、ガトーはそれ以上に経験が優っているのだ。
 バスターも援護に回ろうとするが、カリウスたちがそれを許さない。

 

「イザークッ!!」

 

 誰もが万事休すと思われた刹那。

 

「クライマックスにはまだ早いようだな、イザーク」

 

 赤い光が戦場に降り注いだ。
 その光を放つ先には、巨大なユニットに乗った真紅の機体が浮んでいた。

 

               *     *     *

 

 まるで弁慶のように立ちはだかるビグロを前にして、ミハイルは敬意を表すようにヘルメットを脱ぐ。

 

「私はミハイル・コースト。貴殿の名を聞きたい」
「……宇宙攻撃軍第1MA大隊所属ケリィ・レズナー大尉」
「ケリィ・レズナー大尉。貴殿を落とさねば先へは進めぬか」
「三度は言わん」
「……よろしい」

 

 敵と話す口は持ち合わしていない。それを理解すると、再びヘルメットを被る。

 

「全機、構え!」

 

 そして掛け声と共に12機のハイマニューバが一斉に銃を抜く。

 

「オペレーション・スタート!!」

 

 ミハエルの手が下がると同時にハイマニューバがビグロの周囲に展開する。そして四方からクラスターAP
弾を文字どおり雨のように発射した。ケリィは機動力を駆使して回避に移るが、細かい散弾を全て回避する事
は不可能だった。

 

「装甲を削るつもりか!!」
「まだだ、続けろ! 第2陣! 第3陣!」

 

 苦し紛れに4連ミサイルランチャーを連射する。1機は仕留められたが後が続かない。狙い打とうにも一瞬
の隙を突いてミハイルのハイマニューバが重斬刀を叩きつける。

 

「ぐぅ! い、いかん!!」

 

 さすがのビグロも、こう立て続けに装甲を削られては耐えられそうにない。自慢の機動力を生かし、被弾を
減らそうとするが、乱戦の中で一対一で戦えるはずもなかった。

 

「今だ。撃ち尽くせ!」

 
 

 全方位からのAP弾がビグロに降り注いだ。削り取られた装甲が塵となって散らばった。塵が煙の様になり、
ビグロの様子が伺えない。

 

「やりすぎたか?」
「いや、まだだ!!」

 

 瞬間、メガ粒子の光が塵の煙を貫いた。それは間違いなくハイマニューバに命中する筈だった。

 

「!!」

 

 凄まじい振動がケリィを襲った。真上からのミハイルの射撃がビグロに直撃し、反動で射線が狂う。

 

「速い!? あのジンがこれ程とはっ!!」

 

 警告音が鳴る。いつの間にかミハイルは機体をビグロの真横に着けていた。ケリィは機体を急速転換させ、
クローアームで応戦するが、ジンはそれを軽々とかわす。そして近距離からのビームカービンが撃ち出される。
ビームはビグロに突き刺さり、その装甲を融解する。

 

「ぐっ……ぬうぅぅぅ!!!」

 

 苦痛にうめき声をもらすケリィ。ビームは機体の中核である電気回路を破壊した。奇跡的に推進剤には火が
付かなかったが、ビームの融解に彼の左腕が捲き込まれた。

 

「こ、ここまでか……」

 

 意識を集中してスロットルを掴む。既に戦闘能力は残ってはいない。機体を艦まで持ち帰れるかどうかすら
怪しい。だが、コースト隊を空母に近づけてはならない。その意思を再確認すると、ケリィは機体の損傷部分
を切り離すと、慣性に任せて明後日の方向へ離脱していく。それはミハイルが空母の位置を誤認してくれれば
という願いからだった。

 

「追いますか?」
「捨て置け。奴は既に死に対だ」

 

 ミハイルはケリィが空母とは別の方向に向かっていることに気づいていた。

 

「では、このまま空母を?」
「いや、一旦後退する。お前たちの機体は残弾がない筈だ。それに――」

 

 彼は機体のメインカメラをズームにし、宇宙に浮ぶそれを視認した。

 

「ウィラード隊長が戻った」