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Zion-Seed_51_第55話

Last-modified: 2008-04-14 (月) 00:27:42

 ヤキン・ドゥーエを護っていたジンとシグーは、敵機の存在に気付くことなく撃ち抜かれた。弾道の先には
新型機ケンプファーがショットガンを構えている。背後ではギャンキャノンが周囲を警戒していた。

 

「進入路を確保しました」
「よし! このまま突っ込むぞ!」

 

 一つの港口にザンジバル改が着底すると、ソキウスの乗る高機動型ザクが周囲を固める。そして後部ハッチ
からは突入部隊を乗せた揚陸戦車キュイが港口内へと進む。左右にはアコース機、コズン機とイレブンが就く。
 彼らはキュイを護りながら、迫り来る敵機を潰していき、そのままの勢いで奥へ向かう。要塞内部はかなり
混乱している模様だ。それでもラル隊の進入に気付いたMSが攻撃を仕掛ける。イレブンはそれを問答無用で
始末し、ラルの乗るキュイを最奥部まで進めた。奥に辿り着くと基地管制へ向かう。そして要塞データベース
にアクセスし、ヤキンの詳細な地図を引き出した。

 

「今のうちに地図を頭に叩き込め。5分後、小隊毎に司令部を目指す!」
「おおっ!」
「イレブン、お前達は艦と港口を死守だ。無理だけはするなよ」
「了解」
「……アコーズ、コズン!」

 

 ソキウスだけでは不安が大きいラルは、残した部下二人に一声かける。

 

「後のことは任せたぞ!」
「任せてください!」
「艦は沈ませませんよ。こいつらもね」

 

 通路から銃声が聞こえてきた。進入に気付いたのだろう。ラルは手榴弾のピンを抜き、ザフト兵に投げつける。
そして煙の立ち込める通路の奥へと足を伸ばした。
 狙うはパトリック・ザラの首唯一つ。
.
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――――第55話
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 そのラルが部下と共にヤキンへ突入していた頃、キシリア艦隊にはクルーゼ隊が襲い掛かろうとしていた。
クルーゼ隊はエターナルを中心に、ナスカ級が5隻、ローラシア級が4隻の計8隻。艦隊としては少ないが、
搭載されているMSは大半がゲイツとハイマニューバで占め、さらには核動力を持つフリーダムとジャスティス
もある。何れもがクライン派の熟練兵が乗り込んでおり、士気の低下も無く各所で猛威を振るっていた。
 これに対してキシリア艦隊の残存艦はグワジン級が1隻、チベ級が1隻、ムサイ級が7隻、パゾク級が4隻、
そしてザンジバル級が1隻の計14隻。MSは熟練兵向けのザク改やコーディネイター専用の高機動型ザクなど
高性能機で構成されている。だが、ハスラー艦隊の壊滅とジェネシスの存在で士気は大いに低下していた。
 そんな中で獅子奮迅の活躍をしている二つの部隊があった。
 キマイラ隊と第七師団第1MS突撃大隊である。キマイラ隊はジョニー・ライデン少佐が率いている部隊で、
パイロットは何れもがエースないし準エース級。MSも高機動型ゲルググを3機、ゲルググキャノンを6機も
搭載している。

 

「オルテガ、マッシュ! トリプルジェットストリームアタックだ」
「「オウッ!」」

 

 一方の第1MS突撃大隊は黒い三連星を中心に組織された部隊だ。彼らが考案した攻撃フォーメーションは、
三連星を先頭にした三方からのジェットストリームアタックで、それは凄まじい強さを持っていた。

 

「やるねぇ。こっちも負けてられんな……。うわっ!」

 

 三連星の強さに感心していると、ジョニーはいきなり攻撃を受けた。視線の先には巨大なミーティアを装備
したジャスティスがいる。

 

「おいおい、何だあのデカブツは?」

 

 ジャスティスは煩わしいようにユニットを捨てる。その姿はXナンバーに似た雰囲気の機体だ。

 

「連合の機体みたいじゃないか。新しい鹵獲機か?」

 

 ジョニーはビームライフルを放つが、それはジャスティスのシールドに受け止められた。この隙を付いて、
ゲイツがライフルを撃ち込み、ジョニーのゲルググはそれを回避する。これで動きが鈍ったゲルググに、もう
一体のゲイツが容赦なくビームクローで切りかかろうとする。

 

「!??」

 

 ジャスティスが、何故かゲイツを蹴り飛ばし、攻撃を妨害した。

 

「何だ? 仲間割れ?」

 

 絶好のチャンスをジャマされたゲイツ――ヒルダは、青筋を立たせながらクルーゼを睨む。

 

「ちょっと! 一体――」
「何のつもりだヒルダッ!!」

 

 文句を遮り逆ギレするクルーゼ。ヒルダは呆気に取られるが直ぐに言い返す。

 

「それはこっちのセリフだ!! 何故味方を攻撃する!?」
「お前に赤い彗星の相手は無理だからだ!」

 

 ――この男は何を言っているのか?
 確かに相手が赤い彗星のシャアともなれば、ヒルダ一人では太刀打ち出来ないかもしれない。しかし、今は
ラインハルトとシメオンのゲイツ、それにクルーゼのジャスティスがいる。シャアクラスのエースを倒すには
絶好の好機であり、現にヒルダはそのポジションにいたのである。この男が邪魔をするまでは……。

 

「とにかく奴の相手は私だ! 邪魔をするな!!」
「ああ……判ったよ。勝手にしな!」

 

 高圧的な物言いに堪忍袋の緒が切れたヒルダは、そのままラインハルト、シメオンと共に離れていく。
 その光景を見ていたジョニーは、相手の不可思議な行為に首をかしげていた。
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               *     *     *
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 同じ頃、キリングの第二艦隊にもザフト軍が押し寄せていた。

 

「リュッツォウに艦砲が集中しています!」

 

 ザフトは第二艦隊に向け、多数のMSを投入していた。何しろこの艦隊にあるヨルムンガルドはジェネシス
を破壊するだけの威力を持つ。ザフトにとっては今後の戦況にも影響を受けかねない。どんな犠牲を払おうと
破壊しなければならない。そうパトリックは考えていた。

 

「……リュッツォウを下がらせよ。本艦が前に出る」

 

 しかし、それはパトリックの早合点だった。確かにヨルムンガルドはジェネシスを破壊することはできる。
プラズマ砲弾を10発も撃ち込めばジェネシスは砲としての機能を失うだろう。
 ――撃ち込むだけの砲弾があれば……。
 飽く迄ヨルムンガルドは試作であり、その砲弾は量産されていなかったのだ。今回も急な出撃のために弾は
5発しか装填されていない。それでも全弾をぶつければ破壊できるかもしれないが、可能性は五分五分である。

 

「今は被害に構わず、大蛇を護りきるフリをするぞ」

 

 つまりザフトは余計な戦力を割いたことになる。

 

「ですが閣下、このままでは艦隊が持つかどうか……」
「釣りは我慢が大切だよ」
「戦闘と釣りは比較できません」

 

 その分、戦況は決して良いとは言えないが、キリングは見事にザフト軍を釣り上げていた。

 

「ドズル閣下が必ず要塞砲を止めてくれる。それまで耐えろ」

 

 艦隊はヨルムンガルドを中心に輪形陣を作り、シン・マツナガ大尉の指揮する部隊が敵を迎え撃っている。

 

「閣下、右翼の突破を許しました!」

 

 だが、数の上で勝るザフトを全て防ぐことは出来ず、何機かの突破を許してしまう。その都度、濃密な対空
砲火で迎撃していたが、それも長くは続かない。

 

「重巡ティルピッツ被弾!」
「ニュルンベルク大破、戦闘続行不能!!」
「やはり限界です。兵の疲労もある!」

 

 相次ぐ凶報に、さすがのキリングも顔をゆがませる。

 

「仕方がない。カスペン戦闘大隊を向かわせる」
「ッ!! よろしいのですか!?」

 

 学徒兵の多いカスペン戦闘大隊を出すのは気が向かない。しかし、背に腹はかえられなかった。
 命令を受けてヨーツンヘイムからはMSが発艦する。カスペンのゲルググとデュバル等の機体が先陣を切り、
後に学徒兵たちが乗るMS“ドラッツェ”が続いた。

 

「ヒヨッコども。お前たちは敵を叩くことよりも生き延びることを優先しろ!」
「いえ、自分たちも戦います!」

 

 不満そうな学徒兵たちに、カスペンは口調を強めて再度強調する。

 

「バカモノ! 付け焼刃で敵う程、戦場は甘くないわ!」

 

 カスペンの怒気に気圧され頷くが、その様子はどう見ても不満そうだ。

 

「余程のことがなければ戦闘は許さん。特に接近戦などもっての他だ!!」

 

 彼らの乗るドラッツェは、オッゴと同様、安価で量産性を重視して造られた急造兵器で、戦闘能力は非常に
低かった。何せ武装は右腕部の40mmバルカン砲と、左腕部シールドに固定されたビームサーベルのみである。

 

「敵を引き付けて逃げ回るのだ。よいな!!」

 

 その一方で機動性は意外と高く、R型のザクに匹敵する。敵MSがドラッツェに目を向けている一分一秒を
必要とする今、逃げ回ることが学徒兵に出来る唯一のことだった。

 

「ワシヤ、シェル両中尉はヨーツンヘイムの護衛を!」
「「了解っ!」」

 

 彼らの乗るMSもヅダと呼ばれる欠陥機だ。

 

「遂にこの時が来た。このヅダが戦場に出るときが……」
「デュバル少佐、我らはヨルムンガルドに集ってくるハエどもを叩き潰すぞ!」
「承知した!」

 

 デュバルが答えると同時に全機が散開した。
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               *     *     *
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 キシリアの命令を受け、シャリアはジオングを発進させた。横には緑色のNT専用MA“エルメス”が浮ぶ。

 

「スン中尉。君はグワジンの護衛を任せたい」
「……判り……ました」
「大丈夫かね?」

 

 シャリアはやや疲労しているララァを気遣った。ジェネシス発射の折に多数の死者が出たことで、高いNT
能力を有する彼女は死者の思念を集め、精神に負担を生じている。

 

「はい……クスコに比べれば……」

 

 彼女の場合はそれを幾分か割り切ったのでダメージは少ないが、もう一人のNT隊員であるクスコ・アル中尉
は両親が虐殺されたトラウマが甦って出撃が不可能になっていた。

 

「何はともあれ、無理だけはしないでくれ。君を失えばシャア中佐に顔向けできなくなる」

 

 ララァを残したシャリアは、辺りから弾丸とビームの砲火が飛び交う中をジオングで進撃した。

 

「さて……私に出来るものなのか?」

 

 シャリアの乗るジオングは、前にララァが乗っていたサイコミュ高機動試験用ザクの後継機である。完成度
は(シャアのレポートによって)全体の70%であるが、その性能は高い位置にある。尤もシャリアにNTとし
ての才能が無ければ、ジオングの性能は引き出せないが……。

 

「今は信じますか。私の力とやらをっ!」

 

 両手の有線制御式五連装メガ粒子砲をナスカ級に向け、すれ違いざまに斉射する。ビームに貫かれたナスカ
級は抵抗も出来ずに爆沈した。

 

「よし! むっ、あれは旗艦か?」

 

 視線の先にピンク色の派手な艦艇――エターナルをモニターに映す。他の艦と違う派手さから旗艦であるの
は明白だった。指揮系統を混乱させるためにも早期に落としておきたいが、エターナルに近づくと、直上から
奇妙な感覚を感じ取る。

 

「これは……?」

 

 戦場に広がる不思議な声。まるでララァやクスコと同じように戸惑っている感情。

 

「強い力を感じる……まさか、ザフトにNTが?!」

 

 遺伝子をいじった時点で、コーディネイターがNTに覚醒するとは思えない。それでも戦闘中に感じるこの
奇妙な感覚は手に取るように把握できた。
 一体何者なのか思考し始めた瞬間、味方に攻撃を仕掛けるフリーダムを見つけた。

 

「す、凄いメカとパイロットだ」

 

 瞬時にしてプレアの力とフリーダムの危険性に気付いたシャリアは、反射的にビーム砲を放つ。

 

「そんな、またSEEDを持つ人!?」

 

 プレアが感じ取った感覚、間違いなく自分と同じ力に機体を回避させるものの、砲火は途絶えず、四方八方
からビームが殺到する。咄嗟にミーティアを解除して、ジオングと相対する。ミーティアを装備したままでは
運動性能で劣ってしまうからだ。
 身軽になったフリーダムは、ジオングとビームの応酬を行う。やっと互角の勝負に持ち込めたプレアだが、
それは長くは続かない。プレアは軍人として、パイロットとしての経験値がシャリアに比べて少ない。次第に
ジオングのオールレンジ攻撃がフリーダムを捉え始めた。

 

「う、くっ」

 

 身軽になっても、本来フリーダムは後方支援に特化した機体であり、一対一の戦闘は想定外だ。こんな時に
クルーゼのジャスティスが居ればいいが、どこぞに行ったまま戻ってこない。

 

「ジャスティス? そうだ!」

 

 ジオングの死角からの攻撃とジャスティスの機体特製から攻略の糸口を見つけたプレアは、ビームサーベル
で抜き、ジオングに突貫する。多少の被弾は覚悟の上だ。

 

「近づくことができれば!」

 

 ジオングが得意とする戦場は中・長距離戦である。フリーダムもそれは変わらないが、何も近距離戦ができ
ないわけでは無い。ラケルタ・ビームサーベルという接近戦用武器が装備されているのだ。しかし、ジオング
にはそんな接近戦用武器は無い。

 

「上手い!!」

 

 プレアの意図に気づき、すかさず反撃をするものの、まるで判っているかのように避けられる。シャリアの
予測を上回る機動でフリーダムは動いていた。

 

 ――何故です

 

 いきなり誰かの声がシャリアの脳裏に響き渡る。何の声だと通信機を確認するも、そんな形跡はない。

 

 ――何故、SEEDを持つ者がジオンの手先に?

 

 内容からザフト機からのものだと判るが、一体何が起こっているのか。

 

「SEEDとは何のことかね。NTの間違いではないか?」

 

 シャリアは冷静を装いながら反論した。

 

「君も私の意志を感じているのだろう?」

 

 ――NT……NTって何?

 

 NTについて何も知らされていなかったプレアは困惑し、一瞬だが気をとられてしまった。その隙を見逃す
シャリアではなく、ビームが腰部のクスィフィアスを直撃した。
 クスィフィアスはAMBACを兼ねている。機体の姿勢制御を失ったフリーダムに、態勢を崩して無防備になる。

 

「しまっ……!!」

 

 次の瞬間、5条のビームがフリーダムに迫った。
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               *     *     *
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 混戦の中を駆け抜けるゲルググとジャスティス。両者共に機動力の高い機体であるため、戦闘は専ら接近戦
となっている。勝負は互いに核動力機なので互角と思われていた。しかし意外なことに、ジョニーが苦戦する
という予想外の展開を迎えてた。
 その原因はゲルググとジャスティスの違いにあった。ゲルググは本来、次期量産機として開発された機体。
これは何かに特化しているのではなく、汎用性を高められた機体を意味している。ジョニーの機体は核融合を
取り付けた専用機であるが、それでも機動力と稼働時間が増しているだけだ。一方のジャスティスは最終決戦
用の「オンリーワン」の機体であり、機動力の他にも多くの武装があった。武器が多ければ、それだけ戦術の
幅が広がる。クルーゼの場合、ミーティアを付けたままだと扱いづらい代物だったが、それを外すことで機体
の性能を引き出すことができていた。

 

「こりゃあ、ちと厳しいかな」

 

 武装の豊富さから射撃戦では苦しいと考えたが、今思えばそれでも良かったかなとジョニーは思い始めた。

 

「久しぶりだな! 今日こそ決着をつけよう!」

 

 何度かの鍔迫り合いの後、何故かジャスティスから通信が入る。

 

「ああん? 誰だ、お前は?」
「惚ける必要はない――」

 

 ジョニーはその声に聞き覚えは無い(?)が、次の一言が彼の感情を傷つけた。

 

「貴様がシャア・アズナブルであることは機体の色で分かっている!」
「だ、誰がシャアだ!」
「貴様のことに決まっているだろう!」

 

 どうやら相手は自分をシャアと混同しているらしい。何度も何度も何度も何度も間違われ続け、ジョニーは
シャアと呼ばれることに少し馴れ始めていた。(腹が立つことに変わりはないが)カナード戦の時とは違う。

 

「俺は真紅の稲……」
「稲(イネ)? 名称を変えたのか」
「ち、違う! 稲じゃない!」
「惚けようと無駄だ。そのような虚言を吐かれようと私は騙されん!」
「いや、だからね……」

 

 ジョニーは間違いを正そうと試みるが、クルーゼはこちらの話など聞く気がないのか一方的に話し始める。

 

「それとも私が怖いのか、シャア!」
「はぁ!?」
「確かに、私はあの時とは違って最高の機体に乗っている。恐れるのも無理は無いか!」

 

 さすがのジョニーもこれにはカチンと来た。初対面(?)の相手にここまで言われる筋合いはない。

 

「……ふ……ふ、ふざけるなテメェ! いい加減にしろ!!」

 

 口喧嘩を始めた2人。傍から見れば子供のケンカだ。周囲にいた両軍の兵士は思わず呆れかえった。自軍の
エースが漫才を始めれば、やる気も無くすだろう。
 それでも2人の戦いは凄まじいものだ。ジョニーはジャスティスのビームブーメランをナギナタで弾くと、
そのままナギナタを回転させながら切りかかる。クルーゼもファトゥムを分離し、ゲルググの死角から攻撃する。

 

「どうした。前の時より動きが悪いじゃないか?」
「前って何時の話だ!?」

 

 再び互角の展開になりながらも、クルーゼには余裕があった。既に読者は察していると思うが、クルーゼは
シャアとジョニーを誤認している。ソロモン攻防戦で苦渋を舐めたのはこのジョニーなのだが、彼はシャアと
勘違いしていた。そのためヘリオポリス崩壊時のシャアの動きを見ていたクルーゼは、今のジョニーと比較し、
動きが悪いと侮っていたのである。

 

「シャア。貴様が弱くなったのか、それとも私が強くなりすぎてしまったのか」
「だからさ……」

 

 必死に訂正するジョニーを無視し、クルーゼはビームサーベルを振るおうとすると、そこに妙な小型の飛行
物体が割って入る。

 

「!?」

 

 物体が身代わりになってゲルググが難を逃れた。

 

「大丈夫ですか?」
「あー、どこの誰だか知らないが、助かったぜ」
「いえ、中佐と同じ色だったので……」
「中佐? 俺は少佐だが……」
「あ、気にしないでください」

 

 それはララァの乗るエルメスに搭載した無線制御式サイコミュ“ビット”だった。知らず知らず、グワジンに
近づいていたらしい。ビットは緩いカーブを描きながらジャスティス目掛けビームを放つ。

 

「ドラグーンシステムを実用化したのか。ジオンの技術がそこまで進んでいたとは」

 

 ザフトでもドラグーンと称される量子通信技術を研究しているが成功には至っていない。原因はミノフスキー
粒子の影響を受けてしまうからだが、ジオンの場合は脳波コントロールなのでビットを操れた。

 

「これはまずいな……ムッ! プレア!?」

 

 フリーダムがジオングに苦戦しているのを感じ取り、クルーゼは退く決意をした。宿敵を目の前にして後退
するのは忍びないが、あんな武器があっては近づけない。

 

「シャア――」
「だから違う!」
「――決着は別の機会だ!」

 

 もう泣きそうなジョニーを完全無視し、近くにいた部下に後を任せると、クルーゼはプレアの下へ向かった。
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               *     *     *
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「ジェネシスはまだ撃てんのか!?」

 

 ヤキン・ドゥーエの司令部では、モニターに映るヨルムンガルドを睨みながら、パトリックが怒鳴った。

 

「エネルギー充電30%。後30分はかかります」
「待つ時間はない。50%で発射しろ!」
「それでも15分はかかります」
「構わん! 目標は囮艦隊だ!」
「議長……!」

 

 参謀たちはパトリックの命令に愕然とする。ヨルムンガルドを破壊するため多くの戦力を艦隊に向けている。
それをパトリックは撃てと言い放つ。先程と同じように味方を巻き添えにして。

 

「急げ。あれを破壊しなければ我等は負けるぞ!」

 

 傍らのエザリアの一言で、司令部はパトリックに従い動きだした。
 彼女も第一射時はうろたえていたが、今はパトリックの判断を支持している。今日までザフトが戦ってこれ
たのはパトリックの御蔭なのだ。それを今更否定することはできない。
 それに味方を撃つにしても、既に前例がある。一度が二度に変わったところで支障はない。

 

「議長、ご采配を」
「うむ……エザリア、助かる」

 

 所詮、勝てば官軍なのだ。手段はどうであれ、勝った方が正義なのである。

 

「君の冷静な判断力には敬意を表そう。戦いが終われば国防委員長に推薦しよう」
「ありがとうございます!」

 

 国防委員長は評議会議長に次いで権力を持つ役職である。エザリアから思わず笑みがこぼれた。
 パトリックの息子アスランは、地球で致命的なミスを行っている。だからアスランが後継者とはなりえない。
シーゲルももう一度議長になるとは思えない。アイリーン辺りが立候補しそうだが、彼女は議長の器ではない。
 ――これでパトリック・ザラの後継は私だ。
 エザリアは自分のこれからの薔薇色の人生を夢見ていた。司令部の扉が開かれるまでは……。